Big Sur Public Bata

WWDC 2020で発表された新しいmacOS Big Surは、近年のMac向けOSの中で最も大きな変更が含まれている。言うまでもなくApple独自プロセッサへの対応が大きい部分ではあるが、ユーザーインターフェイスやデザインといった面でも大きな変化が与えられている。

正式リリースは10月以降と予想されるが、開発者登録を行っていないユーザーもベータ版の利用が可能になるこのタイミング。パブリックベータ版が公開されたところで今一度、Big Surの注目点をおさらいしておくことにしたい。

なお、本記事で掲載している画面は、全てパブリックベータ版macOS Big Surのものだ。

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macOSとiOSのルック&フィールが融合

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WWDC 2020の時点でもmacOSの再デザインは進んでいたが、ベータ版の一般公開に向けてデザインの洗練度がさらに上がってきている。ファーストインプレッションで「明らかにMac。しかし、想像以上にiPhone / iPad」と表現したが、そのフィールがさらに徹底されてきた。

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例えばコントロールセンター。

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iOSのステータス確認と設定操作をシンプルなパネルにひとまとめにしたユーザーインターフェイスは、見た目の雰囲気そのままにmacOSで使えるようになるが、そのフィールはiOS的ながらmacOSそのもの。

コントロールセンターの表示デザインはiOSに準じているが、iOSならばタップ&ホールド(3D Touchなら強めに押す)で呼び出される次の階層は、macOSだとアイコンをクリックすることで掘り下げていくことになる。タッチ操作とマウス操作の違いを違和感なく、なんとなくやっているだけで統一感あるように感じさせる設計となっているのだ。

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従来よりもわずかに丸みが強くなったウィンドウやデスクトップのコーナー、半透明を多用した柔らかな光を感じさせるデザインテイストはiOSならばお馴染みのもの。コーナーに丸みがある正方形のフラット系テイストなアイコンはmacOSとのバランスをとりながら、見事にiOS的なフィールを出している。

また、iOS的なフラットデザインと、macOSのリアル嗜好のアイコン、両方に馴染むデザインも引き続き、細かく作り込まれている。

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さらに細かく見ていくと、従来のmacOSとは作法の異なるデザインが多用されている。Big Sur用に設計されているApple標準アプリのデザインを見ると、タイトルバーがないiPadアプリケーションのような1枚板に見えるレイアウトが多用されている。

一見、ウィンドウ制御のボタンがないかのように見えるアプリケーションもあるが、マウスをウィンドウ内で動かすと表示される、といった工夫がされているため迷うことはほとんどない。ツールバーのルックや、マウスをロールオーバーした際にボタン全体が反転して見えるところなど、iPad OSで導入されたルック&フィールが積極的に導入されている。前回もお伝えしたように、かなり多くな変更であるにもかかわらず、それほど操作に迷わないのはiOSデバイスに日常的に触れているからなのかもしれない。

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いずれにせよ極めて綿密に再設計がなされており、相当な時間と労力が投入されていると感じられる。……と、これは推測にしかすぎないが、おそらくAppleとしてはiOSアプリとの互換性を提供するMac Katalystを使用した際に違和感なくMacのデスクトップにiOSアプリが馴染むよう、この再デザインを綿密に行ってきた可能性が高い。もちろん、Apple Silicon搭載MacでiOS / iPadOSアプリを動かす場合、それらの馴染みのよさは大きなポイントとなるだろう。

似ているのはルック&フィールだけではない

ユーザーインターフェイスの”振る舞い”が近づいて感じられるのは、おそらくApple自身がそれを狙っているからだろう。というのも、iOSとmacOSを近しい関係にしておくことで、機能面でのiOSの改善や追加をmacOSにも反映しやすいからだ。コントロールセンターの作り方は、まさにそれを地でいくものだが、通知センターの設計がiOSと共通化されていることは、見た目や感触だけではなく、機能面での統合の糸を表している。

通知センターへの通知はiOS向けの表示とほぼ同じで、さらにウィジェットもiOS 14向けの新しいウィジェットの設計が導入されている。つまりiOSとmacOSの両方で動作するウィジェットが簡単に提供できるようになるということ。Apple Siliconへの切り替えで、iOS/iPadOS向けアプリがMacでも動作するようになれば、それらのアプリで定義されているウィジェットもmacOS内で活用できるわけだ。

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実際にBig Surを使っていると、基本的なデザインテイストがiOS感覚であるだけではなく、タッチパネルで行うべき操作を自然にマウスやトラックパッドで行っても大きな違和感を覚えない。全く同じではない(少しだけ違う)けれどフィールは同じ。これはキーボードでiPadOSを使った時のものと、アプローチの方向は異なるが似ている側面もある。極めて綿密に計画されたデザインチェンジであることは実際に使ってみると感じ取れるはずだ。

ウィンドウレイアウトの変更で”iOS”と”macOS”のアプリ設計が近くなる

昨年のWWDCで発表されたiOS/iPadOS向けアプリをMac上でも動作させるMac Catalystは、当初、ボイスメモ、株価、Podcast、Apple TV、写真などで使われていたが、Big Surではメッセージと地図もMac Catalystを使ったiPad版からの移植になる(サードパーティ製ではTwitter公式クライアントなど)。

Big Surの地図はiPad OS版と開発のコードが共通化された一方、macOS版の特徴としてマルチウィンドウでの利用が可能になっているが機能は全く同じだ。このためiOS 14で導入されるEV考慮型ルート検索やサイクリング用ルート探索などもmacOSで利用できる。

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同様のことはMessageでも同じである。これまでもMacからiMessageを利用できていたが表現力や機能は最低限のものだった。ところが、そもそものプログラムコードが共通化されたことで機能差がなくなったのだ。単にiOS版と機能が揃うだけではなく、今後はiOS向けの機能がブラッシュアップされるたびにmacOS版も洗練されていくことになる。売り上げ規模の大きなiPhone向けの開発投資をMacにも向けられると考えるなら、AppleにとってもMacユーザーにとっても好ましいことだ。これと同様の効果は今後、サードパーティ製のアプリにも期待できるだろう。

ただ、懸念点として挙げられるのは、Windowsにおいてデスクトップアプリとタッチパネル前提のMetroアプリが乖離したのと同じことがMacでも起きかねないということ。Mac Catalystを2年以上かけて熟成させてきたのは、その点を埋めていく作業でもあったはずだ。

最終的にBig SurではmacOSアプリのウィンドウデザイン、ボタンレイアウトやデザインなどを変更し、同時にiOSもiPadOSと分離した上でキーボードとの親和性が高い使い方やデザインを提案。その両面が交わるこのタイミングで、両者の馴染みは十分に高まった。タイトルバー、ツールバー、サイドバーなどを融合した新しいウィンドウレイアウト、サイドバー内の行間や機能を表すシンボル(アイコン)デザインなどは、単に操作の一体感だけではなく、機能的で見通しの良いユーザーインターフェイスをもたらしてくれる。

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これまではタイトルバー、ツールバーの下に各種アプリの表示部品が上下方向に階層化されていた。しかし、新しいデザインではウィンドウ制御ボタンとサイドバーが一体化し、ウィンドウタイトルは省略。ツールバーのシンボルはウィンドウの最も上の位置へとスライドした。標準のメールソフトを見ると、メッセージのリストやメッセージ本文の表示などが、縦方向に余裕のある配置となり、情報の見通しが良いことがわかる。

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プライバシー情報の見える化が進んだSafari

WWDC 2020時のコラムで、Big Surに搭載される新しいSafariの高速化に驚いたことを報告した。まだベータ版であるためベンチマークテストは控えるが、使っているうちにNETFLIXやAmazonプライムビデオなどのストリーミング映像を楽しむ際のバッテリ消費が少ないことに気付かされている。

Appleは通常のウェブブラウジングでも、ライバルよりレンダリング時の消費電力が低いとアピールしているが、しばらくの間、新しいSafariを使って注目していたのが、閲覧者の行動を追跡する「トラッカー」の見える化についてだ。ウェブサイトに埋め込まれたインターネット広告は多くの場合、異なるサイト間でどのように移動しながら、その閲覧者がどのようなタイプのコンテンツを見ているのかを追跡している。追跡しているのは表示しているサイトではなく、広告サービスの提供者だ。代表的にはGoogleであり、日本ではYahoo! JAPAN、またネット広告専業ではCriteoといったプロバイダーもある。

これらは特定のメールアドレスや氏名、住所などと紐づけているのではなく、匿名の閲覧者が見ているコンテンツを追跡することで、興味を持ちそうな広告を推測して表示するために使っている。Safariには、もともとこうした追跡を自動的にブロックする機能が搭載されていたが、最新版ではどのようなサイトが、どのようなトラッカーサービスを使っているか、どのトラッカーが、過去30日でどのぐらいのサイトで追跡を試みていたかを表示する機能が加わっている。

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筆者がテストに使っているMacの場合、55%のサイトでトラッカーが発見され、147のケースで追跡プロファイルの作成が阻止されていた。Safariが以前から備えてきたパスワードの安全性を監視する機能などでもそうだったが、こうした機能を使いこなすことで、自らのインターネット利用に関する安全性に関する知識や経験を獲得するのに役立つだろう。

加えて、ブラウザの拡張機能の適用をウェブサイトごとに許可することも可能だ。どうしても必要な特定サイトのにみ許可することで、拡張機能を通じたセキュリティホールの発生を未然に防ぐことができる。また、この許可は永遠なものではなく、当日のみ許可するといった選択肢が設けられた。

Apple Silicon導入に向けて準備万端?

Big Surの開発は順調に進んでいるというのが現時点での率直な印象だが、iOS / iPadOSとのユーザーインターフェイスの統合については予想以上にうまく進んでいるのではないだろうか。年末にはApple Silicon搭載Macが市場投入され、さらに両者の距離は縮まっていくことになるはずだ。

ソフトウェアの互換性もAPIレベルで互換をとるMac Catalystで動かすのではなく、iOS / iPadOS向けアプリそのものが動作するようになる(ただし全てではない。開発者が確認し、Mac AppStoreでの配布を指定する必要がある)。なぜならiOS / iPadOS用アプリには、Macのマウスカーソルとキーボードによる操作に不可欠な要素がない。マルチタッチ操作対応のマウスやトラックパッドでの代替は必要になるかもしれないが、メニュー、環境設定シート、基本的なダイアログの呼び出しやスクロールバーなどは全て自動的にBig Surが生成する。

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現時点でそうしたアプリはApp Storeで提供されていないが、自分自身でXcodeを使って試すことは可能だ。スマートフォンなどにしか内蔵されていないデバイスやセンサーを用いているわけでなければ、かなり高い互換性がある。とりわけiPadOS向けであればユーザーインターフェイス設計そのものを共通化しても違和感を覚えることはないだろう。

2年をかけて進められるというIntelからApple Siliconへの移住計画。そのスタート地点として評価した時のBig Surは、最初のリリースにしてかなりこなれたものになるだろう。どのような仕上がりになるのか、今から興味深い。

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※パブリックベータ版macOS Big Surの画面は、取材に基づく特別な許可を得たうえで掲載しています。