コロナ危機下の中国は「VR」をいかに活用したか(山谷剛史)

遠隔診療、AR対応チェック、バーチャル観光……

山谷剛史
山谷剛史, @YamayaT
2020年04月18日, 午前 10:30 in VR
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中国VR
世界中で猛威を振るっている新型コロナウィルス感染症(COVID-19)。中国では国全体の交通網を封鎖する強力な政策をとったこともあり、脅威がだいぶ抑えられ、街は平穏を取り戻しつつある。

この国家封鎖という異常な状態の中で、中国ではさまざまなテクノロジーを駆使して、情報の発信・受信や、商品の販売や購入、それに医療活動などを行った。

「VR」もそこでの活用が試みられた技術の1つだ。大々的に活用したわけではないが、その試みは参考になるだろう。VRによって感染症と戦った事例をまとめて紹介する。

●医療現場でのVR活用


新型コロナのVRの活用でまずイメージするのは医療現場での活用だろう。

まず報じられたのは、上海に隣接するアリババの城下町、浙江省の大学病院だ。浙江大学第二医院救急センターの新型肺炎感染病エリアで、5GネットワークとVRを活用したリモートシステムが登場した。

同病院は中国移動(チャイナモバイル)とVR企業の熾橙数字と組んで「5G+VRリモート診療観測システム」をローンチした。病室の患者をVR空間で遠隔診療することで、二次感染を防ぎつつ、病室内の多くの情報を得ることができるようになったという。患者との面会したい家族や親族は、VRゴーグルを通して病室内の様子を遠隔で見ることもできた。

中国VR
中国VR▲山東省の病院での5G+VR診察システム

ARを用いた診療も行われている。雲南省昆明市の昆明医療大学附第一医院(昆医大附一院)では、ARメーカーの亮風台のARグラス「HiAR G200」と5Gを活用し、AR診療を行った。これは事前に新型肺炎患者の肺をCTスキャンした画像を、ARグラスを通して表示するものだ。

中国VR▲肺炎患者向けAR診察システム

VRやARを活用した診療の報道は、実はこれだけしかない。新型コロナと関係ないところでは、3月に山東省青島にある、青島西海岸新区第二中医院でも、同病院と中国移動が提携し、同じく5G+VRによる無接触式リモート診察システムを導入しているが、導入事例はそれくらいだ。医療現場でのVR活用について研究開発していた企業は何社もあるが、新型コロナの現場での導入には至らなかった。

では、医療の現場でVRやARが活用されていないかというと、そうでもない。医療スタッフや、警察や、ガードマンなど、様々な人々が職務につき現場で尽力している。厳しい環境の下で、体力もそうだが、メンタルがまいってしまい、眠れなくなったり食事がとれなくなっている人が続々と出た。緊張が継続してストレスフルなだけでなく、いつ呼ばれるかわからない状況で、睡眠が不十分となり睡眠効率が悪くなるという問題が発生している。

そこでVRゴーグルの登場である。ヒーリングミュージックを聴きながら、VRで周囲360度に癒しの空間を表示し、メンタルを回復してもらおうとい試みだ。医療スタッフに対しては睡眠がしやすい画面を表示し、仮眠時間に短くてもしっかり睡眠してもらい、警察やガードマンにはVRコンテンツにより落ち着く方法を学び、現場でそれを活用するという。医療現場では、診察や手術よりも、こうした活用法のほうが多く事例が報じられている。

中国VR▲山東大学開発のVRリラックスシステム

具体的な事例報道としては、浙江凡聚科技が、新型コロナで心理的に大きな影響を受けた神経科の患者に対して、薬を服用せずVRで治療するという手法を開発した。また山東大学は、HTC Viveを活用した「VRリラックス訓練システム」を開発、現場でミッションをこなし、ストレスがたまる山東省の警察に提供した。ストレス発散のための腹式呼吸リラックス法、音楽リラックス法、瞑想リラックス法などを指導するコンテンツが入っているという。

中国VR▲VRゴーグルを着用し休憩する医療現場のスタッフ

脱線するが、医療そのものではなく、医療現場の人々を癒すテクノロジーもメディアで紹介された。日本ではおなじみの、使い捨ての紙コップを利用した、コーヒーや飲料の自動販売機が医療現場に導入されたと聞く。こうした現場の人々が少しでも気持ちよく働ける製品やテクノロジーは注目されてもいいと思う。

ARも実験的に各地で導入されている。マンション・団地に入る人が住民か否か、体温はどうかがARグラスですぐに判断できるシステムや、商業地でセンサーで感知した人の体温を表示するARグラスといった装備を警察が実験的に導入した。

中国VR
▲一部マンションに導入されたAR住民チェックシステム

●注目のコンテンツをVRで


最初に危機的状況になった武漢で、1月24日、25日より「火神山医院」と「雷神山医院」の対新型コロナウイルス専門病院が急ピッチで建設された。建設の様子は中国中央電視台(CCTV)が独占的にライブ中継を配信し、多くの中国市民が暇つぶしのために見ていたが、2月3日には病院建設のライブ動画がVR表示にも対応した。

VRコンテンツで見ることにより建設現場を見渡すようなことが可能になった。これを実現したのは、中央電視台と、5G通信インフラを担うファーウェイと、通信キャリアの中国電信(チャイナテレコム)、それに360度カメラのInsta360との提携だった。2月14日より運用を開始した、漢方医学に特化した新型コロナ感染患者向けの病院では、メディアの記者がVRで内部を見て、その映像を報じた。

中国VR中国VR▲病院建設の様子をVR映像でライブ中継
中国VR
▲VRで新型コロナ感染患者用の病院をバーチャル訪問

時間を持て余し、旅行に行きたい中国人を引き付けたのが、中国国内の観光地を映像コンテンツにした「雲旅遊(クラウド旅行)」だ。雲旅遊では、中国各地の500か所を超える著名観光地を画像や動画や解説音声ほか、VR向けにも収録。1か所の観光地につき、複数地点から撮影されたVR画像が用意されている。武漢が中心なだけに武漢を紹介するオリジナルVRコンテンツも登場した。

中国VR▲観光地のVRオンライン旅行コンテンツが続々登場
中国VR
▲感染症発生前の武漢を紹介するVRコンテンツ

新型コロナが猛威を奮う中で「停課不停学(クラスは止まれど学習は止まらない)」という掛け声の中、オンライン教育に注目が集まった。主に大人向けの職業学習コンテンツにおいて、VRやARが導入されたコンテンツが新型コロナの時期にオープンになっていると報じられた。なんでもVRやARではなく、例えば機械の修理や歯学での歯のチェックなど、VRであったほうが便利なものについて紹介されている。

政府関連のVR導入の報道では、広東省恵州市や浙江省嘉興市など中国各地の地方裁判所の不動産競売物件の下見ができなくなり販売が難しくなったことから、不動産物件の下見にVRを導入したという報道がある。

●VR体験館の生きる道は


都市部の中国人にとってVRは、日本人にとってのVRよりも身近な存在だ。中国では人気のショッピングモールのゲームセンターなどで、VRゲームやVRコンテンツが気軽に体験できるなど、つまりVRに親しみやすい環境となっている。HTC ViveやOculusシリーズも身近な存在だし、少ないながらも筆者の知っているなかではPSVRが遊べるスポットもある。また、一時期スマホに装着するVRゴーグルが、投げ売り価格で街中で売られていた。これは映像を大画面で見られる!という触れ込みだった。

中国VR
▲省都クラスの都市ではこうしたVR利用施設がよくある

ところが新型コロナ感染症の流行で、街中のVRスポットは逆境にされされることになる。なにしろ他人とVRゴーグルを共有するわけだ。目の周りをどうしても触れてしまうので、感染のリスクがある。またゲームセンター自体も、一時閉鎖の憂き目にあっている。

閉館の間苦肉の策でとったグレーな対策が情報発信だ。微信(WeChat)のアカウントで、会員向けに新型コロナ最新情報ほか、店舗利用者のVRを着用した際の面白い反応を動画で紹介し、ファンを増やしておくというもの。

稼働が再開した店舗は、消毒を実施し、これまた微信を通じてアピールした。中国全土の都市にショッピングモールを展開する万達広場では、毎日店内や設備について消毒し、店の前に「何月何日に消毒済み」という掲示を出すほか、利用前にVRゴーグルの消毒措置を行い、店員と客のマスク着用は必須として、安全をアピールしている。日本でも一部店舗でVRゴーグルが利用できるところがあるが、こうした取り組みは参考になるだろう。

 
 

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