広報にまつわる人との接し方を中心に、たくさんの失敗と格別な体験を時事ネタ交えつつお伝えしていく本連載も25回目。今回は「キャラクター」をテーマにお届けします。


前回は広報という仕事の中、守備範囲をかなり逸脱して人の仕事に口を出していく中で、プロダクトにも関わってしまったというお話でした。今回はその後に発表した「ふくまろ」に思う広報活動について。古くは「タッチおじさん」にまで遡ってお話ししたいと思います。

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富士通PCのアイキャッチ「タッチおじさん」登場の背景

時は1990年代。Windows 95の勢いもあって、PCが世の中で、一気に市民権を得た頃のお話です。

FM TOWNSの投入でそれまで法人向けと思われていた富士通のPCがコンシューマ市場で大きな話題性を振りまいていました。とはいえ、NECに追いつけ追い越せで奮闘してはいましたが、中々キャッチアップできません。PCの販売数は店頭での売り上げがほとんどを占めています。お店の売り場が一番。ということはそこに来たお客様がどこのメーカーのPCに関心を持つかと重要だということです。

これからはじめようとしている人にとってはよくわからないPC。お店に買いに行ってもどれがいいかわかりません。「事前に雑誌の紹介記事で研究して、最後は店員さんに聞くのが一番良い」そう思われていました。

その頃の売り上げナンバーワンのNECは全てのユーザー層を抱えていました。一方、富士通のPCは個人向けに注力していたものの法人向けのイメージが定着しており、FM TOWNSでのコンシューマ戦略が浸透してきたと言ってもそれはまだ全体で見るとほんの少しの割合でした。個人市場で圧倒的に強いNEC。追いつくための商品開発はもちろんですが、店頭で見て触ってもらわなければならなかったのです。

PCキャンペーンキャラクター時代

その頃のNECの店頭展開は全てが完成されていました。商品の供給はもちろんですが、価格対策、店頭説明員の派遣や販売店店員向け教育などをしっかりとやっていたのです。それらの中でお客様向けのプロモーションとして季節を問わず通期で行っていたのが「バザールでござーる」という猿のキャラクターを使ったプロモーションでした。

先進技術を使えるPCのPRとして「この猿はどうなのか」と個人的には思っていましたが、大量に流されるテレビコマーシャルでキャッチコピーを連呼する場面は一般に大きく浸透していたのです。コマーシャルのナレーションも財津一郎さんがやっておりました。そう、今でも耳の奥に残る印象的なコマーシャルだったのです。

後追いする我々としても「商品以外のキャラクター、店頭キャンペーン用のキャラクターが必要である」ということになりました。そしてNECに遅れて3年、1994年の秋に店頭キャンペーン向けのキャラクターを世に出すことになったのです。それが「タッチおじさん」の前身「タッチくん」でした。それが翌年には「タッチおじさん」となり、以降「会社のイメージに合わない」といわれ廃止される2000年までPCのキャンペーンキャラクターとして「バザールでござーる」と渡り合うことになったのです。

▲富士通の幹部がバザールでござーるのうちわ持っているというキワドイ? シーン

このキャラクターは今までの富士通のPCキャンペーン路線とは大きく異なるもの。「タッチおじさん」の声は坂田利夫さんが大阪弁で担当してくれました。あの絶妙にとぼけたアジのある声です。かっこいいお父さんと言うよりはどこにでもいる庶民派、PCがちゃんと使えそうもないキャラクターで「PCは難しくないよ、誰にでも簡単に使えるよ」ということを伝え、富士通PCのハードルを下げようと狙っていました。ちょうどその頃、1995年より高倉健さんのコマーシャルで「簡単じゃねえか」のキャッチフレーズが話題になっていました。そうなのです、それまでのPCは難しいもので、今は簡単になって誰にも使えるものなのだということを訴求したかったのです。

これは大きく当たりました。キャラクターのかわいらしさのおかげでしょうか? 大量のテレビコマーシャルと店頭ツールへの展開、購入者やイベント来場者に提供するグッズ配布などにより、あっという間に親和性の高いキャラクターへと育ったのです。契約期間や紹介手法に様々な制約があるタレントさんではなく、仮想のキャラクターにすることで自由度も高くなります。

しかし、そのキャラクターの決定に際して私は大きく疑問を持っていたのでした。

異色だった「タッチおじさん」の採用

「企業向けに販売しているメーカーのPCが個人でも簡単に使える」ということをキャラクターで世間に浸透させたいという点については考えが一致していたのですが、自分の中ではPCを使うことで未来が見えてくる、クオリティの高い生活が見えてくるというイメージを強く持っていました。PCは特別なものだったのです。

それをなんとなくだらしないステテコを履いたおじさんキャラがプロモーションを務めると思うとどうも気持ちがついていきません。コマーシャルの提案では毎回代理店が絵コンテで笑いを取りに来ます。なんとなく面白い、なんとなくかわいいという内容なので、宣伝部も販売推進部も楽しげなプレゼンの時間となっていました。

従来、代理店プレゼンというのは結構な緊迫感があり、まさにバトルでした。どのように売っていくか、そのためにどんなプロモーションを行えばいいのか、それを考えるに当たって現在の商品と投入される商品を鑑み、戦略的に……という方程式が一気に崩れてしまっているのです。

「この絵コンテでは商品の特長は何も言えていない。」そう憤るのは私くらいだったのかもしれません。大体のプレゼンの時間は特に「タッチおじさん」の企画についてはほぼ100%「楽しくプレゼンの時間が終わる」という状況でした。

直接的な効果しか見えなかった頃

同じ頃、店頭でのPRイベントでは商品知識を徹底的にマスターしてもらったインストラクターの「FMVレディ」というチームを作っていました。

商品を見てもらうだけではなく、操作がわからないときにすぐその場で教えてあげられるように徹底的に教育された人たちでした。そして、イベント会場でお客様に対してしっかりした接客をしているのを見るにつれ、「このやり方でいいのだ」と噛みしめていたのです。そもそも、そういう思考だったので、「笑って盛り上がればそれでいい」という頭を自分は持っていなかったのです。

それでも、「タッチおじさん」を使ったキャンペーンは長きにわたり続きます。PCのアプリにも積極的に使われるようになり、「タッチおじさんメール」というソフトがプリインストールされました。メールが来ると「タッチおじさん」が教えてくれるのです。それはそれでかわいいのでよしとしていましたが、どうも私はどうも「タッチおじさん」が気に入らなかったのです。それなりに納得して数々のキャンペーンを行ってきましたが、心の中では「もっとかっこいいものがよかったのに」と思っていました。

そんな「タッチおじさん」も2000年を最後に終了します。当時の経営陣から「法人のお客様に対して会社の良いイメージを伝えることができないから」というのが理由の一つでした。どちらかというと「タッチおじさん」反対派だった私ですが、この時はちょっと寂しさを感じました。企業ユーザーに受け入れられないというところがなんとなく「本当にそうなのかな」と感じられたのです。

その時にすでにイメージは定着していて、ずっと私が思っていた「かっこよくない」というイメージよりも「親近感のある楽しいPC」というイメージ付けに役立ってくれていると思ったのです。「タッチおじさん」を続けているうちに私もそう思うようになっていたのです。キャラクターの力ですね。

「ロボピン」で気付かされる

自分の固定観念で「なんとなくかっこ悪い=キャラクターとして良くない」と思ってしまっていたのですが、そもそもキャラクターに何を想起させるかは一つではありません。もう少し視野を広く持っていればと、かなり後にですが思ったのです。

その時期が前回ご紹介した「ロボピン」を世に出した時でした。「ロボピン」をみてとっさに「かわいい」と思ったのですが、ロボットはかわいさを求めるものではありません。機能を求めるものです。反面、「人と寄り添うためのもの」でもあり、愛着を持てるかどうかはとても重要な要素だとも思うのです。

「タッチおじさん」当時、PCに対する難しくて近寄りにくいものというイメージが「タッチおじさん」というちょっと抜けた感じのキャラクターによって、人々の愛着が進んだのではないでしょうか。

あの当時、お客様がどう感じるかをよく考えることができれば……と、「ロボピン」が投入されたときに思い起こしたのでした。そして、それを客観的に感じ、キャラクターの力を信じて拡げていくのが広報の立場だと思うのです。

そして今同じ体験を「ふくまろ」ですることになりました。ふくまろは暮らしを楽しくサポートしてくれるAIアシスタントアプリのキャラクターです。最近のFMVシリーズにはプリインストールされているのですが、その良さがなかなか紹介しきれていません。AIアシスタントは進化が早く、またPCアプリとして必須というわけでもなく、あくまで操作を補完するもの。その利用方法が自分で見いだせていないというのが実情でした。

「ふくまろ」が進化しはじめた

8月31日に新たなサービスを提供することになり、どれだけの人がどのように「ふくまろ」を使っているのだろうと思って調べてみました。開発者にヒアリングしてみると「ふくまろ」の愛されかたが見えてきます。

「ふくまろと話すことが楽しくて買い換えをするといなくなってしまうのでは」と不安に思っている方や、「ふくまろのおかげでPCを使う気になった。」「話し相手になってくれるので本当にありがたい。」というユーザーの声が届いているそうです。

そして、それが再購入の決め手の1つになっていると気づいたのです。これは以前の「タッチおじさん」と一緒だなと思いました。異なるのは、「ふくまろ」は日々進化し、そしてお客様からの要望を受けながらその可能性を広げている点ですね。

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全てはクラウドファンディングからの気づき

こんな風に考えるようになったのは「LIFEBOOK UH Keyboard」のクラウドファンディングでの経験が非常に大きく作用しています。

クラウドファンディングはまだ継続中ですが、そこに送られてくるお客様のメッセージがとにかくありがたいのです。今までもお客様の声を大事にし、それを反映できるように広報をしてきました。ただ、こんなに大量のお褒めの言葉や、気付かされるひとことなどを一気に聞かされたのは初めてのこと。その分敏感になっているのかもしれませんが、改めて言います。お客様の声を聞くと嬉しくなります。もちろん批判の言葉は背を正して聞かねばなりませんが、そういうことではなく、何気なく気付かされるような言葉は宝物だと思うのです。

キャラクターが生み出す効果を事前に全て把握することはできません。それを使うお客様や目にした、耳にした人々の反応は様々です。そして、それを聞くことが最も重要な成果なのではないかと思います。

コロナの時代、オンライン化が進むことにより、今まで以上にお客様の声というものが普通に企業の耳に入ってくるのかもしれません。それは大きな変革です。SNSの善し悪しがささやかれている時代ですが、良い点はたくさんあります。発表会もオンラインになり、ただオンラインをやるだけではだめで、その取り組み方もだんだん高度になり、よりよいやり方が生まれています。ものつくりの現場でも時代の流れに敏感に取組んでいけばきっと新しいビジネススキームが次々に生まれてくるのではないでしょうか。

広報という仕事は、会社が関わっている商品全てがPRすべき商品となるので、ハードからアプリそして会社の経営体制まで幅広い範囲が対象となり、会社の生み出すもの全ての紹介をしなければいけません。全ての商品を熟知していくことは難しいですが、ますます頭を柔らかくしてスピード感を持って行かねばいけない時代になっていきそうですね。

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秋山岳久

PC全盛期とバブル真っ只中からPC事業風雲急時代までPCメーカーで販売促進・広報と、一貫してメディア畑を歩むものの、2019年にそれまでとは全く異なるエンタテイメントの世界へと転身。「広報」と「音楽」と「アジア」をテーマに21世紀のマルコポーロ人生を満喫している。この3つのテーマ共通点は「人が全て」。夢は日本を広報する事。