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広報にまつわる人との接し方を中心に、たくさんの失敗と格別な体験を時事ネタ交えつつお伝えしていく本連載。15回目となる今回は、商品の市場投入に苦しんだ開発チームのお話。話題性があればあるほどそこに至るまでの調整が大変であることを垣間見たのでした。

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こんにちは。前回まででご紹介したとおり、らくらくパソコンでは派生コラボモデルや各種タイアップによって通常の店頭売りとは異なる販売方法に力を入れていました。ターゲットが限定された商品なのでパソコン教室での売り上げが大きくなるのもわかります。ただ、説明商品であることとターゲットが限定されるため、トータルのパイが少ないという課題を絶えず抱えていました。苦戦しながらも試行錯誤でシニア向けの商品に力を注いでいたそんな頃に、全く異なる方向性の商品化を聞き、その商品のPRに力を入れていくことになります。

女性の開発チームで作られた女性向けパソコン

2012年。女性向けパソコンFloral Kissがリリースされます。女性社員の目線でこだわって作られた女性向けパソコンとして世に出されたわけですが、過去に女性向けとして投入したプリシェはあまり芳しくない売り上げだった経験があるため、開発陣もとても慎重に進めていきました。

プリシェの経験から「女性向けと限定すると売れない」「女性ならではの機能は評価されない」「基本的には普通のPC同等、それ以上でないと売れない」「それでも高すぎると売れない」など、懐疑的に見る営業部隊をよそに開発陣はこだわり抜いて商品を仕上げていきます。上記の所感でもわかるとおり非常に困難な商品であることはみんなわかっていたこと。それでも、作りたい。そんな強い思いで開発され、細部までこだわり抜かれた商品はまさに「女性向け」と言えるこだわりの出来でした。

有名ブランドとコラボしたデザイン、製品仕様にも「本当に女性が求めるもの」が意識し尽くされ、誰しもが「いいねぇ」を連発します。その商品の作り出す世界観は店頭に並ぶパソコンとは少し異なった「気分があがる」もの。それでも価格が高くなってしまっていることに懸念はありました。

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簡単に売れるものではないという状況は理解していましたが、なんとか世に出すお手伝いをしたいということで、PRとして何ができるのかを考えました。そんな中、様々なメディアの方と話していた時に「女性向けPCのカタログなのだから、女性誌の編集部に相談するのが一番いいのでは?」と思ったのです。

タイアップ広告を断る編集長

過去の女性向けパソコンで苦労したこともあり、この件については本音でコメントをくれる人と組めればと思いました。そこで思いついたのが某デジモノ誌の編集長でした。この編集長とは商品が出るたびに様々な連係をして頂き記事を掲載して頂くなどしていたのですが、とにかくはっきりものを言う方でした。

当時は雑誌タイアップ(広告を記事風に編集部に書いてもらうもの、ペイドパブとも言います)などは雑誌社広告局と弊社宣伝部との打合せで決まることが多かったのですが、この頃に就任した宣伝部長は「広告営業ではなく、文章を書いたり撮影をしたりする編集者と直接会話をしたい」、という当時としては珍しい宣伝部長でした。

そういったこともあり、宣伝部長と雑誌編集長が直接会う機会をたびたび用意したものです。当時、これは本当に希なことなのでした。そういったところから交流が始まり、厳しい意見を言ってもらうこともしばしば。双方に気を遣わなければいけない私にとって緊迫した時間だったのでした。

しかし、編集長としても相手は宣伝部長。広告をくれる張本人に対して忖度をしなければなりません。たとえ一般的な商品で特長を深く感じなくとも、ある程度良いところを褒めて「次の特集でしっかり書きましょう」と言いさえすれば広告が入るため、ネガティブなことを言う人はあまりいない、普通はそう思いますよね。でも、この編集長はちょっと違いました。

商戦期に一番売り出したい商品について説明をしてもそれが媒体に合わない場合はおもいっきり否定的なことを言うのです。「うち(雑誌)の読者にこの商品は受けませんよ」と。この状況はまずいとなんとなく苦笑いをしたり、話をつないでいたりしたのですが、宣伝部長がそういった物言いがとても気に入っていたのか「もっと詳しく教えて欲しい、たとえばどの商品ならタイアップをして頂けるのでしょうか?」とものすごく謙虚なことを言い出しました。汐留の西日の当たる応接室。少し生暖かく眠くなりそうな雰囲気の中、緊迫感のある話が続きます。しばらく考えた後、編集長は「申し訳ないですがこの商品だとタイアップは無理です。純広(企業の作る広告)ならいいですが、この商品だとうちの読者に刺さらない。こっちのモバイルなら、読者にも刺さるし、広告でなくて記事としてきっちり書かせてもらいます」と広告発注を断ってきたのです。

編集長の衝撃的な言葉。こんな人は今までいませんでした。宣伝部長は丁重にお礼をいい、その後も富士通のモバイルの良さを二人で語っていました。そんな姿が当時ありました。そして、この衝撃の広告お断り事件以来、なぜか宣伝部長と編集長の関係がとても良くなり、単に広告の話だけではなく様々なお願いをするようになったのです。工場を取材してもらったり、新商品の開発時期にアドバイスをもらったりなど交流は続きます。

そんなわけで今回の女性向けパソコンについてはこの人に聞いてみよう、ということになったのです。理由は明確で「本音を言ってくれる人なので信用できる」から。きっと、だめだと思われたら「やらない」と言われるでしょう。当時は編集長でしたが、このタイミングでは社長に就任されていたのですべての媒体を視野に入れて相談できるとも考えつつ、早速お願いに行きます。

雑談から生まれるダイヤの原石

「今回の新しい商品は今までとは違った見せ方をしたい。ついてはお客様に今までと違ったアプローチをしてみたい、カタログの作り方も変えていきたい」。具体的にすぐ何をするということではなく、雑談混じりの会話でした。

女性向けのプロモーションや、こだわるならファッションブランドとの連携がよい、とか主婦を対象にするときにはこういう視点で考えるとよい、学生ならこうだ、などなど様々な雑談でした。この雑談が大体新しい仕事への一歩なのです。そんな話の中で具体的にイメージできそうな話がでてきました。「実は半年後に新創刊する新しい女性誌があるのでその編集部と一緒にカタログを作ってはどうか?」と。

出てきました。雑談からダイヤの原石が。イメージはぴったりでした。編集者目線でのカタログができれば何より。出版のプロですから作法は心得ていると思いますし、女性誌編集部であれば女性に本質を伝えるノウハウは十分にある。上っ面を着飾っただけの原稿は絶対に書かない。女性向け新商品をPRするツールとして「女性誌編集部にカタログを作ってもらう」事はこんな経緯で決定したのです。

PRの作業としては媒体編集者を紹介する部分まで、私からは手が離れます。しかし、その後の流れは簡単ではなかったようです。何しろ、会社には長年培ったルールが当然存在しています。カタログなど不特定多数のお客様が手に取るものについては細かいルールがたくさんあり、それは「女性向けだから」といって勝手に変えることが許されないのです。

カタログを手にするのは、販売店のみなさん、個人のお客様、法人のお客様、そして社内のサポート部門など多岐に渡ります。もちろん事業部まで全ての関係者に理解してもらって初めて「変える」事ができる世界。そう考えると商品プロジェクトチームの大変さが伝わってきますよね。カタログ一つでこうですから、気の遠くなる作業があったことでしょう。広報は商品をPRするためのお手伝いで終わってしまいます。私もその頃にコラボモデルをちょっとやっただけですが、その苦労の一端を知っていましたが、正直、あまりやりたくない大変な作業でした。

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相手がいるからその気持ちに応えたいと思ってやりましたが、ずっとはできないなと心が折れそうなこともしばしば。でも、それを日々やっている開発チームは尊敬に値します。そんな自分としてはなんとかヒット商品になって欲しいと、親心に似たような気持ちで力を入れて支援を行いました。発表会では従来社長が説明する所を開発チームの女性社員が行うなど、商品だけではなく開発チームを含めてのPRに仕上げます。メディアに向けてスター社員を作り、ものつくりのストーリーを全面に出してその商品をアピールしました。

それなりに新しい試みとプロモーションはうまく流れ、慎重派の社内関連部門もまずはしっかりと協力体制を組んで臨みます。こういった新しい商品を出すことも開発者の根回し力が発揮されると思いました。前回も他社とのコラボについて徹底した根回しをやることを念頭において仕事をしていたのですが、社内でも同様なことが行われています。そうか日本の社会は根回しが全てなんだと。改めて感じました。

仕事の外圧と内圧

その後、商品は店頭に並び始めます。発売当初は話題になったものの全体の販売数は鈍化していきました。目標には届かなかったのです。結果として企画自体が無理だったのでは? 女性向けなんて限定しなんじゃないか、という風潮がまたもや社内に漂い始めました。SNSでもそのような雰囲気が漂います。会社は本当に難しい組織です。結果売り上げが良く利益が出て、勝てば官軍、何の問題もないのでしょう。

大変な苦労の中、思い通りの結果が出ないことで開発チームの心労は大変なものだったでしょう。それでも、最後まで本質を曲げずにやりきった人たちは素晴らしいと思いました。大体の商品化に至る中で本当に100%開発チームの思い通りになる商品は少なく、いろいろな部分で妥協を強いられます。

製造台数を決める段階で売ってくれる営業からの数字が全体の台数を決め、そこからコストが弾き出されます。それに乗じて粗利販売価格などが決まります。この部分は開発チームにはどうにもならない世界。コンセプト、性能、コスト、デザインすべてが開発チームの意向通りに商品が出ることはまずありません。その調整作業が永遠に続いた結果の商品出荷となるのです。そんなスキームを変えたことはきっと今後の仕事にも反映されてくるでしょう。

そしてもう一つの社内の壁。それは女性チームゆえの嫉妬という大きな壁です。当時、そんなことを口にするのはいろいろ問題があると思ったので口にはしませんでしたが、薄々感じていました。いや、薄々というかはっきり感じていましたし、当人たちもわかっていたでしょう。これは本当に厳しい見えない壁があると感じた時でもありました。

仕事に男も女もありませんが、女性だけのチームで開発と聞くだけで注目されがち。そもそも男も女もないはずなのに、女性だけのチームということを声高に言うこと自体がいけなかったかもしれません。理解されているようで、されていない、されていないと言うよりもしたくないという否定的な気持ちがどこかに働いてしまう。そんな人もいたのではと思います。

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生み出すものの強さ

それでも、そんなことも十分にわかっていて、その上で頑張っているこのチームの強さはどこから来ているのか? と考えると、それは「ものを作っているから」なんですね。きっとこの商品が世の中の人に刺さる、手に取って喜んでくれてお客様の役に立つ。その強い思いは余計な雑音を消してくれる消音装置なのです。

開発者のやりたいことに対し、広報としてどんな下支えができるかということをこの頃から意識し始めました。口うるさい正論ばかり言うおじさんにはなりたくなかったのですが、自分のした経験で後から進んでくる人たちに地雷の場所を教えられる、極力踏ませないようにしたい。そう思い始めました。

商品開発チームを会社の顔として広げていきたい気持ちとやり過ぎると逆効果ということをわきまえた上で、それでも実際にモノを作っている社員にスポットを当てそこからものつくりのストーリーを伝えたい。幹部だけでなく開発者の取材は続きます。そのお話は次回に。

PC広報風雲伝連載一覧

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秋山岳久

PC全盛期とバブル真っ只中からPC事業風雲急時代までPCメーカーで販売促進・広報と、一貫してメディア畑を歩むものの、2019年にそれまでとは全く異なるエンタテイメントの世界へと転身。「広報」と「音楽」と「アジア」をテーマに21世紀のマルコポーロ人生を満喫している。この3つのテーマ共通点は「人が全て」。夢は日本を広報する事。齢55を超えても一歩ずつこの夢に向かい詰めている現在進行形。