LINE Pay Masahiro Sano

2020年に入っても大きな動きが相次いでいた、QRコード決済を主体としたスマートフォン決済に関する動向ですが、新型コロナウイルスの感染拡大で政府が緊急事態宣言を発令し、外出自粛要請がなされ店舗での決済が減少していることもあり、最近は盛り上がりに欠ける状況が続いているようです。

そうした中で大きな動きを見せているのがLINEです。LINEは2020年4月23日より「Visa LINE Payクレジットカード」の一般申し込みを開始。2020年5月1日からはこのクレジットカードを用いて「LINE Pay」での決済ができる、後払い方式の「チャージ&ペイ」が利用できるようになりました。

LINE Pay Masahiro Sano

▲紆余曲折の末、2020年4月より申し込みを開始した「Visa LINE Payクレジットカード」。初年度は決済利用額の3%がLINEポイントで還元されるという、高還元率のクレジットカードとして注目されている

ですが、このチャージ&ペイと同時に打ち出された施策が波紋を呼びました。それは同じく2020年5月1日にスタートした、LINEのポイントプログラム「LINEポイント」に関する新しいメンバーシッププログラム「LINEポイントクラブ」の内容に関してです。

LINEポイントプログラムは、過去6か月間に取得したLINEポイントに応じてステージが変化し、そのステージに応じた特典が得られる仕組みですが、その内容を見ますとLINE Payでの決済時にLINEポイントが付与されるのは、チャージ&ペイを利用した時のみに限定されてしまっているのです。

つまり、従来通りLINE Payにチャージした残高で決済をしても、LINEポイントが一切付与されなくなってしまったのです。

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▲「LINEポイントクラブ」は6か月間に獲得したLINEポイントに応じて会員ランクが4段階に変化する仕組み。最も高い「プラチナ」ではLINE Payのチャージ&ペイ利用時の還元率が3%となるが、LINE Payの残高で支払った場合は一切ポイントが付与されない

それゆえ今後、LINE Payの決済でポイントを獲得するにはVisa LINE Payクレジットカードが必須となるため、特に未成年などはポイント獲得のハードルが大幅に上がってしまったといえるでしょう。

なぜこのような変更がなされたのかといえば、やはりLINEがLINE Payの利用拡大に向けた先行投資がかさみ、赤字に苦しんでいることが大きいと考えられます。

LINEポイントプログラム開始以降、LINEポイントが付与される機会は基本的に、チャージ&ペイやVisa LINE Payクレジットカードを利用した決済のほか、「LINEマンガ」や「LINEデリマ」などのサービスでお金を払った時、そしてLINE上で広告を見たり、アンケートに答えたりした時に限られるようになりました。

これらはいずれもLINEや関連企業に明確な収益をもたらすものであることから、今回のプログラム変更によってLINEは赤字覚悟でのポイント付与はせず、収益性を重視するようになったと見ることができます。

しかしながら、ポイントプログラムに関する内容に大きな変更を加えているのはLINEだけではありません。

KDDIも2020年3月3日よりポイントプログラムを改訂してステージ制を導入しているのですが、その内容を見ますとLINEポイントクラブ同様、いかにKDDIやその傘下企業のサービスを利用し、実際にお金を払ってもらうかを重視していることが分かります。

具体的には、auの携帯電話回線や「auでんき」「auスマートパス」などの契約状況、そして「au PAY」や「au PAYカード」での決済、「au PAYマーケット」(au Wowma!)での購入回数や金額などに応じてスコアが加算され、そのスコアに応じて4段階のランク付けがなされる仕組み。ちなみにランクが上がるとau PAYマーケットでのポイント還元率が増えるほか、au回線契約者であれば長期優待ポイントの付与数もアップするようです。

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▲KDDIは2020年3月にauのポイントプログラムを改訂。KDDIのサービス利用状況に応じたスコアによってステージが変化し、「au PAYマーケット」でのポイント還元率が増えるなどの特典が得られる

またNTTドコモも、「d払い」での支払い時に付与される「dポイント」の割合が変化する「dポイント スーパー還元プログラム」を2019年4月より提供しています。

その内容を見ると、dポイントの獲得数や回線契約期間によって変化する「dポイントクラブ」のステージや、dポイントを貯めた回数、「dカード」の請求額などに応じてランク付けがなされる仕組みのようで、より上のランクを獲得して高いポイント付与率を得るには同社のサービスを多く利用することが求められています。

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▲NTTドコモの「dポイント スーパー還元プログラム」は、dポイントクラブのステージや、dカードの支払い状況などに応じてdポイントの還元率が変わる仕組みだ

そうした傾向からは、キャッシュレス決済を手掛ける各社のポイント戦略が、加入者拡大を目的としたポイントのバラマキから、自社の売上増に貢献するサービスを利用してもらわないとポイントが増えないステージ制の導入などへと、大きくシフトしている様子がうかがえる訳です。

そこに大きく影響しているのはバラマキ合戦での疲弊ですが、もう1つ挙げられるのが楽天の存在です。

楽天は「楽天市場」だけでなく、「楽天カード」「楽天トラベル」「楽天ブックス」など多種多様なサービスを提供しており、それらの利用状況に応じて楽天市場で買い物をした時の「楽天スーパーポイント」の付与率が変化する「スーパーポイントアッププログラム」(SPU)を導入しています。

この仕組みによって、楽天市場でより高いポイントを獲得したいユーザーが、他に同様のサービスがあっても楽天サービスをあえて選ぶようになり、ポイントを軸に楽天のサービスの中で顧客が循環するという規模の大きな囲い込みを実現。これが「楽天経済圏」という同社の成長戦略を支える根幹となってきたのです。

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▲楽天は、自社サービスを多く利用するポイント還元率が高まる「スーパーポイントアッププログラム」を展開し、顧客により多くのサービスを利用してもらうことで収益を高める戦略で成長してきた

この楽天経済圏はキャッシュレス決済でも大きな強みを発揮していました。なぜなら他社が大規模なポイント還元キャンペーンを展開している中にあって、スマートフォン決済の「楽天ペイ」を有する楽天だけはそうしたキャンペーンをあまり実施していなかったのです。

それは楽天のポイントが貯まるサービスを積極的に利用するという、楽天経済圏に囲い込まれたユーザーの高い忠誠心があったからこそ。体力勝負の大規模キャンペーンに苦しむ必要なく楽天ペイの利用を拡大していることは、他社にとって非常にうらやましいことだったといえるのではないでしょうか。

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▲楽天は「楽天ペイ」に関する大規模なキャンペーンを実施してこなかったが、それでも利用者数は確実に伸びている

それだけにポイントのバラマキで消耗した各社は、ポイントを有効活用して楽天経済圏のようなエコシステムを構築して顧客獲得と収益を両立したいと考え、現在のような仕組みに力を注ぐようになったといえそうです。

そしてこのことは、もう赤字覚悟でスマートフォン決済の大規模キャンペーンをする可能性が限りなく低くなったことを示しており、今後、消費者が多くのポイントを獲得するには、どの企業の経済圏に囲い込まれるかを考えていく必要があるといえそうです。