Adobeが2019年後半に提供を予定している新しいドロー&ペイントアプリ「Adobe Fresco(フレスコ)」(以下、Fresco)。今年6月に名称が定まるまでは「Project Gemini」の名で開発が進んでいたため、こちらの名前で記憶していた人も多いかもしれません。
そんなFrescoですが、正式リリースに先立ち試用する機会が得られたので、そのレビューをお届けします。今回はiPad ProにインストールしたiOS版Frescoを体験したので、従来のアプリと比べて何が違うのか、どんなことができるようになるのか、そのあたりを中心に改めてご紹介しましょう。
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もともと「ラスター」と「ベクター」は別々のアプリだった
そもそも、Adobeは2014年から「Adobe Photoshop Sketch」(以下、Sketch)と「Adobe Illustrator Draw」(以下、Draw)という2つのモバイルデバイス向けのアプリを提供していました。前者はラスターデータ、後者はベクターデータで制作を行えるという違いがあります。ラスターデータがピクセルの集合であるのに対し、ベクターデータは点の座標とそれを結ぶ線・面の情報で構成されています。例えば、地図の絵をラスターデータで描くと小道を拡大したときにその線はガタガタになってしまいますが、ベクターデータなら滑らかなままで拡大可能。一方で、リアルな鉛筆の筆跡のような、繊細な書き味を表現するには、ラスターデータの方が適しています。用途や画風に応じた使い分けが重要になるわけです。
▲「Adobe Photoshop Sketch」(左)と「Adobe Illustrator Draw」(右)。データの形式や使えるブラシが異なっています
これまでもiPadでAdobeの描画アプリを使ってきたという人は多いでしょうけれど、作風や用途によってSketch派とDraw派に分かれていたはずです。(ちなみに筆者はSketch派でした)。
Frescoでは両方のブラシが使える
Frescoは、プロのイラストレーターのニーズも満たすように開発されたドロー&ペイントアプリです。もちろん一般ユーザーも使用可能で、従来のAdobeアプリを使っている人ならば、さほど違和感なく活用できるでしょう。Frescoでは、先ほど説明したラスターデータとベクターデータの両方が1つのアプリ内で使えるようになっています。Sketch派の人も、Draw派の人も、Frescoなら快適に描けるでしょう。ちなみにPNG、JPG、PSD、PDF形式での出力に対応します。
ブラシのバリエーションが多いこともFrescoの魅力です。実際にアプリ内で選択できるブラシは「ピクセルブラシ」「ライブブラシ」「ベクターブラシ」の3種類。ピクセルブラシとライブブラシはラスター形式で、ベクターブラシはベクター形式に相当。ライブブラシでは、油彩や水彩の質感が再現され、重ね塗りをした時には顔料の厚みや混ざり具合、にじみ具合などがリアルに再現されます。Adobeによれば、裏では「Adobe Sensei」のAIとマシンラーニングが働いているとのことです。
また、FrescoはCreatice Cloudと連携可能なアプリなので、デスクトップのPhotoshopとのラウンドトリップ(途中まで制作した作品を別のデバイスやアプリに変えて続けること)ができることも特徴。Photoshopで使っている「ブラシ」をFrescoで流用できるほか、Adobe Captureアプリを使ってカメラで読み込んだ映像などから新しいブラシを作成し、Frescoで使うことも可能です。なお、Creative Cloudのメンバーならば、Adobeのエバンジェリストでもある"ブラシ職人"ことKarl T. Webster氏が作成した1000種類を超えるブラシセットの利用もできます。
実際に使ってみて感じたこと
さて、筆者が実際にFrescoを使ってみた印象では、手描きイラストを制作するツールとして、高い完成度に仕上がっていると感じました。特にライブブラシの色味が混ざるエフェクトはかなりリアル。デジタルだからアンドゥ操作もし放題。うまく使いこなせば表現の幅がかなり広がると思います。一方で、「ベジェ曲線」での描画には対応していないため、機械的な線でアイコンやイラストを整えたい人にとっては、デスクトップ版のIllustratorとの使い分けが必要になるかもしれません。
以下、今回描いた絵の制作手順を一部抜粋して掲載します。
▲レイヤープロパティで「不透明度」を下げて、取り込んだ写真を薄くする
▲新しいレイヤーを重ね、ピクセルブラシの一つを選んで輪郭を下書き
というわけでFrescoの先行レビューをお届けしましたが、冒頭でお伝えしたとおり2019年後半に正式ローンチ予定で、有料版と無料版が提供されるとのこと。まずはiOS 12.4以降を搭載したiPadシリーズ(iPad Pro全モデル、第3世代iPad Air、第5・6世代iPad、第5世代iPad mini)がサポートされます。