Masahiro Sano OCN NTT

2020年9月にNTTドコモの完全子会社化を発表し、通信業界の業界内外に大きな衝撃をもたらした日本電信電話(NTT)。その完全子会社化でNTTが目論んでいたNTTグループの再編が、ようやく本格的に動き出すようです。

それを示したのが2021年10月25日、NTTドコモがNTTコミュニケーションズとNTTコムウェアの子会社化を発表したことです。子会社化される両社は現在NTTの子会社であり、それをNTTドコモの子会社にするというのは、NTTがNTTドコモを完全子会社化する際に構想を打ち出していたものなのですが、ようやくその実現に至ったといえます。

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▲NTTドコモは2021年10月25日にNTTコミュニケーションズ、NTTコムウェアの子会社化を発表。接待問題で大きく遅れていたNTTグループの再編が本格化したことになる

なぜNTTドコモによるNTTコミュニケーションズらの子会社化がそこまで遅れたのかと言えば、2021年3月、NTTが利害関係のある総務省の幹部らへ高額接待を繰り返していたことが報道されたこと。一連の問題を受けNTTの代表取締役社長である澤田純氏が国会に参考人招致されるなど、大きな問題へと発展したことは記憶に新しいかと思います。

しかもNTTドコモの完全子会社化は、分離・分割が進められていた元国営のNTTグループが再集結する動きにつながるとして競合他社が猛反発していたことから、総務省が「公正競争確保の在り方に関する検討会議」を開催して公正競争確保に向けた議論を進めていました。接待問題が発覚したのはその議論の最中だっただけに、NTTも総務省による接待問題の調査、そして有識者会議での結論が出るまでは再編を進められなかった訳です。

ですが2021年10月1日に総務省の調査で完全子会社化に接待の影響が確認されなかったとの報告がなされ、2021年10月12日には公正競争確保の在り方に関する検討会議の報告書も取りまとめられました。報告書ではNTTドコモをNTT東西の特定関係事業者に指定し、グループ内での優遇禁止を求めるなどの提言がなされていはますが、完全子会社化自体は認めるなどおおむねNTTの主張が通ったことから、晴れて再編に向けてNTTが本格的に動き出したといえるでしょう。

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▲総務省・情報通信行政検証委員会の「検証結果最終報告書」(概要)より。総務省による調査の結果、NTTの接待問題がNTTドコモの完全子会社化に影響を与えたことは確認できなかったとしている

ではNTTコミュニケーションズらを子会社化する目的はどこにあるのかといいますと、ひとえに法人事業の強化といえます。実際NTTドコモはグループ再編を2段階で進める方針を打ち出しており、2022年1月に実施する第1ステップはNTTコミュニケーションズとNTTコムウェアを子会社化した後、2022年度の第2四半期頃に実施予定の第2ステップで、NTTドコモの法人事業をNTTコミュニケーションズに移し、一本化を図るとしています。

またNTTドコモは今回の再編に合わせ、グループで法人事業のブランド「ドコモビジネス」を打ち出しています。法人事業と、もう1つの成長領域であるスマートライフ領域と合わせる形で2025年度の収益の過半を創出していく考えも示しており、いかに法人事業に力を入れようとしているかが分かります。

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▲NTTドコモグループとなった3社は新たに法人事業のブランド「ドコモビジネス」を打ち出しており、法人事業に力を入れようとしていることが分かる

なぜそこまで法人事業の強化が重要なのかといいますと、いま通信会社にとって、ある意味最大の成長領域となってるのが法人事業だからです。コロナ禍で企業のデジタル化が急速に求められるようになったのに加え、5Gの普及で今後モバイルの法人需要が急拡大すると見られていることがその背景にあり、KDDIやソフトバンクは、その法人事業が今後の成長分野と位置付けて積極的な事業拡大を進めています。

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▲KDDIが2021年9月28日に実施した法人事業説明会より。企業のデジタル化需要の拡大などから法人事業に力を注いでおり、今後大幅な伸びが期待されている

ですがNTTドコモは固定のネットワークを持っていないこともあり、法人向けのビジネスはあくまでモバイル回線やデバイスを提供することが主で、企業のネットワークに深く入り込んでサービスを提供するまでには至っていませんでした。固定回線を持ち統合的なネットワークとソリューションの提案ができる競合他社と比べ弱みがあり、成長領域でうまく立ち回れていなかったのは確かでしょう。

一方でNTTコミュニケーションズは企業向けにネットワークだけでなくソリューションを提供するなど、法人向け事業には非常に強みを持つ企業でもあります。そこで子会社化によってNTTドコモとNTTコミュニケーションズの法人事業を一体化し、双方が強みを持つ固定とモバイルのネットワークを生かして連携を図ることが、再編の大きな目的であることは間違いないでしょう。

ではコンシューマー向け、特に多くの人が注目いているであろうモバイル通信サービスに関して、今回の再編がサービスに与える影響はどれくらいあるのか? といいますと、あまりないというのが正直な所です。NTTドコモは先の再編における第2ステップで、固定ブロードバンドの「OCN」や、MVNOとして展開している「OCN モバイル ONE」など、NTTコミュニケーションズのコンシューマー向け通信事業は現・子会社のNTTレゾナントに移し、そのNTTレゾナントをNTTドコモが子会社化するとしていることから、位置付けは変わるものの事業自体は大きく変わらないと見られます。

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▲NTTドコモのグループ再編ステップ。NTTドコモはステップ1で子会社化したNTTコミュニケーションズに対し、ステップ2では法人事業を移す一方、「OCN」などのコンシューマー系通信事業はNTTレゾナントに移した後、NTTドコモが子会社化する形となる

なぜOCNなどをNTTドコモに統合せず、NTTレゾナントに移して残す形を取ったのでしょうか。現在のモバイルの事業環境を考慮した場合、競合他社と同様低価格領域をMVNOのOCN モバイル ONEでカバーするより、NTTドコモが直接サブブランドを持ち、NTTドコモのネットワークを直接活用したサービスを提供した方が消費者メリットが大きいのでは? と感じる人も少なくないかと思います。

この点についてNTTドコモ代表取締役社長の井伊基之氏は、記者会見で「今サブブランドを持つ考えは持っていない」と話し、低価格の領域はMVNOでの展開と競争が最適であること、もしサブブランドを作る必要があるならば、OCN モバイル ONEとは関係ない形で作るべきとの考えを示していました。NTTドコモはMVNOと連携して小容量・低価格の領域をカバーする「エコノミーMVNO」を打ち出していることもあってか、NTTレゾナントにはあくまでMVNOとして、他のMVNOと競争していく立場を求めていくようです。

もちろん今回の再編で、NTTドコモとNTTコミュニケーションズが別々に構築していたコアネットワークを一本化し、効率化を図ることが将来的にメリットにつながってくるかもしれませんし、今後NTTドコモが低価格の領域で方針を転換する可能性もない訳ではないでしょう。ですが少なくとも今回の再編でコンシューマー市場に影響を与える可能性は低く、サプライズもなかったというのは残念な所でもあります。