Qualcommと言えば、一般的にはスマートフォン、特にAndroidスマートフォンのハイエンド製品に搭載されているSoCを製造しているメーカーというのが一般的な認識だろう。実際、同社のSnapdragonシリーズは、日本で通信キャリアから販売されている大多数のスマートフォンに採用されている。しかし、Qualcommはスマートフォン向けのSoCを製造しているだけでなく、もうちょっと幅広い半導体を製造して、OEMメーカーなどに提供している。

その中でもデジタルオーディオ関連の製品は同社のラインナップでも最近加わった製品群で、数年前に同社が買収したCSR社の製品群がベースになって提供されている。11月22日に東京都内でQualcommが行った記者説明会ではそうしたQualcommのオーディオ製品に関しての説明が行われた。キーワードは、DDFA、そしてaptX HDの2つだ。

未発表のデジタルアンプルDDFA新チップがデノン製品に採用

Qualcomm CDMA テクノロジーズ マーケティングマネージャ 大島勉氏は、同社のDDFAソリューションとaptXおよびそのハイレゾ版となるaptX HDについて説明した。

DDFAとは"Direct Digital Feedback Amplifier"の頭文字4文字をとった略称で、要するにデジタルアンプのことだと言ってよい。オーディオでのアンプとは音を増幅させる回路のことで、その究極の存在がいわゆるAVアンプと呼ばれるホームシアター用の機器となる。このアンプには従来はアナログ回路が組み合わされて実現されていたが、現在ではデジタルアンプと呼ばれる半導体を利用してデジタル的に実現した製品が多くなっている。

QualcommのDDFA


大島氏は「デジタルアンプは低消費電力、小型化などのメリットがあるが、音質があまり良くないと言われてきた。そこで、QualcommのDDFAでは外部から入力されるリファレンスのPWM信号と出力信号の誤差を分析し積分し、独自のアルゴリズムで誤差を補正することで高い音質特性として出力することができる」と、デジタル回路に工夫を入れることで高音質が実現できていると説明した。そうした仕組みにより、アナログアンプを越える特性をデジタルアンプでも出せるようになっているのだと説明した。

デジタルアンプのメリットデメリット


QualcommのDDFAの仕組み


DDFAの音質特性


DDFAのラインナップなど


このため、同社のDDFAは、日本の音響メーカーであるデノンの製品に採用されている。株式会社ディーアンドエムホールディングス 国内営業部 営業企画室 マーケティンググループ マネージャ 宮原利温氏によれば「昨年発売したPMA-50で最初に採用し、DRA-100、DNP-2500NEなどに採用してきた。12月に発売予定のDA-310USBでは、Qualcommの最新世代のDDFAを採用している」と述べ、同社の製品に積極的にDDFAを使ってきたと説明した。

DA-310USBは、USBオーディオと呼ばれるフルデジタルを実現するヘッドフォンアンプで、PCなどで再生するハイレゾのオーディオをフルデジタルで処理し高音質で再生することが可能だ。実際、今回の発表会では、DA-310USBとデノンのAH-D7200という50mm径のドライバーを採用したハイエンドヘッドフォンで視聴できたが、驚くほど力強く、クリアーな音が再生できていた。

DA-310USB




なお、Qualcommが現在発表しているDDFAチップはCSRA6601とCSRA6600という2つのチップだが、このDA-310USBに採用されているのはそれではなく新たにQualcommが開発して新チップとなる。ただし、現時点ではQualcommからはその新チップは発表されておらず、Qualcommの大島氏によれば「おそらく来年のCESで発表される見通し」とのことなので、その正式発表前にDA-310USBは市場に出回ることになるのだ。

aptX HD対応スマホやヘッドフォンをLG、オーディオテクニカが製品化

そしてもう1つQualcommの大島氏が訴求したのが、aptX HDだ。aptXとは、Bluetoothのオプションコーデックで、標準のコーデックであるSBCに比べて高音質を実現できることが最大の特徴となる。

aptXの特徴


aptX自体は、Bluetoothだけでなくプロ用の機材などでも使われている


大島氏は「aptXの特徴は、人間に聞こえないところを端おってしまう聴覚心理モデルではなく、音楽本来の持つ深みとか奥行きを失わないように4:1の固定比で圧縮することだ」とaptXの特徴を説明する。Bluetoothオーディオでは、データ帯域幅が限られているので、オーディオは何らかのコーデック(手順)を利用して圧縮して送信される(利用するには送信側、受信側で同じコーデックをサポートしている必要がある)。

aptXの音質面での強みは固定比で圧縮していること




Bluetoothの規格で標準でサポートされているのはSBCと呼ばれるコーデックなのだが、このSBCはあまり効率が良いとは言えないコーデックなので、音質はあまりよくない。そこで、最近ではオプションとされるコーデックが利用されることが多く、iOSであればAACが、それ以外のOSではaptXが利用されることが多い。また、近年ではソニーが独自のコーデックとしてLDACを発表し、自社製品に実装するなどして注目を集めている。

Windows 10は標準サポート、Androidも実装しやすい


aptXの特徴は音が良いだけではない。AACがiOSでのサポート、LDACがソニー製品だけでのサポートにとどまっているのに対して、幅広い製品でサポートされていることももう1つの特徴としてあげられる。具体的に言うと、Windows 10では標準でサポートされており、すべてのWindows 10 搭載PCおよびWindows 10 Mobile スマートフォンでaptXがサポートされている。また、macOSでもサポートされている他、AndroidではQualcommより提供されている開発キットなどを利用して簡単に組み込むことができる(サポートするかは端末メーカー次第)。

もう1つのaptXの特徴は遅延が少ないことだ。「SBCではBluetoothのパケットに載せるときに分割して送られるので、すべてのパケットが届くまで再生がされないので遅延が大きい。aptXではより小さい単位に分割して送るので、その小さい単位が届き次第再生が行われるので遅延が小さい」(大島氏)との通りで、Bluetooth標準のコーデックに比較して低遅延になっている。大島氏が公開した資料によれば、SBCで220ミリ秒±50ミリ秒、AACで800ミリ秒±200ミリ秒であるのに対して、aptXでは100ミリ秒±10ミリ秒と遅延が小さい。さらに、aptX Low Latencyと呼ばれる低遅延を実現したコーデックの場合には40ミリ秒以下と、ほとんど遅延を感じないレベルに押さえられている。

aptX Low Latencyではさらに低遅延を実現


aptX HDの特徴


そうしたaptXの最新版となるのが、aptX HDだ。「aptX HDは、16ビットだったaptXを8ビット分拡張して24ビットとしたものだ」(大島氏)との通りで、16ビットから24ビットに拡張することで、いわゆるハイレゾオーディオをBluetooth経由で再生することが可能になる。なお、音源が16ビットのCD音質であった場合でも、エンコーダが自動で24ビットへアップコンバートして出力する機能も備えているので、CD音源であっても、ハイレゾ音源っぽく再生することが可能だ(あくまでアップコーンバーターなので、本来のハイレゾ音源ほどの音でなるわけではないが)。

今回の発表会では、aptX HDに対応した機器をリリースしているメーカーとして、オーディオテクニカとLGエレクトロニクスの2社が紹介された。オーディオテクニカは、同社がハイエンドワイヤレスヘッドフォンとして発表した、ATH-DSR9BT、DSH-DSR7BTの2製品を展示した。いずれも11月25日から発売が予定されているBluetoothヘッドフォンで、45mmのドライバーを備えたオーバーイヤーのヘッドフォンとなる。ATH-DSR9BTは、どのコーデックで接続されたかわかるインジケーターも用意されており、aptX専用のインジケータでは、紫色に光るとaptX HD、白の場合はaptXだとわかるようになっている。

ATH-DSR9BT

ATH-DSR7BT


また、LGエレクトロニクスは、先日販売が開始されたau向けのスマートフォンとなるisai Beat(LGV34)で、端末側としてはまだ珍しいaptX HD対応を実現している。実際、実機で確認したところ、同時に同社から発表されたaptX HD対応のヘッドフォンHBD-1100と接続されると"aptX HD audioで接続しました"というウォーターマークが表示されたことを確認出来た。

isai Beat(左)とHBD-1100(右)


HBD-1100はヘッドフォン部分を引き出して利用する


aptX HD接続時はウォーターマークが表示される


気になる音だが、ATH-DSR9BTでハイレゾ音源(クラシック)を利用して、aptX HDをオン、オフにして聞き比べて見たが、aptX HDが有効になっている場合には広がりがある音で再生されていた。もちろん有線には敵わないとは思うが、それでもワイヤレスになっていると、ケーブルの取り回しなどは気にしなくて良いメリットがある。電車の中などで、ケーブルの煩わしさから解放されたいけど、ハイレゾも楽しみたいというユーザーであれば、導入を検討してみる価値はあると感じた。