ソフトバンクが沖縄アリーナで実施した顔認証の実証実験

ソフトバンクは9月30日、バスケットボールの試合で顔認証による入場システムを活用する実証実験を行いました。

会場は2021年に完成したばかリのバスケットボール専用競技場、沖縄アリーナ。ソフトバンクがプロバスケットボールリーグの「B.LEAGUE」のトップスポンサーとなっている縁から選ばれました。

沖縄アリーナは2021年落成のバスケットボール競技場。琉球ゴールデンキングスのホームスタジアムです
沖縄アリーナは2021年落成のバスケットボール競技場。琉球ゴールデンキングスのホームスタジアムです

今回の実証実験では、チケットを購入した来場客の中で希望する人向けのサービスとして実施されました。スマホのアプリであらかじめ顔の情報を登録するした人に、会場への送迎や顔パス入場、特別なサービスなどの特典が受けられるという内容で、アプリの利用は無料となってます。

ソフトバンク顔認証

アプリでは、チケットの情報とニックネームを登録した上で、スマホのインカメラを使い、表示にしたがって顔を上や横に傾けて立体的な顔の情報を登録する仕組みです。オンライン本人確認「eKYC」のようなイメージですが、筆者が試してみたところ10秒ほどサッと顔を写すだけで登録されました。

ソフトバンクが沖縄アリーナで実施した顔認証の実証実験
実証実験は、チケットと顔の情報を登録すると、顔パスでさまざまなサービスが受けられるという内容。会場へのバス送迎も顔認証で行います

顔の登録時にソフトバンク側に送られる情報は顔そのものの画像ではなく「顔の特徴量」を送信する仕組みとなっています。

認証端末はiPadに、サーモグラフィーカメラのFLIRを取り付けただけのシンプルなもの。会場の認証端末では顔を判別し、ニックネームを表示し、あわせて検温も行います。

会場への入場も顔認証で。写真左側のiPadが認証端末です
会場への入場も顔認証で。写真左側のiPadが認証端末です
顔の登録はスマホで、実証実験専用のアプリから行います。認証端末は市販のiPadそのものです
顔の登録はスマホで、実証実験専用のアプリから行います。認証端末は市販のiPadそのものです

■顔パスで送迎や食事も

顔を登録することで、会場への送迎バスを顔パスで利用可能。会場への入退場そのものもアプリをかざすことなく行えます。会場内では顔認証で無料のフード、ドリンクのサービスがあり、お土産売り場ではチームのキャラクターのグッズをプレゼントも。

顔認証すると無料でスナックフードやドリンクがもらえるブースを用意
顔認証すると無料でスナックフードやドリンクがもらえるブースを用意

さらに、「1to1メッセージ」として事前に選んだ選手からのメッセージを顔認証で表示するスポットも会場各所に設置。撮影スポットなどがある特別な空間「プレミアムラウンジ」も顔認証で自由に入場できます。

無料で顔を登録するだけで、さまざまな特典が受けられるとあって、観客からはおおむね好評なようでした。

顔認証すると選手からのメッセージがでてくるスタンドが会場の各所に設置されていました
顔認証すると選手からのメッセージがでてくるスタンドが会場の各所に設置されていました
顔認証すると、アプリで事前に登録した「好きな選手」からのメッセージが再生されます
顔認証すると、アプリで事前に登録した「好きな選手」からのメッセージが再生されます
顔認証で入れる特別な空間「プレミアムラウンジ」。フォトスポットやソフトバンク5Gの体験コーナーがありました
顔認証で入れる特別な空間「プレミアムラウンジ」。フォトスポットやソフトバンク5Gの体験コーナーがありました

■スムーズだけど識別できていない

ただし、今回使用された顔認証ソリューションは、技術としては未完成なものだったことは、指摘しておかなければなりません。

実験の様子を観察していると、顔の認識自体はスムーズに行えたものの、認識した人のニックネームではなく、別の人のニックネームが表示されてしまうことが多々ありました。

つまり、今回の顔認識ソリューションは、肝心の顔の識別としては機能していない状況だったと言わざるを得ません。

登録したニックネームとは違う人の名前が出ることもしばしば。FLIRを用いた検温システムも、日中の屋外ではうまく動作しない場合があったようです
登録したニックネームとは違う人の名前が出ることもしばしば。FLIRを用いた検温も、日中の屋外ではうまく動作しない場合があったようです

ソフトバンクの開発スタッフによると、顔認証ソリューションのイベントにあわせて新たに開発されたもの。来場者が登録するためのスマホアプリ、認証用のiPad向けアプリ、サービスを動かすクラウドの3つのシステムを3か月弱という短い期間で開発したと言います。

顔認証のエンジンは既存のものを用いており、ソフトバンクの社内での検証では99.9%の精度で識別できていたとしています。ただし、沖縄での実証実験では、スマホのアプリで顔を登録する時の環境がひとそれぞれだったためか、日差しの強い屋外など環境による原因もあるのか、実際には失敗の方が多い状況となってしまったようです。

実験に参加した人に話を聞いてみても、「スムーズに通れたけれど、出てきた名前が違った」と苦笑いされるばかりでした。

盛況だったプレゼント配布会場
盛況だったプレゼント配布会場

結果として、実際の案内では、スマホで表示したチケットを確認して入場を受け付けたり、フードの配布では「1人1回」のルールを設けずに複数回並ぶことを許容したりするなど、参加者を信頼した運用となっている様子でした。

ただし、今回は顔と紐づけて表示される情報が自己申告のニックネームだったため、個人情報の流出などの深刻なトラブルは起きていません。しかし、今後例えば決済に活用するなど、より実践的な用途に顔認証を活用していくならば、“認証”としての精度の改善は必要となってくるでしょう。

■「要望や意見や集めていきたい」

今回の実証実験について、ソフトバンクでコンシューマー事業全般を統括する榛葉淳副社長にお話を伺いました。

ソフトバンクの榛葉淳副社長
ソフトバンク 副社長兼COOの榛葉淳氏

――今回の実証実験の狙いを教えてください。

榛葉氏

ご存じのようにソフトバンクではスポーツの振興にも力を入れており、特にバスケットボールのB.LEAGUEではプロリーグの結成時からトップパートナーとして参画しています。

今回の取り組みは、バスケットボールやスポーツを愛する皆様に、ソフトバンクならではのテクノロジーを活用した便利な体験を感じていただけたらとの思いで企画しました。

今回の実証実験は、B.LEAGUEの開幕戦という大事なイベントの場で、チケットを購入されたお客様に体験していただくという、実践的な場でトライアルです。

顔認証の技術を確かめることはソフトバンクの社内でも検証できますが、そうではなく実際のスポーツイベントの場で検証したのは、ご来場いただくファンの方々が何を喜んでいただき、何を望み、場合によってはご意見をいただけるとも思いますが、そういったお声をまずは吸収し、蓄積したいとの思いがありました。

――顔認証の技術にどのような可能性を感じていますか。

榛葉氏

顔認証はシニアの方でもお子様でも、抵抗なく使えるテクノロジーです。将来的に技術を洗練させていくことで、多様なサービスへ応用できるのではないかと考えています。

将来的に技術を発展させていけば、顔認証で決済できる仕組みにまで発展させていくことができるでしょう。ただし、決済まで完結させるにはいくつかのステップがあり、実現には時間がかかるとも思っています。

しばらくスマホやPayPayのような仕組みが主流となると考えていますが、顔認証はその先の段階で、スムーズで安全・安心なサービスも実現するためのテクノロジーとして注目しています。

今回の沖縄アリーナでの実証実験は9月30日と10月2日の計2回、実施されました。今後の展開は未定ですが、ソフトバンクでは顔認証技術のサービスへの応用を継続して検討していくとしています。

スポーツ観戦を便利にするテクノロジーの探求はこれからも続きそうです
スポーツ観戦を便利にするテクノロジーの探求はこれからも続きそうです

スマホなどを用意せずに顔をかざすだけで通れるという仕組みは、スポーツ体験をより快適なものにできそうだと感じました。実験に参加した来場者からは、大きな戸惑いもなく受け入れられていたという点でも、将来の可能性には期待できそうです。ただし、顔認証技術としては課題が見られたのもまた事実。今後の認証技術としての改善にも期待したいところです。