色々な意味でここ最近世間の注目を集めている総務省。その総務省で進められている携帯電話に関する議論といえば、携帯料金と密接に絡んでいる携帯電話の公正競争に関する有識者会議が思い起こされるところですが、他にも重要な議論がいくつか進められています。

そのうちの1つが電波に関する議論です。5Gに大きな注目が集まっていることからも分かるように、社会全体のデジタル化を進める上でも電波は重要な役割を果たすと見られていることから、総務省では2020年11月から「デジタル変革時代の電波政策懇談会」という有識者会議を立ち上げ、今後の電波行政のあり方について議論を進めているのです。

その議論の中で注目されているのが楽天モバイルです。同社は携帯電話会社としては新参なだけに、免許を持つ周波数帯は4G向けの1.7GHz帯と、5G向けの3.7GHz帯、28GHz帯の3つしかなく、潤沢な周波数帯の免許を持つ他の携帯3社と比べると不利な状況にあります。

そうしたことから同社はこの有識者会議の第2回会合で、新規参入の事業者に対する周波数帯の割り当てが少なく、平等ではないと訴えたのです。とりわけ同社が訴えているのがいわゆる「プラチナバンド」の割り当てです。

Rakuten Masahiro Sano
▲「デジタル変革時代の電波政策懇談会」第2回会合の楽天モバイル提出資料より。同社は新規参入ということもあって割り当て周波数が少なく、とりわけエリアカバーに有利なプラチナバンドの割り当てがないことが不公平だと訴えている

プラチナバンドとは主に1GHz以下の周波数帯域を指し、周波数が低いと障害物の裏に回り込みやすいという電波の特性から、プラチナバンドは遠くに飛びやすく、広いエリアをカバーするのにとても適しているとされています。かつてソフトバンク(当時はソフトバンクモバイル)の社長だった孫正義氏が、プラチナバンドの割り当てがないため競争上不利な状況にあるとして、総務省に幾度となく割り当てを要求する発言や行動を繰り返したことで、その存在が広く知られることとなりました。

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▲かつてプラチナバンドの割り当てがなかったソフトバンクは、そのことによる競争上の不平等を長年総務省に訴え続け、2012年3月に900MHzの割り当てを受けた際には記者会見を実施するなど大々的なアピールをしていた

それくらいプラチナバンドは携帯電話会社にとって重要な存在だけに、エリア整備に苦心している楽天モバイルがプラチナバンドの免許を欲しいと思うのはある意味当然のことかもしれません。ですがそもそも1GHz以下の周波数は利便性が高いこともあって、携帯電話以外にも、テレビなどの放送や業務用無線などさまざまな用途に使われているため、割り当てたくても空きがないというのが実情です。新たにプラチナバンドを割り当てるとなると、現在使用している事業者の帯域を空けてもらうしか手がありません。

例えばソフトバンクが苦労の末、2012年に割り当てを受けた900MHz帯も、MCA無線(業務用無線)や電子タグなどの周波数帯を他の帯域に移すなどして空きを作ったもの。ソフトバンクはそれらを使っていた事業者に移行してもらうため6年間、累計979億円をかけたとしています。

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▲「デジタル変革時代の電波政策懇談会」第2回会合のソフトバンク提出資料より。同社は900MHz帯を利用するため、従来この帯域を利用していたシステムの引っ越しをする必要があり、そのために6年間と979億円を費やしたとしている

また最初からプラチナバンドの800MHz帯が割り当てられているNTTドコモやKDDIも、実は海外の周波数帯との整合性を取り、効率化を図るため一度この帯域の再編を実施しています。KDDIによるとその再編のために7年間、約5000億円を費やしたとのことです。

そして大手3社に割り当てられている700MHz帯も、元々は地上波テレビのデジタル化移行に伴って空きができたもの。それゆえこの帯域を使うことで、古いテレビ用アンテナやブースターなどで干渉が起き、テレビ視聴がしづらくなるなどの影響が出ることから、3社(とKDDI傘下の沖縄セルラー)は2012年の割り当て以降、その対策を進めるため「700MHz利用推進協会」を設立。現在もその対処を進めながら、700MHz帯が使える場所を広げている最中なのです。

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▲700MHz帯の活用でテレビの映像が乱れる可能性があることから、携帯大手3社と沖縄セルラーは「700MHz利用推進協会」を設立。現在も700MHz帯の利用を開始する地域にこうしたパンフレットを配布して対策を進めている

このように、実は3社はプラチナバンドを使うため非常に長い時間と多額のコストをかけている訳です。それだけに、楽天モバイルがプラチナバンドが欲しいからといって「はいそうですか」と譲る訳にはいかないというのが正直なところでしょう。

ちなみに楽天モバイルは、2021年2月5日に実施された、デジタル変革時代の電波政策懇談会の中に設置されたワーキンググループ「移動通信システム等制度WG」でプラチナバンドの再分配案を提示。3社が上り・下りを合わせて5MHz×2幅ずつ帯域を割譲すれば、既存の設備を大きく変えることなく、新規事業者にも15MHz×2幅のプラチナバンドが割り当てられるという案を示しています。ですが3社からは、再分配する上では既存設備の大幅な改修が必要と、やはり難色を示す声が出ていました。

▲「移動通信システム等制度WG」第1回会合の楽天モバイル提出資料より。同社は既存事業者のプラチナバンドを5MHz×2幅ずつ空けてもらえば、既存設備に大きな影響を与えることなく新規事業者にも15MHz×2幅のプラチナバンド割り当てができると主張している

一方でNTTドコモなどからは、他の無線システムが利用しているプラチナバンドの周波数帯の再分配を検討すべきという意見も出ていました。確かに総務省は、デジタルMCAシステムの高度化システムへの移行に伴い空きが出る845〜860MHzと928〜940MHzの跡地利用について検討を進めているのですが、この帯域は世界的に使われている4Gや5Gの周波数帯とうまく一致せず、携帯電話で利用するには不便なことから、楽天モバイルもこの帯域の割り当ては「希望しない」としています。

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▲同じく「移動通信システム等制度WG」第1回会合の楽天モバイル提出資料より。今後デジタルMCAシステムの高度化でプラチナバンドの一部が空く予定だが、携帯電話向けとして世界的に使われている周波数帯とマッチしないため楽天モバイルは獲得を希望しないとしている

ちなみにプラチナバンドとして見た場合、携帯電話(150Hz幅)より広い帯域幅を使っているのは、470〜710MHzの240Hz幅を使用しているテレビ放送です。ですが2021年2月22日に実施されたデジタル変革時代の電波政策懇談会の第4回会合に参加した日本放送協会(NHK)や日本民間放送連盟(民放連)は、これ以上放送の帯域を空けることに難色を示しています。

その理由は地上波デジタル放送への移行によって、既に携帯電話向けなどに周波数帯を空けてきたことが1つ。そしてもう1つ、既に全ての帯域を使用しているのに加え、災害対応など放送の公共性に対応する上でも放送用帯域の確保が不可欠であることも理由として挙げています。

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▲「デジタル変革時代の電波政策懇談会」第4回会合のNHK提出資料より。放送側としては既に地上波デジタル放送への移行などで周波数帯を空けてきたことや、災害対応など公共性の確保のため、これ以上帯域を空けることには否定的なようだ

また仮に放送用の帯域に空きを作れたとしても、現在楽天モバイルが置かれている状況と、世界的に携帯電話で使われている周波数帯を考慮した場合、有効活用できそうなのは米国のTモバイルが使っている600MHz帯くらいであまり選択肢がないように見えます。

先の有識者会議では関係各社の意見が出揃ったというところですので、今後の焦点は楽天モバイルのために総務省がプラチナバンドの周波数帯再編に動くのか否か、もし動くとしたらどこから、どうやって楽天モバイルの割り当て分をねん出するのか、という点になってくるでしょう。携帯電話会社間でのプラチナバンド再編となれば3社からは反発は必至なだけに、今後の業界動向を占う上でも大いに注目されるところです。

ただ、仮に何らかの形で周波数の再編が実現し、楽天モバイルにプラチナバンドの割り当てがなされたとしても、これまでの再編の事例を考慮すれば実現には相当の時間とコストを費やす必要が出てくる可能性が高いでしょう。それゆえいずれにしても、楽天モバイルがプラチナバンドの恩恵を受けるのはかなり先の話となるでしょうし、それまで同社には地道な基地局整備が求められることに、変わりはないといえそうです。