nuratrue-Enco Free2

ひとりひとり異なる聴覚に対し、最適な特性の音に調整してくれる完全ワイヤレスイヤホン2機種が別々のメーカーから発売された。

ひとつは聴覚補正の技術をもとに創業されたベンチャーのNuraが発売した「nuratrue」。昨年同社は左右が繋がっているnuraloopを世に送り出しているが、nuraloopがワイヤレス、ワイヤード兼用というユニークな構成になっていたのに対し、nuratrueは完全ワイヤレス専用だ。さらにnuraloopがaptX HD対応なのに対し、nuratrueはaptXのみの対応という違いもある。

そしてもう一方は、スマートフォンメーカーOPPOの作る完全ワイヤレスイヤホンとしては二世代目になるという「Enco Free2」だ。AirPodsとよく似た外観、AirPods Proと似た装着感を持つ製品だが、軸の部分にタッチスライドのユーザーインターフェイスを備えるほか、"ベータ版"ではあるものの聴覚テストを通じた音質補正機能も提供している。そのほかBluetooth 5.2に対応していることもトピックだろうか。ただし期待のLE Audio向け新コーデックには未対応のようで、対応オーディオコーデックはAACとSBCのみとなっている。

なお、両者ともアクティブノイズキャンセリング機能と外音取り込みモードを備えている点は共通。アクティブノイズキャンセリング能力はEnco Free2の方が高いが、遮音性はnuratrueの方が少し高い。トータルでEnco Free2の方が静寂を得られるものの、やはり重視すべきは音質面だろう。

Nura NURATRUE(Amazon) OPPO Enco Free2(Amazon)

機能面についてはそれぞれの製品ページを参照いただくとして、ここでは両製品の音質傾向や、共通の特徴になっている聴力に合わせた音質補正の具合についてレポートすることにしたい。

nuratrueは同メーカー過去最高の出来栄え

Nuraはこれまでヘッドホンタイプのnuraphone、左右がケーブルでつながったワイヤレスイヤホンのnuraloopを発売してきた。当然、低音はnuraphoneが最も再生能力が高く、前述したようにnuraloopにはコンパクトながら有線、無線の両対応、aptX HD対応などnuratrueにはない要素もある。

とはいえ、手軽に音楽を楽しむ手段として完全ワイヤレスへの対応は世の中の流れとして避けられない方向だ。nuratrueは一聴して完成度が高く、装着感と音質のバランスがとてもいい。オーバーイヤー形式のnuraphoneとは比較しにくいが、nuraloopとの比較では対応コーデックの違いを考慮したとしてもnuratrueの方が好ましい。

nuraloopにあった中高域の歪っぽさがほぐれ、その周辺、すなわち中域から高域にかけての情報量が増し、また聴きやすい音質になっている。

またイヤーチップに関しても一般的なシリコンチップ4サイズとウレタンフォームチップが付属し、さまざまな耳にフィットしやすく作られているほか、耳の溝に添わせて安定させるスタビライザを装着することもできる。この辺りはnuraloopよりもかなり具合がよく、フィーリングがいいだけではなく、音質にも良い影響を与えているとも思うが、そもそも補正前の音質が格段に良くなっている。

Nuraの製品は新生児の聴力を検査する技術を応用しており、さまざまな周波数、位相の音波を出し、それを内部のマイクが拾うことで音響特性の個人差を検出。再生信号を補正するためのプロファイルを作成することで音質を改善している。

ただ、補正前とされる音質はあまり褒められたものではなく、補正によって音は良くなるものの、そもそもの音をもう少し追い込んだ方がいいのでは? と、釈然としない部分を感じていたのも確かだ。

しかしnuratrueは補正前の音も納得感のあるもので、それに対して補正をかけてくれる。その差分は以前のNura製品よりも少しばかり小さいのだが、過補正にならず不自然さを感じたり、補正幅が強く特定の帯域のS/N感が悪化したりといった副作用があまり感じられなくなった。

もしnuraloopオーナーで、この技術が気に入っているのであれば、強く買い替えを勧めたい。低域補正はやや恣意的で強すぎる面もあるが、EDMを中心としたポピュラー音楽を聴いているならば、むしろエモーショナルなサウンドとして好意的に受け止められるだろう。

Enco Free2の聴力テストは良い面も悪い面も

一方、Enco Free2は6つの周波数の音で聴覚テストを行い、その人の聴覚がどのような周波数特性を持っているかを判断。個人ごとの周波数補正プロファイルを作成する機能を備える。ただし、すでにお伝えした通り"ベータ版"ということで、完成に向けて鋭意努力中の、しかしリリースが近いという機能だ。

Nuraが計測をベースとしているのに対し、Enco Free2は利用者の感覚をテストしながら補正するのだが、両者は補正のアプローチがかなり異なる。Enco Free2は基本的に周波数特性しかテストせず、さらに6つの周波数でしかテストしない。つまりEnco Free2は人の感覚の違いを試しているのに対して、Nuraは耳の音響特性を測定しているのだ。似ているようだが、これは全く異なる。

聴覚の周波数特性は、必ずしもフラットではないかもしれないが、ある特定個人だけに限れば、長い期間、その周波数特性でさまざまな音を聴いているわけだ。あらかじめ決められた周波数の聴覚テストで、音楽再生音の周波数特性を変えて良い結果が得られるかと言えばはてなマークがつく。

と、理屈で言い訳をしているように読めるかもしれないが、その通りで、Enco Free2の聴覚に合わせた補正は、筆者にとって決して心地よいものではなかった。かといって補正なしでは高域の伸びやかさがなく低域はブーミーなのだが。

また、何人かにこの機能を試してもらったところ、特定の周波数の音が聞こえにくい人がいることがわかってきた。これは超高域が聞こえにくいという話ではなく、高域は聞こえているのに、中高域が聞こえていないという人がいるということ。額面通りに補正すると、中高域のゲインをものすごく上げたイコライザーがかかってしまうためだ。

Enco Free2の聴力テストは、時に良い結果をもたらしているが、副作用も大きく、人によっては音質が悪化したと感じる。残念なことに筆者は後者、つまり補正を入れることで音質が低下したと感じた。

測定結果を元にした補正により、中高域から広域にかけてが持ち上げられ、好みからすると、やや高域が強い印象だが、それによって音の輪郭は明瞭にはなる。しかし、同時にS/N感が悪化し、刺激の強い音になってしまったのだ。

生成されたEQカーブがどのようなものなのか、Q設定や補正幅などが不明だが、単に測定結果をグラフで示すだけではなく、最終的に生成されたカーブをカスタマイズする、あるいは補正幅を調整するといったマニュアル調整が可能ならば、もう少し良い結果が得られるように思う。

価格バランスならnuratrueは良いチョイス

完全ワイヤレスイヤホンも売れ筋は1万円前後あるいはそれ以下と言われており、そういう意味ではここで紹介している2製品はいずれも比較的、高級な製品(実売価格でnuratrueは2万4000円前後、Enco Free2は1万3000円前後)と言える。以前に紹介したBang & Olufsen「Beoplay EQ」に比べればかなり購入しやすいが、それでも何らかの目的、購入意欲を持って選ぶ製品だと思う。

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Enco Free2は、北欧のスピーカーメーカーでありドライバユニットも自社で生産するディナウディオが音質チューンを担当しているということで、実はかなり期待をしていたのだが、補正なしでは高域の抜け、透明感が削がれ、補正ありではS/N感が悪化と、少しばかり残念な印象だった。

操作機能の割り当て柔軟性や装着感、アクティブノイズキャンセル能力、バッテリ持続時間などは良いが、音楽モニターとしては今一度、練り込む必要があるというのが正直な感想だ。

一方のnuratrueは、ノイズキャンセリング機能に関して突出する部分はないが、前述したように音響補正は同社のこれまでの製品の中で最も納得感のある働きをしてくれる。補正前のモタツキや曇りを感じる部分が晴れ、スッキリと聴きやすい音になる。

音場表現も広くゆったりと聴けるタイプの音で、カジュアルに音楽を楽しめるところがいい。解像度は高くはなく、情報量もさほど多くはないが、そうしたオーディオ的な性能や質感表現は、さらに上の価格帯の製品に任せれば良いだろう。

同社製品の特徴でもある「反響モード(低音が部屋の中で響く感触をシミュレートする機能)」も、nuraphoneの時にはやりすぎ感が強かったが、本気では適度に低域の量感をブーストしてくれ、あまりいやらしい印象は感じなかった。

例えばいつも評価に使っている「Headphones Test Music」というプレイリストでいうと、セルジオメンデスの「The Look of love (feat. Fergie)」の超低音シンセベースは、細かな音色にさえ文句を言わなければ、出ている感がしっかりとある。それはジェニファー・ウォーンズの「Way Down Deep」の太鼓の音でも同じ。

少し帯域が上がって一般的なポピュラー音楽のベース音になると、ちょっと出しすぎ感はあるが、一方で再生能力に余裕があるのか質感の描き分けは明瞭になる。どの楽曲も補正がうまく効いている限り、ヴォーカルの濁りはなく音像の周りに霧がかかるようなモヤっとした空気も感じない。

総じて"高品位な音"を目指すのではなく、"よりアトラクティブに音楽を楽しむ"という意味では選択肢の一つになるだろう。ややバッテリ駆動時間が短めではあるが、それを除けば完成度は高いと感じた。

▲nuratrue、Enco Free2、Beoplay EQでサイズ感を比較

もし予算があるならBeoplay EQやソニーの「WF-1000XM4」の検討をすすめるが、価格バランスではnuratrueも負けていない。もし同社の旧モデルを所有しているなら、明らかに進化しているとお伝えしておこう。