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広報にまつわる人との接し方を中心に、たくさんの失敗と格別な体験を時事ネタ交えつつお伝えしていく本連載。16回目となる今回はいつもとはちょっと違う目線で書いてみました。メーカーの広報としてのあり方は? というお話です。

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こんにちは。らくらくパソコンや女性向けパソコンなど、いろいろな商品が出てくるたびにどのようにしてPRをしようかあの手この手を尽くして考えるというのは前回までお話したとおり。

PRというものは最終的にお客様に届けるということが目的。そのための前段階として媒体に紹介してもらう必要があるのです。広告ならば自由に考えたことをそのまま伝えられることがほとんどですが、広告ではなく記事を書いてもらう場合はそうもいきません。どうすれば記事を書いてもらえるのかが重要です。

話は変わって、広報はとかくKPIを求められる部署です。一方で社内の経営陣は露出されるものの全てを見ているなんて事はなく、また報告段階で露出物を見るとの、たまたま休日に自分で露出物をみたのでは大きく違います。ありがちな年末年始ネタを例にしてみましょう。

年末年始は広報にとって恐怖の時。年明けに役員と会うと「年始に親戚の子が来て今高校生なんだけれど、○○のパソコンが欲しいって言っていて、理由を聞いたら~~と言うんだけれどさ、それってうちやっていないんだっけ?」と聞かれます。普段は忙しく、家族や親戚との接点もあまりなく、テレビのワイドショウなども見ていない人がまとまった休みでいろいろな情報を入手すると"どうなっている"とお年賀代わりに頂くことが多いわけです。

そんなお年賀も実は大きなチャンスになります。メディアに露出されるモノや世の中の動きに関心を持ってもらえたということですから。これをきっかけに新しいアイデアや、何度説明しても関心を持ってもらえなかった企画をインプットすると、案外それが通って春から忙しくなることもあります。

結局のところ、人の目につくことが全ての入り口なのです。ただ露出すればいいわけじゃないと考える人もいるようですが、何が受けるか、何がスイッチを押すことになるのかなんて誰にもわからないし、マーケティング理論をいくら学んでも結局は人の気持ちに刺さるか刺さらないかということになります。もちろん理論はとても大事ですが最後は勘なのかなと思います。「これおもしろいんじゃない? 役に立つかも」というお得な理論と「ほしい!」という感情が重なれば人の気持ちをつかめるのではないでしょうか。

少し前フリが長くなりましたが、今回は露出することに価値があるということをお話しします。

都合の良いメーカーになりなさい

私の自宅のそばに「丼太郎」という牛丼屋があります。昔は「牛丼太郎」というチェーン店で、不景気で潰れてしまったところここだけが残り、「牛」の文字を外して「丼太郎」という名前で再スタートしたお店です。歩いて10秒ほどの所に「松屋」と「なか卯」がある牛丼超激戦地ですが、未だに生き残っています。

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ここは経営者が信念のある人で、チェーングループ全体が潰れそうになったときに、全てを潰してしまうのは避けたい、「この店舗だけは」と死守し、名前を少しだけ変えて唯一続けているそうです。当時その模様がテレビ番組でも紹介されていたので、ご存じの方もいらっしゃるかと思います。

徹底したコストダウンでお金をかけず、外装も昔のままの「丼太郎」。カウンター10席ちょっとで駅前通りの角にあり、特長はほかのチェーンとは明らかに異なるメニューと、微妙に安い価格設定。大味が好きな人には受けが良く結構賑わっていて、その反骨精神が好きななのか、単に安いからかなのか、はたまたこのチェーン店とは異なる味に魅了されたのかはわかりませんが、未だに頑張っているお店です。いずれにせよ経営が成り立っているわけですね。

さて、ここで紹介したのはお店の紹介をしたいわけではなく、私が牛丼好きだからでもなく、この店には大きな特長があるから。どんな特長かというとこのお店、とにかくテレビのロケで使われることが非常に多いのです。それも「おいしい牛丼特集」とか「町の激安牛丼」というものではなく、テレビ番組のロケ地として使われることがほとんど。

きっとお店の生き残りをかけてオーナーはいろいろなことに気を遣い、お店を残すために努力しているのでしょう。何かPRになればいい。その程度かもしれません。でも、それがこのお店のPRになっているかもしれないのです。

一般的にテレビ番組はドラマの制作などでのロケ地探しというのがとにかく大変な仕事です。今の時代、全て放送局のスタジオやセットというわけにはいかず、よく企業もので会議室のシーンなどあると思うのですが大抵は企業に「貸してくれませんか?」と相談をして場所借りをする流れになっています。

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それを専門に行う美術担当者もいて、そういった会社から「こんど○○のロケがあるのですが、場所お借りできませんか?」と連絡がきて話がまとまればそこで撮影となります。パソコンでも同様で、広報にはテレビや映画など撮影用の貸し出し依頼がよく来て、対応を迫られますが、撮影は大抵長期であること、今の時代テレビにパソコンが映ったからといってもうコモディティ化した商品にとってそれは宣伝にはならないのであまりおいしくはありません。

それでも単なるセットの置物としてではなく、主人公が使うパソコンであったり、担当者が力を入れて露出してくれようしていたりする制作会社さんにはできる限りの対応を行っていました。この丼太郎をみていると広報の原点が思い起こされるのです。

テレビ番組にとってロケ地確保が大切であると先ほど述べました。日々恐ろしく忙しい制作会社、その美術担当はさらに激しく多忙な業務を担っています。ロケ地探しは極力時間の短縮をしたいので、貸出先に対して足を運んで説明というプロセスではなく、電話やメールで即答してもらえるのが一番です。

「企画書を下さい」「ちょっと調整してみます」「社内で調整してお返事します」では、借りられることになっても制作スケジュールが押してしまって間に合わなくなることもあるでしょう。何よりもいろいろな作業をしている中、ロケ地探しで懸案事項を抱えておくのは気が重くなります。絶対ロケ地は必要なわけですから。

だから私もたいていの場合、「わかりました基本はお受けします。あとは手配できるパソコンがあるかをすぐに確認して今日中にメールでお返事しますね」と対応していた記憶があります。そうすることでかなりの露出をしてもらっていました。基本は無償ですので「貸出機を倉庫に眠らせておくなら少しでも活用したい」そういう気持ちでした。

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そんな経験から感じたのは、この「丼太郎」のオーナーもテレビロケ地貸し出しの依頼が来たらすぐに即答で「いいですよ、使って下さい」とOKを出しているのではないかということ。これは憶測ですがきっとそうなのでしょう。

こういう対応は美術会社に好感を持たれます。美術会社というのは大体複数の番組のロケ地を探しているので、対応が良かったり返事が早かったりするところをキープしていると仕事がスムーズに進みます。きっと「飲食のショップで昼間に収録可能なお店を探せ」といわれたら、「まずは丼太郎に聞いてみよう」となるでしょう。結果的に露出が増え、地域で話題のお店になり、多少なりともビジネスにつながっているのだと思います。

私が思うのは「都合の良い店になりなさい」という事です。パソコンビジネスにおいては「都合の良いメーカーになりなさい」と言い換えられるでしょう。

急な貸し出し依頼は面倒ですが、相手にもそれなりに理由があるはずです。確実に露出が見込まれるケースが多く、「え、今日中ですか?」ということは必ず今日撮影されるという事。そう思えば商品を露出するチャンスなのです。

だからそういった依頼があったときはほぼ必ずなんとか手配をしていました。当然の急な手配は別のスタッフや運送業者さんにも迷惑をかけます。そんなときのために日頃からそういったスタッフとのコミュニケーションを欠かさないこと、そして露出された記事が出たときにそれをちゃんと見てもらうことが重要だと思っていました。

「ほら、あのときのいきなりの貸し出し手配、おかげさまでこんな記事になりましたよ」といわれると相手も対応したかいがあったと思ってくれるのではないでしょうか。世の中、メーカーはたくさんあります。他のメーカーが貸してくれない時こそ自分の出番! と、背水の陣をいつでも敷いておくと思った以上に需要があるのです。使われるうちが華。広報の重要な気持ちの持ち方だと思っています。

「そこに出して意味があるんだっけ」と思う前にまず出してみる。出してみれば成果も評価もわかるでしょう。まずは進めですね。

広報の心得は街の中にも結構潜んでいます。別に難しい事でもテクニックでもないのです。広報としての秘訣は日常生活にいっぱい転がっていて、何気ないことにも興味深く「なにそれ?」と思う気持ちとそれを広報活動に転化するちょっとしたノウハウで世の中が興味を持ってもらえることが生み出せると思います。

ある企業の芸達者な広報マンのSNSを見ていても「いろいろな趣味があるな、こんなことやっているのか」と感心すること頻りです。普段は激務なはずなのに、釣り船に乗ってたりあちらこちらを走っていたりするSNSをみると、この人はいろいろなところで「観察」をしているのだなと思います。ヒントは溢れているのです。

ちょっと脱線してしまいましたが、広報活動を行う上で世の中から影響を受けることはとても多いです。昨今のSNS時代は従来の情報発信とは異なっていて誰でも発信できる分、情報の伝わり方も拡散しがちです。オーソドックスな例ですが、美術会社からの貸し出し依頼と、近所の牛丼屋さんの対応がリンクしていた気がしたので書いてみました。

PC広報風雲伝連載一覧

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秋山岳久

PC全盛期とバブル真っ只中からPC事業風雲急時代までPCメーカーで販売促進・広報と、一貫してメディア畑を歩むものの、2019年にそれまでとは全く異なるエンタテイメントの世界へと転身。「広報」と「音楽」と「アジア」をテーマに21世紀のマルコポーロ人生を満喫している。この3つのテーマ共通点は「人が全て」。夢は日本を広報する事。齢55を超えても一歩ずつこの夢に向かい詰めている現在進行形。