広報にまつわる人との接し方を中心に、たくさんの失敗と格別な体験を時事ネタ交えつつお伝えしていく本連載。18回目の今回は、コロナ禍にみる気づきが広報活動とも関連していた、というお話です。

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こんにちは。前回は、自分たちが作ったものを紹介することにまつわるお話をさせていただきました。

「せっかく取材をしてもらえるのに、なぜあなたはそういう態度なの」なんてことは、広報の共通の悩みなのではないでしょうか? もちろん、日々の活動で商品開発者の代わりに広報がコメントしなければならないこともあります。そんな時によくある出来事を一つ。

広報は発言に根拠のあるなしが気になる

世の中コロナがまん延していて人間関係が難しくなることもあります。深刻な問題が目の前に迫った時、その人の本質が出ると言います。「もうだめだ」「どうしよう」とパーソナルに悩む人もいますが、よく見かけるのは、断定型の物言いをする人です。

例えば「コロナは絶対この夏には終わるから大丈夫。終わらないはずはないし、みんな頑張っているから大丈夫」。ちょっとありえないその言葉、今のこのご時世でそんなことを言ったら総スカンをくらってしまうでしょう。

これを聞いて不快に思うのは、その発する言葉だけではありません。自分の考え方を周りの人に断定して言葉を放つことに違和感があるのではないでしょうか?

ですので、その違和感は立場を変えるとこうなります。「コロナは当分収まらない。みんな自粛をしないし、いつまでもだらだら続いて日本の経済は回らなくなるのでしばらくは何もしないほうがいい」。なんとなくこの論調は世の中でよく聞く言葉で、違和感も少ないです。むしろ多くの日本国民であればこの話を聞くと「うん、うん」と頷いてしまうはずです。

でも、ここに不思議な理論が潜んでいるのです。「コロナが当分収まらない」のはなぜか、収まらない理由と今後も収まらない根拠はどんなことか、「自粛をしないと収まらない」のはわかるが自粛をすればどうなるのかはわかっているのでしょうか?

「いつまでもだらだら続いて日本の経済は回らなくなる」というのは、どのくらいの期間のことでどれくらいの損害が出た時のことを指すのか。そして、それを言うあなたはその専門家であり、エビデンスを持っているのか。……突き詰めると不確定要素ばかりです。

インターネット上ではそのようなお互いの主張のあら探しのようなことが行われていたりしますが、ポイントは「と(なんとなく)思っているので言い放ってしまう」行為が違和感につながるのではないでしょうか? 根拠がなければ単に第三者からの受け売りかもしれません。そうだとすれば受け売りで他人を不用意に怖がらせても意味がありません。その反対もあり、受け売りや希望的観測で他人に無意味な期待をさせることは、相手にとってはもっと迷惑になるでしょう。

会社の社員、役員、社としての発言の説明責任を負う部署であることからいつもコメントに対するなぜ? を連発してしまう癖がついてしまいました。(※面倒な人ではありません)

それは広報の世界、特にキャラバン(新商品の発表前または発表時にメディアの皆さんに商品情報をお伝えする活動)で良く起きることと同じ状態になるのです。

商品愛が時にはプレゼンの壁になる

キャラバン活動は、広報担当者に対して編集部の複数の皆さんというケースが多いと思います。編集者側はたくさんの人数がいますが、広報側は一人か二人で絶対的に多勢に無勢。その状況で、新しく出た商品、自分も最近知ったばかりの商品のプレゼンを行わなければなりません。商品をプレゼンする目的は「この商品の価値を高く理解してもらって記事を書いてもらうこと」です。社内で事前に仕込んだ今回の商品ならではの特長や技術革新を必死で説明をすることになります。

ここで、やってしまいがちなのが、「一目惚れの愛型プレゼン」です。

「今回の商品とても自信があります。〇〇が提供した最新のデバイスを採用しているので、今までと比べてこんなに素晴らしい性能向上を果たしました。OSの起動もこんなに早くなりました。使いかたも広がります。併せて〇〇種のアプリも使えるのでどなたにも楽しんでいただけます。今まではなかったですよね。こんなに使いやすいものを市場投入するのでぜひ紹介してください」

当然、新商品が出るときは前の商品より性能がアップすると思います。しかし、商品愛が強いばかりに説明する商品の機能の全てを全ての人が愛してくれるという前提があるかのようなプレゼンでたたみ込んできます。そこには「価格」の要素を度外視している場合も多々あります。

そしてこういったプレゼンをする人もいます。名付けて「リゾラバ型プレゼン(リゾートの特別な環境に行くと恋愛をしてしまう人の風習を昔はそう言っていました)」です。

「今回の商品はこれまでの中で最高だと思います。社員も本当に頑張ってくれました。こんな素敵な商品なのでぜひたくさん記事を書いてください。他社にはないので、ぜひうちの商品を単独でお願いします。お願いです。」

このような愛の溢れるプレゼンを聞いた後、編集者さんはこう言うのです。

「とても良いことはわかりました、できれば、そのよいポイントをもう少し具体的に教えてくれませんか?」

「はい、今回の商品は会社をあげて力を入れているのです。最新の機能の○○も入れています。とってもすごいんですよ」

「それは御社の中では今までより性能が良いという話ですよね……」

広報たるもの常にモチベーションを高めるためにも商品を愛さなければいけません。「絶対うちの商品が1番」と強く思い込んでいます。それはとても重要なことです。しかし、なぜそう言い切れるのでしょうか? 自社の商品のすべてを知っていて語ることはできても、同じ時期に他社から出てくる商品については知らないはずです。

比較対象となる他社のことを知らずして1番と言ってしまう。究極の商品愛です。以前も商品を愛さねば広報はできないと書いたことがあります。それ自体は素晴らしいことですが、ふと、我に返って周りを見渡すと編集者の皆さんの冷静な視線を感じる時がありませんか?

編集者の皆さんはおよそ同じ時期に行われるNDA(新商品のメーカごとの内覧会)に出ていて、秘密保持契約があるから口には出しませんが、大体各社のことを知っている人たち。それぞれのメーカーのプレゼンを聞きながら、その人の頭の中にある比較表に今聞いたA社の最新情報を当てはめている最中なのです。ですので、実は「自分たちがトップ」と思っていた機能の一歩先にいく商品を他社が用意していたり、今回初めて投入した新しい機能も実は全社同じく採用していたりするわけです。

心を読むプレゼン手法

それでも、この前向きなプレゼンは決して悪いことではありません。確信的に「自分たちだけが採用している」プレゼンを行うことで編集者の顔色を見るとそれが自分たちだけなのか、他社も対応しているものなのかが読めることも。私も以前に経験があります。

「さあ、皆さん、今回の目玉です。今回、初めて地デジの〇〇を他社に先駆けて採用しました。じゃじゃ~ん!」華々しく新商品のボディをお披露目した瞬間、その言葉に反応をしない編集者の皆さん。続けざまに「今回世界初の機能なのです!」といった時に目のあった編集者さんの目が泳いでいたらそれは「あなたのところが初めてではなく、今回みんなそれを投入するんだけれどね」という暗黙のサインなのです。こうなると私はまるでピエロですが、これはこれで一定のリサーチにつながりました。プレゼンの時の高度なやりとりなのかもしれません。

プレゼンは相手に球を全力で投げ放つのではなく、投げた球をどう受け止めてくれるかを観察して、その後、相手から跳ね返ってきたボールをいかに綺麗にキャッチできるかが重要だと思っていました。編集者のみなさんの声に出さない本音を読み取り、そのキャッチしたボールを開発部門にフィードバックすることが、商品を市場投入する直前、発表前の最後のひとあがき(改善、改版)に繋がります。当然、言葉で聞いたわけではありませんので想像の域を超えないのですが、たくさんのプレゼンを実施していると見えてくるものもあります。「一目惚れ」も「リゾラバ」もちゃんと編集者の受け取り方のニュアンスを回収できるようになってようやく広報として会社に貢献しているかな、と言えるのではないでしょうか。


余談ですが、中国によく行っていたころ、現地でこんなことがありました。

「僕は中国が大好きです!」誰もが肯定してくれると思っていましたが、こんな質問をもらいました。「なぜ中国が好きなんですか?」一瞬ぎょっとしました。もちろん、本心で言っていますが、質問をされることは想定していなかったのです。

それでも本音ですから回答はできました。「中国は大きな国で自然も文化も好きだから」。その回答に相手は無表情。「そしてほかには?」と聞かれるとますます焦ってきます。「こうしてたくさんの友人ができたので中国が好きになりました」。これにはなんとなく頷いてくれました。

それでももう一度「そしてほかには?」と聞かれました。だんだん想定していたロジックは消えて口から出た思い付きの言葉を発します。「重慶火鍋は日本にはありえないくらい辛いし、それを野外で食べるのは最高」と他愛もない答えをしたら、笑顔で「好(はお、いいねという意味)」と答えてくれ、その場はなんとか収まりました。

まあ、本当に話を聞きたいと思う人ならそのくらい聞いてきてもおかしくはありません。聞き流すようなトークならば、いかにもと作った答弁もありますが、やはり相手と対峙するときには「なぜ?」を3回くらい繰り返しても答えられなければ本質ではないのかもしれません。


次回はそんなやりとりについてもお話ししたいと思います。


PC広報風雲伝連載一覧

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秋山岳久

PC全盛期とバブル真っ只中からPC事業風雲急時代までPCメーカーで販売促進・広報と、一貫してメディア畑を歩むものの、2019年にそれまでとは全く異なるエンタテイメントの世界へと転身。「広報」と「音楽」と「アジア」をテーマに21世紀のマルコポーロ人生を満喫している。この3つのテーマ共通点は「人が全て」。夢は日本を広報する事。齢55を超えても一歩ずつこの夢に向かい詰めている現在進行形。