NTTドコモは全国のドコモショップで2020年12月1日より、同社提供サービス以外の一部アプリに関して、アカウントデータの移行や初期設定などを有料でサポートする「アプリ設定サポート」を提供開始すると2020年11月19日に発表しました。対象となるアプリは「メルカリ」「LINE」などの定番アプリだけでなく、「Pokémon GO」「ディズニー ツムツム」などのゲームも含まれているようです。

1アプリあたり1650円(税込)も支払ってアプリの設定をサポートしてもらう、というのはスマートフォンに慣れた人には信じ難いことかもしれません。ですがNTTドコモの発表によると、このサービスは約250の店舗でトライアルとして提供した結果、利用者から好評だったことから全国展開に至ったのだそうです。

▲NTTドコモが2020年12月1日より、全国のドコモショップで提供するという「アプリ設定サポート」。メルカリやTwitterなど、定番アプリの移行や初期設定を有料でサポートするという

それに加えて、KDDIがスマートフォンの使い方をサポートする月額制サービス「auスマートサポート」が2013年から現在に至るまで続いていることを考えれば、スマートフォンに慣れていない人が実は非常に多く、有料でもいいからとにかくスマートフォンの使い方を手厚くサポートして欲しいというニーズが高いことは確かだといえます。

そして実はサポートの有料化は、ある意味で昨今話題となっている携帯電話料金の引き下げにもつながってくる話でもあるのです。そもそもMVNOや携帯電話大手のサブブランド、そして楽天モバイルなどの格安なサービスが、なぜ携帯電話大手のメインブランドより安い料金プランを提供できるのか?といいますと、最大の違いはサポートにかかるコストにあります。

メインブランドは全国に多数のショップを構え、多くのスタッフを雇って端末やサービスの販売だけでなく、無料で多様なサポートをしてくれますが、格安なサービスのサポートはWebと電話が中心です。ショップ数を増やしている楽天モバイルでさえ、店舗での対応は基本的に販売と契約当初のサポートのみで、Webで購入した製品やSIMのサポートは店頭では受け付けないとしています。

▲実店舗を拡大している楽天モバイルだが、あくまで新規契約などの販売が中心であり、大手3社のメインブランドと比べるとサポートは弱い

格安のサービスが店頭でのサポートに消極的なのは、運営・維持にとてもコストがかかる割に収益につながらず、低価格でサービスを提供できなくなってしまうため。メインブランドの料金が高いのは、毎月の通信料の一部で店頭サポートの維持コストを賄っているからこそともいえるでしょう。

例としてメインブランドの1つであるソフトバンクの料金プランを見ますと、5Gスマートフォンなどで利用する大容量の「メリハリプラン」に加え、フィーチャーフォンからスマートフォンに乗り換えた人専用で、各種割引込みで月額980円からと非常に安価に利用できる「スマホデビュープラン」に力を入れているようです。

一方、メリハリプランとスマホデビュープランの間の層に向けたプランは段階制の「ミニフィットプラン」のみ。中間層に向けたプランは、サブブランドであるワイモバイルの方が充実度が高い状況にあります。

▲ソフトバンクの主力は大容量プラン「メリハリプラン」だが、フィーチャーフォンからスマートフォンへの乗り換えユーザーに向けた「スマホデビュープラン」にも力を注いでいる

なぜソフトバンクブランドで、スマートフォンのヘビーユーザーだけではなく、それとは対極をなす初心者向けプランにも力を入れるのかといえば、初心者がスマートフォンを使いこなすにはショップでの手厚いサポートが必要だからでしょう。ですがスマホデビュープランの料金だけではショップ運営が成り立たないので、ショップを維持する上では高額なメリハリプランから得られる利益が必要、ということなのではないかと考えられます。

このことはヘビーユーザーからしてみれば、見方によってはスマートフォンを積極的に買い替える人だけが得をするとして批判を集めた、スマートフォンの大幅値引きにも近い不平等な状況ともいえます。それゆえスマートフォンに詳しい人からしてみれば、スマートフォンの値引きが行政から猛批判を浴び厳しい規制がなされた一方で、スマートフォン初心者を優遇することになぜ批判の声が上がらないのか?と疑問が沸くところかもしれません。

それはやはり、シニアを主体としたスマートフォンに馴染みを持っていない人達の存在が、今後大きな社会課題となる可能性が高いがゆえでしょう。コロナ禍で行政サービスなどのデジタル化が叫ばれている昨今、政府はマイナンバーをスマートフォンに搭載することを検討するなど、スマートフォンを前提とした行政サービスのデジタル化を推し進めようとしている状況です。

ですが日本では少子高齢化によって、デジタルへの馴染みが薄くスマートフォンの利活用があまり進まない、シニア世代の人口が非常に多いのが現実です。シニアがスマートフォンを使いこなせなければそれを前提とした行政サービスが受けられず、デジタル化を推進する政府にとって困ったことになってしまいます。

▲スマートフォンの個人保有率の推移(総務省「平成30年版 情報通信白書」より)。やや古い資料にはなるが、2017年時点で60代以上のスマートフォン保有率は5割以下で、団塊世代を含み人口が多い70代の保有率は2割未満となっている

もちろん将来的にはAIやIoT、そして5Gなどを駆使し、シニアであってもリテラシーを意識することなくデジタル化の恩恵を受けられるようになるかもしれません。ですがその実現にはまだまだ時間がかかることから、当面はシニアのスマートフォンに対するリテラシーを上げる、手厚いサポートが必要不可欠と捉えられているわけです。

▲シニア向け端末を多く手掛ける京セラは、シニア向け通信サービスの新しいコンセプトとして、AIやIoTなどの技術を活用し、鏡を用いた物理・心理的距離を感じさせないコミュニケーションを実現する「Smart Gate」を提案している

ただよくよく考えてみると、それを携帯電話会社が一手に引き受ける必要があるのか?という点には疑問もあります。先にも触れたユーザー間の不平等という問題もありますが、より深刻なのは手厚いサポートが無料で提供されている現状が、それを担う携帯電話ショップにとって収益面で全くメリットがないということ。そのことがショップスタッフの負担増加とモラル低下につながっている側面は否定できないでしょう。

それゆえ今後、携帯電話ショップでのサポートを有料化する流れは必然といえ、冒頭で触れたアプリ設定サポートは今後のサポート有料化を見据えた施策といえそうです。ただそうなると「お金がない人をどうやってサポートするんだ」という声も出てくると思いますが、セーフティネットを提供するのは企業ではなく行政の役割ではないかと筆者は考えます。

例えば行政が、シニア向けのスマートフォン教室を実施する企業やボランティアに補助金を出すなどして、これまで携帯電話ショップが負担していたシニアのサポートをある程度代替する。そうすれば携帯電話ショップやそのスタッフが抱えていた負担は大幅に減るでしょうし、それが携帯電話会社にとって大きな負担となっているサポートコストの削減、ひいてはメインブランドでの料金が引き下げへとつながっていくのではないでしょうか。

菅総理から「儲け過ぎ」と批判されている携帯電話会社ですが、シニアのサポート以外に、災害対策など社会を支える上で必要なさまざまなコストを負担していることを忘れてはならないでしょう。携帯電話料金引き下げの議論を進める上では、これまで携帯電話会社が一手に負担してきた社会コストを代替する方策を考えていくことも必要ではないかと筆者は考えます。