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すごいね! という感想がある一方で、そこまでやる意味があるの? という率直な意見も耳にする富士通クライアントコンピューティング(FCCL)のノート型パソコン「LIFEBOOK UH-X」。しかし、FCCL社長の斎藤氏は「この製品はFCCLの魂」だと断言する。

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LIFEBOOK UH-Xシリーズは世界最軽量を常に狙い続けるノートPCだが、実はライバルは多くない。なぜなら第8世代Intel Coreプロセッサを採用した先代モデルでも十分に軽量だったからだ。しかし、第11世代Intel Coreプロセッサを搭載し、CPU、GPU共に長足の進歩を遂げた現行機でも軽量化への開発は止まらず、とうとう「武蔵(634g)」という目標に届いてしまった。しかも搭載するインターフェイスは省略しないままにだ。

一方、今期は新たなトライアルも行われている。それが「LIFEBOOK CH」シリーズ。この製品はLIFEBOOK UH-Xとは真逆のコンセプトと言っていいだろう。搭載するインターフェイスポートを吟味し、本当に必要な汎用性の高いポートのみに絞り込み、シンプルな外観を与えることで洗練された印象をもたらしている。

上位モデルではディスプレイにOLEDを採用。2.5Dガラスで全面をカバーしたフラッシュサーフェイス仕上げも美しい。「エレガントさよりも質実剛健、なおかつ軽量化や小型化にこだわる」そんな従来の富士通パソコンとは一線を画すCHシリーズ、世界最軽量を目指すUH、LIFEBOOK UH-Xとは正反対のコンセプトでありつつ、しかしながら技術的な面では近い部分もあるという。

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富士通本体からカーブアウトされ、レノボ傘下で独立したパソコンブランドとして歩み始めて1000日を迎えたFCCLにこの両モデルの話を伺うべく、神奈川県川崎市の武蔵中原にある開発拠点へと足を運んでみた。

同じ13インチクラスのディスプレイを搭載したモバイルPCという点で共通する両製品。その生まれてくる過程を振り返ることで、それぞれの製品について深掘りしてみることにしたい。

”軽量化の徹底”は全ての製品の基礎となり得る

UHシリーズは、さらに重量を絞り込んだLIFEBOOK UH-Xとともに”世界最軽量”が義務付けられたシリーズ、プラットフォームだ。

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第8世代Intel Coreを採用した先代モデルに引き続き、開発プロジェクトをリードしたプロダクトマネジメント本部第一開発センター第一技術部マネジャーの河野晃伸氏に話を聞いた。

第8世代から世代をふたつスキップしたことになるが、その間にはプロセスルールが進んだIceLake、すなわち第10世代Intel Coreも存在していた。これについて河野氏は「実は法人向けにはU9シリーズという製品があり、そちらは第10世代Intel Coreモデルを開発していたんですよ」と話す。

このモデルは第8世代Intel Coreモデルのプラットフォームを継承しつつプロセッサをアップグレードしたもので、UHシリーズとは基本的な設計要素を共有しつつ、法人向けに”どうしても外せない”インターフェイスを追加したモデルとのこと。

しかし、第11世代Intel Coreではさまざまな常識が変わる。特に熱設計の自由度の高さと、その結果生まれる製品ごとの性能差だ。言い換えれば、技術力や商品企画で多様なパソコンを作ることができるようになる。

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▲上が新モデルの基板。基本コンセプトは踏襲しているが、電気設計の最適化で部品点数なども見直し、実装する部品一つ一つのサイズも見直されている。

河野氏は「コンシューマ向けのUHシリーズのモデルチェンジは、大きく設計を変更できるこのタイミングを狙っていました」と言う。

第11世代Intel CoreではTDP(熱設計電力)が15Wから28Wへと大幅に上昇する。より正確にいうならば、最大28Wまでの設計で性能が100%引き出せるようになっている一方、制御によってパフォーマンスと消費電力のバランスを調整できるようになっている。

「設計初期段階から最大28Wという数字がわかっていたため、ならば薄型軽量という特徴をそのままに、従来(15W)の2倍近い28ワットの領域までしっかり性能を出せるようにしなければなりません」と河野氏。

28Wでも最軽量を更新。これは冒頭でも書いたように、斉藤社長の至上命題としてあった。ただし、トップダウンで無理に消費電力が大きなプロセッサを詰め込んだというわけではない。

「機能や性能を削った上での最軽量には意味がありません。しかし全ての機能性を維持したまま、求められる性能も引き出した上での最軽量には利点が多くあります。それに徹底した軽量化技術、冷却技術は、他の全ての製品を魅力的なものに引き上げる基礎となります」(河野氏)

やり切った先の、さらにやり切った軽量化

実は先代モデルの698gという数字は、そのさらに前のモデルに比べ50gの軽量化だった。そこでFCCL内部の目標として掲げられていたのが、さらに−50gの648gだったのだ。

LIFEBOOK UH-X/E3の634gは、さらにそこから14gを削ぎ落としていることになるが、実は開発担当者の間では語呂合わせで「どうせなら”ムサシ(634)”を狙おう」と、密かにさらなる目標値を先に置いて設計し始めていたのだと言う。ただし、その数字が達成できたのはプレス発表を過ぎてからのことだった。

筆者も最初に説明された際にはもう少し多めのg数を想像していた。それ故に最終的な数字に驚いたのだが、それと同時にそこまでやるモチベーションが何なのかに興味が湧いた。

以前にコラムで言及したパナソニックのLet’s NOTEシリーズのように、1kg以下を目標に開発しつつ、そこから先は更なる軽量化よりもニーズを満たすための機能、スペックなどのバランシングに向かうメーカーが多い。

ところがFCCLはひたすらに世界最軽量を追い求める。初代のUHシリーズと比べると、2世代に渡ってスマートフォン1台分の軽量化を果たしているのだ。そもそも贅肉を取り切った後にもかかわらず、そこから100g以上を削ぎ取る作業は、まるでボディビルダーが鍛えられた肉体から脂肪を剥ぎ取っていくプロセスのようだ。やり切った後の、更なる軽量化をストイックに求めている。

最軽量を求めたその先にあるのは?

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▲旧モデル(下)に対して大幅にコンパクト化したUH-X(上)。軽量化は果たしたがコネクタ類の配置と種類は変化していない。

しかも、先代モデルに比べ、減らされた端子はACアダプタの入力部のみだ。これはUSB Type-C端子からの入力になったからというのが理由であり、実質的なポート数は変化していない。

有線LAN端子を折りたたみ式で搭載してみたり、超軽量ながらヒンジ下のエラストマフットに滑り止めの溝切りをし、滑りにくい形状とすることで液晶パネルを開けやすくしてみたりと、使いやすさには変化がない。

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▲キーボードのピッチ、ストロークも従来通り。一方でタッチはリファインされ、従来よりも抜けの良い感覚に

1.5mmストロークのキーボードも入力タッチが改善されており、初期のフィールは同じながら、ストロークの途中から荷重が抜け、スコッと気持ちよく押し下げられる。エンターやスペースなどの打鍵音も静かになるなど地味に改良されている。

当然、性能を引き出すための冷却部や高音質化したスピーカーなど重くなっている部分もあり、全てを軽量化に捧げているわけではない。

例えば機能性を維持する一方で、底面積を8%削ったことも軽量化と持ち歩きやすさの向上に寄与している。何も失わずに小型・軽量をひたすらに追求したのがこのモデルということだ。634gまで軽量化を追い込んでも、先代モデルに比べたデメリットが見当たらないのが新しいUHシリーズの凄みだろう。

こうしたストイックな設計のその先にあるのが、実はCHシリーズだ。CHシリーズはスペックではなく、デザインや佇まい、使用感などのフィーリングに根ざした製品と言える。画面サイズはUHシリーズと同じだが、コンセプトは全く違う。

価格帯が大きく異なるかといえば、そういうわけでもない。CHシリーズはUHシリーズで磨き込んだ技術やノウハウをもとに、異なるコンセプトで構築された製品だからだ。

同じ画面サイズで別軸の価値創造を目指したCHシリーズ

UHシリーズでの徹底した軽量化ノウハウを活かし、別のコンセプトで開発するとどんな製品が生まれるのか。同じ13.3インチディスプレイを採用するCHシリーズは、まさにそうした製品だ。

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チーフデザインプロデューサーの肩書きを持つ藤田博之氏は、これまでも富士通のあらゆる製品をデザインしてきた。その中にはスーパーコンピューターもあり、FCCLのオフィスもまた、藤田氏のデザインだ。

そんな藤田氏は「富士通のパソコンは事務機ライクで無機質。本当にデザイナーはいるのか?」という声に対し、自分自身が使いたいパソコンをデザインしたいと考えている。

「富士通のパソコンが事務機ライクになる大きな理由のひとつに、過去のあらゆる周辺デバイスとの接続性を確保するというポリシーがあります。端子数と種類が増えればデザイン自由度も下がり、事務毅然とした佇まいになります」(藤田氏)

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▲デザイナーが作りたかった異なるコンセプトの13インチモバイルCHシリーズ。液晶モデルとOLEDモデルで異なるカラー展開。インフィニットロゴも小さく、目立たない形であしらわれている。

いったん過去とは決別し、どんな端子が必要なのかを検討し直してデザインしたのがCHシリーズ。UHシリーズで得られた軽量化のノウハウが投入されており、下位モデルに採用している液晶パネルは先代UHシリーズで採用していた軽量パネルだと言う(上位モデルはOLED採用)。

外部インターフェイス端子を絞り込み、冷却エアを取り込む開口部をスッキリしたデザインにした上で、製品全体のフォルムを塊感のある複雑な曲面で構成されたものに仕上げた。さらにOLEDモデルでは全面にエッジ部に丸みを出した2.5Dガラスを用いて全面をカバーしている。

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▲CHシリーズのOLEDモデルはベゼルレスの2.5Dガラスカバーで設計。重量を極限まで軽くするよりも、スマホライクな質感や見え味を目指した。

結果として重量は液晶モデルで988g、OLEDモデルは1110gと、UHシリーズなどに比べれば重くはなっている。しかし、これを”重い”というのは誤りだろう。CHシリーズが目指しているのは、”佇まい”だけではなく機能や体験面にもあるからだ。

”パーソナルな道具”としてデザインされたCH

なるほどと頷かされたのは、CHシリーズに「HDMI入力」があることだ。HDMI端子が入出力両方対応の設計になっており、内蔵ディスプレイに外部機器の映像を映し出すこともできるのだ。

この機能はデスクトップのディスプレイ一体型パソコン向けに開発されたものだったが、ノートPCであってもスマートフォンやゲーム機の画面を表示させられれば便利なことは間違いないだろう。OLEDも液晶パネルも表示品質はよく吟味されており、外部機器のディスプレイとして使う場合でも不満はない。

加えてCHシリーズにはQRコードを表示させてスマートフォンと簡単に連携させられる機能もある。スマートフォンとCHシリーズとをペアリングしてこの機能を使えば、WiFiと組み合わせたファイル転送などが簡単に行えるようになるほか、BluetoothスピーカーとしてCHシリーズを活用することもできる。

CHシリーズがまるでスマートフォンやゲーム機の周辺デバイスのように振る舞うわけで、従来の枠組みでのパソコンとは少しばかりテイストが異なる。そうしたことを把握した上でこの製品のデザインを見直すと、また違った意図が見えてくる。

「OLEDにガラスカバーを貼り付けベゼルを感じさせないデザインは、スマートフォンと同様のスッキリした外観を狙いました。スマートフォンを見慣れた目からすると、画面の周りに枠が貼り付けられていること自体が不自然です。もちろんガラスの分、重くはなるのですが、それでも洗練された佇まいを求めるならガラスで覆ったほうがいい。その辺りの判断の違いが、CHとUHなんですよ」と藤田氏は言う。

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▲キーボードに「かな」刻印がないのはデザイナーのこだわり。

仕事の道具として、究極の軽さを目指したUHシリーズと同じサイズながらCHシリーズが独立した製品として成立しているのは、あくまでも個人が使う道具としてデザイン、設計、機能の取捨選択が行われているからだ。

基礎体力の強化が多様な製品が生まれる素地に

藤田氏はデザイン主導で開発されたCHシリーズを担当しているが、実はUHシリーズのデザイン担当でもある。UHシリーズが硯(すずり)のような黒であるのに対し、CHシリーズはメタリックなシルバー感のある深いグレーといった色合いだが、同じ黒系でも異なる風合いにしているのは、やはりユーザー層の違いを意識したものだそうだ。

また、UHシリーズで培った軽量化のノウハウは、たとえば17インチパネル採用の別シリーズなどでも活用され、15インチクラスの筐体に17インチを詰め込むと言った面で活きていると藤田氏は語る。

そんな中で、持ち歩く道具としての佇まいにフォーカスしたのがCHシリーズとなるが、そんなコンセプトはスマホ世代に響いたようだ。UHシリーズからやや遅れ、昨年12月に販売が開始されたCHシリーズ。10代、20代のユーザー比率が高いのことも特徴とのことだ。

取材内容をそのまま伝える形のため少々長くなってしまうが、UHシリーズ、CHシリーズそれぞれの取材の様子を動画として収めたので、以下に掲載しておこう。筆者の取材というフィルターを通さない開発者、デザイナーの言葉も聞いてみていただきたい。

今回の取材を通じて感じたのは、やはり”世界最軽量を突き詰める”ことで、それ以外の製品をより魅力的なものにしようという考え方だ。

繰り返し「そこまでして軽量にすることに意味があるのか」と質問したが、その意図は”スペックとしての数字を追求する以外に何を目的としているのか”という考えを引き出すことだった。

わずかに数10gを軽量化したところで、大きく使い勝手が変化するわけではない。

しかしながら、基礎体力を強化すれば、それを基礎に多様な製品が生まれる基礎となりうる。CHの存在はまさに、そうした可能性を示唆していると言えそうだ。

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