まずはコチラの写真をご覧下さい。ちょっと未来を感じさせるこのガジェットは、立ったまま移動できる"革新的な補装具”「Qolo」です。

これまで、事故などで脊髄を損傷して歩けなくなった人は、車椅子に乗って座った状態で移動するのが常識でした。しかし、このQoloはその常識を覆し、立つことや歩くことが出来ない車椅子ユーザーでも、立位のまま他の歩行者と同じ目線で移動できるガジェットなのです。

話は2年前に戻ります。

2018年の春に書いた「モビリティ・アンリミテッド・チャレンジ」の記事を覚えておいででしょうか?

このモビリティ・アンリミテッド・チャレンジは、トヨタ・モビリティ基金が英国NPOのNestaと共に実施しているもの。「障がい者(主に下肢麻痺者)の移動の自由に貢献する革新的な補装具」に関するアイディアを世界中から募集し、優勝チームのアイディアを支援、それを実現させるという3年越しのコンテストです。

本来ならば今年の9月には優勝チームが決まり、そのプロジェクトを実現するための活動資金として100万ドルの支援金が贈られ、実用化に向けた開発が始まっていたはずなのですが……コロナウイルスの流行により、スケジュールは後ろ倒しを余儀なくされました。しかし、当初の予定より3か月遅れの12月についに優勝チームが決定しそうなのです。

そして、28か国80組のエントリーの中からファイナリストに選ばれた5組のなかに、なんと日本のプロジェクトチームも!

そのチームとは「筑波大学 チームQolo」。そして選ばれたアイデアは、"利用者の起立・着座を可能にし、立位状態で走行できる電動式車椅子”「Qolo 」です。そう、冒頭で紹介した未来的な形のパーソナルモビリティがそれです。

このQoloは「Qolo2.0」というモデルで、実は立位状態のみで移動可能というモデル。普通の車椅子のような座位をとった場合は、椅子のように座れるだけで移動不可のモデルでした。

しかし、モビリティ・アンリミテッド・チャレンジの5組のファイナリストに送られた活動資金50万ドルを使い、「Qolo3.0」へ進化。立位・座位を問わずに移動可能なモデルが完成! そして、そのメディア向け説明会が先日オンラインで開催されました。

オンライン説明会のプレゼンターは、筑波大学チームQoloのリーダー鈴木健嗣教授

鈴木教授は国立大学法人筑波大学システム情報系の教授であり、サイバニクス研究センター長(人工知能研究室)でもあります。

筑波大学 チームQoloは、「座ることを強いられている全ての人々に立位移動機器を提供する」を目標に掲げ、鈴木教授とその元に集った8名からなるチームです。

彼らがQolo3.0の開発の柱としたのは「自然な立位・座位姿勢の遷移を実現」「立位・座位での移動を実現」「立位による健康寿命延伸の挑戦」の3つ。ちなみにQoloという名前は"Quality of Life with Locomotion”(移動を通じ生活の質の向上を支援する)の頭文字からきているとのこと。

こちらのQolo3.0はモバイルベース(移動台車)・エクゾスケルトン(外骨格)・シートの3モジュールからなる構成。モジュールを組み合わせた姿は、一見すると電動車椅子+シニアカーといった感じ。

しかし、これがわずか数秒で立位モードにトランスフォーム! これがQolo3.0の立位モードです!

シートの座面が背もたれになり、立位状態では重心位置が機体の中央になるよう、脚が後ろにスライドしながら上昇! そして、その立位・座位状態のトランスフォームには動力を使わず、ガススプリングだけで行なっているらしい! 力はほとんどいらないので、上半身を前後に傾けられる体幹があれば使用可能とのこと。

これまでも、立位状態をとれる車椅子はあったのですが、Qolo3.0が優れているのは搭乗者の重心移動のみでトランスフォームが可能な点! そして、この能動的な行動で立位がとれることにより、ユーザー自身がまるで自分の脚で立ったような満足感を得られるのだそう。

車椅子ユーザーにとってこの「自分の脚で立ったような感覚」は、いままでの受動的な立位機構の車椅子とは大きく異なる点だと思います! 20年間車椅子ユーザーである筆者はデモを見た瞬間、「乗って体験してみたい!」と心から思いました。

プロダクトデザイナーの江口氏によれば、なるべくバネ機構なども見えづらい位置にくるようデザインすることで、ユーザーがより自分の意志で、自分の脚で立っているよう感じられるようにしたとのこと。

また、Qoloは医学的な見地からも優れており、立位状態をとることで座位に比べて座面にかかる圧力を42%低減し、褥瘡(床ずれ)予防にも貢献。さらに、先行研究によると立位姿勢になることは、リハビリや健康寿命にも有意な効果があるとされています。

100キロのダミー人形を使用したQolo3.0の各種安全検証も既に終えており、12月に迫ったモビリティ・アンリミテッド・チャレンジの優秀賞に選ばれなかったとしても、来年にはプロトタイプ開発、再来年の製品版発売に向けて開発を進めていくとのこと。

ちなみに、気になる製品版の販売価格目標は9000ドル程度。これは日本の労災保険に合わせたもので、現在発売されている立位型車椅子の市場平均価格が170~250万円であることを考慮すれば大幅に安い価格です。鈴木教授いわく「もしかしたらこの価格で発売することがいちばんのチャレンジかもしれません」とのこと。

これまでは"脊髄損傷した人は車椅子で座って移動する”というのが常識でした。しかし、このQoloが"脊髄損傷者も立って移動する”という世界に変えてくれるかもしれません! いち車椅子ユーザーとしても、そういう世界が来るのが待ち遠しいです。