Harvard SEAS
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シャコは自然界で最も強力かつ高速なパンチを繰り出す能力を持っており、そのスピード・破壊力は22口径の弾丸にも匹敵するとよく言われます。そして生体力学を研究する科学者にとって、そのパンチは非常に魅力的な研究対象と言えるでしょう。

数年前に非常に小型軽量ながら空中を飛ぶことが可能なロボット”RoboBee”を生み出したことで知られるハーバード大学の研究チームは、超高速パンチを繰り出すシャコの捕脚と呼ばれる部分を生体力学モデルで再現した小型ロボットを開発したと米国科学アカデミー紀要(PNAS)に発表しました。

研究者のひとりロバート・ウッド氏は「シャコパンチのスピードと力は、複雑な基本メカニズムの結果として得られるものです。例えば、シャコの叩きつけのスピードや力は、複雑に構成されたメカニズムの賜です。シャコパンチを繰り出す捕脚のロボットモデルを構築することで、このメカニズムの研究をより深く掘り下げることができます」と述べています。

シャコと言っても、細かく分類すればおよそ450もの種があり、大別すると槍のような捕脚で獲物をブッ刺すタイプと、丸い巨大な爪で獲物をぶちのめすタイプに分けることができます。いずれの場合もそのアクションは目にも留まらぬという表現がふさわしい高速っぷりで、某マンガ作品を読んだ方なら、そのパンチあまりの速さで捕脚の周囲の水が瞬時に蒸発し気泡化するキャビテーション現象を引き起こすことをご存じでしょう。このキャビテーションの泡が潰れる際にはプラズマが発生し発光する「ソノルミネッセンス」現象が起こることもあります。そして、このパンチで発生する衝撃波は、獲物を気絶させるもしくは死にいたらしめる威力を持っています。

意外にも、これほど強烈なパンチを繰り出すにもかかわらずシャコはそれほど強い筋肉を持っていません。2018年に発表された研究によると、その超高速運動を引き起こす原動力は筋力ではなく、バネの原理を利用したものであるとのこと。「シャコには他の甲殻類に比べて特別な筋肉がないことがわかっているので、問題は、筋力に頼らずに強烈な加速度を生み出すメカニズムがどうなっているのかということです」と共同研究者のエマ・スタインハート氏は述べました。そして考えられることは、シャコが捕脚の一部を曲げて位置エネルギーを蓄え、筋肉の腱にある節片(スクレライト)と呼ばれるラッチ状の構造でそれを保持、これを外すことで弓が矢を放つかの如き高速運動を生み出しているのではないかということでした。

チームはこの機構をロボット化することを考え、以前RoboBeeで利用した、”飛び出す絵本”にヒントを得たカラクリを利用しました。シート状の材料を切り出し、折りたたみ重ね合わせて目的の形状にしたうえで、圧電アクチュエータを使って小型の人工筋肉を造り出すしくみで、これを薄いプラスチック製のヒンジでつないで回転運動を生み出す関節をこしらえ、空気中および水中の2種類の負荷条件で実験を行いました。

Greg Freeburn and Emma Steinhardt/Harvard SEAS
Greg Freeburn and Emma Steinhardt/Harvard SEAS

その結果、シャコパンチの一連の動作には4つの異なる段階があり、やはり構造的なものが、最初のラッチ解除のあとで急激な加速度を生み出す原動力であることがわかったとのこと。小型ロボットによる再現では、スケール換算した実物のシャコには及ばないながら、0.4秒の動作で秒速26mという爆発的な加速を生み出すことができました。またラッチ解除からスナップがきくまでの時間差は「接触式ラッチのような摩耗を防止しつつ、繰り返し強力な動作をおこなうための重要な機能だと考えられる」としています。

共同執筆者のひとりでデューク大学の生物学者シーラ・パテック氏は「今回の研究は、学際的な共同研究がいかに複数の分野で発見をもたらすかを示しました」、「物理モデルを構築し、数学モデルを開発する過程で、シャコの打撃メカニズムの理解を深めることができました。また、より広い意味で、生物や合成システムが幾何学的な手法を用いて、超高速で繰り返し使用される動作中の極端なエネルギーの流れを制御する方法を発見することができました」と述べています。

Source:PNAS

via:Harvard SEAS