マルチブランド戦略を採用するKDDIが、新会社を設立し、5つ目となるブランドを立ち上げることを発表しました。KDDI Digital Lifeが、その準備会社で、春までにはブランド名含めたサービスの詳細が発表される予定です。業態としてはKDDIから回線を借りるMVNOになるものと見られますが、DX(デジタルエクスペリエンス)に特化しているのが特徴。具体的には、eSIMをフル活用したサービスを展開していくことになります。

KDDI eSIM
▲DXに特化した新MVNOを設立することを発表したKDDI

10月1日にUQ mobileをUQコミュニケーションズから承継して以降、KDDIはマルチブランド戦略を強化、それぞれのブランドの位置づけを明確化しています。メインブランドのauは、5Gや容量無制限を中心に据えたブランド。それに対し、KDDI自身が運営することになったUQ mobileは、「シンプルでお手頃な価格」(KDDI 代表取締役社長 高橋誠氏)を売りにしています。UQ mobileは4Gまでしか利用できず、データ容量もauに比べると少ない半面、価格はリーズナブルで割引などの前提条件も少なく、シンプルにプランを選べるというわけです。

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▲新ブランド設立の狙いを語るKDDIの髙橋誠社長

また、KDDIは傘下にBIGLOBEやジュピターテレコムといった企業を抱えています。こうした会社の運営するMVNOも、マルチブランドの1つ。BIGLOBEのBIGLOBEモバイルは「ISP(インターネットサービスプロバイダー)の特色で訴求する」(同)ブランドなのに対し、ジュピターテレコムのJ:COM MOBILEは地域密着型で、ケーブルテレビを契約する「素晴らしいお客様がついている」(同)ブランド。母体の違いを生かし、販路や売りとするサービスを出し分けていると言えます。

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▲KDDIはマルチブランド戦略を強化、ユーザー層や販路に応じて、それぞれのブランドを使い分けている
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▲グループ外への流出抑止や、他社からのユーザー獲得を狙う

とはいえ、これですべての販路やユーザーをカバーできているわけではありません。「多種多様なお客様がいるので、その多様性に対応する」(同)には、まだまだブランドが必要になります。例えば、UQ mobileやBIGLOBEモバイル、J:COM MOBILEはもちろんのこと、メインブランドのauですら、eSIMはきちんと活用できていません。Apple Watchなどでの取り組みはある一方で、あくまで例外的なサービスに位置づけられています。

ただ、eSIMは物理的なSIMカードとは違い、来店が不要で、郵送を待つ必要もなく、スピーディーにサービスを利用できるようになります。切り替えも簡単で、必要なときに必要な回線を契約するにはうってつけの規格。このeSIMを全面的に採用することで、もう1つの特色のあるブランドが作れると踏んだのが、新会社設立の経緯と言えます。国内では、IIJmioや楽天モバイルが先行している分野のため、こうした事業者に対抗する狙いもありそうです。

ターゲットになるのが、eSIMおじさん(笑)……ではなく、デジタルネイティブの若者。KDDI Digital Lifeは、シンガポールに拠点を構えるCircles.Lifeと提携し、その知見を活用するといいます。「UX(ユーザーエクスペリエンス)改善の高速サイクルによって、高いNPS(ネットプロモータースコア=顧客満足度)を実現している」(同)会社と手を組み、ネット時代に合ったサービスを提供していくことを目標にしています。

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▲シンガポールのCircles.Lifeと提携。同社もシンガポールなどで、eSIMのサービスを行っている

KDDI Digital Lifeは、あくまで新MVNOの準備会社で、具体的なブランド名や料金体系は未定ですが、「お客様による料金カスタマイズやサービスカスタマイズができる」(同)ことを売りにしています。eSIMを活用することでネットだけでサービスを完結させつつ、アプリで簡単にデータ容量の増減ができたり、オプションのつけ外しができたりといったことが想定されているようです。

ターゲットやネットをフル活用したマーケティングという観点では、ソフトバンク系列のLINEモバイルに近い印象もありますが、同社はあくまで物理SIMオンリー。eSIMをフル活用することで、差別化は図れそうな印象があります。ただし、いわゆる“格安SIM”になるかどうかは未定。「シンガポールの事例を見ると、MVNOだから安いのではなく、MNOより高いケースもある」と言います。使うデータ容量によっては、MNO以上に稼げるキャリアになるのかもしれません。

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▲オンラインでの販路に向けたLINEモバイルだが、eSIMには未対応

一方で、eSIMをフル活用するとなると、まだまだ課題があるのも事実です。1つ目は音声通話に対応する場合の本人確認。eKYCを使ってオンラインで済ませることもできるようになりましたが、ここはクリアしておく必要があります。対応端末が限定されるのも、課題と言えるでしょう。現状では、iPhoneやPixelといったプラットフォーマー自身の端末はeSIMを搭載している一方で、メーカーブランドの端末だと、バリエーションは限定的になります。

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▲eSIM対応となると、端末のバリエーションが乏しくなる。写真のiPhone 12 ProはeSIM対応

これは、ユーザーがGalaxyやXperiaなどを使いたい、もしくは使っている場合、KDDI Digital LifeのMVNOを選択できなくなってしまうことを意味します。鶏が先か玉子が先かの問題になってしまいますが、eSIM対応端末がもっと増えなければ、eSIMを軸にしたMVNOは絵に描いた餅になってしまいかねません。auやUQ mobileが採用するスマートフォンのメーカーにも、eSIM対応を積極的に働きかけていく必要がありそうです。

もっとも、日本でもっともシェアの高いiPhoneは、2018年に発売されたiPhone XsからeSIMに対応済みで、最新モデルのiPhone 12シリーズでもeSIMを利用できます。しかも、SIMフリーモデルだけでなく、キャリアモデルでもSIMロックを解除すれば、他社回線のeSIMを設定できます。ドコモやソフトバンクが販売したiPhoneの“2スロット目”を狙ってデータ通信だけを奪いにいくMVNOとしては、有望な存在。現状では、ドコモ網を使うIIJmioや、自社網を使う楽天モバイルだけがこれをできますが、au網を使う3社目が参入すれば、競争も激化しそうです。