Magic Keyboardについては追ってレビューしたいと思いますが、まずは現段階で分かっている情報をまとめておきます。
iMacのような佇まいで、はかどるカメラ撮影
Magic Keyboardと名乗るぐらいですから、MacBook Pro、MacBook Airと同様の1mmストローク、シザーメカニズム、そして独自開発のラバードームを備えたキーボードが用意されます。これに昨今のMacと比べれば小ぶりのトラックパッドを備え、iPad Proを空中に浮かせる形で固定できる仕組みを備えています。
キーボード自体はMacbook Airなどと同じで、おそらく静かで適度な反発力によってリズミカルなタイピングを実現できるでしょう。それがiPad上で再現されるなんて夢のようです。ただし、細かい打ち心地が同じかと言われると、そうではないはず。これは搭載するボディの剛性や重さといった条件で複雑に変化するからで、MacBook ProとMacBook AirのMagic Keyboardがちょっと違うように、iPad Pro用Magic Keyboardもちょっと違うと感じるかもしれません。細かすぎて気づかないような話をしているかもしれませんが、1日中タイピングする筆者にとっては重要なのです。
iPad Proの固定は、ちょうどSmart Keyboard Folioと同じ部分がカバーされる形になっていて磁石で。そしてヒンジ部分は90〜130度の角度で動きます。90度で固定できる点が素晴らしいのです。
アウトカメラで4Kビデオ撮影する際にカメラが下向きにならず、まっすぐ被写体を撮影できます。またセルフィーをする場合でも、カメラが下からのあおりではなくなります。カメラが強化されたiPad Proでのビデオ撮影から編集、投稿という流れが加速しそうですね。
ちなみに今回のiPad Proカメラは、ワイド・ウルトラワイドのデュアルカメラになりましたが、1200万画素のワイドカメラもiPhone 11とは異なるレンズを搭載しており、ウルトラワイドは1000万画素の新しいカメラ。ポートレートモードの撮影もできません。
LiDARスキャナーはAR系のアプリで利用するために用意されたもので、現状では純正カメラアプリからは利用しません。距離を正確に測る仕組みとカメラアプリを組み合わせれば、アウトカメラのポートレートモードを実現できそうなものですが......。
iPad Pro (2020) を選ぶなら、目的を持つべき
Magic Keyboardはデュアルヒンジという仕組みで、キーボード面からの立ち上がりのヒンジはちょうど良い角度で固定され、iPad Proを支えるヒンジはスムーズに稼動する構造になっています。この下のヒンジ部分の左側にはUSB Type-Cの電源ポートが用意されており、iPad Pro本体に給電することができます。こちらのポートを使えばiPad Pro本体のUSB Type-Cポートが空くので、マイクやカメラといったアクセサリーの接続しつつ充電を同時に行うことができます。
繰り返しになりますが、Magic Keyboardは2020年5月に登場するため、現在試せる段階にありません。また、必ずしもiPad Pro (2020) を買う必要はなく、2018年10月発売のiPad Proでも利用できます。
なお、既存のiPad Pro向けSmart Keyboard Folioは2020年モデル向けにカメラモジュール開口部が拡大されて発売されますが、こちらは2018年モデルでも利用可能です。iPad Proについてはこれ以上デザインを施しようがないほどシンプルな形になっていますから、2018年モデルのユーザーがMagic Keyboardを手に入れて、数年後にiPad Proを買い換えてもそのまま使えるかもしれません。カメラ部分が鬼門ではありますが、さすがにこれ以上カメラが増えないんじゃないか、とも思いますし......。
1つ懸念事項は価格。単純にMagic Keyboardを外出先で使いたい場合、性能差は確かにありますが、13インチRetinaディスプレイ、1.29kg、256GBストレージを備える10万4800円(税別)のMacBook Airエントリーモデルの方が、安く入手できます。
また、12.9インチiPad Proは本体が641g(セルラーモデルは2g増)。これにSmart Keyboardですら約400g追加されるわけで、それよりも重たくなることが予想できます。宙に浮かせる構造から、キーボード自体もiPad以上の重さがないと物理的に持たないのでは? そう考えるとMacBook Airと同じような重さになるのではないか、と予測できます。
つまりMagic Keyboard目当てでiPad Pro (2020) を選ぶことは合理的ではありません。
一方、ハードウェア面で、Mac、あるいはそれ以外のコンピュータを選ぶインセンティブとして残っていたキーボードとマウス(トラックパッド)を完全に潰したことになり、未来のコンピュータとしてのiPadの位置づけが確定した瞬間でもあります。
着実な充実
iPad Pro (2020) は「A12Z」プロセッサを搭載しています。とはいえ、ベンチマークテストをすると、2018年モデルの「A12X」プロセッサとあまり大きくは変わらない様子。グラフィックスについては、7コアから8コアに増えたぶん処理性能が向上していますが、急いで乗り換える必要があるかと言われると、そうではなさそうです。
Appleによると、A12Zでは熱設計が改善され、ピークパフォーマンスをより長時間維持できるようになったとのこと。例えば3D処理や4Kビデオの書き出しなどが熱に邪魔されず処理できるようになるということです。ただ、残念ながらAdobe Premiere Rushのプロジェクトでは、大きな違いを見出せるほどではありませんでした。
ディスプレイは相変わらず美しいRetinaディスプレイで、600ニトの明るさ、高色域P3に対応する発色の良さは、持ち運べる液晶スクリーンの品質として最上級と言えます。これとProMotionに対応し、最高240Hzのリフレッシュレートを実現する点も、iPad Proの魅力となります。
Apple Pencilは磁石で側面にくっつけて充電する方式が維持され、9msの反応速度は非常に快適な描き心地。Photoshopに加えておそらく今年はIllustratorも追加され、クリエイティブ用途の拡大は続くでしょう。しかしこれも、2018年モデルと同じ。
今回ハードウェア的な違いを見出すなら、マイクとワイヤレス接続です。2つだったマイクは5つに増加。Appleはこれを「スタジオ品質のマイク」と表現していますが、マイクが増えたことによる効能はステレオ録音です。縦でも横でも、映像の向きに合わせて左右チャンネルでの録音が可能になったことから、iPad Proでのビデオ撮影の音質はより拡がりがある音に。
また、Wi-Fiは「Wi-Fi 6」に対応し、最高1.2Gbitでの通信に対応します。加えて、ギガビットクラスのLTEに対応し、前の世代に比べて60%高速化。対応するLTEバンドも29から30に増えました。
ARマシンとしての位置付け
さて、iPad Proはかねてより、AR体験を行う上で重要なデバイスと位置づけられてきました。iPhoneよりも画面サイズが大きく、拡張現実空間への没入感が高いこと、また操作環境を提供しやすい余裕があることが理由です。一方で、Adobe Aeroなどが正式リリースされるなど、ARを作る環境としても、iPad Proの重要度が高まっています。これは体験するデバイスの上で動きを確認したり、位置を調整したりすることで、より完璧なコンテンツに仕上げられるため。
そうした用途を切り拓くべく、iPad Pro (2020) にはLiDARスキャナーが搭載されました。iPhone 11 Proのような正方形のカメラモジュールの1つに丸いセンサーが埋め込まれており、ここで光が何秒で跳ね返ってくるかを利用して、最長5mまでの距離で計測ができます。
これによって、今までARアプリを使う際に「平面」を認識するまで10秒もしくはそれ以上デバイスを向けてゆらゆらさせていましたが、iPad Proではその操作が不要になりました。また平面の認識、垂直面、斜めの面などの認識精度が高まり、平面認識をさせているだけで楽しくなってきます。
残念ながら、LiDARスキャナを試せるアプリはiPadOS標準の「計測」アプリしかありませんが、コンテンツ、制作環境に着実に新しい効果をもたらしてくれることになるでしょう。そしてこれは、既存のPCやMacにはできなかった、新しい能力と位置づけることができます。
iPad Pro (2020) は、iPadが未来のコンピュータであること、可能性を切り拓くクリエイティブマシンであることを、現状はそれらを控えめにアピールする存在です。とはいえ、アプリやコンテンツ、制作環境の更なる対応が必要であり、真価が発揮されるのはもう少し先になりそうです。
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