LGが2021年7月31日でスマートフォンビジネスから撤退することを発表しました。

近年では2画面型スマートフォンを次々と発売し、2021年には巻き取り式ディスプレイ搭載のローラブルスマートフォンを発売するのでは? との期待が高まっていました。しかし同社のスマートフォン事業はここ数年赤字が続いていたのです。

LGはこれまでに「世界初」の機能を搭載したスマートフォンを数々世に送り出していました。またスマートフォン以前、フィーチャーフォンの時代から特徴的な製品を数多く輩出してきたメーカーでもあります。今回はそんなLGのスマートフォン、そしてフィーチャーフォンの歴史を振り返ってみましょう。

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LGのフィーチャーフォンがグローバル市場に出てきたのは2000年代初頭です。韓国市場で流行した小型端末や折りたたみ端末をいち早く海外にも展開し、人気を集めます。2004年にはその折り畳みスタイルの3G(W-CDMA方式)対応端末「U-8000」シリーズを投入。それまで海外キャリアが展開していた3G端末は大型で電池が持たないものが多く、LGの3Gフィーチャーフォンは各キャリアの3G展開の救世主となりました。

▲LG U8110。世界各国の3Gキャリアで売れまくった

LGは韓国市場の成長に合わせて次々と新製品を開発していきます。フィーチャーフォンの小型化の次の進化としてデザイン強化にいち早く取り組みました。その中でも歴史に残る名機と呼べるのが「チョコレートフォン」です。ブラックのスライド式ボディーに赤いバックライトの組み合わせは上品かつ美しく、海外では2G版のみならず3G版や、派生カラーとしてホワイトやピンクモデルも登場しています。「LG=おしゃれなケータイメーカー」という印象を世界中に知らしめました。

▲今でも通用する美しいデザインのチョコレートフォン

金属ボディーを採用した「シャイン」、革調背面仕上げでレトロ感もある「シークレット」、カジュアルな学生向けの「クッキー」など、当時のLGのネーミングセンスはどのメーカーよりも抜きん出ていました。また、大型画面を搭載した「ビューティー」シリーズではカメラ機能も強化されていました。そしてプラダとコラボした「プラダフォン」を出すなど、2010年直前のLGは世界で最も「イケてる」メーカーだったのです。

▲金属ボディーの「シャイン」。光り輝く美しさが高級感を出していた

2009年には世界初の3G対応腕時計型携帯電話「GD910」を発表。しかしサムスンが対抗して2G対応腕時計型携帯電話「S9110」を発売し、「世界初の腕時計型携帯電話」の座を奪い取ります。このようにLGとサムスンは常に争い、世界一の座をめぐって戦うことがよくありました。

▲3G対応腕時計携帯電話としては初となるGD910

2007年にはiPhoneが登場し、2008年にAndroid OS搭載のスマートフォンが出てきたことでモバイル市場はスマートフォンシフトが進みます。LGのスマートフォン展開は他社より遅れており、Windows Mobile、Symbian、Androidの各OSスマートフォンをリリース。インテルとノキアによるMeeGo OSスマートフォンを出す計画もありました。

紆余曲折しながらも2010年1月にはスマートフォンブランド「Optimus」を立ち上げます。サムスンが2009年に「Galaxy」ブランドの製品をリリースしており、それへ対抗しようとしたのでしょう。

2010年秋にはマイクロソフトの新OS「Windows Phone 7」を採用した「Optimus 7」をリリース。HTC、サムスンと並んで第一世代のWindows Phone 7端末となります。派生モデルとしてQWERTYキーボードを搭載した「Optimus 7Q」もありましたが、このモデルはアメリカのキャリアAT&T向けのもの。アメリカ市場は長らくQWERTYキーボードが好まれており、LGはフィーチャーフォン時代から多数のキーボード端末をアメリカで出しています。

▲Windows Phone 7の第一世代モデル「Optimus 7」

2010年冬には世界初のデュアルコアCPU(Tegra 2)搭載の「Optimus 2X」を発表。また2011年には3Dディスプレイ搭載の「Optimus 3D」、明るいNOVAディスプレイ搭載の「Optimus EX」を投入するなどスマートフォンの技術開発をけん引する存在になります。9.2mm厚と当時世界最薄を謳う「Optimus Black」や、初のAndroidタブレット「Optimus Pad」もこの年出てきました。

▲世界最薄スマホだった「Optimus Black」

なおアメリカ市場はLGにとって重要なマーケットであり、各キャリア向けの専用モデルを数多く市場投入していました。スマートフォンもグローバルではOptimusブランドを使うものの、アメリカには別ブランド製品も多く出していたのです。その中でちょっと変わったモデルとして覚えておきたいのが「Genesis」。一見すると普通のスマートフォンですが、本体を開くと内側にキーボードとディスプレイが現れる「2画面スマホ」なのです。今から10年以上も前にLGは、スマートフォン構成部材の中でも高価な部類に入るディスプレイを2枚搭載したスマートフォンを作り上げ、スマートフォンの新しい使い方を提唱しようとしたのでした。

▲閉じても開いてもディスプレイが現れる「Genesis」

2011年冬にはLTEに対応した「Optimus LTE」を投入。プラダフォンのAndroid OS版「PRADA 3.0」もこのころの発売です。

▲Androidになって復活したPRADA 3

 

2012年にはいるとメインラインの最新モデルとしてNFCタグと連携できる「Optimus LTE Tag」を発表。さらに新たにスタイラスペンでの手書きに対応し、4:3のディスプレイを搭載する「Optimus Vu」をリリースします。これは前年秋にサムスンが発表した「Galaxy Note」へ対抗するモデル。サムスンはペン+大画面としましたが、LGはペン+4:3画面で、コンテンツビュワーとしての使いやすさもアピールしました。

▲スタイラスペンをフィーチャーした「Optimus Vu」。写真はドコモ向けのL-06D

2012年秋にはフラッグシップモデルとして「G」の名を関した「Optimus G」を発表、世界初のSnapdragon S4搭載モデルでした。またグーグルと提携し、Nexusブランドのスマートフォン「Nexus 4」を発売します。いま振り返ると、この2012年がLGのスマートフォンの絶頂期だったかもしれません。

▲Snapdragon S4を世界で最初に搭載した「Optimus G」

2013年には「Optimus」ブランドの廃止を発表。フラッグシップモデルはすっきりと「G」シリーズになります。この夏登場の「G2」は世界初のSnapdragon 800を搭載。さらには本体側面のボリュームボタンと電源ボタンを背面に配置するという大胆なデザイン設計が行われました。左右どちらの手の平でも使いやすく、本体側面の余計なでっぱりが見えなくなるという、デザイン上の利点もありました。しかし他社が追従しなかったことからもわかるように、この変更はLGのスマートフォンの消費者離れを引き起こしてしまったかもしれません。

▲側面ボタンを廃止した「G2」

同年秋には6インチの大型ディスプレイを搭載した「G Flex」を発表。ディスプレイが上下湾曲しており、通話時に自然に顔に当てられるといった特徴もありました。なおサムスンはこの時も「世界初の曲面ディスプレイスマホ」の名を勝ち取るため、G Flexの直前にディスプレが左右に湾曲した「Galaxy Round」を発表しています(韓国のみで発売)。

2013年の世界のスマートフォン出荷台数シェアは、1位サムスン、2位アップル、3位はこの年にファーウェイがLGを抜き去り、LGは数年守っていた3位の座から4位へ転落してしまいました。しかも翌2014年、LGはレノボにも抜かれ5位に後退します。LGのスマートフォン事業(モバイル事業)の赤字は2015年第2四半期から2020年第4四半期まで連続して続いており、今回の撤退につながったわけです。とはいえ、すでに2013年、2014年の時点でスマートフォンの競争力を大きく失っていたということなのでしょう。

▲6インチディスプレイを湾曲させた「G Flex」

 

2014年7月発表の「G3」はWQXGAディスプレイに金属ボディーとしてスペックと質感の高さを両立したモデルでした。しかし同年2月に発売された「Galaxy S5」の販売数が思わしくなかったことからもわかるように、スマートフォン各メーカーにとって進化の方向性に大きく悩んだ年でした。2015年に投入された「G4」も背面革張りボディーを用意するなど、スマートフォンの技術進化が一段落し、次はデザイン、と考えたモデルだったのです。

▲革張りボディーもあった「G4」

2015年は世界初のLTE内蔵ウォッチ「LG Watch Urbane LTE」が発表されます。4色のカラバリでそれぞれに異なるキャラクターを設定し、そのキャラのフィギュアをセットにしてARを使って楽しめる「AKA」など面白い製品を出していたことも記憶に残しておきたいところです。

LGhistory
▲キャラクターを使ってARで遊べた「AKA」

2016年の「G5」は失敗に終わってしまいました。本体下部を脱着式とし、カメラグリップモジュールとHi-Fi音楽モジュールを取り付けできるという合体式でした。しかしこの飛び道具では他社のフラッグシップモデルには勝てず、LGのGシリーズがスマートフォン市場で「フラッグシップモデルではない」という印象を与えてしまったのです。

▲合体式では勝てなかった「G5」

2017年の「G6」は、世界初の18:9のワイドディスプレイを搭載していました。しかし、すぐさまサムスンが「18.5:9」のGalaxy S8を投入。G6は売りとなる機能をアピールできませんでした。夏には「V30」をハイエンドフォンとして投入、新たなVシリーズは消費者に認識されにくかったことでしょう。2018年に出したフラッグシップモデル「G7 ThinQ」は発売が5月に遅れてしまった上に、「ThinQ」というネーミングが完全なミスだったと思えます。ThinQはLGのスマートAIソリューションの名前であり、ThinQの名を関したスマート家電も多数出しています。しかしスマートフォンにその名前を付ける行為はごり押しだったと言えるでしょう。

▲ネーミングで失敗した「G7 ThinQ」

それでも2019年は5G開始に向けて目玉製品が用意されました。「V50 ThinQ」はカバーを取り付けると2画面になり、5Gコンテンツも見やすい点が売りのモデル。しかし5Gは思ったほど普及せず、またカバーの供給が遅れたり、カバーをつけると本体サイズが大きくなってしまったり、そして通知が見られなかったりと、使い勝手は今一つでした。同時に投入した「G8 ThinQ」はフロントカメラの「Z Camera」機能で、手の動きでスマートフォンを操作できましたが、製品を買いたくなるほどのユーザー体験ではなかったのです。

LGhistory
▲2画面で5Gを楽しめる「V50 ThinQ」

その後も上位モデルの2画面化を進め、2020年には「VELVET」という新しい製品名でテコ入れを図ります。これまでのLGのイメージを打ち崩し、2画面カバーが使える機能は引き継ぎつつも、よりスタイリッシュなデザインに仕上げました。専用スタイラスペンに正式対応してGalaxy Note対抗も意識しました。しかし残念ながら消費者の興味はLG以外の製品に移っており、販売数は伸びなかったようです。

技術力のアピールとして、折り畳みスマートフォンへの対抗にしようと2020年秋に投入した「WING」。T字に変形する上に2つのディスプレイを使える利便性がアピールされたものの、その構造ゆえに価格が高くなってしまったのです。また新型コロナウィルスの影響でスマートフォンの販売が伸び悩む中、WINGのようにギミックを特徴とする製品は実際に触れてもらわなくては良さが伝わりません。販売店などでのキャンペーンも思うようにできなかったのは大きな痛手だったでしょう。

▲美しさをアピールした「VELVET」

WINGの発表会の最後には「ローラブル」の文字を一瞬表示させ、さらに2021年1月開催のCES 2021では、オンラインのプレスカンファレンスの最初と最後にローラブルスマートフォンを使った効果を入れて期待を持たせました。しかし、ローラブルという最新の技術はまだ消費者には遠い存在であり、LGのスマートフォンに興味をひかせることはできなかったのです。

▲LGからローラブルスマホが登場することはなくなった

数々の名機を残してきたLGのモバイル事業。十分な技術はあったものの、製品投入タイミングやマーケティングの失敗が今回の撤退を引き起こしてしまったのかもしれません。いつの日か再びLGブランドのスマートフォンが復活することを願いたいものです。