Masahiro Sano Rakuten

楽天グループは2021年10月12日より、2日間にわたってオンラインでのカンファレンスイベント「Rakuten Optimism 2021」を開催しました。参加人数が想定を大きく上回ったためなのか、開始早々にライブ配信が停止、30分近く開始が遅れ日程も変更されるなど波乱含みのスタートとなりました。

それだけに大きな発表があればとの期待もあったのですが、残念ながら新たな発表はなし。楽天グループの代表取締役会長兼社長最高執行役員である三木谷浩史氏の基調講演でもコロナ後の事業ビジョン、具体的には5GとAI、そしてブロックチェーンなどの新しい技術を活用して従来の産業を大きく変える姿勢を打ち出すことが主体でした。

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▲「Rakuten Optimism 2021」の三木谷氏による基調講演は、現状の振り返りと、5Gなどの新技術で今後実現したいビジョンの説明が主だった

一方で、足元の事業に関しては現状の振り返りにとどまっています。中でも注目を集めている楽天モバイルの事業に関しては、国内でのモバイル通信に加え、楽天グループの他のサービスとの連携、そして同社が特徴として打ち出す完全仮想化ネットワークの技術を海外の携帯電話会社などに販売するという、3つのビジネスを軸に展開していくことを改めて説明していました。

その大きな柱の1つである国内のモバイル通信事業に関して、以前より課題とされているのはエリア整備です。三木谷氏は今回の講演で、2021年9月末には93.3%の人口カバー率を達成したとしていますが、一方で人口カバー率96%の達成時期が「2022年度第1四半期」、要は2022年の4〜6月頃になるとの説明がなされていました。

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▲楽天モバイルの人口カバー率は93%にまで到達したが、96%達成時期は2022年度第1四半期とさらに後ろ倒しに。以前の予定だった2021年夏から大幅に遅れることとなる

楽天モバイルが当初の計画を大幅に前倒しして基地局整備を進めると打ち出した際には、人口96%の達成時期を「2021年夏頃頃」としていたのですが、半導体不足の影響を受けその目標を「2021年内」に後ろ倒ししていました。それが今回の発表で、半導体不足の影響が想定以上に深刻だったのか目標がさらに後ろ倒しされて半年以上の遅れが発生することが明らかになった訳です。

その一方で、楽天モバイルは2021年10月より39の都道府県でKDDIとのローミングを順次終了させ、自社回線のみに切り替えると発表しています。同社はネットワーク整備が進むまでの間、KDDIとローミングすることで未整備のエリアをカバーしていましたが、人口カバー率が90%を超えるなどある程度ネットワークの充実が進んだことから、多くの都道府県でローミングを順次終了させていくようです。

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▲楽天モバイルのWebサイトより。楽天モバイルは2021年10月以降、KDDIとのローミングを39都道府県で順次終了させていく方針を打ち出している

ですが楽天モバイルがローミングを急ぐ理由は、エリアの充実だけでなくローミング費用を抑える狙いもかなり大きいと考えられます。三木谷氏はここ最近の決算会見で、楽天モバイルの契約者増加に伴いローミングの利用者が増え、KDDIに支払うローミング費用が高額になっていることをしきりに訴えていましたし、ローミング費用を抑えるため会員獲得のプロモーションも積極化できないと話していました。

ローミング費用の節約が楽天モバイル、ひいては楽天グループにとって目下最大の経営課題となっていることは確かで、人口カバー率90%を超えたのを機として早期のローミング終了という判断に至ったと言えそうです。

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▲楽天グループの2021年第2四半期決算説明会資料より。契約者の増加でローミングの利用が増えたことから、KDDIに支払うローミング費用が増え経営にも影響を与えている

ユーザー視点で見た場合、楽天モバイルの料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VI」は楽天モバイル回線内でないと使い放題にならないことから、KDDIとのローミング終了でデータ通信を堪能しやすくなります。ですが既に人口カバー率99.9%以上を実現しているKDDIのネットワークが使えなくなるため、ローミング終了で通信ができなくなる場所が多く出てくる可能性が高まるのが懸念される所で、先行してローミングが終了した東京23区外などでも、ローミング終了によって通信ができなくなったという声が多く挙がっていました。

もちろん楽天モバイル側もそうした声を把握しており、今回のローミング終了に際してはより慎重にシミュレーションをするとともに、電波が入りにくい屋内などにも小型の基地局を設置、さらにローミング終了の影響を受けやすい、エリアの境界線にいるユーザーには事前に連絡して対処するなど、対策を強化しているようです。ですがそれでも通信できない場所がゼロになるとは考えにくく、ローミング終了後にエリアの“穴”が多く発生すればユーザーからの不満が大幅に高まってしまうだけに、ローミング終了後の通信品質確保は大きな関心を呼ぶこととなりそうです。

また楽天モバイルがもう1つの大きな柱と位置付けている、完全仮想化ネットワークの外販についても課題は少なくありません。楽天グループは2020年8月に、ドイツの新興携帯電話事業者である1&1と提携して完全仮想化ネットワークを全面的に提供すると発表、三木谷氏はこの市場が2022年には15兆円規模に達するなど非常に大きく、現在も世界各国の携帯電話会社と交渉を進めていると話しています。

ですがそもそも世界的に携帯電話市場は飽和傾向にあり、新興の携帯電話会社が次々生まれてくる状況にはありません。それゆえ1&1のように楽天モバイルのネットワークを全面的に採用する事業者を大幅に増やすのは難しく、実際には同社の技術の一部を採用する程度にとどまり大きなビジネスとはならない可能性もあるのです。

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▲楽天グループは完全仮想化ネットワーク技術をドイツの1&1に提供、現在も多くの国々で交渉を進めているというが、1&1と同様の包括的なサービス提供ができる事業者は少ないと考えられる

ちなみにその1&1を運営するドリリッシュ・ネッツAGのミハエル・マーティン氏は、Rakuten Optimismのセッションで今後の事業課題として、基地局を設置するロケーションとプラチナバンドの確保を挙げていました。どんなに新しい技術を取り入れても、新興の携帯電話会社が抱える課題は世界共通といえるだけに、楽天モバイルが真にユーザーから評価を得て5Gを活用したビジョンを実現するには、やはり国内でのエリア整備こそが最も重要であることに変わりないでしょう。

楽天モバイルはその解決策として、現在総務省で議論が進められている周波数帯の再割り当てによるプラチナバンドの免許獲得、そして米AST&Science社と進めている、低軌道衛星を基地局にして携帯電話と直接通信し、日本全土をカバーする「スペースモバイル計画」に期待を寄せているようです。ですがいずれも実現には多くの障壁があり、現時点で目途が立っている訳ではないだけに、当面は1.7GHz帯など既存周波数による地道なエリア整備こそが、課題解決に向けた唯一の解となりそうです。

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▲Rakuten OptimismではAST&Scienceのアーベル・アヴェランCEOが登壇したスペースモバイル計画に関するセッションも実施。同計画は2023年以降の開始を見込むとしているが、実現には法整備などさまざまなハードルがある


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