引き続き注目が集まっている携帯料金引き下げに関する動向。大雑把に振り返りますと、菅政権による料金引き下げ圧力により、携帯大手が相次いで低価格の新料金プランを打ち出した結果、立場の弱いMVNOが窮地に追い込まれ、MVNOの業界団体が総務省に接続料の大幅引き下げなど緊急措置を求める要望書を提出した……という状況なのですが、その接続料などを巡って今週、いくつかの動きがありました。

1つは、前回の会合でMVNO側が窮地を訴えた総務省の有識者会議「接続料の算定等に関する研究会」の第41回会合が、2021年2月8日に開催されたこと。今回は携帯大手側が、NTTドコモの「ahamo」に代表される新料金プランが、MVNOが追いつけない水準なのかどうか?という点を携帯大手3社やMVNOなどからヒアリングしていました。

残念ながらその内容の一部は非公開だったのですが、公開部分の内容を聞く限り、携帯大手がahamoなどの新料金プランが、MVNOに提供するデータ接続料や音声卸料金の水準を大きく下回っている訳ではないと反論していたようです。各社は音声卸料金やデータ接続料の低減には取り組むとしながらも、総務省が掲げる「モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクション・プラン」の通り、データ接続料の低減は3年間で5割減というペースで問題ないのではないか、としていた印象です。

MVNO Masahiro Sano
▲総務省「接続料の算定等に関する研究会」第41回会合のNTTドコモ提出資料より。同社の試算では、2021年度のデータ接続料水準であればMVNOが「ahamo」などと同水準の料金プランを実現することは可能だとしている

ですがその翌日となる2021年2月9日に実施された武田良太総務大臣の記者会見では、有識者会議による検証の結果、「MNOとMVNOの公正な競争環境を確保するためには、データ接続料の更なる低廉化が必要とのご意見を頂戴した」とのこと。「来年度以降に適用されるデータ接続料を速やかに算定し、低廉化を可能とするよう、MNO3社に要請する」としており、大手3社に一層のデータ接続料引き下げが求められることは確実でしょう。

これにより携帯3社は、政府から収入の肝となる料金の大幅引き下げに加え、MVNOにネットワークを貸し出す料金も大幅な引き下げを要求され、今後大幅に業績が悪化することが懸念される所です。企業体力があるのでそれがすぐ経営危機に直結する訳ではないでしょうが、とりわけ料金引き下げの影響が強く出る2021年度は、各社の経営がどうなるのか?という点は非常に気になるところです。

ですが2021年1月末から2月の頭にかけて実施された3社の決算説明会では、「早期に減収の影響をなくしてプラスに転じていきたい」(NTTドコモ代表取締役社長の井伊基之氏)「少なくとも減益にならないよう努力しないといけない」(ソフトバンク代表取締役社長執行役員兼CEOの宮内謙氏)など、一定の影響が出る様子が見られましたが、一方で「来期も増益を狙ってプランを作っていく」(KDDI代表取締役社長の高橋誠氏)という声もあり、とても大きな影響が出る訳ではない様子です。

その理由の1つは、やはり携帯各社が通信以外の事業に力を入れ、拡大を図ってきたが故でしょう。実は菅政権による値下げ要求以前から、少子高齢化の影響で通信事業を拡大するのに限界が見えていたことから、携帯各社はこれまで、通信以外の事業拡大を推し進めてきたのです。

中でもそのことを象徴しているのが、ソフトバンクが2019年に現在のZホールディングスに当たるヤフーを連結子会社化したこと。そのZホールディングスは2021年3月にLINEと経営統合予定で、コンシューマー向けのオンラインサービスを強化することで通信の売上減少をカバーし、更にスマートフォン決済の「PayPay」など新規事業を増やすことで、業績拡大を推し進めてきた訳です。

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▲ソフトバンクは非通信分野の事業拡大に向け、2019年5月にヤフー(後のZホールディングス)を子会社化。LINEと経営統合後のZホールディングスも実質的にソフトバンク傘下となる予定だ

同様にKDDIも、同社が強みを持つ金融事業を拡大するため、2019年2月に「auフィナンシャルホールディングス」を設立。「auじぶん銀行」「auカブコム証券」などの傘下金融関連企業を取りまとめ、auのIDを軸とした金融・決済サービスの強化を図ることで非通信の事業を伸ばしています。

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▲KDDIは金融事業の拡大に向け、傘下の金融・決済関連事業者をまとめる中間持ち株会社の「auフィナンシャルホールディングス」を2019年に設立している

そしてもう1つ、各社が力を入れているのが法人事業です。以前であれば少子高齢化による人手不足、最近ではコロナ禍による企業のデジタル化のニーズを獲得するべく、5GやIoTなどを活用した企業向けソリューションに力を入れていることも、通信の収入減をカバーするのに大きく貢献しているようです。

実際日本電信電話(NTT)は、NTTドコモ完全子会社化した後、同じ完全子会社のNTTコミュニケーションズをNTTドコモの子会社化とし、法人に強みを持つNTTコミュニケーションズに法人事業を集中させることで拡大を図ろうとしています。

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▲総務省「公正競争確保の在り方に関する検討会議」第2回会合のNTT提出資料より。NTTはNTTコミュニケーションズをNTTドコモの子会社化し、そちらに法人事業を集中させることで拡大を図る考えのようだ

そうした取り組みによって各社は、売上全体に占める年々モバイル通信の割合を減らしてきたのです。その比率は企業によって違いがありますが、ソフトバンクはモバイル通信量収入の売上が既に3割を切っているとのことで、それだけ料金引き下げが業績に与える影響を抑えられる体制が整っていることが分かります。

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▲ソフトバンクは2020年度の計画で、既にモバイル通信料収入を売上の3割以下にまで引き下げており、それだけ料金引き下げが業績に与える影響を弱めていることが分かる

なのであれば、どんどん携帯料金を引き下げても他の事業でカバーできるから問題ないのか?というと、決してそうではありません。というのもここ数年来、各社の決算発表を見ていると、非通信事業を伸ばすことだけでなく“コスト効率化”、つまり積極的なコスト削減で利益を増やしていることをアピールする機会が増えているからです。

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▲NTTドコモの2020年第2四半期決算説明会資料より。2014年に業績を大幅に悪化させて以降、同社は積極的なコスト削減を推し進めるようになった

実際今回の決算説明会においても、3社の社長は2021年度の業績について、非通信分野を伸ばすだけでなく、積極的なコスト削減を進めることを訴えていました。もちろん、デジタル化の推進などで無駄なコストを削減することは経営効率を高める上でも重要ではあるのですが、懸念されるのはやはり、コスト削減が企業の余裕を奪うことでしょう。

ギリギリのコストで運営すれば利益は確かに増えますが、余裕も失われるので将来に向けた投資も減らさざるを得なくなってしまいます。従来、携帯電話会社は潤沢な利益を研究開発や企業買収などに費やして拡大を続けてきましたが、それができなくなれば今は良くても、将来的に企業をどうやって伸ばすのかが見通せなくなってしまうのです。

とりわけ今後を見据えれば、6Gで日本の国際競争力を高めるための研究開発が重要になってくるでしょう。ですがコスト削減で企業としての余裕が失われてしまえば、そうした将来に向けた投資ができず、日本の携帯電話産業の地盤沈下が一層深刻なものになってしまう可能性があるのです。

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▲総務省が「Beyond 5G推進コンソーシアム」を設立するなど、6Gに向けた通信産業の国際競争が求められる状況だが、各社の積極的なコスト削減はそうした将来への投資を減らし、競争力を低下させることにつながってくる可能性がある

もちろん直近の5Gに関しては、各社ともエリア整備のため積極的な投資を続けるとしていますし、複数の企業が同じ設備を使用する、インフラシェアリングのように投資コストを減らしながら広いエリアをカバーする取り組みも出てきていることから、各社のコスト削減がインフラの脆弱さに直結する訳ではないでしょう。

ですがその先を見据えた取り組みを考えると、やはり各社が料金引き下げ要請の影響を受け、コスト削減に積極的に取り組む姿勢に不安を覚えてしまうというのが正直なところです。そのツケはいずれ消費者にも回ってくる訳ですから、携帯料金が安くなったことのメリットだけでなく、デメリットもしっかり見据えておくべきではないかと筆者は考えます。