ipad pro 2020約1年半ぶりにモデルチェンジとなったiPad Pro。ここ数日、ひと足先に実機での評価テストを行いました。新旧モデルを比較すると、デュアルカメラと光距離センサ「LiDAR」の装備がやはり大きな違いです。

しかし、"変わっているようで変わっていない"ところと、"変わっていないようで変わっている"ところなど、使っているうちに感じる部分があったので、MacBook Airのレビューと同様に"新旧を比較しながら購入時に注目すべき点"を中心に話を進めていき、最後にMacBook Proで仕事をしているジャーナリストの僕が、iPad Proでひと通り仕事がこなせそうか? という視点でも、"私見"を中心に書き進めていきたいと思います。


実は"主だった機能と性能"はそのまま

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今回、アップデートされたハードウェア機能は、実はそう多くはありません。もちろん、カメラのデュアル化、高画質化やARに活用されるLiDARの搭載は大きな違いですが、スマートフォンに比べるとタブレットでは内蔵カメラに対する要求が大きくないと思うからです。

ちなみに、LiDARによって距離計測、3Dスキャンできるシーンの範囲は公開されていませんが、おおむね広角カメラの画角はカバーされているようです。もっとも、これは僕が12.9インチモデルでテストしているせいかもしれません。11インチモデルならば、もっと手軽にカメラを活用できる可能性はあります。

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さて、AR関連はのちに言及するとして、タブレット端末を評価するうえで、王道とも言えるディスプレイ、サウンド、プロセッサパフォーマンスなどはどうなっているでしょう?

カメラとLiDARを除くと、前モデルと新モデルの差異は搭載される「A12X」と「A12Z」との差に集約されます。しかし、A12X BionicとA12Z Bionicには、買い換えの動機になるほどの大きな差はありません。

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▲ベンチマーク結果。左がiPad Pro (2020)、右がiPad Pro (2018)

Geekbench 5ではGPUで先行するものの、Premier Rushの動画書き出しや3Dmarkでは旧モデルがやや高速な結果でした。しかしAntutu Benchmarkでは有意に新型の方が好結果に。パフォーマンスコントローラーの制御によるものと思われるが、どういったときにどう振る舞われるかはまだ研究の余地がありそうです。もっともGPUコア数を除けば、両者に大きな差異はないと言えるでしょう。

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▲iPad Pro (2020)のベンチマーク結果

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▲iPad Pro (2018)のベンチマーク結果

CPUに関してはほぼ同じ。クロック周波数も同じで、実行コアも同じ。名称からも分かる通り、A13 Bionicで導入された新設計のCPUコアやNeural Engine、Image Signal Processorは搭載されていません。GPUパフォーマンスは改善されていますが、これはGPUコアが7つから8つへの増加したため。ベンチマークスコアでは9.5から10%程度の向上です。

とはいえこれらの性能は、実は多くの薄型ノートパソコンよりも優れています。たとえば同時発表されたMacBook Airと比較すると、OSが違うため単純に比べられるわけではありませんが、Geekbench 5でのスコアはCPU、GPUともにiPad Pro (2020) が上回ります。特にGPUの演算性能はMacBook Air(i5モデル)の約8500に対し、10300程度の値が出ていますから、相変わらずパワフル。ファンレスの超薄型であることを考えれば、驚異的であることに変わりはありません。

つまり、ポータブル機として性能は最高クラスですが、性能面で考えるならば、前モデルユーザーが買い替える必要はないでしょう。そしてポータブル機としての実力は現在もトップクラスで、たとえばAdobe Premiere Rushで動画プロジェクトの書き出しを行ったところ、手元にあるMacBook Pro 13インチモデル(2018 Late)の2倍以上の速度でレンダリングを完了してくれます。

なお、試用機は1TBストレージのモデルなのですが、以前のiPad Proは1TBモデルだけがメインメモリ6GBで、他仕様では4GBメモリという差異がありました。Appleはストレージ容量ごとの搭載メモリ量を公開していないのですが、Geekbenchの集計サイトに上がってきている情報を見る限り、今回はすべての容量でメインメモリは6GBが搭載されているようです。

新しいカメラユニットの実力は?

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A12Z Bionicは、あくまでもA12 Bionicから派生した高性能プロセッサです。A13 Bionic世代で盛り込まれた新しいNeural Engineと新しいImage Signal Processorは非搭載。つまりDeep FusionやNight Modeなど、iPhone 11世代が備えるカメラ機能を使うことはできません。

iPad ProとiPhoneでは、そもそもカメラの設計が異なるため単純比較はできませんが、概ね性能や機能はiPhone XS世代相当で、そこに0.5倍の超広角カメラ(iPhone 11とは異なり1000万画素)が加わった形と考えれば、イメージ的にはそう遠くありません。

ただ、そこにはSmart HDRなどの要素が組み込まれており、タブレット端末として考えると最高クラスのカメラ画質であることは間違いありません。マイクの音質が高いことも加えれば、タブレットで手軽にYouTube Liveなどの動画中継を行いたいなんて時に役立つでしょう。

一方、まだそのポテンシャルが見えない部分もあります。それがLiDARの活用に関して。このLiDARは4〜5m程度の範囲内で距離を測定し、空間の形状を認識します。従来ならば、ARアプリを動かす際、"儀式"のように周囲の様子をスキャンしてから使い始める必要がありましたが、そうした儀式が不要になります。

IKEAアプリを試してみましたが、起動してすぐに家具を配置してみることができ、実に軽快かつ気軽に使うことができました。ゲームや教育ソフトなどでも当然、同じような体験に期待できるでしょう。

もっとも、LiDARの搭載によって変化するのは、既存のARKitを用いたアプリだけではありません。iPadOSには"シーン"、つまり風景を捉えるAPIが追加されています。機械学習によって鍛えられたアルゴリズムで、認識している立体空間に見えている対象物がそれぞれどんな素材であるのかを(カメラの映像とLiDARの両方を用いて)自動識別できるわけです。

アプリ側はiPadOSの機能を呼び出すだけで利用でき、アプリ内で活用できるとのこと。とはいえ、まだ対応アプリはなく、APIもiPadOS 13.4ではじめて公開されたばかり。6月のWWDCで開発者に対して何らかの提案、アプローチがあると考えられます。

おそらくオンラインWWDCで開発者向けにアプローチが行われたのち、9月の新型iPhoneにもLiDARを搭載。ある程度のアプリを揃えていきたいといった意図があると思われますが、充実するまでには少し時間がかかりそうです。

ちなみにiPhone 11シリーズそっくりの正方形のカメラ部ですが、そのサイズはまったく違います。新型iPad Proの方がかなり小さいんですよ。おそらくですが、センササイズもiPhone 11より小さい(XSシリーズ同等)ではないかと想像しています。

前モデル、新モデルともに恩恵を受けるiPadOS 13.4のトラックパッド対応

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ところで、多くの方が期待しているのはMagic Keyboardの登場ではないでしょうか。

......と、その前に、Smart Keyboard Folioについても少し触れておきますね。iPad Pro (2020) の新しいカメラ部に合わせて切り欠きが変更されているため、新型専用となります。さらに色が少し濃くなり、黒に近いダークグレーになりました。違いはもうひとつ。Appleのマークがエンボスで埋め込まれています。

話を戻してMagic Keyboardですが、まだ実機を試す機会がありません。しかしキー構造はMacBook AirやMacBook Pro 16インチモデルとまったく同じとのことなので、似たようなタッチになることは間違いありません。

そしてSmart Keyboard Folioでさえ重さが400グラム余りあることや、プロモーションビデオでキーボード本体がびくとも動かず、その上でマグネット脱着していることを考えると、Magic Keyboardはそれなりに安定するだけの重量がありそうですね。

このMagic Keyboardに新たに搭載されるのがトラックパッド。MacBookではお馴染みのユーザーインターフェイスが、そのままiPadシリーズでも使えるようになります。Magic KeyboardはiPad Pro専用ですが(カメラ部の開口面積を気にしなければ旧モデルでも装着可能)、トラックパッド対応はiPadOS 13.4から追加されたもので、すべてのiPadシリーズで利用できます。

ちなみにトラックパッドだけでなく、サードパーティー製のマウスなども利用可能です。しかしながら、マルチタッチを使ったジェスチャーによる操作こそがトラックパッド対応におけるハイライトでしょう。

このアップデートはiPad Pro (2020) ユーザー以外にも恩恵があり、さらにMagic Keyboardを購入すれば、前モデルも含むiPad Proで、まるでMacBookシリーズを使っているかのような操作性を実現できます。

トラックパッド対応と新しい日本語IMで、MacBookシリーズと同等の操作体験

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iPadOSとmacOSでは、本質的にウィンドウの扱いが異なるほか、ユーザーインターフェイスのスタイルにも少し違いがあります。その中で、どう折り合いをつけているかなのですが、トラックパッドの操作性に関しては、MacBook Proと並べて使っていてもほとんど違和感なく行き来できる印象。もちろん、Magic Keyboardはまだ入手できないため、Smart Keyboard FolioとMagic Trackpad 2とを組み合わせて使った場合の感想となりますが。

iPad Proでキーボードを使っている際、ホームポジションから手を動かさずにポイントできる点も好ましいのですが、なにより便利なのは文字の範囲選択が楽になることでしょう。iPadOSでトラックパッドを使う場合、矢印ではなく指を模した円形のポインターが表示されるのですが、これがテキストの上にくるとテキスト選択の形状に変化。簡単に文字単位の選択ができます。

iPadに限った話ではありませんが、iOS系デバイスでタッチパネルを使って文字選択を行うストレスは大きく、操作しにくいものです。しかし、トラックパッドやマウスからならば極めて快適に操作できます。

また、日本語に特化した部分では、日本語IMへのライブ変換(変換キーなしにリアルタイムに候補の漢字に置き換えられていく変換モード)に対応しました。これはmacOSの日本語入力に以前から導入されていたもので、このモードに慣れている人にとっては"macOSの入力環境がそのまま実現"される利点があります。もちろんライブ変換はオフにすることも可能です。

そのほか「スマート全角スペース」の扱いも変わっており、有効になっていると日本語入力モードでは行頭でもスペースバーで全角スペースが入力されるように。Macとの併用を考えている人には朗報です。

この場合、欧文入力直後は半角スペース、日本語入力直後は全角スペースとなり、それぞれシフトキー併用で入力文字種が反転されます。

直前の確定単語で入力されるスペースが勝手に変わってしまう点には戸惑いもありますが、行頭に全角スペースを入力できることを歓迎するユーザーはいるはずです。この動作はmacOSの日本語入力と完全に互換なので、トラックパッド対応とともに機器を往復しながらタイプしていてもまったく違いを意識せずに済むシームレスさを実現する要因のひとつになっています。全角スペースの入力が不要な場合は、スマート全角スペースを無効にすればいいだけなので"どちらがいいか"の議論は不要ですよ。

完成度の高いiPad Proをリファイン、Macとの併用を違和感なく

さて、まとめましょう。

ハードウェアとしてのiPad Pro (2020) は、前モデルからのアップデートがさほど多いわけではありません。もちろん、二眼構成となったカメラは画質、超広角の装備など進化していますし、なによりLiDARをどう開発者が使いこなすかは注目したいところです。

しかし、ディスプレイやスピーカーの品質、第2世代のApple Pencil対応や本体形状などはほぼ同じで、内蔵のLTEモデムも29バンド対応だったものが30バンド対応になるといった小さなアップデートが施されているのみです。

とはいえこれだけの薄型コンパクトな筐体に、ここまでパワフルなプロセッサを搭載している製品は思いつきません。1年半前と同じく、薄型軽量のコンピュータとしてもっともパワフルな存在であることは変わっていませんでした。

こんなパワフルなプロセッサ(同時発表のMacBook Airよりも)を搭載するタブレットなのだから、Macと同じように使いたいというニーズは当然あるわけですね。ただ、これまではキーボードやOSの機能、使い勝手の面でMacとiPad Proの間には隔たりがありました。

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その溝を埋めたのが新型キーボードとiPadOSの機能追加。これが今回の製品発表におけるハイライトなのかもしれません。筆者自身、5月にMagic Keyboardが発売されたなら、普段使っているMacBook Pro(2018 Late)の代わりにiPad Proを使おうか? なんて欲が出てきてしまうほど。だってAdobeのPremiere Rushでの動画書き出し、GPU性能が高いiPad Proの方が2倍ぐらい速いんですよね。

ということで、相変わらず競争力の高いiPad Proですが、パソコン的な使い方を検討しているのなら、もしかするとMagic Keyboardの登場を待つのがいいかもしれませんよ。

24日22時30分以降は動画でも紹介しているので、こちらも合わせてどうぞ。