今や、日本のみならず世界中にたくさんのスマートトイがあふれています。でも、その中から「子どもが夢中になり、かつ学びに役立てられるもの」を見つけるのはなかなか容易ではありません。特にスマートトイは実際に試す機会も少なく価格も高いため、購入するのにためらってしまう人も多いのではないでしょうか。
そこで、スマートトイ研究家を目指す筆者は、日々さまざまなスマートトイを実際に試して、その使用感や子どもの反応をチェックしています。
そんな筆者が「これは……!」と感動したスマートトイのひとつが、アメリカ発の「Osmo オズモ」シリーズでした。シンプルにして洗練されたデザイン、かわいらしいキャラクター、そして子どもが手と頭を使って楽しく遊びながら自然に学んでいけるコンテンツの面白さに惹かれまくり、3年前の「ベストバイ」で熱い記事を書いたほどです。
そして2020年、ようやく日本でOsmoが本格的に販売されることになりました。そこで、数年来のファンとして、Osmoの生みの親であるTangible Playの CEO、プラマド・シャルマ氏にインタビューをお願いしてみました。Googleのエンジニアだったというプラマド氏が、なぜ教育の分野に入ったのか、Osmoというユニークな製品はどうやって生まれたのか。じっくりお聞きしてみました。
テクノロジーを楽しいものにする
──Osmoのファンとしてお話できてうれしいです! まずは、日本の読者に向けてTangible Playのことを教えてください。
はい、Tangible Playは共同設立者のジェローム・スカラーと共に2013年に設立し、2014年に初めての商品をリリースしました。「テクノロジーをいかに子どもの生活に関わらせていくか」が土台となる考えです。
テクノロジーは、私たちの生き方や働き方、コミュニケーションの仕方に合わせて変わりますが、私は子どもたちがテクノロジーと付き合う方法を完全に変えたかったのです。テクノロジーは集中をそいでしまうもの、親や先生が避けるものではなく、子どもたちにとって創造のプラットフォームとして活用してもらえる、学びと遊びの交差点になるような存在に変えようと思いました。
子どもは、いつも楽しいことを探しています。そこで難しいのは、テクノロジーを便利なものにすると同時に、楽しいものにしなくてはいけないことです。学び、もしくは楽しさのどちらかだけを追求するのは簡単ですが、両方を同時に実現しなくてはいけないのはチャレンジであるとともに、とても興奮するものでした。
──スタートアップとして始めようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
私が会社を始めた時、私の娘は4歳でした。娘を見ていて、成長していく上で何か足りないツールがあるのではないかと感じたのです。例えば自転車というツールを手に入れると、子どもたちは近所を探検できるようになります。そのような成長に必要なツールが他にあるのではないか……と考えたことが、大きな動機となりました。その魅力的なモチベーションはいまだに持ち続けています。
オフラインとオンラインの融合という発想
──共同設立者のお二人はGoogle出身とお聞きしていますが、前職のことを教えていただけますか。
はい、私はGoogleで8年間働いており、ジェロームもGoogle出身です。私たちはブックスキャニングマシンを作るプロジェクトに関わっていました。実物の本をスキャンしてオンラインにあげるという“オフラインとオンラインの融合”は、Osmoへの大きなインスピレーションとなりました。
──なるほど、Osmoの「iPadに鏡をつける」という素晴らしいアイデアは、これまでの経験が生きているということなのでしょうか。
技術は異なりますが、「物理的な媒体をデジタルな媒体につなげる」という発想はインスピレーションの一つです。Osmoの鏡を使うという発想は、時間をかけて思いついたものです。別にカメラを使うのではなく、鏡を取り付けてiPadやKindleなどデバイス自体のカメラを使うという仕組みは、シンプルでコストもかからないポイントになっています。
子どもにとって不自然な動きは排除した
──Osmoを子どもがスムーズに遊ぶために、操作性などで苦労された点はありますか?
子どもにとって、動きというのは、“自然な動き”と“不自然な動き”があるのです。クリックしてジャンプさせたり、ものをくっつけたり、紙に絵を描いたりするのは、自然な動きです。そこで、私たちはたくさんのテストをしながら、「子どもにとって自然な動きとは何か」を探し、不自然だと思える動きはすべて除外していきました。
──子どもたちがとても自然にスムーズに遊んでいたのは、そうした不自然な動きを排除しているからなのですね。改めて納得しました! こだわりといえば、Osmoの「コーディング」には文字がありませんよね。デザインがユニバーサルな点もこだわりのひとつでしょうか。
子どもは幼ければ幼いほど、動作は似たようなパターンを持ち、ユニバーサルなものです。また物理そのものや想像力、クリティティビティにも言葉は関係ありません。そのため、意図的に言語を控えるようにしています。これはマーケティングのためではなく、子どもたちに大きなインパクトを与えるためにそうしています。
全員でアイデアを出し合う「ドリームウィーク」
──Osmo製品はどれもユニークですが、どんなアイデアから生まれたのか教えてください。
最初の2~3タイトルは私とジェロームが考えたものですが、他のタイトルについては、社内のメンバー全員が創造力を総動員して作成しています。Osmoでは年に1~2週間、メンバー全員が次のタイトルの夢を膨らませる「ドリームウィーク」という期間があり、グループに分かれて、エキサイティングなアイデアを出し合います。
例えば、「ピザカンパニー」もそうして生まれました。起業家になるにはどうしたらいいのか、ビジネスパーソンとしての学びとは、ということを子どもたちに教えるというアイデアにはとても興奮しましたね。
──個人的に気に入っているタイトルや、お子様の気に入っているタイトルを教えていただけますか?
選ぶのが難しいのですが……ひとつ挙げるとすれば「タングラム」はずっと気に入っているゲームです。私の6歳になる息子は、探偵になって世界の都市の謎を解く「Detective Agency」が好きで、毎日プレイしています。11歳の娘は、自分の描いた絵が画面の中で動く「Monster」が好きですね。
認知症のユーザーが言葉を思い出した
──これまでに印象に残っているOsmoユーザーとのエピソードを教えていただけますか?
印象に残るやりとりは本当にたくさんありますね。そのひとつが、65歳の女性から長い手紙をもらったことです。ご主人はアルツハイマーで、色々なことを忘れてしまっていました。そこでOsmoの「ワード」という絵と単語の綴りを組み合わせるゲームを使ってみたところ、記憶の目覚ましい回復がみられたということです。このような驚きと感動の手紙が、オフィスにはたくさん届いています。
──それはとても素晴らしいお話ですね。子どもだけでなく、ぜひシニアの方にも遊んでいただきたいと思います。また、Osmoは学校にも導入されているそうですが、子どもたちはどんなふうにOsmoを使っているのでしょうか。
Osmoは学習を目的に作られたものですが、学校のカリキュラム自体に沿う形ではなく、現在はSTEMやテック、コーディングの時間の補助教材として活用してもらっています。
先生のレクチャーをただ聞いているだけの座学では退屈ですよね。そこで授業中にグループに分かれてOsmoを使って楽しみながら学ぶという、学習のスパイスのような存在として活用しているそうです。
さらに今年、新しい取り組みとして、学校のカリキュラムに合わせた算数のゲームを公開しました。Osmoをプレイしながら算数の概念を練習する、楽しみながら自学していく仕組みです。子どもたちが自分でどんどん学んでいくというのは教室でとても大切なことであり、先生の目標でもあると思います。
まずは自分で遊んで楽しんでみること!
──以前、親子向けのワークショップでOsmoを紹介したところ、子どもたちが夢中になっていました。ワークショップでOsmoを使う際のコツはありますか。
私たちがデモをする時は、まず自分で試してもらうようにします。例えば「タングラム」は説明を聞くのと、自分でやってみるのとではずいぶん違います。実際に遊んでみると、みんなとても興奮します。なぜなら、手を使って画面とやり取りすることがとても新しく、珍しい体験だからです。ですので、最初はとてもシンプルな動きから試してもらうことをおすすめします。
プログラミングを楽しめる「Coding Awbie」の場合、自分でひとつコードを置いてみて、ジャンプするところを見るなど、まずは子どもたちに実際に試してもらうことが大切だと思います。
──ありがとうございます。では、EdTechの分野に関わってきたお立場として、これからの教育に対する思いを聞かせてください。
私は、子どもは「学び方を学ぶべき」だと強く信じています。単に学ぶだけでは足りないのです。自転車の乗り方を学ぶのではなく、自転車の乗り方を学ぶ方法を学ぶのです。
そして、学ぶ対象はものすごい速さで変化していきます。子どもの学び方が上手になればなるほど、学ぶ対象は重要ではなくなると私は信じています。学習の筋肉こそが、もっとも重要だと思うからです。これは子どもだけではなく、私にもあてはまることです。この世界はすごいスピードで変化し続けていて、私も毎日、新しいことを学び続けています。
──現在開発されているものがあれば、教えていただけますか?
現在は算数にフォーカスをあてています。算数は数を数えることから、足し算、引き算、掛け算、割り算、方程式……と範囲が広いものです。今年、小学1~3年生向けの算数商品を発売しましたが、この後も算数関連のゲームを出していく予定です。
Osmoで子どもたちの潜在能力を引き出したい
──プラマドさんは日本に住んだ経験があるそうですが、日本の市場にはどんな期待をされていますか?
日本は従来からゲームの人気が根強い国ですので、日本の方は、ゲームを使った学習にオープンなのではないかと期待をしています。
そして、日本については2つのゴールを持っています。1つ目は、学びと遊びの交差点としての新しいゲームを、日本の子どもたちやその親にも気に入ってもらい、Osmoのポジションを確立すること、2つ目は日本のゲームマーケットから、私たちが新しいインスピレーションを受けることです。
──最後に、これからの目標を教えてください。リアルとバーチャルの融合がすごく良い点だと思うのですが、今後もそこにこだわって作っていくのでしょうか。
私たちが提供したいのはホリスティック(全体的)な体験です。そのために物理的な動きとバーチャルなテクノロジーを融合した形を実現しましたが、将来は別の形になるかもしれません。今後もリッチで表現力のあるものであれば、どんどん取り入れたいと思っています。
私が強く信じていることは、誰もが無限の可能性を持っているということです。特に成長途中にある子どもは、驚くほど強烈な想像力とクリエイティブな力、大きなポテシャンルを持っています。リアルとバーチャルの融合という体験は、これまでと違った考え方、違った反応をもたらし、能力を高めるツールとなり得ます。
人間は潜在能力の2%しか使っていないという話を聞いたことがあります。この2%を2.5%、3%にすることができたら、それはとてつもないインパクトになると思います。Osmoという会社が、その潜在能力を少しでも解き放つお手伝いができ、子どもたちが成長していく上でより強くオープンになり、クリティブになってもらえたら、私たちのビジョンは満たされるといえるでしょう。
東京では体験できる試遊台もアリ!
ひとつひとつの質問に対して、真摯に答えてくれたプラマド氏。子どもたちの可能性を信じて、新しい学びと遊びの体験をつくりだすことを目指している熱意がひしひしと伝わってきました。
日本では現在、ソースネクストから「Osmo オズモ ジーニアス スターターキットfor iPad」が発売されています。さらに、2021年1月には、プログラミングが楽しめる「コーディング スターターキット」とピザ店を経営する「ピザカンパニー」の2つも、日本で発売される予定です。
日本未発売タイトルについても、Osmoの公式サイトから通販が可能です(2020年12月時点では、アメリカ国外への発送見合わせのため購入できません)。
また、AmazonではiPad版のほか、Amazon限定でFire版も発売されています。
関東限定ではありますが、新宿と有楽町にあるスタートアップアイテムが購入できるショップ「b8ta(ベータジャパン)」では、実際に遊べる展示も用意されているので、お近くの方は体験してみるのもおすすめです。
幼児から大人まで楽しめ、画面の中だけで完結せず、自分の手を動かして考えながら進めていくOsmoは知育玩具としても最適です。テーマも算数や英語、パズル、アートと幅広く学べるので、ぜひ親子で楽しんでほしいと思います!