なぜアフリカではiPhoneが不人気なのか。現地で事情を探った:モバイル決済最前線(番外編)

中国とも異なる途上国事情

鈴木淳也 (Junya Suzuki)
鈴木淳也 (Junya Suzuki), @j17sf
2020年02月28日, 午前 09:20 in mobile
0シェア
engadget
突然だが、筆者はいまアフリカ中央部の小国ルワンダの首都キガリにいる。神戸市が主催するルワンダ現地での起業体験プログラム「神戸スタートアップアフリカ」ツアーの一環で、現地の企業やインフラ事情を取材するためだ。

ルワンダという国は1994年に発生した大量虐殺(ジェノサイド)でよく知られているが、その後混乱を終息させたポール・カガメ氏が2000年に大統領に就任すると、「アフリカの奇跡」といわれるまでに急速に復興し、現在その中心部であるキガリは同大陸で最も安全で清潔な都市とまでいわれている。

そんなルワンダだが、同国の平均年収は400米ドル程度とされ、人口の8割近くが1次産業従事者ということで、都市部と地方で10倍近い収入格差があるといわれている。

engadget
▲ルワンダの首都キガリ市内のマーケット周辺にある道路。ルワンダはアフリカでも清潔で道路事情がいい国として知られるが、まだまだ未舗装の悪路も多い

こうした低収入下においても携帯インフラは整備され、急速に普及を続けている。ルワンダでの携帯インフラ展開状況について、モバイルユーザー向けにヘルスケアサービスを提供するBabyl Health RwandaのPatrick Singa Muhoza氏によれば、2016年時点で同国での携帯普及率は60%、そのうちスマートフォンユーザーは10%程度だとしているが(後述するが、ルワンダでは複数回線持ちが一般的なので、実際の普及率は4-5%程度だという)、2020年現在では携帯普及率は80%、スマートフォンユーザーは40%に迫る水準にまで増えている。

携帯が重要なインフラである一方、モバイルアプリやWebブラウジングを前提としたサービスはスマートフォン普及率を鑑みて成立しにくく、必然的に音声やUSSD(Unstructured Supplementary Service Data)と呼ばれるSIMカードのコマンドを使ってのメニューを介して提供されることになる。

今回は、現地最大のローカルマーケットの1つといわれるキミロンコ(Kimilonko)市場を中心に、ルワンダでの携帯事情に少しだけ触れることができたので紹介したい。

engadget
▲キガリ市内最大のローカルマーケットの1つキミロンコ(Kimilonko)市場


選べるキャリアは2社、SIM複数持ちは当たり前

東南アジアなどの発展途上国でもよく見られた現象だが、PCや固定回線が広がる前に携帯電話が普及したことで、通信における社会インフラが携帯を中心にまわるようになったのはルワンダを含むアフリカ共通のトレンドだ。また、最大都市であるキガリ市内の電力事情も悪く、1日何度も停電するのが日常茶飯事というのも、バッテリ搭載が標準の携帯利用が広まる要因の1つだろう。

ルワンダ国内で利用できる携帯キャリアは南アフリカ系キャリアの「MTN Rwanda」とインド系キャリアの「airtel Africa」の2種類。後者のairtelについては、Millicomが運営するTigoというキャリアとの事業合併を経てairtelが存続会社となり、国内第2のキャリアに浮上したことによる。

ルワンダ国内では、いわゆる「携帯ショップ」のようなものはほとんど存在しておらず、その多くは写真にもあるようなテントにキャリアのロゴを掲載した出張所の存在で成り立っている。ここでトップアップ(チャージ)用のスクラッチカードを購入したり、あるいはMTNが開始した「MoMo」のようなモバイルマネーサービスを利用する際の「現金預け入れ(キャッシュイン)」「現金引き出し(キャッシュアウト)」の窓口として利用する。

出張所のある場所は、キミロンコ市場のような人の多く集まる場所や主要街道沿いの要所、街の商店といったところ。ただ、キミロンコ市場では数メートルおきに出張所が並んでいるほどで「本当にこんなに必要なのか?」と疑問に思わなくもないが、それだけMTNユーザーが多いということなのだろう。

一方で、airtelの出張所はMTNと比して圧倒的に少なく、その代わりというわけなのか、街のあちこちに広告宣伝や壁にペイントされたロゴなどが見られ、シェアで不利なMTNに対してアピールで差を付けたいという意図が見受けられる。

engadget
▲キミロンコ市場内では2大キャリア(MTN、airtel)があちこちに出張所を出しており、関連サービスの窓口になっている

前述の通りフィーチャーフォンの利用が多いものの、ルワンダでは複数枚のSIMを使い分けるのが普通で、音声通話用のメイン回線はフィーチャーフォン、各種アプリ(Google Mapsなど)や、アフリカで人気のWhatsAppのようなSNSツールを使う場合はスマートフォンという形で複数台使い分ける姿も珍しくない。

このような利用スタイルになる背景について、「同じキャリア同士の通話は安くなる」「ライバルのキャリアが対抗のために安価なキャンペーンを打ち出すので、それを利用する」といった事情があるようだ。実際、複数台持ちユーザーはSIMの3-4枚持ちという例があったので、中国でのデュアルSIM端末人気とはまた別の傾向といえる。

また、利用端末の傾向について聴き取りを行ったところ「SamsungとTecnoあたりが人気端末。ただしSamsungは高い」ということで、Samsungの扱いは高級端末かつお金持ちの象徴のような存在といえる。

一方のTecnoは中国(香港)系メーカーだが、街のあちこちにTecnoの看板を掲げた家電販売店が存在しており、それなりに認知があるとみられる。特に「デザインの面で女性からの支持がある」というのも、Tecnoが人気の理由の1つのようだ。

engadget
▲ルワンダではまだまだフィーチャーフォンが主流。Tecno製端末で日本円で1300円程度

engadget
▲スマートフォンも急速に普及している。人気はやはりTecno製端末で、安いものは7000円から、上位モデルで2万円ほど

「iPhoneではダメ」という理由

いろいろ下情報を得たうえで、キミロンコ市場に商店を持つあるオーナーの協力を経て、複数のユーザーの端末や利用状況を見せてもらうことに成功した。

各ユーザーで共通するのはSNSとしてWhatsAppを利用していることと、前述のようにルワンダ国内のユーザー層がフィーチャーフォンに偏っているため、あまりローカル色の強いアプリは使われていないということだった。

下のオーナー端末のホーム画面で注目なのは「Video」「YouTube」「VLC」のような動画再生アプリ、マイクから音楽を拾って曲を検索する「Shazam」あたりだろう。見ている動画は「コメディアンなど」ということでコンテンツ需要が大きいということだが、「ルワンダの通信料金は高い。動画を見るたびに通信容量を使い切ってしまうので、都度チャージしながら節約して楽しんでいる」とのことだった。

engadget
▲取材に協力してくれたキミロンコ市場の店舗のあるオーナーの端末を見せてもらった。メインの連絡ツールはWhatsAppで、人気アプリとしてはXenderが挙げられるという

そこで登場するのが「Xender」というアプリだ。ピア・ツー・ピアで2つの端末をBluetooth接続し、スマートフォン内のアプリやコンテンツを携帯回線なしで共有する。複数持ちの場合は自分個人で楽しむのもいいし、友人が持っているアプリやコンテンツを、別途クラウドから携帯回線経由でダウンロードするのではなく、Xenderでシェアする。こうすることで、高い通信料を払うことなくコンテンツを素早く入手できる。

ただし、この仕組みではアプリの入手は必ずApp Storeを経由する必要があり、さらにストレージへのアクセス制限があるiOSでは利用できない。ルワンダでiPhoneが人気ないというのは何も価格が高くて高嶺の花だからというわけでなく、「仲間内でコンテンツを共有する方法が限られる」という、日本のiPhoneとは逆の事情でAndroidが好まれるという理由による。

engadget
▲Xenderは携帯回線なしでもBluetooth経由でアプリやコンテンツをシェアする仕組み。難点は仕組み上、iPhone上で利用できないこと

engadget
▲Xender上で友人同士のコンテンツシェアを行う場合、QRコードを表示させてそれを読み取ることで端末同士が接続される

ここまでも触れてきたが、ルワンダにおける携帯プラン契約というのは日本とは根本的に異なっている。まずポストペイド型ではなくプリペイド型なので、事前にトップアップを終えておく必要があること。そして魅力的な月額プランでユーザーを抱え込むのではなく、ライバル同士が牽制し合ってキャンペーンを展開してくるので、場合場合でSIMカードを使い分けているといったことが挙げられる。

また、プランはUSSDのメニューで購入することになるが、基本的には大容量のプランを一気に買うのではなく、1GBなどの最低限のプランを都度購入して"ちびちび"と消費していくスタイルが一般的のようだ。

先ほどの商店オーナーのケースでは「(動画を見るときなど)多いときは月に3GBほどを使ってしまう」とのことで、データ容量の購入を都度チャージで対応している。

engadget
▲携帯の利用プランは月額サブスクリプションではなく、利用量に応じた都度ジャージで対応しているという。トップアップ操作はアプリではなく、フィーチャーフォンでもスマートフォンでもUSSDのメニューを用いる

資源や国土の限られたルワンダにおいて、同国ではICT立国を旗印に影響力を伸ばそうとしている。一方で、それを下支えするインフラはまだまだ脆弱であり、国民のデジタル化水準はまだそれに追いついていない。このあたりは中国とも異なる途上国事情として非常に興味深いところだ。


 

TechCrunch 注目記事「新型コロナのソーシャルディスタンス(社会的距離戦略)を強力に支援するビデオチャットアプリ8選

関連キーワード: africa, iphone, mobile
0シェア