アップル製としてはひさびさの単体ディスプレイとして、2019年6月に発表された『Pro Display XDR』。米国では4999ドルから、日本では52万9800円からと、コンピューター用としては非常に高価な製品です。ですがその画質は、放送グレード用製品に匹敵する画質と色再現性を示す製品として、AV評論家や番組制作者などから高い評価を得ているモデルでもあります。

そんなPro Display XDR用のツールとして、アップルが『Pro Display XDR Calibrator 1.0.0』と、これに対応する同機用ファームウェア4.2.30を公開しました。このアプリは、サードパーティ製のキャリブレーターハードウェア……というより分光放射計を用いて、同ディスプレイの色校正をユーザー側が可能とするもの。

と聞くと、このジャンルに詳しいユーザーからは、「え!? 今までできなかったの?」と思われるでしょう。実はこれまで同機の画質調整は、ホワイトポイントや輝度の微調整、色域設定などに留まっており、再キャリブレーションは不可能だったのです(再キャリブレーションに関する技術文書は2020年2月に公開されていますが、その時点でも「今後対応予定」の旨となっています )。

その意味でこのツールは、一般ユーザーからは縁遠いものですが、一方で同機が“真のPro Display”となるためのミッシングリンク的なキーパーツ、とも呼べる存在でもあります。


なお、先ほどサードパーティ製の分光放射計と紹介しましたが、今回のツールを実際に使うには、Pro Display XDRの新しいファームウェア『ディスプレイファームウェア 3.3.23』と、表示色を測定するためのハードウェア(これが分光放射計)が必要となります。ポイントとなるのは後者で、アップルが対応ハードとして紹介しているのは、

  • Photo Research社のSpectraScanシリーズ『PR-740』『PR-745』『PR-788』

  • Colorimetry Research社の『CR-300』

の計4モデル。これらは業務用機材のため、価格などはいわゆる「応相談」の世界になる機材です。ただし、CR-300はオンラインの放送用機材ショップであるShopfsiで販売されておりますが、その価格は本体のみで1万5990ドル。

▲放送局用機材だけあり、価格的にはまさにケタ違いとなります(アップルさん、分光放射計も作りませんか……)

つまり、Pro Display XDRが要求する精度で色校正を行なうためには、このレベルの機材が必要になるということです(ただしこれはPro Display XDRだけではなく、他社のディスプレイでも近い立ち位置の製品ですと、このクラスの機材を要求します)。


▲アップル側の想定使用イメージでは、こうした「番組制作現場などでのマスターモニター」的な使われ方もありますが、こうした環境でこそ設置後の色校正は必須となるわけです

さて、このあたりの事情を乱暴ながら解説すると、色味を確認するためのディスプレイに対しては、一定の期間で「色校正」と呼ばれる作業が必要になります。

これは、チェック用の(正しい色とされるデータが確認できる)静止画や動画に対してディスプレイ側が同じ色で表示できるように、ディスプレイのファームウェアやPC/Mac側で補正を掛け、表示色を合わせることを指します(余談ですが、実際には様々な要因から「近づける」に留まることもありますが)。

ここでのポイントは、一定の期間で、と紹介した点。というのも、こうしたディスプレイの細かな色は、バックライトLEDの経年変化などによって変化することから「一定以上使っているとズレるのが当たり前」という認識が基本となるため。

厳しい表現をすれば、「プロ用を名乗るには、そもそも製品設置後の色校正は必須」と呼べる条件でもあるのです。

なお、この「Pro Display XDRが再キャリブレーション非対応」という点に関しては、本田雅一氏も発表時に指摘し、「将来対応予定」と紹介しています(下記記事を参照ください)。今回のアプリ公開で、ついにこれが対応になった、というわけです。

参考記事:ガチで凄かったAppleのPro Display XDR。HDRディスプレイとして最良の選択(本田雅一) #WWDC19

アップル側は今回のアプリ紹介で「カスタムキャリブレーションが必要となるような特定のカラーワークフローにおいて、Pro Display XDRのフィールド内での再キャリブレーションが可能になります」と紹介しています。

しかし、本当は、カスタムキャリブレーション(=あえて標準から色味をずらす設定)のみならず、フィールド内での再キャリブレーション(ユーザー側での色キャリブレーションや色校正)が可能になった、ということ自体がトピック。そうした点から、冒頭ではミッシングリンクと紹介した次第です。

このように今回のPro Display XDR Calibrator 1.0.0は、繰り返しとなりますが、多くの一般ユーザーからはあまりにも縁遠いものです。

しかし放送番組制作者や映像作家など、いわゆる放送用機材を使うユーザーにとっては、ともすれば「これでPro Display XDRの導入を検討できる」と言えるほど重要なアプリ、というわけです。

Source:Pro Display XDR Calibrator 1.0.0Apple Pro Display XDRファームウェアダウンロードページ(英語)Apple Pro Display XDR の測定とキャリブレーション