Rakuten Mobile

楽天は2020年8月11日に、2020年度第2四半期の決算を発表。コロナ禍での巣ごもり重要の高まりで主力の「楽天市場」などが好調なことから、売上高は前年同期比15.7%増の6788億円と好調ですが、一方で営業損益は207億円と、大幅な営業赤字を記録しています。

主な理由は新規事業への先行投資がかさんでいるためで、なかでも現在同社が力を入れており、多くの投資をしているのが「楽天モバイル」の携帯電話事業です。楽天モバイルは紆余曲折の末、4月8日に携帯電話事業を本格開始しましたが、6月30日には早くも100万契約を突破したと発表するなど順調なスタートを切っているように見えます。

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▲本格サービスを開始した楽天モバイルの携帯電話事業の契約数は、約3ヵ月で100万契約に達しているという

短期間でこれだけの顧客を獲得できたのは、お得感の高い大盤振る舞いのキャンペーン施策が影響しているのは確かでしょう。楽天モバイルは本格サービス開始当初より、同社の料金プラン「Rakuten UN-LIMIT」の契約者300万人が1年間無料で利用できるキャンペーンを実施していますし、その後もRakuten UN-LIMITを契約すると、オリジナル端末の「Rakuten Mini」などを1円で購入できるキャンペーンなどを相次いで実施して注目を集めました。

しかしながらライバル他社からは、「大きな影響は出ていない。想定の範囲内だ」(KDDI代表取締役社長の高橋誠氏)など、楽天モバイルへの顧客流出は起きていないとの声が聞こえてきます。それゆえ現在楽天モバイルの回線を契約している100万人の多くは、1年間無料で利用できることを理由に、お試し感覚のセカンド回線として利用しているケースが多いと見られています。

また楽天の代表取締役会長兼社長である三木谷浩史氏も、現在の契約数は「大体そんなものかなという感じ」と話し、まだ加入者獲得を積極化しているわけではないとしています。楽天モバイルのネットワーク整備がまだ途上で、地方や地下などを中心として多くの場所をKDDIとのローミングでカバーしていることから、契約数を増やし過ぎるとKDDIに支払うローミング料金がかさんでしまうというのがその理由だそうです。

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▲決算発表と同日に実施されたオンラインでの決算説明会に登壇する、楽天の三木谷氏

また楽天モバイルはRakuten UN-LIMITの内容をサービス開始直前に改定しており、当初ローミングエリアでの通信量上限が2GBだったのを5GBに拡大したほか、それを超過した時の通信速度も128kbpsから1Mbpsに向上させています。楽天モバイルエリア外での容量の少なさを懸念する声が多く挙がったがゆえの変更と見られていますが、上限が増えたことで楽天モバイルは、KDDIに支払うローミング料金が一層増えてしまう可能性が出てきたのも確かでしょう。

それゆえ楽天モバイルとしては、加入者は増やしたいものの、自社エリアが程度拡大するまではあまり増やしたくない……というジレンマがあるようです。その解決策となるのは自身のエリアを早期に拡大してしまうことですが、三木谷氏は今回の決算に合わせて新たな計画を公表しています。

それは楽天モバイルの基地局整備を、なんと5年も前倒しするというもの。同社が総務省に提出している計画では2026年末までに人口カバー率96%の達成を目指すとしていましたが、その達成時期を2021年夏と、大幅に前倒しするというのです。

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▲一時は大きく遅れていた楽天モバイルの基地局整備だが、現在は前倒しでの整備が進んでおり、2021年3月までに人口カバー率70%を、2021年夏までに96%を達成するとしている

楽天モバイルは再三にわたって総務省から指導を受けるなど、基地局整備の遅れがかねてより指摘されていただけに、なぜ5年も計画を前倒しできるのか?という疑問も沸くところです。その理由について三木谷氏は、「一番難しい都市部を乗り切ったのが非常に大きい」と話していました。

都市部はすでに大手3社が多くの場所を確保しており、基地局を設置できる場所が少ないことから、楽天モバイルは場所の確保に向けた交渉に苦労し、それが整備遅れの大きな要因となっていたようです。その都市部での場所の確保に目途が立ち、既に1万近い基地局設置が進んだ一方、今後は比較的場所を確保しやすい地方での整備が主になることから、大幅に前倒しできると踏んだようです。

またインドでのコロナ禍の影響で機器のテストができず、6月の提供予定が延期されていた5Gの商用サービスに関しても、9月末に提供することが明らかにされています。楽天モバイルはサービス開始当初より、5Gの性能をフルに発揮できるスタンドアローン運用でのサービス提供を予定しているそうで、4Gの性能に引きずられがちなノンスタンドアローン運用で提供されている他社の5Gとどのような違いを出してくるのかが注目されます。

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▲コロナ禍で6月の開始を延期していた5Gの商用サービスも、9月末には提供開始するとのこと。既にNECとコアネットワークの共同開発も進めている

ですが三木谷氏は、国内でのサービス展開は「楽天モバイルの第1章、序章くらいかなと思っている」と話し、同社にとってより肝心なのは「RCP」(Rakuten Communications Platform)だとも説明していました。RCPとは、楽天がかねてより掲げているネットワーク仮想化技術の全面採用や、基地局など無線設備のオープン化技術などを活用することで、モバイルネットワークを簡単かつ安価に構築できるプラットフォームのことです。

三木谷氏はかねてより、RCPを米アマゾン・ドット・コムのクラウドサービス「AWS」に例え、RCPを世界中の通信会社などに提供し、モバイル通信業界のAWSを目指すと話していました。つまり楽天、ひいては三木谷氏がモバイル事業へ参入したのは、RCPで世界を相手にしたプラットフォームビジネスをやりたかったためだということが見えてきます。

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▲楽天モバイルが開発に力を入れる「RCP」。仮想化技術やオープンな技術を積極的に取り入れ、モバイルネットワークの構築に必要な機能をクラウドで提供するプラットフォームになる

ですが国内の状況を見ますと、そうした三木谷氏の理想や目標に、現場と現実が付いていけていない印象を受けてしまいます。というのも楽天モバイルを巡っては、基地局整備の遅れ以外にも多くのトラブルが発生しており、それが現在も収まっていないのです。

最近では総務省の認可を得ずに、Rakuten Miniの対応周波数を変えてしまったことが大きな話題となりましたが、それ以外にも7月15日に開始した「夏のスマホ大特価キャンペーン」の内容が、電気通信事業法に触れることから急遽内容を変更したり、7月17日には誤ったシステムメンテナンス情報を告知してしまったりと、トラブルが絶えない状況にあります。

現在の楽天モバイルはプラットフォーマーではなく携帯電話会社であり、同社に真っ先に求められるのは、国内の消費者に安価で質の高いモバイル通信サービスを提供することのはずです。将来を見据えればRCPの取り組みは重要かもしれませんが、消費者が満足できるサービスを提供できなければ顧客はあっという間に離れてしまい、足元のビジネスが成り立たなくなるのも事実。それだけに楽天モバイルには、国内で安定したサービスを提供できる基盤固めこそが、いま最も求められるところです。