Tiger Lake世代でどうなる?パナソニックと富士通に訊く"俺たちのモバイルPC"(本田雅一)

正反対のコンセプトで開発を進める軽量PCブランド2社にインタビュー

本田雅一
本田雅一, @rokuzouhonda
2020年10月19日, 午前 07:30 in personalcomputing
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インテルが第11世代Intel Coreプロセッサ「Tiger Lake」を発表したことで、とりわけモバイルPCのジャンルは騒がしくなってきそうだ。

近年のインテルプロセッサではシステムの冷却性能などに合わせて各メーカーがパフォーマンスを調整できるようになっていたが、Tiger Lakeではそもそもメーカー自身が同じモデルナンバーのCPUを"どのように使うか"を定義して作り込めるようになる。

例えば12Wから28WまでをカバーするTiger Lakeならば、その間で自由に設計できるとも言える一方、冷却性能が悪ければ想定外に性能が出ない、なんて製品も出てきかねない。

このような状況は、何も今に始まったことではなく、少しずつ進行してきたことなのだが、Tiger Lakeではより明確に「部品としてのCPUの使いこなし」をメーカーに開放した。言い換えれば、それだけメーカーの技術力や商品コンセプトを活かした商品企画ができるということ。だから、メーカーの色が出やすくなるのだ。

"軽量ノートPC"に拘りながら正反対のアプローチを取るパナソニックと富士通

そんなTiger Lake搭載機登場前夜とも言えるタイミングで、軽量化に力を入れるノートPCメーカー2社に集まっていただき、軽量化や商品企画の考え方について話を伺ってみた。

今回初めての試みとなるが、両社に対談取材の様子を動画で撮影させていただき、記事とは別にほぼノーカットでご紹介している(聞きやすいように繰り返しの内容などはカットした)。合わせてご覧いただければ幸いだ。

というわけで、パナソニックからは、コネクティッドソリューションズ社モバイルソリューションズ事業部商品企画部の小林俊夫氏、富士通クライアントコンピューティングからは、プロダクトマネジメント本部・第一開発センター・第一技術部の河野晃伸氏にお集まりいただいた。

お二人に取材してわかったのは、"軽量"をテーマにしていても、そのアプローチの方向が真逆ということだ。

パナソニックは徹底した顧客主義。“マーケットイン"と言われる手法で、Let's note(レッツノート)シリーズを支持する顧客からの声、顧客が欲しいと願う商品を実現していくことを大前提に開発している。その典型的な特徴はキーボード。全角/半角キーがESCの右に配置されていて、このイレギュラーなキーレイアウトを含めて「これがレッツノート」というルールを守り続けている。

元を辿ればイレギュラーな配置にも異論があったのを記憶しているが、長く継続して同じレイアウトを提供することで、顧客からは「変更しない」ことを望まれていると小林氏は説明する。浅いストロークのキーボードが増えている中、頑なに2mmストロークを守り続けている点も、やはり同じ理由からだ。

一方で富士通は"プロダクトアウト"という手法で商品が企画されることが多いと語る。もちろん、全く市場調査を行わないことはあり得ないが、技術サイドから「この技術、この部品、このコンポーネントを使えば、こんなことができるようになる」と商品を特徴づけるポイントについて積極的にアプローチすることで生まれる製品が多いと河野氏は言う。

富士通に脈付く"プロダクトアウト"の伝統

かなりの昔話になるが、富士通というメーカーは、そもそも伝統的に"それ本当にやるの?"あるいは"どうやったらその企画が通るの?"と思えるようなテーマにも挑戦してきた会社だ。

1991年に発売された日本語ワープロ「OASYS Pocket」は、単3形乾電池で動作し530gという、当時としては恐ろしく小型軽量な端末だった。しかし、それ以上に世の中を驚かせたのは同じ年に発表されたインテル「80C286」を搭載した「FMR-CARD」だ。重さ990gでジャストA4サイズ、単3形乾電池2本で動作した。ちなみに翌年には日本IBMが重さ1kgの「ThinkPad 220」を発売している。

"キーボードを中心にギリギリのサイズに小型化・軽量化を図る"という伝統はその後も続き、トランスメタが省電力プロセッサ「Crusoe」を開発した際にはLOOXシリーズを発表。「LOOX S」はOASYS PocketのWindowsパソコン版か? と思えるような横長のフォルムだった。

FM-TOWNS

古くはi386を用いたマルチメディアパソコンの「FM-TOWNS」を立ち上げたこともある富士通は、振り返ってみるとプロダクトアウト型開発の権化とも言える歴史を持っている。

前述したLOOXシリーズ登場前夜とも言えるタイミングには、筆者が週刊連載していたコラムのメールアドレス受付に、モバイル製品の事業部長がメールを毎週のように寄せてくれて「実は新しいCPUで、どんなものか本当は言えないけれど、ぜひ、見てほしい」と連絡があったことも懐かしい思い出だ。

LOOX S

製品作りを自ら楽しみながら、作りたい製品を「ここまでならやり切れる。挑戦できる」と開発していたのが富士通であり、現在の"圧倒的世界最軽量"を標榜する「FMV LIFEBOOK UH-X」シリーズなどは、まさにプロダクトアウトの伝統を守った製品である。

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実はレッツノートの歴史もプロダクトアウトから始まっていた

ではパナソニックのパソコンが、最初から保守的にマーケットインの製品として作られていたかというと実は違う。そもそものレッツノートの成り立ちは、一人の異分子から始まり、最終的にはその異分子がレッツノートの最終遺伝子を確定させ、それが今も生き続けている。

古い話は動画内でのトークに譲ることとしたいが(Part Iでたっぷり両ブランドの源流について語り合っている)、当時、企業向け端末としてパソコンを販売していた松下電器産業は小型軽量ノートPCの開発など全く考えていなかった。

そんな中、本来はノートPC開発の主流ではない部門にいたエンジニアが企画開発したのが1995年、まだWindows 3.1時代に登場した「PRONOTE Jet mini(二代目はPRONOTE miniに改称)」だった。横長筐体はキーボードを収めるためのもので、奥行きを短くするため右奥に小さなトラックボールを配置。重さ1.29kgでi486DXを搭載した世界最小のWindowsマシンだ。

PRONOTE Jet miniを開発した長谷川氏は、その後、Let'snote LIGHTのブランドで販売され大ヒットする「Let’snote R1」も開発する。なお、PRONOTE Jet miniに関してはパソコン事業の奔流からは外れた全く期待されていない製品だったため、展示会で話を聞こうと思っても、松下社員ですらまともに説明できないほどだった。しかし、小型軽量でキータッチの良かったPRONOTE Jet miniは評判を呼び、当初は販売されていなかったコンシューマ向けにアレンジした二代目が開発され、小型・軽量化技術を活かした製品をレッツノートブランドで作っていくこととなった。これが1996年のこと。

そのレッツノートは、第二世代でトラックボールをパームレスト中心に配置。この操作性がウケて"レッツラー"と呼ばれる熱心なファンを産むまでになったものの、やがて時代に取り残されるようになる。トラックボールでパームレスト部が分断されるため、バッテリ容量など設計面での不利からライバルに差をつけられることが多くなったためだ。

Let’snote R1

レッツノート事業を巨大企業・松下電器産業の中では続けられないかもしれない。そんな中でレッツノートの開発を外れていた長谷川氏が、再び自ら商品企画から開発、マーケティングまで関わって作ったのがLet’snote R1だったのだ。

パワフルでバッテリ持ちはいいけれど、圧倒的に軽い。厚みは欲張らず、しかしボンネット構造で耐久性に優れた筐体とする。トラックボールを諦め、その代わりに「カバンの中で邪魔にならない軽さ」を徹底して目指すことで生まれ変わり、これが現在のレッツノートの原型となった。

やや保守的なイメージで商品コンセプトが固定化されている印象のあるレッツノートシリーズだが、実はその源流には異分子とも言えるエンジニアの魂が生み出したプロダクトアウト型の商品があったのだ。

現代の環境に置き換えても変わらない両者の向かう方向

さてそんな両者がTiger Lake世代でどんな製品を作ってくれるのか楽しみだが、富士通の河野氏は「圧倒的世界最軽量は譲らない」と強調する。これは第11世代では譲らないという意味ではなく、今後も決して譲らないという意味だ。

取材対談のPart IIでは、軽量化により失うものもあるのでは? という筆者の問いに対し、「手にして貰えば、誰もが驚く圧倒的な軽さ。圧倒的だからこそ手にした時の驚きがあるんです」と、軽量化に対するこだわりの強さを改めて示した。

その上で決して変えないこともある。それがレガシーも含めたインターフェイスコネクタの数や位置。今までの使い方をそのままに、本体だけを置き換えれば"いつでも圧倒的最軽量"、"いつでも同じ使いやすさ"、"いつでも同じ周辺機器が使える"安心感を提供することが目的だと河野氏は言う。

製品が生まれてくる源流はプロダクトアウトのコンセプトだが、最終的な商品としてのバランスの取り方はマーケットの声を多く拾っている。

一方、パナソニックの小林氏は「1kgが開発・商品企画を行う上での基準」だと明言する。つまり1kg前後の重さで何ができるか? が、レッツノートの商品企画における基本的な考え方なのだ。パナソニックも世界最軽量を目指せば700g切りの製品を作ることはできるだろう。しかしパナソニックが目指すのは、300g程度の余白を他の要素で埋めることというわけだ。

実際のところ、現在もDVDドライブ内蔵モデルを用意しているのは驚きなのだが、小林氏は「大企業はドライブレスを好むが、中小企業のユーザーや医療関係者(カンファレンスや診察時のデータ引き渡しなどでDVDが必要)からは引き続きニーズがあるため」だと言う。

“キープコンセプト"とも言えるが、開発が進むに連れて増える余力をどう割り振るかでレッツノートは新しい要素を取り込んでいく。

現代のモバイル機での挑戦は両社とも"パフォーマンス"

さて、同じように軽量化や使いやすさ、インターフェイスの豊富さなどに取り組みつつ、しかしアプローチの方向、やり方、バランスの取り方が異なる両社だが、共通するのはパフォーマンスチューニングに対するこだわりだ。

Tiger Lakeではメーカーの作り込み、使いこなし次第で、多様な設計アプローチが取れると冒頭で述べたが、両社とも従来からCPUを"規格通りの使い方"はしてこなかった。

パナソニックは第10世代Intel CoreプロセッサからMaxperformerという機能により、搭載プロセッサ本来のTDPを超える冷却能力を持たせ、高パフォーマンスが持続できる時間を引き伸ばすことで高性能化する独自のアプローチを導入している。

富士通も異なるやり方だが、Turbo Boostの最高値と通常クロックの間の値で、可能な限り高いクロックで動くよう、冷却システムとクロック制御を連動させてパフォーマンスを引き上げてきた。

そんな工夫がさらに生きてくるTiger Lake世代のモバイルノートPCには期待せざるを得ない。これほど期待に胸が膨らむのは、第8世代Intel Coreへの切り替え以来だろうか。長らく停滞していたインテルCPU搭載モバイルPCも、ここで大きく変化していく節目になるだろう。


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