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広報にまつわる人との接し方を中心に、たくさんの失敗と格別な体験を時事ネタ交えつつお伝えしていく本連載。14回目となる今回は、異業種の広報と連携を取って、新しいスキームを生み出そうとしたお話。それぞれ異なるDNAを持つ企業同士ですから簡単に物事は進みません。それを乗り越えるにはかなりの時間を費やしたのでした。

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こんにちは。パソコンがコモディティ化していく2010年代。社内では様々な議論がなされていました。ラジカセを例にして「発売当初は高価格で高機能を競い合った商品がなぜ今は安売りショップに並んでしまうようになったのか」──ようは新しい機能や特長がないと商品価値は下がり結果として収益も下がってしまう──という議論です。カセットの後にMD、CD、DVDと来て、それがいつしかデータであるMP3へ、パソコン業界よりも大きな変化を遂げていた業界でした。この頃は「10年後にはパソコンビジネスが無くなってしまうのでは?」と危機感を煽られていました。

誰がどのようにだれがどのようにパソコンを使うか? 「モノからコト」というキーワードを立て、パソコンの活用シーンを日々模索していたのです。

使い方を突き詰めて行き着いた異業種コラボ

暮らしを豊かにするため、人々の生活にパソコンを取り入れたとしてもそう大きくは変わりません。パソコンに「何をさせるか」というのは「どんなライフスタイルか?」と言うことも重要なファクターです。そうなるとパソコン周りの環境や周辺機器などと組み合わせた提案が必要になってきます。

以前、本連載でもご紹介した「らくらくパソコン」に話は戻りますが、たとえばシニア世代、それまでのビジネスマン人生から少し時間に余裕ができてくる頃。コミュニティや旧友との旅行で写真をたくさん撮るようになります。撮った写真はプリントしたりメールで送ったりもしますが、一歩進んで年賀状やオリジナルカレンダーを作れば、暮らしをより楽しく過ごすためのツールとして活用できるはず。どうせなら作ったものをプレゼントしたい、相手に喜ばれたらますます力が入り、いつしかパソコンの前に座る時間がどんどん増えていくでしょう。

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パソコンのカタログではそんな夢のようなパソコンライフを紹介しているのですが、実際にこれをやってPRする場合、案外工数がかかるだけでなく費用もかかるため、積極的には取り組んでいませんでした。もちろん、大きなイベントがあれば併設することはありましたが、セミナーの開催にはかなりの工数とコストがかかり、費用対効果的にどうだろうね。などという会話があったことも記憶にあります。

そんなことを考えていた当時、パソコンとプリンターとカメラを使った「シニア世代のパソコンライフ」という企画の相談をデジモノ雑誌の編集者としたことがありました。パソコンはもちろん弊社のものを使うことになりましたが、その他の機器はキヤノンさんに相談してみようということになります。

早速編集者のアテンドで顔合わせをさせてもらうことに。この頃は各社新商品を大量に出していた時期なので、広報や販売推進はいつもばたばたしていました。そして、広報や販売推進は企業によってカラーが思いっきり分かれます。どちらかというと営業の人よりも堅く、雑談をしている間は良いのですが、いざビジネスに近かったり、商品に関する話になったりすると急に身構えられ、なんとなく話しにくい状態になりがちでした。

当然、発表前のものに触れるのはタブーでしたが、既存の商品でも「なぜ一緒にやるか」「なぜ御社となのか」そういった所で立ち消えになってしまうことが多かったのです。編集者としてもそれぞれの会社からそれぞれ広告をもらった方が良いに決まっているので、積極的にマッチングをしてくれるという所はあまりなかったと思います。

ですが、この時のキヤノンさんの広報はちょっと違っていて、いきなり意気投合するタイプの方でした。私も比較的その類い、どちらかというとぶっちゃけ話をしてしまう方だったのですぐに意気投合。「じゃあどんなことをやろうか」という話になり、その後何度かのミーティングを経て、「シニアライフを守ろう」というテーマを掲げ、協業する基礎ができたのです。

「さらにもっと広げていきましょう」ということになり、このプロジェクトに賛同してもらえそうな企業を考え、マイクロソフト社にWindowsに関する説明や講師をお願いしたいと思って早速相談。すると、懇意にしている方から快諾をいただけました。みんな面白がってくれたのです。マイクロソフト社とキヤノンマーケテイングジャパン社が品川にあることもあり、打合せはスムーズに進みました。

そして一番重要なのはメディアです。単なるメーカーの宣伝のためのイベントにはしたくなかったこともあり、らくらくパソコンで様々な連係していた日経BP社さんへ相談にいきました。単なる商品紹介ではなく、このやり方が市場に広まって「より多くの人々にパソコンを楽しんでもらいたい」。そのためのセミナー企画でもありました。この主旨に編集者も快諾をしてくれ、4社によるコラボ企画が決まったのでした。ただ、ここから足並みを合わせるのには苦労の連続だったのです……。

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全ては根回しが重要な仕事の仕方

キヤノンさんも弊社もどちらかというと真面目すぎるとも言えるメーカー2社。何をやるにもこだわりがきついです。特に弊社は明確にシニア向けパソコンのPRという点に絞られているのでプレイヤーも多くなく(それなりに社内の説明は面倒でしたが、一連の企画の1つということで改まった説明を回避したこともスムーズにいった要因です)良かったのですが、キヤノンさんは説明に苦慮されたようです。この取り組みの意義やなぜこの組み合わせなどの説明が大変だったと聞きましたし、「編集部が儲からない企画(広告ではなく記事として)になぜ参加してくれているのか」など理解をしてもらうにはそれなりに時間がかかったようです。

私も直接お話しする機会を作ってもらって説明しましたが、なぜ富士通なのにキヤノンの商品をアピールしてくれるのか? と不思議に思われたかもしれません。それはお互い様なんですけれどね。

また、企画を担当されている、弊社でいうと事業部にあたる方々には両社の合同ミーティングの場を設け、主旨や効果についての説明を重ねました。会社をまたぐ時には、よかれと思ったことが企業同士の大事に発展しかねる場合もあります。いろいろな経験をして少し大人になっていた私は相当慎重に話を進めていました。全ては根回しが最も重要なのです。

お客様に寄り添うために必要な踏み込んだ一歩

それにしても最初はとっつきにくかったですね。会社というのはこんなにも文化が違うのかということを良い意味で感じました。とにかく真面目な人が多かったので、実施した効果についての説明は特に時間がかかった記憶があります。雑誌との連動でもあったのでもちろん商品のPRが目的ですが、媒体露出の効果も鑑みると実売ベースの成果はすぐには出ません。セミナーをやったとしても同時に20組が限度、「何台くらい売れそうですか?」そう考えるとイベント期間に体験できる人数は限定されます。

誌面で紹介してもらい、その先にいる読者の皆さんに「自分もやってみたい、自分でもできそう」と思ってもらうことが重要と考えて動いている企画なので、数字の目安を説明することが難しかったです。それでも儀式のように両社が打合せを行った後は先方の広報でうまく話をまとめてくれました。違う会社ですがこのときは一体感がありました。一つのプロジェクトを同じ目的で一緒にやるというのは社内の商品化チームと同様です。

新しい取り組みを可能にするためにそれぞれのメンバーをつれて飲みに行き、交流を深めたり絆を強めたりしていきました。話題は広がり、人生相談のような話も多かったと思います。仕事が作った楽しい時間は自分にとって新たな喜びでもありました。

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▲セミナーの様子

この当時、セミナーで気を付けていた事があります。それは「自分の親に教えるように遠慮無くストレートに教えること」。どうしても直接の営業ではなく広報や販売推進として他社と連係をしてイベントを行う場合(といっても初めてですが)お客様に対しても遠慮がちになります。それでは「ただのいい人」になってしまうわけで、むしろこの場合は不親切に伝わってしまいます。

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基本的にパソコンに詳しくない人にパソコンを使ってもらう場合は「プリンターやカメラはお好きなものをお使い下さい」と言ってもだめだったような感触を受けました。それは突き放したも同じでお客様からは良い反応がもらえません。「このパソコンを使うときにはこのデジカメで撮影してこのプリンターでプリントすると良いですよ」と丁寧に1から10まで説明するのがベストです。もちろん、強制ではありませんし、あくまで一例ですね。

一般的にお客様相手のビジネスをしていると、「勝手に周辺機器まで決めつけてはいけない、お客様の希望もあると思うので、そこは自由に選んでもらえばいい」と考えがちですが、それは不親切なのです。親切にしないと「あの人はパソコンだけ売りつけて後は知らんぷり」と言われかねません。

実際にセミナーの後に「結局このパソコンとあとはどれとどれを買えば今日と同じ事ができるの?全部まとめていくらか教えてくれないかしら、今払うから届けて欲しいのよ、説明もしてくれるのよね」と言われたこともあります。同様の話はたくさんありました。お客様に寄り添うということはそういうことです。

お客様の満足度を上げるということは喜ばれる仕事であり、充実感もあります。ただ、一度作業に入ると結構な工数にかられて大変でもありましたが、新しい出会いが気持ちを押し上げてくれていたことも確かです。

ハード、ソフト、メディアのワンチームでのやりがいは格別でしたが、露出だけではなく数字も同時に求められる世界。ハード単体としての魅力が備わった上に、使い方の訴求と価格を加味して売り上げは成り立ちます。そんなキラー商品はあるの? このお話は次回に。

▲広報つながりの仲間との1枚

PC広報風雲伝連載一覧

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秋山岳久

PC全盛期とバブル真っ只中からPC事業風雲急時代までPCメーカーで販売促進・広報と、一貫してメディア畑を歩むものの、2019年にそれまでとは全く異なるエンタテイメントの世界へと転身。「広報」と「音楽」と「アジア」をテーマに21世紀のマルコポーロ人生を満喫している。この3つのテーマ共通点は「人が全て」。夢は日本を広報する事。齢55を超えても一歩ずつこの夢に向かい詰めている現在進行形。