▲ソニーグループはソニーワイヤレスコミュニケーションズを通じ、ローカル5Gを活用したインターネット接続サービス「NURO Wireless 5G」を提供すると発表している

去る2021年11月29日、ソニーグループがソニーワイヤレスコミュニケーションズという子会社を通じてローカル5G事業に参入、「NURO Wireless 5G」を2022年春頃より提供することを明らかにしました。そしてこの動きは、固定ブロードバンドサービスの競争を見据える上でも大きな動きといえるでしょう。

まずはNURO Wireless 5Gについて振り返っておきますと、これはローカル5Gを活用し、集合住宅向けにインターネット接続サービスを提供するというもの。ローカル5Gはエリア限定の5Gネットワークのことで、携帯電話会社が展開する5Gのネットワークとは異なり利用できる場所は限定されますが、ローカル5G専用の電波免許を取得すれば携帯電話以外でも通信サービスを提供できるのが特徴です。

それゆえローカル5Gは工場の自動化など産業向けに用いられるのが一般的ですが、NURO Wireless 5Gではそれを固定ブロードバンドのラストワンマイルとして活用しようとしている訳です。海外でも高速通信ができる5Gを固定回線のラストワンマイルに活用する動きが急速に広がっているようなので、こうしたサービスが日本でも登場すること自体は自然な流れといえます。

そしてローカル5Gを用いるという特性もあって、NURO Wireless 5Gの最大の特徴は光回線のように宅内工事をする必要なく、ブロードバンド通信が実現できる点にあります。実際NURO Wireless 5Gは専用のホームルーターを設置するだけで利用可能となるなど、NTTドコモの「home 5G」やソフトバンクの「SoftBank Air」など、5Gに対応した携帯各社のホームルーターに近い使い勝手を実現するようです。

▲自宅にネットワークを引き込む部分にローカル5Gを用いることから、NURO Wireless 5Gは宅内工事が不要。専用のホームルーターを設置するだけでよい

一方で、NURO Wireless 5Gはパブリックの5Gネットワークを用いるhome 5Gなどとは異なり、あくまで固定回線のラストワンマイルをローカル5Gで代替しているに過ぎません。それゆえ通常の固定ブロードバンドサービス同様、回線を利用する人数が限定されることから、パブリックの5Gを用いたサービスと比べ周囲の利用状況にネットワークの品質が左右されにくいのが利点といえるでしょう。

ただその強みは弱みにもなっており、NURO Wireless 5Gは当初利用できるエリアが北海道、東京、神奈川、埼玉、千葉、愛知、静岡、大阪、兵庫、奈良、福岡の一部のみとなっています。既に47都道府県でサービス提供しているパブリックの5Gを用いたサービスと比べエリアが非常に狭いのはもちろんですが、同じソニーグループ系のソニーネットワークコミュニケーションズが展開する固定ブロードバンドサービス「NURO 光」よりも利用できるエリアは狭いようです。

その理由は、やはりローカル5Gの基地局やアンテナなどを設置していく必要があるからでしょう。ソニーグループは元々直接無線通信のインフラを持つ訳ではなく、今後対象とする集合住宅毎に通信設備を敷設していくこととなるため、対象エリアを広げるには時間がかかるものと考えられます。

▲ローカル5Gをラストワンマイルとして用いるには、電波を飛ばすアンテナなどの設置が必要なことから、エリアの狭さにはその設置にかかる時間やコストが影響していると考えられる

ただ既にNURO 光を展開しているソニーグループが、別会社を立ち上げてまでしてローカル5Gを用いたNURO Wireless 5Gを提供するのはなぜか? という疑問を抱く人も少なくないかと思われます。その理由を紐解く鍵は、このサービスが集合住宅向けだという点にありそうです。

実はNURO Wireless 5Gが発表される少し前の2021年11月15日、ケーブルテレビ大手のJCOMが発表会を実施していたのですが、その説明の中では、日本では光回線を引くための配管がない集合住宅が6割を超えており、光回線を引き込むことができたとしても、建物内の回線がVDSLで通信速度が最大100Mbpsにまで低下してしまう施設も多いとのこと。集合住宅に住む人は設備的な要因から、都市部であってもブロードバンド難民になりやすい訳です。

▲2021年11月15日のJCOM発表会資料より。光回線を引くための配管がない集合住宅が6割を超えているほか、構内回線がVDSLのため速度が出ない住宅も多いという

そこでJCOMのブロードバンド通信サービス「J:COM NET」では、ケーブルテレビ用の同軸回線を用いて最大1Gbpsの通信速度を実現する「DOCSIS 3.1」という規格を採用し、光回線を引き込めない集合住宅にも高速通信を提供する取り組みを進めているとのこと。もちろんこれはJCOMのケーブルテレビが利用できる住宅でなければ使えないのですが、光回線に制約のある集合住宅に、いかにしてブロードバンドサービスを提供するかに、固定通信事業者が知恵を絞っている様子は見て取ることはできるでしょう。

▲JCOMはケーブルテレビの同軸ケーブルを用いて最大1Gbpsの高速通信が利用できる規格を採用し、光回線が引き込めない問題への対処を進めているという

一方で、そうした固定通信事業者の隙を狙っているのが携帯電話会社です。2021年にはNTTドコモがhome 5Gを開始するなど、通信速度が大幅に向上する5Gの登場を機として固定ブロードバンドの代替サービス強化を図っており、手間がかからないこともあって光回線に制約のある集合住宅の在住者から支持を得ています。

▲5Gを固定回線代わりに活用するサービスは携帯電話会社も力を入れており、NTTドコモも2021年に「home 5G」でこの市場に参入している

固定通信事業者がそれら携帯各社の攻勢に対抗する上でも、集合住宅向け対策が急がれているのは確かですし、集合住宅にターゲットを絞ったNURO Wireless 5Gも、そうした狙いが強いものといえるのではないでしょうか。同様の動きが他の独立系ブロードバンド事業者や地域ケーブルテレビ会社などに広がっていけば、都市部のブロードバンド難民の悩みも徐々に減っていくことになるかもしれません。