前後に4枚のドアを持ちながら、後方までなだらかにルーフラインが伸びたボディは、BMWが「グランクーペ」と呼ぶ型式。現代的でエレガントでスポーティなデザインと、広々とした車内や機能性を兼ね備えると、同社では説明しています。
BMWファンが気になるのは、フロントの巨大なキドニー・グリルが、市販モデルではどうなるのかということでしょう。最近のBMWは、新型「X7」やマイナーチェンジした「7シリーズ」などを見ても、(どこぞの市場からの要求によるものなのか)グリルの大型化に積極的な様子。キドニー(腎臓)というよりも大きな鼻の穴のように見えるグリルの美醜をめぐり、人々の間で議論が巻き起こっています。
とはいえ、電気自動車であるコンセプトi4のフロントグリルは、実際には「穴」は開いていません。エンジンを冷やすために空気を取り入れる必要がないからです。網の代わりにユニークなテクスチャが彫り込まれたこのグリルの裏側には、ラジエターではなく各種センサーが搭載されており、風ではなく信号や光を取り込みます。これは今後もBMWのEVに共通するデザインとなりそうです。
この閉じたグリルと、エキゾーストパイプがないリアのディフューザーは、空力効率も向上させました。EVではそれが航続距離の延長に直結します。
インテリアでは、ダッシュボードに搭載された大型スクリーンが目を引きます。従来のデジタル・メーターパネルと、センターコンソールのインフォテインメント用スクリーンを1枚に統合したこのタッチパネルは、表示テーマを「コア」「スポーツ」「エフィシェント」という3種類のモードから選択できます。
「コア」はインテリアのテーマカラーに沿ったいわゆるデフォルト表示。「スポーツ」に切り替えると、ドライバーの眼前には前方に迫るカーブの屈曲が描かれ、右側のスクリーンでは区間タイムや前後左右のGを見ることができます。そして「エフィシェント」では、クルマに搭載された各種センサーの働きをCGで表示。より効率的な運転を促します。
この「BMWカーブドディスプレイ」と名付けられたシステムは、市販モデルのi4をはじめ、他の電動モデルにも採用される予定です。
大型タッチパネルを搭載したことで、ダッシュボードとセンターコンソールからは、物理ボタンやスイッチが大幅に削減されました。エアコンの調整もダイヤルではなくタッチパネルで行うとのこと。その操作性については、キドニー・グリルの大型化と同様に、賛否が分かれるかもしれません。
また、車内にはドライバーのアクセル操作に合わせて、エンジン音の代わりに作曲家のハンス・ジマーとBMWが共同で作り上げたサウンドを響かせることも可能。運転する気分を高揚させるだけでなく、低速走行時には周囲の歩行者にクルマの接近を報せる効果も備えます。モードを切り替えれば、これらのサウンドも車内のアンビエント照明の色と共に変わります。
ドライブトレインは、第5世代の「BMW eDrive」と呼ばれる電気駆動システムを採用。1基の電動モーターが390kW(530ps)というV8エンジン並みのパワーを発生し、0-100km/hまで約4秒で加速できます。最新のバッテリーセルをi4専用に組み合わせた高電圧バッテリーパックは、重量が550kgで容量は80kWh。WLTPモードによる航続距離は600kmと発表されています。
フォルクスワーゲン・グループやルノー・日産、ホンダなどの自動車会社と異なり、BMWはEV専用プラットフォームを新規に開発するのではなく、ガソリンおよびディーゼル・エンジン搭載車やプラグイン・ハイブリッド車と、大部分を共有できるフレキシブルなプラットフォームを使用する道を選びました。 EVならではの大胆なパッケージングやデザインは難しくなりますが、同クラスの内燃エンジン車やハイブリッド車と同じ組み立てラインで生産できる(そしてそれらの生産量を比較的容易に調整できる)という利点があります。
i4も、現行型「3シリーズ」やそれをベースにした次期型「4シリーズ」など、他のBMW車と一緒に、本拠地であるドイツのミュンヘンで、2021年から量産されることになっています。ただし、BMWによれば、i4はボディ下部にバッテリーを搭載するため、90%は既存のボディ生産設備が使えるものの、残り10%は新設する必要があるとのこと。そのために同社はミュンヘン工場に総額2億ユーロ(約240億円)の投資を行っています。
BMWは、2023年までに12車種もの新型EVの投入を目指しています。その先陣を切るのが、SUVの「X3」をベースにした「iX3」というモデルで、これは今年中(2020年内)に発売予定。2021年にはi4のほか、「iNext」と呼ばれる先進テクノロジーを搭載したSUVも登場することになっています。さらには小型ハッチバック「1シリーズ」のEVバージョンも検討されているようです。ラインアップの電動化に向けて、BMWの鼻息はますます荒くなるばかりです。