NTT docomo ahamo Masahiro Sano

最近、携帯料金のことしか取り上げていない気もしますが、それだけ2020年度の後半は携帯電話料金に対する関心が大きく高まったことに間違いないでしょう。そこで年の最後を迎えるに当たっては、一躍注目の的となった料金プラン「ahamo」と、それを提供するNTTドコモの2021年について考えてみたいと思います。

ahamoは月額2980円で高速データ通信が20GB、かつ1回当たり5分間の無料通話が可能と、消費者から見れば非常にお得な料金プランであることに間違いありません。ただドコモショップでのサポートコストを削っているとはいえ、これだけ安価なプランを提供するとなると業績にも少なからずマイナスの影響が出てくるでしょう。

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▲「ahamo」は月額2980円で高速データ通信20GBというお得さで人気となったが、ドコモショップでのサポートを削ったとはいえ低価格プランを提供することで業績には少なからず影響が出ると考えられる

それだけに、ahamoユーザーが増えるほどNTTドコモにはいくつか問題が出てくると考えられるのですが、その1つはahamoユーザーが想定以上に増えてしまうことで、業績が大幅に悪化してしまう可能性です。

ahamoは20代独身というNTTドコモが弱みとしている層の獲得を狙ったプランであり、それを強みとして他社からユーザーを奪えれば成功といえるでしょう。ただソフトバンクが「Softbank on LINE」を打ち出すなど早速対抗策が出てきているだけに、その戦略がうまくいくかは未知数です。

一方同じNTTドコモの中で、ahamoより高額の「ギガホ」などを契約していたユーザーがahamoに乗り換えるケースが想定以上に増えてしまえば、売上が大きく減ってしまいかねません。過去を振り返ると2014年に提供開始した「カケホーダイ&パケあえる」では、通話し放題になることを目当てにこのプランに乗り換える人が続出する一方、その多くが最もデータ通信量が少なく安いプランを選ぶという“読み違え”が生じて大幅な業績の悪化を招いた経験があるだけに、同様の事象が発生しないか懸念されます。

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▲2014年の料金プラン「カケホーダイ&パケあえる」では、通話し放題目当ての加入者が急増したものの、その多くが最も安いプランを選択するという“読み違え”が生じ、業績が大幅に悪化することとなった

2つ目の問題は、同じくahamoユーザーの急増がドコモショップの維持を難しくしてしまうことです。ahamoはドコモショップの運営コストを含まないプランなので、ahamoの利用者が想定以上に増えるとドコモショップにコストをかけられなくなってしまう可能性が高まります。

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▲NTTドコモ料金プランの内容の違い。ahamoのターゲットは20代独身と狭いが、それ以外の層にも利用が広まり「5Gギガホ プレミア」などの顧客が想定以上に減るとドコモショップの維持にかけられるコストも少なくなってしまう

その結果としてドコモショップの閉店が増えてしまえば、販売代理店のビジネスが厳しくなり雇用が失われるという問題が発生していくでしょう。ですがそれ以上に問題となってくるのが、ドコモショップが減ることでショップでのサポートを求める人、とりわけスマートフォン初心者のシニア層をサポートをする場所が失われてしまうことです。

ショップでのサポートが減少すればシニアがデジタル時代の社会弱者となってしまうことに直結してしまいます。主としてシニアをターゲットとした「はじめてスマホプラン」の売上でドコモショップの維持費をねん出するのは難しいでしょうから、ahamoの拡大は誰がそうした人達のサポートコストを支払うのか?という新たな社会問題を生み出すことになるかもしれません。

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▲NTTドコモが新たに発表した3G契約者向けの乗り換え専用プラン「はじめてスマホプラン」は、通信量1GBと小容量だが月額料金はahamoより安く、1年目はさらに500円引きがなされるなど売上は決して大きくない

そして3つ目にしてある意味最大の問題といえるのは、モバイル通信の減収を補う事業を生み育てられるのか?ということです。そもそも市場がすでに飽和しており少子高齢化にある日本で、これ以上加入者を増やして通信事業を拡大するのは難しく、しかも政府が「携帯料金の値下げをしろ」と圧力をかけている状況では、通信事業だけで業績を向上させるのは不可能といえます。

そこで携帯各社は、ここ数年来通信以外の事業拡大に積極的に取り組んできました。ソフトバンクがヤフーを有するZホールディングスを子会社化し、さらにLINEと経営統合するというのはその最たる動きといえ、同社はそれに加えて法人事業の拡大に力を入れることで、業績におけるモバイル通信の比率を年々低下させています。

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▲ソフトバンクは法人事業やコンテンツなど通信以外の事業拡大を急ぐことで、業績に占めるモバイル通信の割合を大幅に低下させている

同様にKDDIも、決算を見るとここ最近はライフデザイン事業や法人事業が順調に成長して利益を伸ばしています。NTTドコモも「d払い」などの決済・金融をはじめとしたスマートライフ事業を中心に展開することで業績を拡大していますが、通信の落ち込みを支えるには至っていないのが現状です。

そうしたことからNTTは、2021年夏を目途にNTTコミュニケーションズをNTTドコモの子会社とし、法人事業をNTTコミュニケーションズに集中することで強化を図る一方、スマートライフ事業でも連携を図ることで強化していく方針のようです。ただ同じ完全子会社になったとはいえ、両社は元々別の会社で文化も違うことから、統合が順調に進み成果がすぐ出るのか?という点は未知数です。

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▲総務省「公正競争確保の在り方に関する検討会議(第2回)」におけるNTT提出資料より。NTTはNTTコミュニケーションズをNTTドコモの子会社とし、法人事業をNTTコミュニケーションズに移しNTTドコモは個人向けやスマートライフ事業に集中させる計画のようだ

もちろんNTTは体制強化に時間がかかることを見越し、NTTドコモを完全子会社化して非上場化し、短期的な業績に左右されない環境を整えたのでしょうし、だからこそahamoのような大胆な手が打てたわけでもあります。ただahamoの評判が想定を超えたものであったことも確かで、加入者の面ではプラスに働くものの業績面ではマイナスに大きく働いてしまうだけに、想定以上にマイナスの影響が長期化すればNTTも黙って見ているわけにはいかなくなるでしょう。

それだけに、NTTの名を受けて代表取締役社長に就任した井伊基之氏の手腕は大いに注目されるところ。2021年は携帯電話業界全体の動向を見据える上でも、NTTドコモの新体制に対する関心がとりわけ高まる1年になりそうです。