編集長の「広告出して」で気づいたメーカー広報とメディアの温度差:PC広報風雲伝(第6回)

良い製品の基準って何でしょう?

秋山岳久
秋山岳久
2020年09月5日, 午前 08:05 in pc-kouhou
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広報にまつわる人との接し方を中心に、たくさんの失敗と格別な体験を時事ネタ交えつつお伝えしていく本連載。6回目となる今回はこれまでとは仕事も変わり、パソコン専門誌の対応をやり始め、苦難の歴史が始まった頃のお話です。


こんにちは。前回は、PDA市場への「INTERTop」投入、そして女性向けパソコン「FMV-DESKPOWER プリシェ」の登場など、パソコン市場が拡大する中、それに合わせてターゲットも拡大したいメーカーの思惑から多種多様な商品が市場投入されていた頃のお話をさせていただきました。

その後もパソコン市場の拡大は続き、毎週発表されるパソコン売れ筋ランキングは各社の主力商品がひしめき合います。それらのランキングは読者のみならず、メディアも注目し、さらにはメーカーも一喜一憂します。パソコンを扱う媒体の部数は伸び、従来の広報対応とは異なる密着した対応が求められてきたのです。

「INTERTop model 20」(左)と「FMV-DESKPOWER プリシェ」(右)

突然現れた巨人「週刊アスキー」

本連載もいよいよ広報的な話になってきました。時期は多少前後しますが、私が広報という仕事に面白さを見つけたきっかけをお話したいと思います。

パソコン市場が急激に活性化する中、国産メーカーはチャレンジとも言える商品を世に送り出し、時には早すぎると言われるようなものをたくさん市場投入していました。「使えるか」という事よりも「新しい斬新な何か」や「これとこれを結び付けてより便利なビジネスワークに」という気持ちから発表される商品が多かったです。「パソコンに電話も付いた!」という商品なんかも出ていました。これらはモノ好きやメディアの目に留まっても中々実売の数字は伸ばせません。高機能であっても価格が現実的ではない、斬新すぎるといったことがその理由。それでも斬新な商品が登場しまくっていました。

日本のパソコン市場は依然好調に推移していきます。外資は米国系の企業が中心でした。中国系のパソコンはもう少しあとから出てきます。「自作パソコン」も当時から安定したポジションでそう目立つ事もなく、またユーザーが増えたことで多少なりとも数字を伸ばしていました。ですが、やはり話題の中心はメーカーから年3回、商戦期に発表される「新商品」でした。まだまだ、Webで情報を入手するのがポピュラーではない時代、そんなパソコンの新商品の情報を求めて人々は雑誌を購入します。パソコン専門誌コーナーが書店の一角を占め、パソコンのレビューや自作、ソフトに関する情報などが提供されていました。

しかし、月に一度の発行となる月刊誌に対し、メーカーの製品発表日は多様です。その当時はどの媒体の発売日に適しているかをあまり意識しておらず、あくまでプロダクトが優先でした。そんな状況の中、もっとタイムリーに情報を知りたい、1か月後だと情報が古くなってしまう、そんなユーザーのニーズに応えた雑誌が登場したのです。週刊アスキーです。

1997年登場のFMV BIBLO NC13D

当時、パソコンバブルは続いており、EYE・COMを受け継ぐ形で週刊アスキー誕生。大きな話題を呼んだと思います。新聞広告なんかもやっていましたね。パソコン専門誌ではあるものの内容は一般誌にかなり近く、それでも「ベストバイ」や「物欲番長」など商品に視点を置いた記事が多く、"うちのパソコンをここに書いてもらいたい"と思ったのです。過去にはタイアップ記事を作ってもらっていましたので、当時の有名だったF岡編集長とも面識がありましたし、編集部とは近い距離にいると思っていたわけです。なので、広告でお世話になっている代理店さんを通さず自分でアポを取り、編集部に向かったのでした。

「広告出してよ」と言われ自分の甘さに気づく

FMVを市場投入してしばらくが経ち、どうしても週刊アスキーで大きく取り上げてほしいと思っていました。年に3回の新商品発表があるのでネタはいくらでもあります。そんな事を考えながら私は1人で初台の編集部に向かいました。

編集部に到着してまず感じたのは、とにかく広くて端から端までが1つの編集部というスケール感に加え、18時を過ぎているのに編集者が忙しく出入りしている様子。それを見て少し押され気味になってしまいました。なにせ初めての編集部、しかもたった一人で。代理店さんと出版社の営業さんを交えたミーティングとは異なり、アウェー感がとても強かったのを覚えています。それでもなんとか編集長を見つけ、編集長のデスク前にあるソファーへ通されました。

「で、今日は?」とラフな感じで聞かれた私は、その時のFMVについていろいろと説明をしました。斬新さはなかったもののバランスが良く、売り上げも好調だった商品には自信がありましたし、専門知識に長けていませんけれど自社商品ですからきちんと説明できたと思います。

でも、その時に気になったのは、私が説明をしている時に編集長が何となく話半分に聞いている感じがしていたこと。気のせいかもしれませんが、私たちの会社に広告営業さんと一緒に来て話をしていた時の編集長とは違う雰囲気がしたのです。それでもひと通り説明をし終え、私としてはできることをしたと思いました。そして「こんな商品を出すのでぜひ誌面で紹介してほしいです」と笑顔で伝えました。

 すると、編集長は資料を見ながら「秋山さん、これタイアップ? 広告持ってきてよ」と言うのです。もちろん、良い関係ではあったので悪気があってのこと言われたのではなかったと思います。ただ、広告を発注するのと記事を書いてもらうのでは仕事の担当が異なります。この時は広報として商品を紹介して記事を書いてもらう立場で編集部に向かったため、「タイアップ」や「広告」の意識は私にありませんでした。むしろ編集部までわざわざ行って説明したので、喜んで記事を書いてくれると思っていたのです。

1997年発売のFMV DESKPOWER SIII16A

 いま思えば甘かったです。準備もアポを取ったことも全て甘ちゃんでした。自分はメーカーとしての仕事を果たしていると思っていましたが、それはあくまで自社の事であって相手は別の会社。少し知り合っただけで、自社の思いだけを伝えていたのです。甘ちゃんというよりも相手からすれば困ったちゃんだったのかもしれません。「わかりました。帰って相談してみます。これからもよろしくお願いします。」と言って編集部を出たと思います。その時のショックでそのあとの事はあまり覚えていません。

世の中、パソコンが話題になり、売れ筋のパソコンを売っているメーカーがパソコンを扱う編集部に商品を紹介すれば当然記事を書いてくれる。そんなシンプルなことではないと知りました。もちろん大筋はその延長線上にあるのですが。メーカーがパソコンを売るように雑誌社も誌面を売っているのです。そして、このネタを書いたら本が売れるという面白いネタのみが「記事」として掲載されるのです。タイアップや純広告を出稿している流れで「サービス」として書かれている記事ではなく、「本当の記事」を書いてもらうことはとても困難なことである、思いっきり打ちのめされた気持ちでした。

編集者に叩かれ、編集者に育てられ

それまで気持ちよく記事を書いてもらっていたもののほとんどが広告に連携するサービスだったと知ってから、少しだけ後ろ向きな気持ちも出てきました。プロモーションや広告を扱っていた時とは先方の対応が思いっきり異なることを肌で感じ、編集部に行くのを躊躇するほどです。

ですが、すでにいろいろな編集の方々との接点も生まれ始めていて、話せば話すほどに面白味がある人、おもいっきりマニアックで基盤を集めている人などと仕事をすることで何とか気持ちを保っていました。中には説明をしても反応がない人もいましたが、それでも突っ込んで何度か話していると「こんなネタがあればよいのだけれど」とヒントをくれるようになることもありました。広告を出さなければ仕事ができない、というプレッシャーもありながら、そうではないやり方を始めたのです。負けてたまるかという気持ちもあったと思いますし、真摯に構造を理解できていなかった自分に反省ができたのかとも思います。

1998年に登場したFMV DESKPOWER SVII267

それ以降は「魅力的な商品でそれが掲載されたら本が売れるような企画を提案すればいい」と思うようにして、ひたすら編集部に赴くようにしたのです。前述のとおり私はマニアックな知識が全くありませんでしたが、とにかく編集部に行って顔を覚えてもらうように努めました。編集部の若手の方々はタイアップの打ち合わせでは出てこない人ばかり、そのおかげで多くの編集者と知り合う事ができたのです。

毎回新ネタがあるわけではないですが、とにかく小ネタでも理由をつけて会いに行く事を目標にしました。一日3つの編集部に通おうと思い、日々実践しました。初台や半蔵門、半蔵門、九段下、四ツ谷、市ヶ谷などは良く通ったものです。ちょっとでも顔を出す薬売りのように。いまとは違ってIDカードがなくとも入れる編集部が多かったのも良かったかもしれません。午前中に行くと机の下で寝ている人がいて、編集部感満載なところもありました。そして辛い中にも「これはいいですね、デモ機を貸してくれませんか?」と言われると本当にうれしくて「すぐに送ります!」と答えていました。そのあと会社に戻ってマシンの貸し出し調整に難航する事も多かったですが、誰を見て仕事をするかということが明確になり、私は編集者を見て仕事をしようと思ったのです。

神のようなキャッチ「新国民標準機FMV」と呼ばれて

そしてしばらくした頃、週刊アスキーの編集長から電話がありました。「次は”新国民標準機FMV”というタイトルでやろうと思うのだけれど、撮影用のパソコン貸してくれますか?」嬉しかったです。本当に。たしか16ページくらいだったと思いますが、週刊アスキーの巻頭で新国民標準機FMVという記事を書いていただいたのです。

なんという素晴らしいタイトル! 仕事をするうえでこんなに嬉しい手ごたえがあった経験はもちろん初めてでした。目がうるうるでした。そもそもこれが自社の広告やオウンドメディアだった場合、こんなタイトルはおこがましくてつけられません。編集部がつけてくれるから説得力も意味もあるのです。”とにかく感動。感動した!”でした。

残念なことにものすごく昔なので当時の記事もないですし、いま思うと誌面を保管しておけばよかったのですが、その頃は日々精一杯で残っていません。ですが「ちゃんと説明をし、理解してもらえれば一緒に仕事ができる!(記事になるではなく、一緒に仕事ができる)」ということを痛感し、やる気も一気に出てきたのです。この時の編集長には本当に感謝の言葉しかありません。

だからこそ出る杭は打たれる

たくさんの編集部の方々との付き合いはこの頃から始まっています。仕事が生活だった私の日々のサイクルが編集者との付き合いが中心となっていくと、それはそれで社内での軋轢を生みました。本来、商品を露出するための宣伝活動がプロモーションの基本ですが、「何故そんなに記事を書いてもらえるのか」と訝しがられることも。ようするにFMVの記事が出過ぎていたわけです。

もちろんお金もコネも何もない一社員ですので、ただ商品の説明をしに編集部へ行く以外に私がやれることはありません。本来、無償で記事を書いていただくことは会社の商品の販売上の利益になるのですが、部門の論理で言うとそれが「面白くない」と思う人も出てきます。

それをうまくネゴってまわすことが真のサラリーマンの極意だとは思いますが、当時の私にはそれができませんでした。そんなことを気にする余裕がなかったのです。自分は記事を書いてもらうために足しげく通って商品を理解してもらっているのに何が悪いと。正論ですが大企業の中ではそれが通じない事もありました。会社は全社員が一丸となっているわけではありません。同じ部門の中ですら行き違いはよくあります。

メディアと付き合うという事はある程度会社の顔として付き合うことであり、外向けの仕事をする宣伝部や広報室との連携が重要。それを怠ると「聞いていない」「勝手にやっている」という表現に変わってしまいます。他意なく仕事をしていると自分では思いますが、「他意がない」こと自体が問題になるわけで、「聞いていない=言ってないよ」「勝手にやってる=関係ないでしょ」ではなく、「聞いていないと言われる前に事前になんとなく伝えておいて勝手ではなく一緒に存在感を共有しておく」というネゴシエーションが特にメディアに関する仕事をするうえでは必須なのです。

これで揉め事でも起きると、何よりもお世話になっている編集者にも迷惑をかけてしまって、それは「申し訳ない」では済みません。それまでプロモーションを担当している世界ではやるべきことが明確にあって、ゴールも1つであってそれをリードすればいいだけでした。ですが、メディアの世界に触れることにより、社内での調整と社外との調整ということがより重要になってきたことを感じました。

この時は本当に社内の力学を学ばさせてもらった気がします。「ぶつかってしまうと迷惑をかけてしまう人がいるということ、その人は自分を信じて好意的に記事を書いてくれている編集者さんだということ」、ここで一気に攻めの姿勢から大人の仕事の仕方へと変化していったのです。「根回しの大切さ」それは今の今まで変わるものではありません。

 

さて、プロダクト広報を担当している私にとって、第二の学びとなる革新的な新商品「LOOX」の市場投入が目前に迫ってきました。今の世にもつながるモバイルPC。様々な仕掛けを持って商品発表に向かっていくのですが、そのお話は次回に。

PC広報風雲伝連載一覧


秋山岳久

PC全盛期とバブル真っ只中からPC事業風雲急時代までPCメーカーで販売促進・広報と、一貫してメディア畑を歩むものの、2019年にそれまでとは全く異なるエンタテイメントの世界へと転身。「広報」と「音楽」と「アジア」をテーマに21世紀のマルコポーロ人生を満喫している。この3つのテーマ共通点は「人が全て」。夢は日本を広報する事。齢55を超えても一歩ずつこの夢に向かい詰めている現在進行形。

 
 
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