アップルは2020年4月30日、第2四半期の決算を発表しました。その内容によりますと、今四半期の売上高は前年同期比1%増の583億ドル、1株当たりの利益は前年同期比4%増の2.55ドルと、新型コロナウイルスの感染拡大が深刻な状況下でもなんとか微増の決算となったようです。
ですが、それよりも注目されたのは各製品の売上高だったといえるでしょう。アップルの主力商品であるiPhoneの、四半期ベースでの売上高は289億6200万ドルと、前年同期比で約7%減少しています。同様にMac、iPadも売上は落ちているようです。
一方で伸びているのが、「Apple Watch」などのウェアラブルやホーム関連機器、そして「AppStore」「Apple Music」などのサービスです。
特にサービスに関しては、前年同期比で約17%増の133億48万ドルと大きく伸びているだけでなく、金額もiPhoneの約半分程度の規模となり、事業に大きな影響力を持つようになっていることが分かります。
それゆえアップルの今回の決算はある意味、新型コロナウイルスの影響によって落ち込んだiPhone売上を、逆に新型コロナウイルスの影響で自宅にいる人が増え、コンテンツ系サービスの利用が伸びたことでカバーし、微増にとどめたと見ることができそうです。
そしてこのことは、最近アップルが進めているサービス事業の強化が大きく影響しているといえます。アップルにとってコンテンツやサービスは、iPhoneなどハードウェアの魅力を高めるサブ的位置付けの事業となっていましたが、近年その方向性を大きく転換し、サービスの事業拡大を急速に推し進めているのです。
特にそのことを象徴していたのが、約1年前の2019年3月に実施した同社の発表会です。アップルの発表会は通常、ハードウェアの発表が中心なのですが、この時は発表会の直前にハードウェア新製品を次々と発表。発表会当日に発表されたのは、新しいサービスのみであったことが驚きをもたらしていました。
実際この時発表されたのは、映像配信の「Apple TV+」やゲームのサブスクリプションサービス「Apple Arcade」、他にも国内では提供されていませんが決済サービスの「Apple Card」や雑誌などの読み放題サービス「Apple News+」など。1年のうちに、サービスを一気に拡充させてきた様子を見て取ることができるでしょう。
しかもアップルは2020年4月21日、「App Store」など主要サービスを提供する国や地域を20か国追加することを発表しています。
中でもApple Musicは52の国・地域で新たに提供されるとのことで、伸びが著しいサービスをさらに伸ばすべく、積極的に規模を拡大しようとしている様子がうかがえます。
そしてサービス事業を強化するアップルのアップルの姿勢は、ハードウェアの戦略も変化を与えているように見えます。そのことを明確に示したのが、2020年4月に発売されて話題となった第2世代の新「iPhone SE」です。
iPhone SEは、iPhone 8がベースながら最新のチップセット「A13 Bionic」が搭載されており、とても性能が高いにもかかわらず、最も安いモデルで4万円台からと、iPhoneの中では非常に安価なことで大きな注目を集めています。
国内でも、新型コロナウイルスの影響で携帯3社からの発売は遅れてしまっていますが、Apple Storeや一部家電量販店で販売されているSIMフリー版は予定通り販売されていることから、既に手にしている人も多いかもしれません。
▲4年ぶりに新機種が投入され話題となった、第2世代の「iPhone SE」。Webサイトでも「手にしたくなるものを、手にしやすく。」とお得な価格が訴求されているのが従来のiPhoneとは大きく異なる
ですが最近まで、アップルは低価格のiPhoneの提供に決して積極的ではありませんでした。市場で"廉価版"というイメージが強かった2013年の「iPhone 5c」や2019年の「iPhone XR」に関しても、アップルは高い品質をうたいそうしたイメージの払拭に力を注いでいた記憶があります。
なぜならiPhoneは、少数の高額・高付加価値のモデルを多数販売するという効率的なビジネスにより、スマートフォン市場の中では驚異的な利益を上げることに成功してきたことから、利益の低い低価格モデルを投入する理由に乏しかったのです。
特に中国メーカーの台頭によってスマートフォンの価格競争が激化して以降、アップルはこの戦略を強化しており、2017年の「iPhone X」の頃からは販売台数シェアを追わず、高額・高付加価値モデルへのシフトを強め利益を追う姿勢を明確にしていました。
ですがこの路線には消費者のお財布がついてきませんでした。実際、軒並み10万円を超えた2018年の「iPhone XS」シリーズでは、下位モデルとなるiPhone XRの発売遅れもあり高額さがクローズアップされてしまい、結果として販売は振るわなかったようです。
その影響もあってか、アップルは徐々に高価格帯のモデルだけでなく、購入しやすい価格帯のモデルを復活させる動きを急速に進めてきました。
2018年には「MacBook Air」と「Mac mini」、2019年には「iPod touch」と「iPad Air」「iPad mini」と、これまで新機種が投入されてこなかったモデルの新機種が次々投入されファンを沸かせましたが、その極めつけとなったのが今回の新iPhone SEです。
先にも触れた通り、現在アップルの業績を支える柱となっているのはiPhoneであり、それだけにiPhoneの低価格化による利益低下はアップルにとって最も避けたかったことでもありました。
にもかかわらず、低価格となるiPhone SEの新機種を提供してきたのには、サービス事業の成長が大きく影響しているのではないかと考えられるのです。
つまりサービス事業がiPhoneに次ぐもう1つの柱として成長しており、サービスを利用しやすいアップル製デバイスの普及を拡大することが成長につながるという道筋が見えてきたからこそ、価格が安い新iPhone SEを投入できたといえるわけです。
もちろん、アップルは2020年5月4日には新しいMacBook Proを投入するなど、ハードウェアの高付加価値路線は今後も継続していくと考えられます。
ですがサービスという新しい軸が育ち、必ずしもハードで稼がなくてもいい体制が整ってくれば、新iPhone SEのようにより価格面で柔軟性の高いデバイスが今後増えていくことになるかもしれません。