広報にまつわる人との接し方を中心に、たくさんの失敗と格別な体験を時事ネタ交えつつお伝えしていく本連載。17回目となる今回は取材を受ける人にフォーカスしてみました。

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こんにちは。商品を取り扱って頂くためにメディアの皆さんから便利な存在であること、言葉は悪いですが本質です。都合のいい広報を極めることができればコミュニケーションも増え、うまく回っていくことでしょう。しかし、広報が取材を受けるわけではなく取材対象者がいてあくまで広報はそのアテンド係。取材される人とのコミュニケーションも重要な役割なのです。今日はそのあたりのお話をしたいと思います。

ヒーロー社員をつくる

広報取材が来るとウキウキしながら商品開発者に取材対応の連絡をします。

「メディアから取材依頼が来て取材を受けるということは、自分の作った商品の紹介なんだから喜んで受けてくれるだろう」「自分の作った商品のPRをするのは当たり前だろう」と。でも実際、商品開発者にはそう思ってもらえていないことが多いです。

「自分が開発に関わったのに広めて欲しくないんですかね」、そんなことはありません、広めたくないなんてことはありません。

要は「自分が作った商品について、自分が思っているような紹介を自分がそう係わることなく開発思想に則って紹介して欲しい」ということなのです。

もちろん、中には「自分の言葉でこの商品をしっかり紹介したい」という人も希にいます。残念ながらこのようにいきなり積極的に協力してくれる人は多くないです。

いきなりというのは「最初はそうではなかったけれど、取材を受けていくうちに協力してくれる人」はいるということです。そして、この人に「協力的に」なってもらえるかもらえないかは広報の対応次第なところが多分にあります。

開発者にとって商品は自分たちが生み出したモノで可愛くないはずはありません。作った商品を紹介したくないとは誰しも思わないでしょう。

ともあれ、作った商品を広めたいという意識は一致しています。あとはどういった手順をとるかということを考えればいいわけです。本質はわかっているのですから、私のできることはいかに「取材という非日常」を開発者の日常の一部にできるかに尽きます。

取材において相手の血圧を上げることなく、気持ちだけ上げてもらう。そのために事前にやることはたくさんありました。

今はWeb中心ですから原稿の掲載も早ければデジタルなので掲載後に多少の修正も可能です。ただ、紙媒体となるとそうはいきません。一度書かれた記事を修正することは物理的にも難しい。となると、「余計なことを言ってしまったらどうしよう」いう不安が取材対応する開発担当者の心に生まれてきます。

すでにその前段で「この前○○さんが○○の取材を受けたけれど、結構ひどいことを書かれた。事前に記事を見せてくれないし、受けなきゃ良かった」といった植え付けがあるかもしれません。記事なので事前に原稿の確認ができずに出版されることもありますし、言ってしまったことなら書かれても仕方ない、記者からすると「そう言いましたよね」となります。そうなると不安がどんどん増し、取材の段取りをする中でどんどんネガティブな発言が出てきます。

「この取材って受けなければいけないものですか?」(いけないってことはないけど)。

「広報で対応できないの?」(目玉商品をあなたが作っているからあなたの言葉で言ってほしいんですけれどね)。

「スケジュールが詰まっていて難しいので他の人では?」(と言われてあなたに回ってきたのですが)。

など、乗り気でないことは明白でした。さらに取材について上司に報告をしたようで、そのあとからは取材を受けることに納得してくれましたが、様々な要望が入ります。

「取材を受けるのはいいけれど、○については担当外なので応えられない。そこはノーコメントで」(それでも今回のメインの取材なので話せるところはちゃんと話してね)。

「他のメーカーは受けているのですか?」(と聞かれてもそれは編集さんのきめることなのでわからないのですよ)。

「記事チェックはできるよね」(広告でないのでなんとも)。

「○○と○○は言いたくないんだけれど」(じゃあ、何言えるんですか?)。

だんだん嫌になってきました。でもそこは耐えられるようになってきました。それは取材後に掲載誌を見て喜んでくれる開発者がいるからです。

Fujitsu

取材自体は不安な状況ですが、実際にインタビューが始まるとよほど厳しすぎる記者ではない限り(一部を除く)、取材内容は開発者がずっと努力を重ねていたことの棚卸しです。どうやってこの商品が世に出せたかのストーリーは毎回聞いていても興味深いものです。そして、意気投合してくれた開発者は必ず次の取材も受けてくれるようになります。

この結果がわかっているので私は自信を持って取材対応を勧めます。その記事はその商品に係わった人たちの勲章となり、取材を受けた開発者も最終的には喜んでくれます。その時に見せる笑顔と安堵の表情が「よし、次の取材も探していこう」という原動力につながるのです。

そのためにも取材中はかなり気を遣います。初対面同士なので最初は誰しも堅く、とにかく「柔らかい雰囲気つくりに終始します。「今年の巨人は強いですね~」的な定番の営業トークしかり。和みの中から取材の意図を簡単に共有し、あとは記者さんにバトンタッチをするのです。

そして、当然記者さんの聞きたいことは開発が言いたくないことであったりもします。そこは要注意です。その場その場でコメントをしないとせっかく聞いた話が無駄になってしまうので、「これはまずい」と思ったときにはすぐに茶々を入れます。

「その話はまだきまってないので次回でおねがいします~」私がやさしく記者さんに言うと、開発者は「あっ、これってまだ発表していなかったのか」という表情をします。

開発者はリリースをしたかしないかのタイミングを案外覚えていないもの。口が滑ってしまうこともあるので要注意なのです。ここをしっかり押さえておかないと、あとから「コメントもらったので書きましたよ」と大騒動に……。NGトークのチェックはシビアにする必要があります。

和やかな取材かつ、取材対象が役員クラスで、話の腰を折るのは……と思い、その場はスルーして帰り際に「さっきの○○と○○はNGで」と伝えたこともあるのですが、「あ、わかりました、大丈夫です」と言われつつ思いっきり書かれてしまったことがありました。「誰が立ち会っていたんだっけ?」と社内で袋叩きにあうのは自分なので本当に注意深く話を聞いています。

取材の対応はそのタイミングも重要で、「今受けるべきタイミングかどうか?」にこだわることが重要です。

商品発表ラッシュ中だったり、インパクトのある商品が投入されたときだったり、違った切り口で取材を受けると露出のタイミングによっては、会社として言いたいことが分散されてしまいます。多角的に見える分には良いかもしれませんが、例えばモバイルの軽量化を全面に出したいときに個別のアプリの紹介がメインの取材なんかは時期を変えた方が得策です。

これらのポイントさえしっかり押さえておけば取材はうまく双方にとって良い形で行われると思います。

取材がうまくいかないと、内容に対してクレームを言わなければいけないし、担当者も責められてかわいそうなことになります。そしてなにより取材を受けて嫌な目に遭ってしまうと、開発者はもう取材を受けてくれません。そもそも掲載媒体が嫌いになってしまうでしょうし、良いことは何一つありません。

メディアの編集者さん、記者さんとのやりとりは緊迫感もありながら、受け入れてもらうと非常に嬉しいのですが、ノリで取材を盛り上げてはいけないこともあります。記事が書かれた後の自社製品のポジショニングを高く保てるか、取材を受けて良かったと開発者に思ってもらえるか、様々な要素を鑑みベストの取材チャンスを創ることが大切だと常に考えています。

自分たちが係わった商品を伝えたくない人なんていない

ある時、研究所の取材が入ったときのことです。

取材の前に概要を確認しようと早めに訪問したのですが、明石にある研究所で、私も行くのは初めて。到着すると研究室は巨大な工場の中にありました。東京から事前に取材の説明はしてありましたが、初対面からかあまり良い顔はしてくれません。見た目も「白衣を着た The研究者」な出で立ち。今日の取材よろしくお願いしますと伝えても「忙しいので短くお願いしたい、言えることは何もないよ」と。これは失敗したなと思いました。

編集者さんを明石まで連れて行ったにもかかわらず、ちゃんとした記事を書いてもらえなければ私の仕切りが悪いことになります。一体どうなるだろうと取材はスタートしました。あまり笑顔もなく淡々と答えているのですが、意外にも編集者さんからはいかにも研究者っぽいと興味を持ってくれ、結果としてあまり本質には触れられなかったのですが、それでも十分な取材だったと言えるでしょう。

その後、記者さんと食事を取って帰ろうということになったのですが、研究者の方から「今日このあと懇親会があるのだけれどよかったら編集者さんときたら?」と声をかけられました。

堅い雰囲気での取材だったので気乗りはしませんでしたが、そこで追加の話が聞けたらと思い、途中から合流することにしました。宴席の会場につくなり、盛り上がっている皆さん。そして研究者の方も顔は真っ赤になっていました。まずい、これでは話を聞くなんて無理かもしれない。編集者さんの気分を害さないうちに他の店に行こうと思っていたそのときです。

横の席を見るとすでにできあがった研究者と編集さんが話を始めています。私もその輪に入ると、さっきは一切言えないと言っていたことがぽろぽろと出てくるのです。研究者の方は取材をしてくれた編集者さんを気に入ったようで、まるで別人のようにありとあらゆることに答えてくれました。「奇跡が起きた」そう思いました。もちろんNGワード全開でしたので、いちいちNGを出しながら進みましたが、結果的には大満足の取材になったと思います。

それ以降、この明石の研究者とはかなり親密になり、取材を受けてくれるのはもちろん、本社に来たときは私の席に寄ってくれたり、研究者ならではの毒舌で面白い話を聞かせてくれたりしました。

その時に思ったのは誰しも自分たちが係わった商品を伝えたくないなんて考えることはない。伝えたいからこそ、伝えるための道標をしっかり作ってあげることができれば良いのだと。取材を通じて社内のいろいろな部門の人と知り合うだけでなく、その人たちの仕事における生き様を知ることができることはありがたいことだと思うようになりました。

Fujitsu

少し昔、IT広報業界には広報が天職だった人がいました。毎年命日を迎える頃に思い出すのは早咲きの桜がきれいだった頃の葬儀会場。現役だったこともありたくさんのメディアの方々が最後のお別れをしました。

とにかく仕事熱心というか商品愛が強く、取材対応力も抜群で社内の様々な部門の取材記事を見るたびに「調整大変なんだろうけれど商品愛でおしきっているんだろうなぁ」と思っていました。私もそうなりたいと思って、彼女を目標に今もモノつくりの人たちを世に出しヒーローにしていくことが使命と思って日々無理なお願い推進中です。


PC広報風雲伝連載一覧

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秋山岳久

PC全盛期とバブル真っ只中からPC事業風雲急時代までPCメーカーで販売促進・広報と、一貫してメディア畑を歩むものの、2019年にそれまでとは全く異なるエンタテイメントの世界へと転身。「広報」と「音楽」と「アジア」をテーマに21世紀のマルコポーロ人生を満喫している。この3つのテーマ共通点は「人が全て」。夢は日本を広報する事。齢55を超えても一歩ずつこの夢に向かい詰めている現在進行形。