2020年春、日本でもいよいよ5Gがスタートする。
5Gはこれまで使ってこなかった周波数帯を幅広く使うことで、高速大容量の通信サービスを提供するというものだ。日本では3.7GHz帯と4.5GHz帯、さらに28GHz帯という周波数帯を5G用に割り当ててている。
5Gはエリアが不安材料に
5Gではこれまで以上に高速大容量なサービスが期待される一方で「どこまでエリアが広がるか」という点が不安材料となっている。5Gに割り当てられた周波数帯は4G向けに利用されている周波数帯に比べて、あまり遠くに飛びにくく、また障害物に対して回り込まないという弱点が存在する。
筆者は昨年6月、アメリカ・ベライゾンが5Gサービスを提供しているシカゴで5Gを体験してきた。ベライゾンはシカゴにおいて28GHz帯を使って5Gサービスを提供していた。実際に使ってみると、基地局から5Gの電波は200メートルほどしか吹いておらず、街なかでは信号機や街頭の上に基地局を設置。大量に基地局を敷設することで街なかをエリア化していた。
日本国内で28GHz帯を使った実証実験を取材したことがあるが、基地局と5Gデバイスの間に人が立ってしまうと圏外になってしまうなど「扱いにくい周波数帯」であるようだ。
その点、3.7GHz帯や4.5GHz帯のほうがエリア化しやすいようだ。
しかし、既存の4Gネットワークはプラチナバンドと呼ばれる800MHz帯や900MHz帯で運用されており、障害物に対しても回り込みやすく、ビルの中にも浸透しやすい。それらに比べると3.7GHz帯や4.5GHz帯はビル内への浸透は厳しく、4Gのように「5Gがいつでもどこでも使える」ようには当面なりそうにない。
5Gで『4Gと同等エリア』を瞬時に展開
そんななか、エリクソンやクアルコムがアピールし始めたのが「DSS(ダイナミックスペクトラムシェアリング)」という技術だ。DSSは、4Gで使われている周波数帯に5Gを混ぜ込んでしまうというものだ。これにより、5Gのエリアを一気に広げることができる。例えば、プラチナバンドでも5G対応が可能になるので、4Gと同等のエリアを瞬時に構築できてしまうというわけだ。
エリア内で5Gのスマホやタブレットの台数が増えれば、5Gに割り当てる電波の割合を増やしたり、逆に5Gデバイスがなければ、4Gのみに対応するということが可能だ。
「なんちゃって5G」からの移行にも威力
このような技術の導入が検討されている背景には、実は5Gには「2つの5G」が存在しており、早期に2つ目に移行したいという狙いがある。1つ目の5Gは「NSA(ノンスタンドアローン)」というものだ。これはコアと呼ばれる部分が4Gネットワークを基盤としつつ、5Gを載せたものとなっており、5Gではあるが、本来、5Gに期待すべき要件をすべて満たしているものではなかったりするのだ。高速大容量がメインであり、いわゆる「なんちゃって5G」と言えるようなものだ。
これが5Gネットワークをコアにした「SA(スタンドアローン)」に切り替わることで「真の5G」となり、高速大容量に加えて超低遅延や多数端末接続など、本来、5Gに期待されているネットワークに生まれ変わるというわけだ。
NSAからSAに切り替えるには、早期に5Gエリアを拡大する必要がある。そのため、DSSを導入することで、既存の4Gネットワークを用いて、5Gエリアを一気に広げることができる。
総務省などでの議論が必要
日本では既存の4Gで使われている周波数帯は4G用として割り当てているため、すぐにDSSを導入するのは難しい。今後、総務省などでの議論が必要となってくる。とはいえ、総務省や政府としても5G促進に前向きであるため、DSSの導入は時間の問題とされている。KDDIは2022年から23年あたりにNSAからSAに切り替えていく計画を明らかにしている。今後、DSSが導入されることで、全国的に一気に5Gエリアが広がっていく可能性がありそうだ。