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広報にまつわる人との接し方を中心に、たくさんの失敗と格別な体験を時事ネタ交えつつお伝えしていく本連載も20回目。日常生活の変化にともない、パソコンの使われ方も変わりゆく昨今、過去に求められていた機能が再復活しつつあるような気がしています。今回はそんなお話です。


こんにちは。前回は役員に向けたレビューのお話をさせていただきました。役員が求めることに対して広報としてどう対応するか。人それぞれ異なりますが、私の場合はYesと言い続けること、説明の方法を複数の道筋を持って行くこと、そして、外の声をそっと役員に伝えることを大切にしてきました。

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さまざまなことがオンライン化していく中で最近注目されているものがあるそうです。それは大画面ディスプレイ。私もその気持ちがよくわかるのですが、オンライン生活が続くと、ノートPCの画面をずっと見ていると目が痛くなりますよね。姿勢も悪くなるので、ノートパソコン用のスタンドを購入したり、デスクワーク用のイスを買い換えたり。オンライン需要ですね。そして、まだまだこの生活は終わらないと感じて、またはコロナの時代が終わった後でも在宅ワークやオンラインが定着してくるだろうと踏んだ人たちが次に欲しいと思うのは大画面ディスプレイなのです。

オンライン会議が見やすく快適にでき、目の疲れを軽減してくれるほか、コンテンツも大画面だと迫力があって満足感が増します。そしてこの大画面ディスプレイでテレビが観たいという需要も高まっているのではないでしょうか。不思議なことです。パソコンの活用の幅が再び広がっていきます。再びというのは、そもそもパソコンに映像(テレビ、動画)を入れようとしたのは、もう27年前のことだったからです。

室内用アンテナを買い漁って全国の販売店へ

昨今では「そもそもテレビを見ない」という人も多いですが、そんな時代が来るとは全く想像ができていないころのお話です。

1994年5月、「FM TOWNS II Fresh TV」という機種がテレビ機能搭載パソコンとして初めて市場に投入されました。この年の7月にはNECからも発売されるなど、第一次テレパソブームだったと思います。その当時、パソコンでテレビを観るのはできそうでできなかったことだったのです。ハードウェアエンコーダー搭載製品は高価格帯でしたが、「パソコンを使いながらテレビも観られる」ということで話題になりました。テレビが観られるパソコンはディスプレイやサウンド機能も向上し、リモコンが添付される先駆けとなったのです。

それまではビジネスユース中心だったパソコンが、ゲームや音楽も楽しめる、そしてテレビまで観られる! というマルチメディア機へと進化したのです。そうなると当然、顧客層も変わります。Windows 95が登場する前年。当時イケイケだったパソコン市場がさらに大きく変わるのでは? と大きな期待をしていました。

しかし、実際に商品が店頭に並んだものの、お店のパソコンコーナーにはテレビアンテナが来ていません。拡販用ツールとして室内アンテナを大量に購入し、店頭展示をしている全店舗に送るなどの新しいプロモーション作業が増えていきます。ところが、どうもそのお店ごとの位置やフロアによって室内アンテナを使っても電波をうまく受信できません。そもそも地方になれば、チャンネル数が異なり、個別対応が求められます。

現場では良い画質でデモを行うために、アンテナの位置を変えたり、なんとなく高くアンテナを持ち上げたり(効果は不明でしたが)することでしのいでいました。「アンテナつけても写らないじゃないか!」営業からの怒りの電話が入ります。

「テレビが観られるようになった」という新機能を追加するだけで精一杯だった当時、混乱は他のメーカーも同じでした。店頭営業部隊には「全店で展開できるように」と協力依頼を出していたこともあり、「全然画面がでない」「そもそもアンテナ性能が悪い」「エンコードカードの問題では」「もっと手ころな価格でないと売れない」「パソコンにテレビ機能って必要なんだっけ?」と集中砲火を受ける販売推進部隊。これはお決まりですね。「売れなければ作った人が悪い」文化がメーカーに脈々と流れているのでした。

テレパソ第2次ブームが来たけれど

この痛手を負いながらも次のチャンスを狙い、事業部は商品化を進めます。ここで次の大きな波が来ました。2003年の地デジ放送開始です。Windows 95が投入され、空前のPCブームを迎えます。2000年を過ぎたころ、テレビ機能は強化され、ソフトウェアエンコードの時代となります。2006年にワンセグが始まったことで、ノートパソコンにも搭載されていき、「テレビを気軽に」という風が吹いてきたのでした。コストも下がり、MPEG2での録画、タイムシフト機能など「テレビを堪能する機能」が増えていきます。しかし、このときもそれほど美しくない画質に加えて高価格帯だったこともあってか「パソコンがあればテレビはいらない」というメッセージはお客様に届きませんでした。そして2度目のブームはひっそりと終わります。

そのころ社内には「テレビを扱ってもだめ」という雰囲気が流れていました。地デジのスタートでテレビ市場は盛り上がっていましたが、今回もセールスにはつながらなかったのです。

地デジになったことによりコピーができない(録画ができない)などマイナス要素が増えてしまったこと、そもそもテレビ自体が急激な低価格戦略を敷くようになり、それまでに訴求していた「○○型のテレビだとこれくらいの金額なのにパソコンでみるとこれくらいお得、しかもパソコンの機能までついてくる」という論理が崩れてしまったのです。また、「パソコンでテレビをみる価値」がそんなに求められていないということもありました。

テレパソをやる本当の理由

それでもPC市場の挑戦は続きます。その理由の一つとして、市場全体が停滞傾向になり、「何か新しい付加価値」を追求しないと海外からの激安パソコンに市場をとられてしまうという危機感がありました。

単にインターネットとビジネスで使うだけなら低価格のパソコンで十分、そういう時代でした。そんな状況があって、日本メーカーならではの付加価値が必要だったのです。テレパソという付加価値は重要な差別化ポイントであり、やめるわけにはいきませんでした。

「FMV-TEO」投入

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2007年にはテレビを活用した斬新な商品を投入しました。「FMV-TEO」です。これはパソコンのディスプレイではなく、テレビにつなぐパソコンとして作られました。(ですので画像の通り本体のみの販売です)

それまではパソコン用のディスプレイとテレビは別物だったのですね。これは技術的に画期的でした。また、TEOという名前はそれ以前にイルカと鳥を掛け合わせたような「フィンフィン」(今でいうAIアシスタントの走りのようなキャラクター)を使っていたこともあり、パソコンとテレビの融合の象徴的なイメージを持たせていたのです。

この商品も自信をもって大々的にプロモーションを行いましたが、残念ながら理解されるところには至らない結果に。こうなるとテレビ機能は魔物。そう思いつつもやり続けなければならず、コストが見合わないテレビ機能との戦いが続いていくのでした。

第3次テレパソブーム

そうして第3次ブームがやって来ます。2011年アナログ停波です。このころになるとパソコンでテレビが観られるのは当たり前の機能として受け入れられるようになってきました。

そうなると訴求の仕方も変わってきます。最初のころはターゲット論よりもパソコンでテレビも観たいアーリアダプター層向けだったものが、一人暮らしをはじめる学生のワンルームにはテレビとパソコンの両方を置くスペースがないだろうからこれ1台で! という仮説型の訴求に。そしてたどり着いたのが、書斎で仕事をする人のセカンドテレビとしてです。普通の生活の中で地デジを観るための選択肢にパソコンも加えてもらえるようにしてきたわけです。

これにはある程度の支持が得られました。スマホでワンセグを観るのも当たり前の時代でしたので、「地デジ放送を綺麗な画面で」というのは十分特長として捉えてもらえたのかと思います。

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過去に何度か訪れたブームでの経験を活かし、使いやすいリモコンや録画アプリの訴求も重要な要素でした。家庭にいくつもあるリモコン、「高機能化したリモコンはとにかくボタンが多すぎて使い方がよくわからない」という方のためにもリモコンの説明をわかりやすくするなど周辺機器にもこだわってきたのです。

しかし、商品として成熟しかけたテレビ機能も大きな波に襲われます。パソコンの代わりにタブレットやスマホが大きく台頭してきました。「パソコンは近いうちに無くなってしまい、すべてタブレットに入れ替わるのでは?」という雑誌記事も目につくようになります。加えて、最も大きかったのは「テレビを観る人が減ってきた」ということ。

映像コンテンツは変わらず人々の生活の中心にありましたが、それはテレビ放送ではなく、YouTubeなどに代表されるネット上の動画コンテンツなのです。この流れは全く違う意味合いでテレパソ市場を直撃しました。

映像の歴史はテレパソの歴史

こうしたテレパソの挑戦は何を残せたのでしょうか? 映像をPCで観るという技術はインターネット番組の視聴につながってきますし、映像をパソコンで観ることが当たり前となる布石になりました。ネットにつながった先の映像を見ながら会議をすることもできるようになりました。

コロナ禍以前もオンライン会議を活用していた企業はありますし、Skypeなどのアプリは使われていたと思います。ただ、それはまだ一部の世界観、ビジネスでの世界観だったかもしれません。

今、こうしてオンライン生活となり、パソコンで映像を当たり前に観るようになったこの時代の道筋は、テレパソの開発に尽力した人たちが根本にあるのではと思いました。

そして、映像コンテンツも自分たちで容易に作れる時代となってきたのです。長くなりましたのでこの続きは次回に。


PC広報風雲伝連載一覧


秋山岳久

PC全盛期とバブル真っ只中からPC事業風雲急時代までPCメーカーで販売促進・広報と、一貫してメディア畑を歩むものの、2019年にそれまでとは全く異なるエンタテイメントの世界へと転身。「広報」と「音楽」と「アジア」をテーマに21世紀のマルコポーロ人生を満喫している。この3つのテーマ共通点は「人が全て」。夢は日本を広報する事。齢55を超えても一歩ずつこの夢に向かい詰めている現在進行形。