iTunes

かつてスティーブ・ジョブズ氏が「iTunesがCD市場を滅ぼす」との趣旨を、米アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏に告げたとの証言が伝えられています。

この発言は最近出版された『Working Backwards』という本の中で明らかにされたものです。共著者のコリン・ブライヤー氏とビル・カー氏は1990年代半にアマゾンに入社し、それぞれアマゾンプライムやAWSおよびKindleやAmazon Musicの創設から運営まで長年にわたって関わっており、相当の信ぴょう性があると思われます。

さて今回のエピソードは、2003年秋にベゾス氏とブライヤー氏、そして元アップル副社長でアマゾンに転職したディエゴ・ピアセンティーニ氏がアップル本社を訪問してジョブズ氏に会ったときのこと。ちょうどアップルが(Mac用の)iTunesを公開して間もない頃です。

ベゾス氏らが何の変哲もない会議室に案内されると、そこにはWindows PCとテイクアウトした寿司の大皿が2つ。そこで食事をしながら音楽業界の現状について非公式な議論を交わしたあと、ジョブズ氏はアップルが初めてのWindowsアプリケーションとなるiTunesを作り終えたと明かしたとのこと。そして冷静かつ自信をもって、誰も作ったことのない最高のWindows用アプリだとの思いが語られたそうです。

さらにジョブズ氏はWindows版iTunesプレビューをデモした後に、ベゾス氏に対して何通りかの解釈ができるようなコメントをしたと伝えられています。すなわち「アマゾンは、CDを買う最後の場所になる可能性が十分にある」「CDは手に入りにくくなるから、プレミアムをつけてもいいだろう」と述べたそうです。

当時のアマゾンにとってCDは小さくて郵送しやすいことから、貴重な収入源の1つでした。つまりジョブズ発言はアマゾンに新規ビジネスを提案してるというより「君たちのビジネスにとって大打撃となりますよ」と脅かしているとも受け取れるわけです。

著者らはジョブズ氏がベゾス氏を怒らせようとしていた、あるいは「ジェフを煽って、衝動的に行動させてビジネス上の判断を間違わせようとしていた」可能性があると示唆しています。そこでベゾス氏が挑発に乗れば、iTunesのライバルとなるような製品を慌てて立ち上げ、大損していた恐れもあります。

結局ベゾス氏は冷静に対応し、その後の会議は何ごともなく終わったとのことです。しかし著者らは、その一件がベゾス氏に一部商品の物理的な販売がなくなることを認識させる大きなきっかけになったのではないかと述べています。

その後まもなくアマゾンはKindleを発売し、クラウドへの投資を強化したりと、本やCDなど物理メディア販売に依存する度合いを下げるための戦略を次々と打ち出しました。やがてAWSがアマゾンの稼ぎ頭に上り詰めたことを考えると、ジョブズ氏はうっかりアマゾンの恩人になってしまったのかもしれません。

Source:Cult of Mac