「東芝がテレビ自社生産から撤退(へ)」報道があったのは12月10日。東芝からはすぐに「当社が発表したものではありません」リリースが出たものの、肝心の「自社生産から」が抜けた「東芝・テレビ・撤退」の三語だけが確定事項のように拡散し、少なからぬレグザ派に不安を与えました。

件の報道でもレグザは継続とされているものの、不正会計問題の激震収まらぬまま構造改革を進める東芝にとって、従来から工場売却を含む合理化を続けてきたテレビ事業もまた影響は免れません。

レコーダを含む歴代機種ユーザーや、次こそレグザと思っていた潜在購入者にとって気になるのは、生産がどこになるにしろ、通好みと評される「レグザらしさ」が今後どうなるのか。

そこで、高画質や低遅延などのこだわりと並んでレグザをレグザたらしめてきた要素のひとつ、録画機能やクラウドサービスの設計を手掛ける東芝ライフスタイル 片岡秀夫氏にレグザの現在と今後について訊いてきました。



(秋葉原が馴染みすぎる片岡秀夫氏。東芝ライフスタイル ビジュアルソリューション事業本部 VSクラウド&サービス推進室室長)

片岡氏といえば、アナログ放送時代に世界初のHDDレコーダRDシリーズを手がけ、熱心なユーザーからは「録画神」とまで呼ばれた人物。ここ数年ではレグザのなかで進化する「レグザクラウドサービス TimeOn」や、テレビ連携モバイルアプリ「レグザAppsコネクト」の戦略に携わってきました。HDDに録って編集してDVDに焼く文化を作った時代から、ユーザーがいかにコンテンツを発見するか、楽しむか、を一貫してテーマとしています。

最近のレグザはどうなってる? 新クラウドサービス「みるコレ」



いわゆるスマートテレビに向けて、各社はさまざまな模索を続けてきました。なかでも東芝は番組表や基本的な録画機能は従来のまま改良に留めつつ、2012年から「レグザクラウドサービス TimeOn」を導入し、日々アップデートするHTML5ベースのウェブアプリとして新しいテレビとの付き合い方、楽しみ方を提供する戦略を採っています。

これまでTimeOnが提供してきた機能は例えば、番組についてジャンルや出演者といった概要だけでなく、「何分何秒からどのようなシーン / コーナー」まで記述して直接頭出しできるメタデータ「タグリスト」や、キーワード検索よりも効果的に好きなジャンルの番組を録画できる「おまかせ録画コミュニティ」などです。

TimeOnはこの夏に全面リニューアルを果たし、複数のサービスをコンテンツドリブンな新サービス「みるコレ」に統合しました。「みるコレ」は観るコレクション、またはコレクトの略になります。

聞いただけでは中身が予想しづらい名前ですが、REGZA J7以降のTimeOn対応テレビでは、従来からの番組表や録画済みリストに加えて、この「みるコレ」が新しいテレビのインターフェースとなっています。


観点でまとめる「パック」。人力キュレーションと機械生成




「みるコレ」は言葉で説明するよりも、実際にレグザの画面を見たほうがよく分かります。できるだけ簡単に言うと、好きなタレントやチーム、番組ジャンルなど特定のテーマから番組を集めた「パック」を単位に、お気に入りのパックを登録してコンテンツの発見や録画を便利にするサービスです。

パックの種類は、たとえばタレントごとの人物系、番組シーズン系、スポーツ、チームといった比較的ストレートなものから、「地デジドラマTOP50」のようなランキング、さらに「つやつやアニメ」といった専門性(?)の高い分類まで。その数 5万6000種類にのぼります。

一見ただのキーワード検索のようでもあり、実際に多くは機械処理で生成されていますが、このうち320種類は人力でキュレーションされており、パック登録ランキング上位はほとんどこのキュレーション系が占めています。


ただのキーワード録画と比べて何が嬉しいのか?といえば、例えば

・アニメでいえば、複数シーズンがクール(四半期)を跨いで、あるいは飛ばして続いても、番組名が変わっても、再検索や再登録の必要なく追いかけてくれる。

・「京アニ」や「ポリゴン・ピクチュアズ」のような製作会社パックも。

・シーズン間や年末年始に別時間帯で放送されるスペシャルなども逃さない。

・タレント名やグループ名パックではバラエティ出演からCMまで網羅できる。一方、歌手が実際に出演して歌う番組のみのパックや、スポーツ選手でもレッスンやバラエティ抜きで試合のみのパックなど、検索では難しいものも自動でまとまっている。

・「学園もの」や「つやつやアニメ」(※)など、番組名やジャンル、概要だけでは分からない内容の観点から網羅するパックもある。




(※ いわゆる肌色成分の多いアニメのこと。番組名が勇ましいバトル物のようだったり、番組説明では冒険ものとされていても、実際にはそうしたお約束シーンが大きな要素の場合は、もれなく「つやつや」枠に入ります)。

登録数ランキングで上位に入っている「おすすめ大人アニメ」は、幼児向けを除いたアニメ作品のうちこれは見ておくべき、が入ったパックです。

いま注目の作品、知名度が低くても質の高い作品が入っているのは専門家によるキュレーションならではですが、目利きの判断とは別に自分で全部見て決めたい場合には「大人アニメぜんぶ」も、録画予約数など客観的な数字を参考にしたい場合はランキングもあり、それぞれ参照できます。

それぞれの「パック」の中身は、録画済みの過去番組、これから放送される未来番組に加えて、ネット動画(YouTube)、番組より細かい単位の「シーン」を含むのも特徴です。

YouTubeは機械処理系ではキーワード検索結果が並びますが、キュレーション系では手動で設定されている場合もあります。例えばアニメ制作会社パックではその会社が手がけた作品の公式OP / ED / PVが並んだり、番組本編のほか制作記者会見、監督インタビューも同じ画面に並ぶびます。

(パックからYouTube動画を選んだ場合、REGZA内蔵のYouTubeアプリに飛んで再生が始まり、終わるとYouTubeではなくパックに戻ってきます。当然のようで、これまでテレビではなかなかなかった体験です)


パックはただお気に入りにして番組発見の手助けにすることも、おまかせ録画をONにしてすべて録画することも可能。カスタム未来番組表でもあり、ネットコンテンツも含めた発見の手助けでもあり、録画済み番組のグループでもあります。



録画番組は録画番組、番組表は番組表、ネット動画はネット動画と機器やソースの都合で区分されていた従来の用語ではなかなかひとことで伝えづらく、「パック」といわれても連想できませんが、「~が好きな人が見たいコンテンツの集合」としてはストレートです。


(パックはキーワード検索から自分で作ることも可能。スター・ウォーズで検索してパック化すれば、開くたびにすべての録画済み番組メタデータからスター・ウォーズの含まれるシーンを探しだしリストしてくれます。たとえば関連ニュースやバラエティのなかで採り上げられたシーンだけを見てゆくことも。)

「コンテンツが主、コンテンツドリブンで考えれば自然なのですが、ユーザーさんのほうにまだ概念がないんですね。なんというか......(キュレーション系は)「ファンの集い」のようなもの。それで以前は「コミュニティ」と呼んでいたんですが、理解されませんでした」(片岡氏)

やはり「コミュニティ」だと、濃いファン同士で語り合わなければいけないような、敷居の高いイメージがあったのかもしれません。

「それで名前も考えました。「~セット」だとか。いまの「パック」は、食料品店にある「すき焼きパック」や「鍋パック」のようなもの。肉も野菜も、目的にそってまとまっているイメージです」(片岡氏)



「おすすめ大人アニメ」のキュレーションは片岡氏みずから担当。協力会社から送られるメタデータに含まれていない部分は原作チェックや公式サイトを駆使して調べ、みずから独自に設定した分類でDB化しています。

観ているアニメは?と尋ねると、「今期は......まだ28本見てますね。再放送合わせて30本」(片岡氏)。番組開始時期にはすべてに目を通し、この監督はこう、この製作会社はこう、と新番組への感覚を養うためとのこと。またアニメの原作やコミカライズを確認するため、電子書籍はこの2年で約3000冊を購入したそう。

壮大な趣味プロジェクトのようにも思えてきましたが、他の分野についてもそれぞれに詳しいスタッフがあたっています。片岡氏いわく、現在はアイドル系を強化中。現状でもグループやメンバー単位のパックはあります。

「みるコレ」の今後。放送もネットも集まる未来のテレビへ



インターネットとコンピュータの世界が年単位で激変し続けるなか、テレビは数十年単位でろくに変わっていない、いまこそネット時代にふさわしい新しいテレビ、スマートテレビ登場の機会という声は多く、実際に多数の試みが屍の山を築いてきました。ひとくちに「未来のテレビ」といっても、何が未来のテレビなのか、どうすれば消費者を説得してテレビ市場を穫れるのかの戦略も各社さまざまです。

たとえばアップルの Apple TV は放送番組には触れない一方で、最新モデルでは Siri 音声検索で iTunes もNetflix等サードパーティーのコンテンツも横断検索を可能にしています (日本語では現状非対応)。コンテンツの取り込みについては、アップルみずから定額制のテレビ配信サービスを準備するも放送局との交渉難航とのうわさもあります。

マイクロソフトの Xbox One は、ゲーム機なのにHDMI入力端子を備えたりTVチューナーを販売して放送コンテンツもUIに取り込み、ネット動画サービスも「アプリチャンネル」として放送局と同列に並べる独自のコンテンツガイド OneGuide が売りのひとつです (日本では使用不可)。

ソニーが米国で展開するクラウドTVサービス PlayStation Vue は、ストリーミングで放送局のライブ放送を提供しつつ、クラウド側で全録してオンデマンドの見逃し配信や、後で見る「録画」機能を用意します(日本未上陸)。



こうした流れの中で、テレビメーカーとしての東芝はどうやって未来のテレビを目指すのか、最先端のテレビのひとつである「みるコレ」をどう進歩させてゆくのかが気になるところです。

片岡氏がRDの昔から繰り返すのが、機器や機能ではなくコンテンツありき、コンテンツドリブンの考え方。現在はレグザにもアプリとしてNetflixが入るようになりましたが、YouTubeと違って「みるコレ」に組み込まれておらず、あくまでテレビ上で動く別アプリとして使う必要があります。

しかし「みるコレ」発表時のプレゼンでは、パック内に現在のように放送番組とYouTubeだけでなく、「(放送局の)見逃し配信」「VOD (オンデマンド配信サービス)」まで入ったモックアップ画面が使われていました。

「みるコレ」を眺めて興味を持った番組の過去回や過去シーズンも簡単に見つけてアクセスできたり、録画していなかった回の見逃し配信もすぐ選択できるようになれば、放送とネット配信を融合させたテレビという聖杯に近づけそうです。片岡氏に尋ねると、実は事業者は「みるコレ」への参加に乗り気で、一部とはすでに実現に向けた話し合いに入っている段階とのこと。

「どうやったらテレビを使って、放送もネットも含めコンテンツを観るようになるのか。放送局もメーカーも、その意志があれば協力関係を作りたい。「みるコレ」はレグザのためだけの仕組みではないんです」

「 僕ら的にはメタ屋なので、どんどん載せていって、みなさんが探しやすく、観てもらいやすくしたい。ネット配信の事業者としても、テレビ上の視聴はモバイルよりも手堅くなる。放送局としても、ネットでやると若者はモバイルのみになってしまう。大画面でちゃんと見たいときはテレビも良い、とバランス良く住み分けられるようになれば良いと思っています」(片岡氏)


たしかにユーザーにとっても、見たい番組はひとつなのに番組表や配信サービス、ネット動画を別々に検索するのは面倒。面白そう!だけど2期から観るのもなあ、と思った時に定額サービスから1期や映画が並んでいれば、そのまま簡単に送客されそうです。


「みるコレは録画のための道具じゃないんです。コンテンツを見つけるための道具で、録画はそれをいつ観るかの一手段でしかない」(片岡氏)

片岡氏いわく、特定テーマごとに、コンテンツをいかに見つけやすくするか、こそレコーダに携わる以前からのライフワーク。「みるコレ」は放送とネットを区別しない映像コンテンツ発見の仕組みという以上に、番組からパッケージ商品を発見したり、実イベントを紹介するなど、あらゆるコンテンツを区別せず発見させる仕組みとして構想しています。

その端緒とも見えるのが、「みるコレ」の新しい試みのひとつであるコラボパックの第一弾、アニメ雑誌Newtypeと組んだNewtypeパック。紙面と連動した特集パックのほか、テキストと写真によるイベントリポートやニュースなども含まれています。

結局、レグザはこれからどうなるの?


ネット配信サービスが一大勢力となり、莫大な予算を投じた独自制作番組でユーザー獲得合戦を繰り広げるなど、動画コンテンツをめぐる状況は大きく変わりました。

しかし黒船といわれる大手配信業者が日本の放送局と組んで国内サービスを展開するようになったいまも、放送でしか見られないコンテンツ、パッケージや配信を待たずリアルタイムで見たり録画することに価値がある番組は多くあります。

ジャンルを問わず、ヘビーなテレビユーザーにとっては、ネット配信だけが見られる箱を渡されて「これが未来のテレビです」と言われても困惑するしかない状況はしばらく変わりそうにありません。

こうしたなか、「みるコレ」に代表されるレグザの取り組みは日本発の未来のテレビとして興味深く、東芝のテレビ事業の行方はサービスの乗り物としても非常に気になります。最後に、「レグザはこれからどうなってしまうの」をストレートに訊いてみました。

「基本的には、REGZAをとにかく我々が頑張ってゆくことは間違いありません。会社方針にコメントする立場ではありませんが、REGZA本体としては国内で頑張ってゆきますよ、という方針はそのままです。

どういう形になるのか、構成要素についてどうなるかは別として、REGZAのブランディング、こだわりは今後も間違いなく続けてゆきます。」(片岡氏)


旧経営陣を訴える勢いで大変な時期の東芝だけに、何がどう転ぶかは分かりませんが、少なくとも現時点では、レグザの看板だけでなく開発も国内で継続する、興味深いクラウドサービスもさらに進化を続けてゆくと考えて良さそうです。




(「レグザは頑張ります」と語って秋葉原の街へ消える片岡氏。)