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こんにちは、メーカーCEO兼業ライターの東です。

新型コロナ禍が続くこの世界。従来であればリアルな場で開催されていたイベントの多くが中止となっています。一部はオンラインイベントとして動画による配信がされていますが、現場の空気感を感じ取ることはできません。

そんなイベントの1つである、アート・エンタメ・テクノロジー融合したインタラクティブイベントのSXSWが、2021年3月16日より3月20日までオンラインで開催されました。その名も「SXSW Online XR」です。本記事では、イベントの模様の紹介とVRイベントの可能性についてご紹介します。

1987年から、アメリカ・テキサス州オースティンで開催されてきたイベントでしたが、今回はVRChatのシステムを用いて、仮想空間内にオースティンの町並みやシアター、ライブハウス、バー、教会などを再現していました。

筆者はいままで、日本人が日本人向けに提供した数々のVRイベントに参加してきましたが、いずれも最先端の、ハイクオリティなVR空間を楽しめるようなデザイン設計がされていました。しかしSXSW Online XRはデザインの考え方がまったく違います。

ログインして最初に見ることができる6th Streetから連なる各展示会場、そしてライブハウスにアクセスできるRed River Districtなど細部に至るまでデザインコンセプトが統一されていたのです。そして今までのVRイベント関係者が避けがちだった、Oculus Questに対応したワールドとなっていたことに驚きました(一部コンテンツを除く)。

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Oculus Quest/Oculus Quest 2にはスマートフォンベースの技術が使われているため、データ容量の少ないワールドにしかアクセスできません。しかしVR空間のモデリングデータは、ある程度緻密に作るよりも、軽量でありながらも「らしさ」を感じさせることができるディフォルメデザインにまとめるほうがはるかに難しいです。

そしてユーザーにとっては、Oculus Quest/Oculus Quest 2のほかに、高価なゲーミングPCなどの機材を用意するというのは、とてもハードルが高いものといえます。

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デジタルアートな雰囲気にまとめられていたものの、いままでリアルなSXSWに参加してきたジャーナリストが「これはオースティンの街、そのものだね」と言うほどの雰囲気に満ちていたSXSWのミラーワールド。Oculus Quest/Oculus Quest 2でも楽しめるというユーザーフレンドリーなワールド設計をしていた点に関して、まず感銘を受けました。

ただし、参加するまでの難易度がいろんな意味で高かった…!

リテラシーの高いVRChatのフレンドたちに「VRChatでSXSWが開催されているんだって」と話すと、「SXSW? 南南西?」みたいな答えが返ってきますし、「チケット代は399ドル」と伝えると眼を剥かれます(VRアバター越しに話していましたが、仰天していた様子がありありと伝わってきました)。

かたやSXSWの常連参加組は「VRChatはおろかVRも初めて」という人が多く、SXSW Online XR参加のためにOculus Quest 2を購入してVRChatアカウントを用意したものの、初日はワールド内を移動するだけでも四苦八苦していました。

VRに詳しい人にとっても、SXSWに明るい人にとっても参加しづらいところがあったので、会期中のオーディエンスは1000人に満たなかったのではないでしょうか(笑)

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VRヘッドセットを活かした作品のなかに入れる体験

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会場内ではいくつものセッションや、ショートムービー、ライブを見ることが可能でした。そのなかからVRヘッドセットという没入感の高いシステムを活かした、いくつかの素晴らしい作品、インスタレーションをご紹介します。

「4 Feet High」

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アルゼンチンの高校生の少女の短編青春コメディ。主人公の視点で完全に映画の中に入り込む圧倒的なVR映像体験にだけでなく、身体障害やジェンダーに踏み込んだストーリーは周囲の参加者にも絶賛されていました。

「Taiwan Beats」

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レッドリバーアベニューのライブハウス「Mohawk」(実際、オースティンにあります)では時間になったらプログラムが流れるライブイベントが毎日開催されていました。台湾Beatsが主催している若手台湾アーティストのライブを会場にいるお客さんと大画面で楽しみました。

「The Other Side - After Party」

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ノートルダム・ド・パリの仮想環境を舞台にしたJean-Michel JarreとVRrOOmのスペシャルインスタレーション。音楽もパーティクルばちばちの演出も最高にかっこ良かったです!

「(HI)STORY OF PAINTING」

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ジョルジュ・スーラの「グランド・ジャット島の日曜日の午後」の背景にある物語を学べるバーチャルシネマが最高すぎでした。6DoFで自由に動けて、すべての背景がスーラのタッチになっているんです。

この作品はVRChat上では見ることができません。指定されたURLから作品をAPKダウンロードし、Oculus Questを開発者モードに変更し、非公式アプリのSideQuestを通してインストールする、というエンジニアですら迷うような仕様でした。日本人で無事体験できたのは、20人もいなかったのではないでしょうか(笑)

日本も世界も、VRイベントはまだ黎明期

改めて、日本のVRイベントとSXSW Online XRとの違いを考えてみました。

日本の大規模なVRイベントは、コミックマーケットのようなアバター・PDF同人誌即売会として作られているものが多くあります。個々のクリエイターの作品が展示され、同時にスポンサーが自社製品・サービスをアピールする場もある。コミックマーケットのような空間を再現することを考えた作りとなっています。

ワールド全体も、各々のブースも美しく作り込まれたものです。しかしテーマパークのように美しいワールド内を見てまわる楽しさはあっても、メッセージが一方通行ではないかと思えることがありました。

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対してSXSW Online XRは、ユーザー同士のコミュニケーションを加速させるような作りになっていると感じました。スタッフのアバターがいるインスタンスに参加するという仕組みは、一番多くのユーザーが集う入り口を作ることになり、そこでは多くの交流が生まれていました。

「私日本からきたの」

「クール! 東京? 僕は今回オースティンからアクセスしてる」

「えっ地元じゃん!」

「どこからきたの?」

「南アフリカだよ」

「遠い!! お仕事は?」

「音楽関係でね」

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筆者自身も初めて出会う、世界各国の人々との会話を楽しみました。なかには筆者のアバターを見て「ソーキュート! あなたが作ったの!?」みたいなキッカケから交流が始まることを知りました。

SXSW Online XR内のコンテンツを見て、その感想を喋り合いたいため、多くの人が集っている入り口に戻るということも可能だったんですね。

そうして会話をした人とVRChat上でフレンドになり、翌日にログインするとだんだんと友達が増えてきたことがわかります(VRChatはフレンドになると、ネームプレートの色が黄色になる)。SXSW Online XRの日程の後半になると、だいたい100人くらいの、同じメンツばかり参加していたように感じました。

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SXSW Online XRはそもそも案内が不親切。VRChatワールド内イベントを案内する看板と、アプリの情報に食い違いがあったため、どこで何をやっているのかがわかりづらかったんですね。だからみんなが右往左往していて、お互いに助け合いながらセッションに向かうという、海外展示会らしい展開ともなったのですが。

販売する・興味を持ってもらうことに特化しているように見える日本のVRイベントと、コミュニケーション重視だけど参加ハードルが高く、参加しても内容が不明瞭なところがあったSXSW Online XR。共に、黎明期であるという印象を受けました。

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とはいえネガティブなだけではありません。黎明期ならではの、運営スタッフとの距離の近さが強く感じ取れました。SXSW Online XRの場合は筆者も毎日参加することで、運営スタッフのアバターと雑談するくらい仲良くなれましたし、VRChatでイベント運営するコツを相談されたりもしました。

またSXSW Online XRでは、世界中から訪れた情報感度の高い業界関係者との交流が多くあり、胸が躍るものでした。

VRだから、相手が本当にそこにいるように身振り手振り交えながらのコミュニケーションがとれます。これはビデオ会議などとは比較にならない距離感と没入感です。参加費の399ドルも安いと感じます。移動費や宿泊にかかる費用がゼロだし、現地まで移動する時間的コストもかからないため、居住地や仕事の都合で、これまで涙を飲んで参加を見送って立ちた人たちでも簡単にジョインできるわけです。

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面白かったのがアバターの捉え方です。日本のVRChatユーザーは、少し露出が多い美少女アバターを使う人が多いのですが、SXSW Online XRに参加していたアバターはリアルな人間型がVRChatにパブリックで実装されている動物やモンスターが大半でした。手軽に自分に似せたアバターをつくれるRedy Player meを使った人が多かったように感じます。

日本の在野のパフォーマーが世界で認められた瞬間を見た

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Photo by Tokikaze 

VRChatの日本コミュニティではすで名前の知れたVRパフォーマーYoikamiさんを、有志が参加費をカンパして招待しました。大人たちがサポートしながら、ミートアップ中にダンスを披露すると大いに盛り上がり、最終日のアバター&ダンスコンテスト会場で彼が踊ったあとは、歓声とともに「You are Winner」「来年はぜひステージにあがらないか」という声がかけられました。後続のダンサーががしりごみするほど華麗なパフォーマンスだったからです。

SXSW Online XRには、世界に日本の在野のクリエイター、アーティストが出ていく夢があるなあと思いました。VRで本当に素晴らしいものを作り、魅せる人々が世界にとどきますように、と願うばかりです。

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慣れるまではいろいろありました。「こんなの誰も参加できないでしょ」という思いもありました。でも一緒にVRで参加した、SXSWに通い続けているジャーナリストがいいました。

「まあSXWSだしね(笑)」

トラブル含めて笑いながら楽しむのがこのイベントのコツのようです(笑) 来年もあるなら必ず参加します!

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