ドコモショップの「不適切メモ」問題が起きた背景、改善に求められることは(佐野正弘)

ビジネスモデルの転換が求められる

佐野正弘(Masahiro Sano)
佐野正弘(Masahiro Sano)
2020年01月20日, 午前 10:30 in mobile
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年明け早々、ドコモショップで起きた不適切メモ問題がSNSを大きくにぎわせました。

既に多くのメディアで報道されていることからご存知の方も多いかと思われますが、簡単に経緯を振り返りますと、ことの発端は2020年1月6日に千葉県の「ドコモショップ市川インター店」で、ショップスタッフが接客に用いるメモを来店者に誤って渡してしまったこと。そこには「親代表の一括請求の子番号です。つまりクソ野郎」など相手を侮辱するような内容が記述されていたことから、その写真がSNSで拡散され、大きな問題として取り沙汰された訳です。

この問題の発覚を受け、NTTドコモ、及びこのドコモショップを運営している兼松コミュニケーションズは、一連の出来事が事実であることを認め謝罪に至っています。当然のことながら、このような行為が接客業としてあるまじき行為であることに間違いなく、一連の出来事がこのドコモショップだけでなく、両社の信頼を大きく傷つけたことは確かでしょう。

とはいうものの、2019年8月にはドコモショップのオンライン予約で、ショップによっては「解約」を選ぶとなぜか予約の枠がなくなるという問題も起きており、ここ最近ショップに関する問題が相次いでいるように見えます。そうしたことから、一連の問題は携帯電話ショップを取り巻く構造に起因している部分も大きいのではないかと考えられる訳です。

そもそも「ドコモショップ」「auショップ」「ソフトバンクショップ」などの携帯電話会社のショップは、携帯電話会社の直営や、子会社など直営に近い形で運営されているショップはごくわずかに過ぎません。その大半は、ショップ運営を専門に担う代理店によって運営されているものなのです。

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▲携帯電話ショップの大半は代理店の運営で、直営やそれに近い形態で運営されているのは大都市の旗艦店や実験的な店舗など、特別なものに限られている。写真は2017年にリニューアルした、NTTドコモ子会社のドコモCSが運営する旗艦店「ドコモショップ丸の内店」

こうした販売代理店には大小さまざまな規模のものが存在し、大手であればティーガイアや光通信などが知られる所ではないでしょうか。今回問題を起こしたドコモショップを運営している兼松コミュニケーションズも、そうした代理店の1つです。

なぜ携帯電話会社は直営ではなく、代理店を通してショップを運営するのかというと、その方が効率よく自社のショップを展開できるため。販売やサポートの拠点となるショップを全国に、自前で設けるとなると莫大な時間とコストがかかってしまうことから、代理店に運営を任せるというスタイルを取っている訳で、この仕組み自体はカーディーラーに近いものといえます。

とはいえ、ショップは携帯電話会社にとって顧客と直接接する数少ない場で、ブランドを象徴する存在にもなっています。そうしたことから携帯電話会社の側も、顧客の満足度を高めるためショップスタッフの教育には力を入れており、スキル向上のためショップ店員の接客コンテストを実施するなどして接客の質の向上に努めているのです。

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▲携帯電話会社はショップスタッフのスキル向上のため、接客コンテストなども実施している。写真は2014年のNTTドコモ「ドコモショップスタッフ応対コンテスト」より

にもかかわらず、先のような問題が起きてしまうのには、携帯電話会社が自社サービスの契約数拡大を重視した戦略を取り続けてきたことにあるといえるでしょう。

携帯電話会社は契約を増やすため、販売代理店に対してもいかに新規契約を獲得するかを求めてきました。それゆえ多くの新規契約を獲得したショップは多くの販売奨励金を獲得して経営が潤う一方、新規契約をあまり獲得できないショップは携帯電話会社から問題視され、最悪の場合営業ライセンスを失うこともあった訳です。

ですが携帯電話の契約数は2007年に1億を突破するなど飽和傾向にあり、これ以上新規契約を伸ばすことは見込めなくなってきました。にもかかわらず、携帯電話会社は新規契約を重視する姿勢を変えなかったことから、今度はライバル他社から顧客を奪い合うという競争が過熱したのです。

その武器となったのが「実質0円」に代表されるスマートフォンの大幅値下げで、ピークとなる2014年頃には、番号ポータビリティで携帯電話会社を乗り換えると、人気のスマートフォンを0円で購入できる上、10万円を超えるキャッシュバックがもらえるという異常な状況にまで発展していました。

しかしながらそのことを問題視した総務省によって、スマートフォンの大幅値下げは年々規制がなされ、2019年10月の電気通信事業法改正によって通信料金と端末代を明確に分ける「分離プラン」の導入が義務化されたことにより、端末値引きによる奪い合い競争は完全に終焉を迎えたと言えるでしょう。

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▲2019年10月の電気通信事業法改正で分離プランが義務化され、スマートフォンの値引きは大幅に規制。NTTドコモも分離プラン「ギガホ」「ギガライト」を導入するに至っている

ですがそれでも、携帯電話会社が販売代理店を評価する軸は、新規契約をいかに増やすかという点にあることは変わっていません。それゆえ販売代理店は、通信サービスの新規契約を増やせないのであれば既存の顧客に自社サービスの契約をしてもらったり、より料金が高いプランに移行してもらったりするなどして、少しでも多く奨励金を得ようとしている状況なのです。

実際、先のドコモショップにおける不適切メモの中でも、中傷的な内容の後に「新プランにかえて、Disneyはベタ付け」との記述がなされています。「新プラン」は「ギガホ」「ギガライト」、「Disney」はNTTドコモらが展開している「Disney Deluxe」といえ、表現はともかく既存顧客により多くのサービスを契約してもらうよう、指示を出している様子がうかがえます。

契約拡大という携帯電話会社からのプレッシャーが変わっていないにもかかわらず、その契約を拡大する術がほとんどなくなってきていること。そうした販売代理店の苦しい台所事情が、一連の問題を引き起こす要因になっているのではないかと筆者は感じています。それだけに問題を抜本的に改善するには、携帯電話会社が現状に合わせて販売代理店の評価軸と、ビジネスそのものを大きく変えていく必要があるのではないでしょうか。

より具体的に言ってしまえば、店頭サポートの有料化です。携帯電話ショップは販売だけでなく、アフターサポートの拠点としても非常に重要な役割を担っていますが、最近ではスマートフォンの高度化によってショップでサポートする範囲が広がり、多くの顧客がショップに押し寄せ長時間の接客が求められているにもかかわらず、サポートのほとんどは無料でなされている状況です。

当然ながらショップスタッフは、あらゆるサポート業務に対応するための知識を学ぶ必要もありますし、顧客にとっては無料であってもスタッフにはしっかり給料が支払われるためしっかりコストもかかっています。しかも最近では、そうしたサポートの多くはオンラインでも対応可能で、スマートフォンに詳しい人であれば無理にショップに行く必要もなくなっていることから、手間とコストがかかるショップでのサポート業務を有料化してもよいのではないかと感じるのです。

実際、総務省の有識者会議「モバイル市場の競争環境に関する研究会」の第22、23回会合で打ち出された最終報告書案でも、「販売代理店に対する手数料については、コストベースに合わせて、滞留時間に対する手数料といった新しいモデルを考えていくことが重要」との記述がなされるなど、行政側もサポートによる収益化も検討材料の1つという認識を持っているようです。ただ一方で、「サポート等のサービス提供に対する手数料を重視していくと不必要なサービスの強要を助長することにもつながりかねない」との記述もあり、サービス競争の過熱化による新たな問題発生も懸念しているようです。

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▲2019年12月に実施された、総務省の「モバイル市場の競争環境に関する研究会」の第22回会合より。ここでも販売代理店のビジネスモデル転換に関する議論がなされていた

現在のスタイルでのショップ運営を続けていれば、ショップスタッフの士気とモラルが一層低下してより多くの問題を生み出すことにつながりかねないと感じています。メリットとデメリットのバランスを考慮する必要はあるでしょうが、早期に販売代理店のビジネスモデル転換に踏み切ることが、携帯電話会社求められていることは確かでしょう。

(更新)初出時、Disney DeluxeをDisney+と誤って記載していました。訂正しお詫び申し上げます。

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