東北新社の職員らが公務員である総務省の幹部を幾度にわたって接待していたことが2021年2月に報じられて大きな問題となっていますが、2021年3月に入るとそれが通信業界にも飛び火して一層大きな騒ぎとなっています。

事の経緯はすでに連日多くのメディアで取り上げられているのでご存知の方も多いかと思いますが、簡単に振り返りますと、日本電信電話(NTT)の代表取締役社長である澤田純氏らが、複数回にわたって総務省幹部に対し高額な接待を複数回繰り返していたことが、2021年3月3日に報じられたのが事の始まりです。

総務省の職員は国家公務員ですから、総務省と利害関係のある民間企業などから接待を受けることは国家公務員倫理法で禁止されています。東北新社は衛星放送のチャンネル、NTTはいわゆる「NTT法」や、完全子会社となったNTTドコモの電波免許などで総務省からの許認可を得て事業をしており、総務省とは明らかに利害関係がある企業であることから、それら企業から何度も高額の接待を受けたことが、法に触れるとして大問題となったわけです。

すでに東北新社の接待問題問題を受ける形で、総務省の総合通信基盤局長である谷脇康彦氏ら接待を受けていた総務省の主要幹部が、幹部が相次いで更迭や減給などの処分を受けています。それに加えてNTTによる接待問題も発覚したことから、谷脇氏はさらに2021年3月16日に3か月の停職処分を受けたようで、同日には辞職するに至っています。

NTT Masahiro Sano
▲NTTや東北新社による一連の接待問題を受け、総務省の谷脇康彦氏は処分の上、辞職に至っている。写真は2020年1月27日の「Beyond 5G推進戦略懇談会」第1回会合より

さらに2021年3月18日には、武田良太総務大臣も報道を受ける形で、澤田氏と会食したことを国会で認めています。武田大臣の説明によると、出席したのは1時間程度と短く、出席者から許認可の要望などは受けていないことから国務大臣の規範には抵触しないとしていますが、武田大臣は報道前まで会食の事実を明確にしてこなかっただけに、答弁を疑問視する声が少なからず起きているようです。

▲武田大臣は自らも澤田氏と会食があったことを認め、大きな批判を集めている。写真は武田大臣就任直後の2020年10月8日に実施された、携帯電話利用者との意見交換会より

一方、NTTの側も総務省幹部との接待の事実を認めており、NTTグループでは特別調査委員会を設置して事実関係の解明と原因究明を進めるとしています。ですが事態はそれで収まらず、野党が澤田氏を国会に参考人として招致するよう求める事態にまで発展しています。

実際2021年3月15日には参議院、翌3月16日には衆議院の予算委員会に澤田氏が参考人として出席、議員からの追求を受け「認識が甘かった」などと澤田氏は話していました。民間人が国会に参考人招致されることは相当異例のことですので、いかにこの問題が重いものであるかが理解できるのではないでしょうか。

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▲2021年2月5日の決算説明会に登壇するNTTの澤田社長。NTTの澤田社長は総務省接待問題の追及のため、野党から国会に参考人招致されるに至っている

筆者は携帯電話業界の動向を知るため、総務省の有識者会議などを傍聴して通信行政に関する情報を収集していますが、政治やスキャンダルに関しては全くの専門外ですのでこの問題の真意を知る術は持っていません。ただここ最近のNTTグループと政治との関わり合いという側面で見た場合、武田良太総務大臣の発言からNTTひいきが目立つ印象があったとは感じています。

その1つはNTTによるNTTドコモの完全子会社化です。NTTは2020年9月29日にNTTドコモの完全子会社化を発表していますが、元国営で、固定通信を主体に高いシェアを持つNTTグループの分離・分割を推進してきたNTTの大株主である日本政府が、一転して完全子会社化を認めたことに競合他社からは少なからず反発がありました。

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▲NTTは2020年9月29日にNTTドコモの完全子会社化を発表。NTTグループの分離・分割を推進してきた政府が、再集結の動きを認めたことには大きな驚きがあった

ですがNTTドコモの完全子会社化が発表前後の武田大臣の記者会見発言を見ますと、「車内電話や携帯電話の競争が始まろうとしている時代と、ここまで携帯電話が普及している時代とは、社会環境が明らかに違うと思うんですね。ですから、社会環境に合致した健全なやり方を、我々としては期待していきたいと思っています」(2020年9月29日)、「『取組を通じた社会の貢献』とコメントをされておりました。大変良いことではないかと思います」(2020年10月2日)と、完全子会社化に前向きなコメントが目立っています。

そしてもう1つは携帯電話料金引き下げを巡る関する武田大臣らの発言です。NTTの完全子会社化となったNTTドコモは2020年12月3日に新料金プラン「ahamo」を発表して大きな話題となりましたが、料金を大幅に引き下げる代わりにドコモショップでサポートができないなど、従来の料金プランとは明らかに異なる部分が多く、従来プランと同列に評価することに疑問の声が多く挙がっていました。

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▲NTTドコモが2020年末に発表した「ahamo」。ドコモショップでのサポートができないなど従来の料金プランとは明らかに違う仕組みながら、あくまでNTTドコモブランドの料金プランであると押し通したことには疑問の声が少なからずあった

ですが翌12月4日に記者会見を実施した武田大臣、そして菅義偉総理大臣は、2018年から7割安い料金プランを、メインブランドで実現したと高く評価する発言をしています。無理やり料金プランに仕立てた感のあるahamoを、メインブランドの料金値下げとして絶賛する政権幹部の姿勢からは、どうしてもNTT贔屓の印象を受けてしまうわけです。

もう1つ、NTT贔屓を際立たせていたのが武田大臣のKDDIに対する対応です。KDDIの代表取締役社長である高橋誠氏が新聞社のインタビューで、国に携帯料金を決める権限はないといった発言をするなど菅政権の政策に批判的な発言をしたことに対し、武田大臣は2020年11月27日の記者会見で「非常に私はがっかりしたし、残念な思いもいたしました」と発言しています。

そして2021年1月15日の記者会見で、KDDIが発表した新料金プラン「povo」に対する受け止めを聞かれた武田大臣は、当時のahamoの料金と比べ、1回5分の無料通話をオプションにして月額500円安くしたことを高橋氏が「最安値」と発言したことで「非常に紛らわしい発表だったと思います」と発言。政権に批判的な態度を取ったKDDIに厳しい対応を繰り返している様子から、一層NTTひいきの印象を強く受けてしまうわけです。

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▲KDDIの「povo」は、ahamoで標準付属だった1回5分の無料通話をオプションにしてその分料金を引き下げたが、武田大臣は高橋氏が「最安値」と発言したことに対し「非常に紛らわしい」と批判していた

無論、接待による直接的な利益供与は武田大臣も澤田氏も否定しているようで、現時点で一連の接待や会食が総務大臣らのNTT贔屓につながっているという確証はないことから、これはあくまで一連の動向から筆者が受けた印象に過ぎないことは断わっておく必要があります。ですが一連の動向と接待問題が組み合わさって同様の見方をする人は少なくないでしょうから、疑念を晴らすためにも真相の究明や、再発防止策はぜひ積極的に進めてもらいたいところです。

ただ一方で、接待問題が通信政策に影響すること、より具体的に言えばBeyond 5G、6Gを見据えた取り組みが停滞してしまう可能性があることが非常に気になります。これまで通信政策を推し進めてきた谷脇氏らが接待問題で総務省を去ったりポストを失ったりしているわけで、そのことが日本の通信産業の舵取りにどう影響してくるかはとても気になるところです。

そもそも通信がこれだけ巨大な産業となったのは、日本の歴史からしてみればごくごく最近の話。2001年の再編以前は旧郵政省の管轄だったからとはいえ、地方行政や郵便政策などと同じ省庁で管轄していることには無理があるような気もしています。

国として5G、6Gの時代に通信産業を本気で世界各国と戦えるレベルにしていきたいのであれば、米国で言うところの連邦通信委員会(FCC)に当たる通信行政を専門に扱う省庁を新たに設け、専門性を高めるとともにより関連性が強いデジタル庁と連携させるなど、一連の出来事を機として現代の状況に合わせた、総務省の解体的見直しがあってもよいのではないかと筆者は考えます。

(更新)初出時、NTT側が武田大臣の接待を認めたと記載していましたが、NTT側より「(接待報道については)弊社とは関係のない民間の方が企画された会合に澤田が招かれ、そこに武田大臣もいらっしゃったものです。弊社が武田大臣をお招きした事実はなく、弊社の接待ではございません」との指摘があり、事実関係に基づき記事内容を訂正しました。