WF-1000XM4

WF-1000XM4のレビューが解禁され、多くの評価記事が出始めている。名称こそ"M4"、すなわちマーク4で前作のアップデート版という位置付けだが、今回の製品は型名を変えてもいいのではと思えるほど、音質面でも機能面でも進歩している。

ドライバの改良やLDACへの対応、小型・軽量化などの話題もあるが、そのあたりの情報はむしろソニー自身のサイトの方が充実しているだろう。

そこでこのコラムでは、前モデルと比較しての音質の違い、使い勝手や装着フィールなどに特化して話を進めたい。……と、その前に結論めいたことを先に書いておこう。

音質に関しては、ノイズ処理が極めて難しい完全ワイヤレスの形式ながら、ワイドレンジで素直な音作りとなっており、得手不得手が少なくなった。機能面でも、発売からの2年でライバルに凌駕されたポイントを地道に潰し、独自性も加えられている。

WF-1000XM3(年末までは併売される予定)がそうであったように、新たなフラッグシップとして2年間を戦える仕上がりになっていたのだ。

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WF-1000XM4 ブラック (Amazon.co.jp)

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DSEE Extreme搭載、LDAC、360RA対応よりも大切なこと

WF-1000XM4

デジタル製品はどうしてもスペック評価に偏りがちになってしまうものだが、WF-1000XM4はデジタルガジェットである以前に純然たるオーディオ製品だ。そのため音の"質"が何よりも求められる。

では、AI技術を駆使して適応的に圧縮音源が失った情報を補完するDSEE Extremeの搭載や、48kHz/24bitのハイレゾをBluetoothで実現するLDACへの対応、あるいは360 Reality Audio向けプロファイルの作成にも対応しているが重要かといえば、個人的にはそれさえもこの製品の場合は、付加的な要素だと感じている。

WF-1000XM4

WF-1000XM4の良さは、基本となるシステムのS/Nがよくなり、前作に比べよりフラットでワイドレンジの音になったこと。そしてそれに伴って、音作りにも変化が見られることだ。

完全ワイヤレス型イヤホン(True Wireless Stereo : TWS)は、小さな筐体に無線部、デジタル信号処理部、アンプやドライバなどのオーディオ部が混在しているため、S/Nを向上させるのがとても難しい。難しい中で、どのように音の質をまとめるかがメーカーの腕の見せ所とも言えるだろう。

WF-1000XM3の場合、最低域はあまり伸びておらず、その分、ミッドバスを少しプッシュして演出的に聴かせていた。高域も帯域を伸ばしたり、情報量を引き出したりするのではなく、嫌な音が出ないよう抑え気味。その分、中域の厚みがあり、ミッドバスをプッシュ気味にした演出とともに、音楽にある種の熱っぽさのようなものを加えるチューニングだったと思う。

解析的に音楽を聴くのではなく、日常の中で移動時や出先のカフェなどで使うことを考えれば、完全ワイヤレス型というパッケージの中ではよく考えられた作りだった。

しかしあれから2年、WF-1000XM4では本質的な部分にメスが入れられたというのが最初に聴いた印象だった。低域の再生帯域が広がり、ミッドバスをプッシュする傾向が大幅に後退。物足りなかった高域の伸び、情報量の増加もありつつ、S/Nの悪さに起因するようなカスれた感じや聞き疲れしそうなニュアンスもない。

つまり、ワイドレンジかつフラットになったということなのだが、オーディオ的には目標とする方向に近づけたため、創意工夫で誤魔化す必要がない、すなわち薄化粧でも十分なほど素性がよくなったというのが、今世代のポイントだと思う。

WF-1000XM4

現代的シンセベースからアコースティックな録音まで幅広くマッチ

薄化粧のまま、製品の素の音質で勝負できるようになると不得意な再生楽曲ジャンルが減るものだ。AirPods MAXを評価する際に使ったプレイリストから具体的な楽曲例をピックアップしながら紹介していこう。

ザムヴォーロの「In love and War」の深みと弾力感に溢れるベースライン、ビリー・アイリッシュの「bury a friend」では硬質なゴムを叩いているかのようなシンセベース、ザ・ウィークエンドの「Blinding Lights」の脳髄を直撃するようなベース音色など、ベースの音色にこだわった楽曲を前モデルと比較して聴いてみると、その描き分けがより明瞭に行えるようになったことがわかる。

これはアコースティックな楽曲でも同じで、昔から音質評価でよく使われるジェニファー・ウォーンズの「Way Down Deep」の超低音の打楽器でも雰囲気を壊さずに再現してくれた。

もちろん、あくまでもイヤホンなので、オーバーイヤーのヘッドホンほどの深みや量感は求められない。例えばシェルビィ・リンの「Just A Little Lovin’」冒頭のバスドラムやベースの風合いは、あくまで雰囲気のみだし、セルジオ・メンデスがファーギーをフューチャーした「The Look of love」の冒頭の超低音効果音は再現できないのだが、それは他のイヤホンも同じだ。

しかし、演出的な音作りが控えられているので、ベースを基盤に積み重ねるように作られた音がバランスよく聞こえる。情報量も豊富で、声のまわりにまとわりつく空気感やリムショットの抜けの良さも綺麗に耳に届いてくれる。

バランスよくS/Nがよく、癖っぽさがないためクラシック音楽も不得手にはしない。レオポルド・ストコウスキー指揮の「Hungarian Rhapsody No. 2 in C-Sharp Minor」では100人を超える編成オーケストラのフォルテッシモから、ピッコロのソロの音色まで、音楽の表情を描いてくれる。丁寧な音場の描写は、弦楽三重奏のような室内楽でより差が感じられるかもしれない。

繰り返しになるが、オーディオ製品としての基礎部分が持ち上がった結果、"質を整えて音楽を楽しく聴かせる"という領域から"よりストレートに音楽を表現する領域"へと、一段ステージを登ったのがM3からM4への変化だと思う。

ノイズキャンセリングはオーバーイヤーモデル並みに

WF-1000XM4

一方、ノイズキャンセリング機能に関しては、ソニー自身が訴求しているように、信号処理の精度が向上し、ノイズ除去の量も帯域も増えたのだろう。しかし最も実感できるのは、イヤーチップを変更した事により、"パッシブ"のノイズ遮断量が多くなったことだ。

アクティブの(信号処理で逆位相の音を加えることの)ノイズキャンセルは、仕組み上、低い周波数帯域の方が正確に、より多く取り去ることができる。能力の向上でかなり高い周波数まで対応できるようになっているとはいえ、高域ノイズの遮断はパッシブの方が効く。

WF-1000XM4のイヤーチップは耳栓などにも使われる発泡ウレタンフォーム。コンプライ製のイヤーチップなどでも使われる素材だが、コンプライなどと比べると硬めで表面の仕上げも滑らか。耳垢がつきにくく耐久性もありそうだ。ソニー自身、従来のイヤーチップと同等の耐久性が得られるようにしたと話している。

このイヤーチップ+アクティブノイズキャンセリング能力の向上という組み合わせで、オーバーイヤーのWH-1000XM4に近いノイズキャンセリング能力が得られているわけだ。

また、従来モデルへの個人的な不満点でもあった"外音取り込み"機能も改善され、より自然に周囲の雰囲気を感じ取れるようになった。この機能は音楽を楽しみながら街中を歩いたりランニングしたりする際の利用には必須とも言えるものだが、取り込む音が自然になったため、オンライン会議などに使う際にも自分の声への違和感を少なく感じる。

喋り始めると自動的にミュートがかかり、音楽の停止を行わなくとも会話ができる「Speak to Chat」がとても便利だったことも付記しておこう。

基礎部分が改善した上で意味が出てくるDSEE ExtremeとLDAC

WF-1000XM4

さて、DSEE ExtremeとLDACの話も少ししておきたい。

おそらく、この2つの機能が完全ワイヤレス型イヤホンに搭載されることを心待ちにしていた方もいるだろうし、なぜ評価が後回しなのかと疑問に思う人もいるだろう。この2つの技術要素はそもそもオーディオ機器として一定以上の水準でなければ意味を持たない。

前者は圧縮音楽をハイレゾっぽく聴かせる技術で、後者はハイレゾをBluetoothで楽しむ機能だ。LDACはiPhoneが対応しておらず、またAndroid端末も全てが搭載しているわけではない点に注意したいが、それよりも考慮すべきが、どちらもある程度以上の情報を伝えられる実力がなければ、そもそもあまり意味がない。

それらを踏まえた上で、WF-1000XM4はハイレゾのマスター音源が持つちょっとしたニュアンス、空気感を伝える力、伝えられるような音作りがされているので、搭載することには意味があると思う。ただ、これは使う場面にも依存し、必ずしも本機を評価する上で重要な点ではないかな? というのも正直な感想だ。

WF-1000XM4

完全独立型ワイヤレスイヤホンは静かな場所で落ち着いて使うというよりも、出先や移動時に使うイメージの方が強い。自宅など静かな落ち着いた環境で使うならば、DSEE ExtremeとLDACという要素は重要かもしれないが、移動時や出先のカフェなどでの利用ならばそこまでの細かなニュアンスは求められないようにも思う。

それより、WF-1000XM4になってトータルのバッテリー持続時間が伸びてはいるものの、再充電せずに使える時間が長くなる方がいいな、と個人的には思ったりするのだ。

それゆえにDSEE ExtremeとLDACの優先度は高くないのだが、それぞれ効果があるかと言えば、それはもちろんある。特にDSEE Extremeはよくできており、高域が強く感じられるなどの副作用もなく、純粋にワイドレンジになったような気になれるという意味ではよくできている機能だ。

しかし、読者が自分自身で評価する上で重視すべきなのは、この製品を聴いて"どう感じるか"という自分自身の感性の部分。音質に関連する裏付けのような情報は、あくまで参考程度に考えるのがいいだろう。

多数登場するであろう新世代TWSの先鋒にして本命

すでに話したように、完全ワイヤレス型イヤホンは音質面では厳しい製品だ。小さな本体に様々な要素が詰め込まれるため、ノイズの管理が行いにくく、よって音質を整えるには様々な手段が必要になる。やることが増えるほど、音の品位は下がるため、できればあまり"弄りたくない"というのがメーカーの本音だろう。

WF-1000XM4

これはどのメーカーも同じなわけで、オーディオ的な設計だけではなく、製品全体を司るチップの作りに影響を受ける。そうした意味では、WF-1000XM4は今年以降の商戦を占う先鋒の意味合いが強いかもしれない。

価格帯は一段低いが、アップル傘下のBeatsはBeats by Dr. Dre, Beats Studio Budsを今夏に発売すると予告した。Beatsブランドの完全ワイヤレス型イヤホンだが、税込で1万7800円と本製品よりも低価格に設定されている。同社のオリジンである「Studio」のブランドが掲げられているだけに、アップルブランドとは異なる音作りが期待されるところだ。

他にも年末に向けてはライバルが幾つか登場するだろうが、音質、ノイズキャンセリング能力、各種機能の多様性と完成度などを考え合わせると、まだ年末商戦が遠いとはいえ、新世代TWSの先鋒にして本命に躍り出たと言っても過言ではない。

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