Fujitsu

広報にまつわる人との接し方を中心に、たくさんの失敗と格別な体験を時事ネタ交えつつお伝えしていく本連載。19回目となる今回は、広報担当者として避けて通れない役員インタビューの準備で危機に陥ったときのお話です。


19回目となる今回は、広報担当者として避けて通れない役員レビューで危機に陥ったときのお話です。

こんにちは。前回は、「商品を紹介する立場として商品愛はとっても大切。とはいえ一方的にはならないように」、そして「単に自分の主張をするだけではなく、編集者の気持ちを読み取りながらプレゼンすればいろいろな情報が手に入れられる」というお話をしました。

相手の気持ちを大切にすることは全ての仕事に通じること。その最たる出来事が役員に対する事前説明です。長い時間をかけて準備したことがどうなるかここで決まります。一気にスタートを切れるか、振り出しに戻るか、はたまた厳しい迷宮に入り込むか、そんな瀬戸際なのです。

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役員インタビューには通常取材の数倍もの工数がある

広報の仕事で避けて通れないのが役員へのレビュー。編集者の皆さんから役員への取材要望を受ける度、その取材のポイントをプレゼンします。

そのために要する工数はかなりのものですが、まずは「どんな取材かを明確にして、その取材が受けるに値する内容ということを理解してもらい、その上でスケジュールを確保する」という、入り口の作業をまず行います。これはほんの入り口です。

スケジュールを押さえることは簡単ではありませんが、ここをクリアしないと予定すらもらえません。なので、最初で最大の難関でもあるわけです。

編集部サイドには要望や質問をすでにもらっています。ということは、編集部サイドからすると「あとは日程をもらって取材をするのみ」という状況になっています。となると、この話を進めるも止めるも自分の調整能力にかかってくるわけです。ですが、編集部サイドにもらった情報はあくまで取材をしたい側のものであり、受ける側が聞いてほしい情報とは言い切れません。むしろまったく「受けたくない」内容の場合もあります。そこで「取材を受けるに値する」ものにするため、筆をなめる作業が重要。送られてきた企画書をそのまま転送するなんてことはまずやらないですね。そうして、なんとか取材日程を確保するわけです。


編集部サイドからは事前に取材の骨子やある程度質問をいただき、「役員にこんなことを話してほしい」という情報をもらったうえで準備を進めるのですが、開発担当者などの取材とは異なる点があります。

たとえば開発担当者の場合、取材の主旨と内容を確認したあとは開発担当者にある程度委ね、「この内容をあなたに答えてほしいのです」と体のいい丸投げをすることもあります。

まあ、モノつくりをしている本人が取材を受けるのであれば広報的な推測はいらないわけで、ある意味立ち会いをしてあとは数字に関することやNGワードなどをチェックしていれば良いわけです。ですが役員となるとそうはいきません。事前にもらった質問票に対し、まるで自分がインタビューを受けるかの如く、まるまるすべての回答案を準備する必要があります。そして想定される回答は「自社が求めるもの」と「メディアが求めるもの」の間を取るものに仕立てなければなりません。

2つ以上の答えを持って挑む

質問の内容としては、商品のこと、業績のこと、振り返りに今後の展望など多岐にわたります。取材が決まり、役員に詳細レビューを行うわけですが、この役員説明では必ず「Yes」を持って帰ることが重要です。

自分にとっては死活問題ですから、そのために作る資料はいつも「2つの答え」を用意するようにしていました。確固としたる会社の方針があるような質問に対する答えにブレはありませんが、大体の事は解釈の違いやその人の思いも入り、答えは一つではありません。

たとえばレビュー用に開発部門から上がってきた「こう言ってほしい」という資料は「自社の主張」たるものであり、その商品が売れるというビジネスプラン付きのストーリーです。取材として求められる事としては、「そもそも商品発表は各社売れると思ったものを投入してくるので、市場全体の中でどのポジションにその商品が当てはまるのか」ということ。「自社の主張」はイントロを聴きながしたぐらいに過ぎません。編集者にとってはこれ以降が聞きたいことなのかもしれませんが、時にはそこからは言えないことだったり、言いにくいことだったりします。

ただ、それは役員も承知していること……ですが、必ずしも本当にそう思っているかはわかりません。疑念があるけれど答えが出ないままここに到っているかもしれません。それが取材というマンツーマンの場で「本音」が出てしまい、その前段であるこのレビューの場で思いっきり跳ね返ってくるのです。


こんなことがありました。とある商品投入の直前。内覧会を終えた後、編集部より役員インタビューの依頼があり、その取材に向けて役員にレビューを行った時のことでした。しっかりと徹夜に近い作業で完璧なパワーポイントの資料を持って(作ったのは企画部門ですが)役員にレビューを行います。

およそ社内の言いたいことは網羅されていました。しかし、その説明を終えた後に役員から出た言葉は「この商品って必要なんだっけ?」と一言。いきなりの言葉に一瞬汗がたらっと来ます。

「新商品の内覧会を受けた上でこの商品のアピールをする取材を行う話なので、発表については開発部と営業部門でオーサライズされているのですが……」と言いたい気持ちを100%抑え、「はい、発表日は決まっていますし、予定通り投入できるよう準備をしています(企画部門が)」と、まずはその場の緊張を解こうと言葉を続けます。

しかし相手もさる者。「何が特長か今一掴めないんだよね、この商品って誰が買うんだっけ、ほんとに出すの?」。来ました、いきなりのちゃぶ台返し。あってはいけないことのわりによくあることですが、その回答を広報に求められても答えはありません。

そうなると完全に筋書きは崩壊します。

「それは前回ご説明したように……(商品化会議で説明されてましたよね? それをいまさら? という気持ちで)」など希薄な答弁を続けるしかありません。とにかく全否定されていますから。もちろん、すでに商品の狙いやターゲット、特長はさんざん説明済ですべて承認済。開発部もあとは出荷を待つくらいのイメージを醸し出しています。

否定されても「申し開きはしない」が秘訣

ここで大事なのは自分の説明したロジック以外の回答を用意しておくことです。この役員は別に商品発表をやめたほうがいいということは言っていません。「どうなんだ」ということを聞きたいわけです。その「どうなんだ」を紐解く答えが先ほどの私のプレゼンにはなかったわけです。ここで慌てる必要はありません。でも、慌てますけど。

こういう時は役員の放った言葉はスルーして今回の取材の本質を考えます。商品についてのコメントは商品に対する一つのキャッチボールにすぎないのです。自分の完璧なまでのプレゼンを一度否定する立場に立ってその答えを用意していきます。A案に対する対抗のB案、トリッキーなC案もあるとよりよいかもしれません。そして、A、B、Cは極力ある程度考え方に乖離がある方が良いと思います。

つまりこういうことです。「この商品は、開発部と企画部門で作り上げたマーケティングデータを元にし、他社比較をした上で投入する価値がある」というA案、そして「うちの商品の評価も気になりますが、今うちが持っていない市場、そこのターゲット層に向けてというアプローチは正しいですよね。そこに向けての商品なのでまずはメディアに対して、この市場に商品を投入する! というメッセージが有効なのではないでしょうか」というB案。さらには「先日こんな人たちにヒアリングしたのですが、その人たちが最も好むモノが今回の商品の方向性にマッチしていて」という具体的な事例を示したC案といった具合です。

役員レビューの際には自分の説明を否定されても、「逃げない、言い訳をしない」事が大切。よほど間違った準備でない限り、答えはすぐ近くにあります。「同じことであっても表現次第でプラスに転じる」そんな選択肢を持ちながら、役員に否定されたときにはとにかく申し開きはしないという前提が大事かなと思うのです。

結果としてこのときも無事に収まりました。その後の商品化については紆余曲折ありましたが無事にリリースされ、市場でも話題の商品となったのです。

YesでNoを返す表現方法の練習

もう一つ、「Yes」という言葉を大事にすることも心がけていました。これは自分の中で行う一つの練習のようなものですが、同じ否定をする場合でもYesを使ってNoを伝えるようにしようと考えていました。

相手の質問や会話に「いや」と否定で答えるのではなく、「そうですよね」と肯定で受け止めることができれば話は途切れません。よく人との会話で相手の言葉に「いや」でスタートする人をたまに見かけますが、あまり楽しい話にはならない気がします。

相手との会話の中で、言われた内容が自分の考えと異なっていても、すべて肯定の言葉で答えを重ね、納得してもらえるようにするにはどうすればいいのかを考えてみると頭の体操にもなります。

結局答えは同じ事なのですが、会話というキャッチボールの中で話が一回りして結果的には相手が納得する答えに結び付ける、そんなこともできると思います。

海外ではどうなんでしょうか、ストレートに言うことが良い文化もありますが、日本はまだまだ、そうとも言い切れません。Noを単純にNoというのではなく、相手の気持ちを考えてYesから始まる構文でNoと回答するのは自分もポジティブになれます。これは今も変わらず続けていることです。

適切な外気を「そっと」取り入れてあげること

そう思うと、こちらのレビューに対して役員が反対の考え方で質問してくるのは、すでに決まっていることをひっくり返したいのではなく、仮に編集者からの質問がこうなるだろうと想定して、自分の立場を変えて私に質問返しをしてきたのかもしれません。

または、そのやり取りの中から取材時に編集者からされた質問に答えるヒントを探そうとしているだけなのかもしれません。大切なのはレビューをする本質。この役員レビューで役員が何を求めているかを想像し、広報として「こう話してほしい」という結論へとつなげるためにいくつかのストーリー付きで回答案を用意していたというお話です。


広報は外と中を結びつける仕事であるために、きちんと主張できるということが魅力であり、また必要とされる能力なのでしょう。気をつけることは「役員は決して同僚の延長線上ではない」ことくらいですね。広報という職種は役員の近いところで職務を行っていることもあってこの線引きが案外難しいです。

広報に与えられた役割は、経営陣の言葉をよりメディアにわかりやすく翻訳すること、そしてごく稀に経営方針が迷走しそうな時に適切な外気を取り込む窓をそっと開けること。それ以上でもそれ以下でもないのです。

経営者に最大限の敬意を払い、お供として最大効果を演出する。だから時には嫌なことも言えるのです。最悪の場合、「じゃ、やめちゃいますか?」と。もちろんそんなことを言う機会は一回もありませんでしたが(笑)

Fujitsu

広報業務は「人に話しかける仕事」ですが、話しかける言葉の倍以上の反応を受け止めて言葉のラリーを展開していく事が本質だと思います。守備力が強い人が求められるんですね。オンライン生活が長くなり、取材も対面からオンラインに変わってきている中、どうしてもコミュニケーションが一方通行になりがち。同時に話したり、複数の人の声を聞き取ったりすることが難しいのは現在のアプリの性能上仕方がないことかもしれません。その中で、発する言葉にどんな反応があり、聞き取れない心の声と表情を見てラリーが続けられるかが大事だなと最近考えております。

広報の皆さんはきっと大変だと思いますが新しい境遇を受け入れて、明けない夜はないと思って頑張っていってほしいと思います。という私も生活様式が変わり、デジタル化が進んでいます。もともとPCメーカーのくせにPCを使いこなせていないと言われがちでしたが、今更ながら使いこなせてきたのでは? と思っています。今回は長くなりましたので次回はそんなお話を。


PC広報風雲伝連載一覧


秋山岳久

PC全盛期とバブル真っ只中からPC事業風雲急時代までPCメーカーで販売促進・広報と、一貫してメディア畑を歩むものの、2019年にそれまでとは全く異なるエンタテイメントの世界へと転身。「広報」と「音楽」と「アジア」をテーマに21世紀のマルコポーロ人生を満喫している。この3つのテーマ共通点は「人が全て」。夢は日本を広報する事。齢55を超えても一歩ずつこの夢に向かい詰めている現在進行形。