アン・リー監督と言えば『ブロークバック・マウンテン』や『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』の監督として知られ、この2作品でアカデミー監督賞を受賞を受賞、カンヌ・ヴェネチア・ベルリンの三大映画祭でも受賞歴を持つ台湾出身の巨匠です。
また高フレームレートの映画作品と言えば、ピーター・ジャクソン監督の『ホビット』シリーズが48fpsという、通常の2倍のレートで撮影されていることが知られています。またジェームズ・キャメロン監督の『アバター』続編もやはり48fpsでの製作が伝えられています。しかし、120fpsともなるともはやスローモーション撮影用にも使われるフレームレートであり、画面全体がパンする様子や激しい動きも生々しくヌルヌルと描写できるはずです。
アン・リー監督は2016年に製作した『ビリー・リンの永遠の一日』 ではじめて120fps/4K/3Dでの撮影を導入しました。イラク戦争をテーマにしたこの映画はハリウッド映画賞で2部門を受賞するなど一定の評価を得たものの、120fps上映に対応できる劇場は全世界で150館未満(米国内においては2館だけ)だったと言われ、監督の意図した映像体験が観客に伝わったとは言いにくいものでした。
しかし、今作『ジェミニ・マン』は大スター ウィル・スミスが主演と自身のクローンである敵の2役を演じるSFサスペンスものであり、『ライフ・オブ・パイ』で培ったVFXも多用されるエンターテインメント作品となるとため、世間の注目は自然と『ビリー・リン~』よりも高まっています。そこで、少しでも監督が意図した120fps/4K/3Dに対応できる劇場が増えるよう、パラマウントは早めの一手を打っているということです。
映画のフレームレートを巡っては、アン・リー監督やピーター・ジャクソン監督のようにより高い方が良いと考える人がいる一方で、映像がなめらかすぎてかえって安っぽく感じられるため、あくまで24fpsフォーマットでの視聴を訴えるケースもあります。劇場や映像家電メーカーがこうした制作者側の意図をすべてカバーするのは難しいとわかりつつも、視聴者としては、できる限り広範に対応してわれわれに素晴らしい作品を届けてほしいとお願いしたいところです。