CES 2022でソニーグループが発表したプロジェクト「STAR SPHERE(スタースフィア)」について取材してみると、なぜソニーグループが人工衛星を打ち上げるのか。その理由がわかってきた。

彼らが人工衛星を打ち上げる理由は、僕らとも無関係ではない。というのも、スタースフィアは高価な業務用システムとして提供するのではなく、可能な限り低コスト化し、みんなで“宇宙からの視点“を共有するために打ち上げられるものだからだ。

誰もが簡単に撮影をセットアップし、リーズナブルな価格で宇宙からの実映像を撮影できる。

今年(2022年)10〜12月のうち上げを予定しているというスタースフィアには、ソニー製のフルサイズCMOSイメージセンサーに、24-135mm焦点距離を持つズームレンズが取り付けれているという。詳細なスペックはまだ非公開とのことだが、概ねαシリーズの最新製品を踏襲していると考えるのが妥当だろう。

JPEGやRAWでの静止画ダウンロードはもちろん、フルHDでのストリーミングや4K動画の撮影なども可能なだけの通信速度を持つという。

ソニーはスタースフィアで、いったい何をやろうというのだろうか。

ソニーグループ新規事業探索部門・宇宙エンタテインメント推進室・室長の中西吉洋氏などの話をまとめてみた。

宇宙好きが集まって“やってみたいね“で始まった

そもそも、なぜソニーグループが宇宙事業を行うのだろうか。発表ではソニーらしくコンシューマ体験を重視した事業になるという。宇宙旅行事業が始まっている昨今とはいえ、宇宙開発が国家の威信をかけた主に軍事目的で進められてきた時代に生きてきた人間としては、その成り立ちに興味を持った。

ところが、ソニーグループでスタースフィアに関わる社員たちと話をしてみると、同じような感覚でいることがすぐにわかった。

小さい頃からの憧れていた宇宙の世界。宇宙飛行士になってみたい、宇宙に関わる仕事をしてみたい。宇宙ってどんなところだろう。かつては夢でしかなかった話題も、もしかすると事業としてプロジェクトを作れるかもしれない。

いろいろな想いを抱えた社員たちが、社内のコワーキングスペースに集まって宇宙に関するさまざまなメンバーたちが言葉を交わすようになったのは2017年とのことだ。

確かにその頃、ソニーは社内のスペースを大きく改装し、異部署間での交流を促す仕組みづくりに取り組んでいた。

その中で宇宙が大好きだけど、宇宙事業には関わることがこれまではなかった仲間で、自分達と同じような“普通の人々“が宇宙に関われる方法はないかと議論していたのだという。そんな中、JAXAが発表したのが共創型研究開発プログラム「J-SPARC」だったという。

このプログラムの枠組みで、宇宙視点のエンターテインメントサービス事業を立ち上げられないか?と検討し、2019年にJAXA、東京大学、ソニー(当時、現在のソニーグループ)で始まったオープンイノベーションプロジェクトがスタースフィアだった。

“宇宙を解放する”サービスを

中西氏は「私たちのスローガンは“宇宙を解放する“です。もっとも改革者としてソニーがみんなに解放するぞ!なんて大上段に構えたものではなく、ごく普通の人が宇宙からの視点を持った時、どんなイマジネーションを感じるのか。一般の人にとって、宇宙がもっと身近なものだと感じてもらうことです」と話す。

スタースフィアに搭載された高性能カメラを一般に解放し、高精細な写真や動画撮影をいろいろなひとができるようにすることで、これまでは宇宙飛行士などの専門家、あるいは宇宙旅行を行える富裕層だけしかみることができなかった風景、視点から宇宙を感じる手段を、次の世代を担う人たちに提供したいというのが、このプロジェクトの根幹の部分ということになる。

プロジェクトは、JAXAがさまざまな面でアドバイザーとして関わり、実際の打ち上げ時にはロケットの打ち上げを担当する。東京大学は人工衛星の制御、推進器の開発、地球との通信部分など、宇宙開発に関する基本的な部分での技術やノウハウを提供する。

ではソニーは?というと、宇宙の世界と一般コンシューマの間にあるギャップを埋め、誰もが簡単に宇宙撮影できる仕組みづくりと、コンシューマが宇宙からの視点に興味を持ってもらえるようなコンテンツ開発担当する。

ウェブブラウザで簡単に“衛星撮影をシミュレーション“

スタースフィアは宇宙開発機器のコンポーネント単位で「6U」というサイズ。本体部の長辺で30センチほどの小型人工衛星だ。先端には目立つ形で(おそらくα用とみられる)24-135mmズームレンズが見える。

水を動力源とする東京大学開発の推進器が内蔵されており、高度500〜600kmの間を推進器で維持しながら、地球1周あたり90分で回り続ける。地上基地局上空にあるときに衛星との通信を行い(当初は1箇所)、その際にデータをダウンロードするとともに、コマンドを送信して衛星の姿勢制御と撮影制御を行う。

ちなみに推進器の搭載動力源から予想される運用期間は2年半ぐらいとのこと。

スタースフィアではユーザーに静止画、あるいは動画の撮影サービスを提供するのだが、そのためには細かな姿勢制御信号を専門家が打ち込まなければ望みの結果が得られなかった。

そこでソニーはスタースフィアのシミュレータをウェブアプリケーションとして開発。このアプリ上で好きな位置の、好きな時間帯の写真あるいは動画を撮影できるという。姿勢制御などのコマンドはシミュレータが自動生成してくれるため、エンドユーザーは、実際に衛星をどのように制御すべきかなどは全く気にしなくていい。

そもそも、このシミュレータで遊ぶことそのものが楽しい。Google Earthの人工衛星撮影シミュレータ版といった風情で、それこそPlayStation 5のコントローラで操作する感覚で、自由に撮影位置、撮影方向を決めて撮影できてしまう。

実はこのシミュレータにも二つのバージョンがあり、シンプルな静止画撮影のバージョンと、より効果的に動画の撮影シナリオをプログラムできるバージョンがあるという。現時点ではどのような形で解放するか検討中とのことだが「おそらくは両方とも提供する(中西氏)」とのことだ。

本当に自分達にも手が届く?

今年の年末ぐらいに打ち上げという、現在も開発を続けながら準備をしているところで、最終的なサービスの詳細をどこまで詰められるかは検討している段階のようだ。たとえばアーティスティックな写真を撮影するために、意図してホワイトバランスを崩したいとったニーズもあるだろう。もちろんRAW撮影すればいい話だが、すると通信コストが上がる。

そもそも、地球を90分で一周する人工衛星のカメラを姿勢制御を行いながら、どのように一般解放するのかという部分も、やってみなければわからないところがあるはずだ。

現時点では

  • 好きな地点で好きな方向に向け、好きな画角で撮影する静止画撮影

  • 同様に好きな地点、好きな方向からパンさせるなど一定の時間に区切ってシーケンスを決めた動画撮影

  • 時間を区切って衛星のカメラ機能を貸し切って利用する

などのメニューが検討されているが、内蔵バッテリの容量の関係から、90分借りても90分撮影できないなどの制約は出て来るようだ。静止画撮影の場合は、バッテリ容量を勘案しながら、撮影予約の最適化をおこなって適切なタイミングでの予約が割り当てられる。

価格はまだ決まっていないというが「実際のコストの割り算ではなく、このぐらいの価格というイメージでは、一般ユーザー向けは1ショット1万円ぐらい。貸切で1周分数10万円というメニューは用意したい」という中西氏だが、当然ながら大赤字でも事業は成り立たない。

果たして1枚1万円という低価格な宇宙写真撮影は可能になるのか?

続報を待ちたいところだが、簡単なユーザーインターフェイスで衛星を制御し、撮影シミュレーションできるシステムが宇宙開発の関係各社にはとても好評。とのこと。宇宙とエンタメという意外な組み合わせのプロジェクトだが、意外なところに本格事業化の可能性はあるのかもしれない。