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去る2020年2月4日、日本交通の子会社であるJapanTaxiと、国内IT大手のディー・エヌ・エーが会見を開き、2020年4月1日に両社が提供する「JapanTaxi」と「MOV」を統合すると発表しました。

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▲JapanTaxiとディー・エヌ・エーは2020年2月4日に、両社のタクシー配車アプリの統合を発表。タクシー配車アプリにも再編の波が訪れたようだ

JapanTaxiとMOVは共に、スマートフォン向けのタクシー配車アプリとして知られています。両社はサービスを統合するとともに、ディー・エヌ・エーが日本交通と共同で、JapanTaxiの筆頭株主になるとしています。

両サービスの統合によって、配車可能な車両数が10万台という非常に大きな規模のタクシー配車サービスが誕生することは確かですが、各サービスをどのような形で統合するのか、社名はどうするのかなど、具体的な方針については説明がなされておらず、現段階で決まっていないことも多いようです。

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▲ディー・エヌ・エー決算説明会資料より。JapanTaxiとMOVはサービスを統合するとともに、ディー・エヌ・エーは日本交通と共同でJapanTaxiの筆頭株主になるとのこと

今回の両社の動きが、ここ最近増えているタクシー配車アプリの再編に向けた大きな動きとなることは確かでしょう。JapanTaxiやディー・エヌ・エーだけでなく、ソフトバンクが中国の滴滴出行と合弁で展開する「DiDi」や、ソニーなどが出資するみんなのタクシーが運営する「S.RIDE」など、タクシー配車アプリへの参入はここ最近急増しており、じき再編が起きる可能性は十分考えられたことです。

とはいうものの、大盤振る舞いキャンペーン合戦の勃発が企業体力の消耗を呼んで再編が進んだスマートフォン決済と比べると、タクシー配車アプリに関する競争はまだそこまで激しくなっていません。それだけに再編の動きが少し早いのでは?という印象も受けてしまうのですが、なぜ2社はサービスを統合するに至ったのでしょうか。

発表と同日に実施された会見を見たところ、その理由の1つとして両社は、日本における配車アプリの利用率の低さを挙げていました。全国のタクシー月間乗車回数におけるタクシー配車アプリの利用は2%に過ぎないとのことで、確かにライドシェアの利用が進んでいる海外のいくつかの国と比べると、その利用は多いとは言えない状況にあることは確かでしょう。

ですが両社は、ライドシェアの解禁にも否定的な見解を示します。海外では確かにライドシェアの利用が増えていますが、一方でライドシェアを巡る犯罪や、ギグワーカーの発生など新たな問題も生み出しており、再規制する動きも進んでいるとのこと。今から日本でライドシェアを解禁しても再規制される可能性が高いため、"遅い"というのが両社の見解のようです。

そうしたことから両社の狙いは、あくまでタクシー配車アプリの強化による利用拡大にあり、それはタクシー会社にもメリットをもたらすとしています。

タクシー会社は中小企業が多く企業体力が弱いので、少子高齢化によるドライバー不足や、労働効率の悪さなどを改善するための投資ができないとのこと。そうしたことからタクシー配車アプリの利用促進や、それによってもたらされるデータの活用などによって、個々のタクシー会社が大きな投資をしなくても業務効率を改善できるようになると考えているようです。

タクシー会社を親会社に持つJapanTaxiが、ライドシェアではなくタクシー配車に力を注ぐのは当然のことでしょうが、実はディー・エヌ・エーも、MOVやその前身となる「タクベル」を提供するに当たっては、タクシー会社との関係を非常に重視していました。実際、MOVでは広告を活用した「0円タクシー」など、従来のタクシー会社にはできない集客手法を取ったり、AIを活用した需要予測システムをタクシー会社に提供したりするなどして、Win-Winの関係を築くことを重視していたのです。

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▲ディー・エヌ・エーはMOVで、スポンサーを募り0円でタクシーに乗車できる「0円タクシー」キャンペーンを実施するなど顧客獲得のためユニークな施策も実施していた
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それだけに、タクシー会社を重視した両社の相性は比較的良いと言えるでしょう。またサービス統合によって規模拡大が進む一方、競合が減る分顧客獲得に向けた投資コストも減ることから、効率化が進むのは確かだといえます。

ただ一方で、両社の説明を額面通りに受け止められない部分もあるというのが正直な所です。その理由は両サービスの統合が発表された翌日の2020年2月5日に、ディー・エヌ・エーの2020年3月期第3四半期決算を発表し、営業損益が約442億円、純損失が501億円と大幅な赤字を記録したことです。

主な理由はゲーム事業を中心としたのれん代の償却による493億円の減損損失であり、同社は減損はあくまで一時的なものとしています。ですが巨額の償却が必要になった背景には、同社の本業であるゲーム事業の不振が大きく影響しているようです。本業が厳しくなったことでディー・エヌ・エーは先行投資がかさんでいたMOVの事業に、これ以上単独で投資するのは厳しいと判断。先手を打ってパートナー探しを進め、JapanTaxiとの統合に至ったといえるでしょう。

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▲ディー・エヌ・エー決算説明会資料より。JapanTaxiとMOVの統合発表翌日に公表された同社の決算では、ゲーム事業を中心に493億円もの減損損失が発生することが明らかにされている

実際、同社のIRサイトに公開されている決算説明会での質疑応答の要約を確認しますと、MOVのエリア拡大に伴い競争環境が厳しく投資が必要になっていたのに加え、収益性の向上や収益モデルの確立が遅れていたという旨の発言も見られました。やはり競合と勝ち抜くまで、投資を継続するのが難しくなっていた様子がうかがえます。

それゆえ今回の統合は、ディー・エヌ・エー固有の事情によるところが大きいといえそうで、スマートフォン決済のように雪崩を打って再編が進む可能性はあまり高くないのではないか、というのが筆者の見立てです。とはいえこの市場には、スマートフォン決済では「PayPay」で大きな勝負を仕掛けて再編を呼んだソフトバンクが力を入れているDiDiが存在し、最近規模を急拡大している様子を見せているだけに、予断を許せないことは確かでしょう。

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▲ソフトバンク系のDiDiは、1年で20都道府県でサービスを開始するなど急拡大しており、PayPay同様今後大きな勝負を仕掛けてくる可能性も考えられる