約5年ぶりに「Z」を冠したモバイルノートが復活しました。
VAIOファンからも「もう復活はないのか」とまで思われていたかもしれません。現行のSXシリーズは旧VAIO Zの技術も取り入れており、性能的にもスタイル的にもかなり高められていただけに、「VAIO Z」という至高で存在感あるマシンの開発は、なかなか難しいものだったと思われます。
そんな中での復活劇。VAIOによると、社員もZの開発を望んでいたようで、モチベーションも高く今回の開発に取り組んだようです。
モバイルノートは年々CPUの性能が上がってきているものの、一方でパフォーマンスとモビリティのバランス取りは常に難しい課題です。パフォーマンスを上げれば重量やサイズが大きくなってモビリティが失われ、重量を軽くしてモビリティを上げると、どうしてもパフォーマンスを削ぎ落とさなければなりません。このモビリティとパフォーマンスの両立は、モバイルノートにとって永遠の課題といってもいいでしょう。
この課題に挑戦したのが、今回のVAIO Zです。
モビリティを高めるためには、重量を軽くし、かつ剛性は高く保つ必要があります。そこでVAIOの開発チームが目をつけたのが、カーボンファイバーです。
カーボンファイバーは、F1をはじめとするレーシングカーなどのボディパーツとしては当たり前のように使われていますが、強度は高いものの加工が難しい素材です。まして、パソコンのように大量生産が必要な部材となると、それなりの技術力が要求されます。
これまでもVAIOは、東レの協力によりカーボンファイバーを部材の一部として活用してきました。そして今回は、東レをはじめとするさまざまな企業の協力を得て、フルカーボンボディの立体成型に成功しています。VAIO Zの本体は、大きくわけてボトム面とパームレスト全面、天板面の3つに分かれていますが、それぞれ端をコの字型やV字型などに曲げることで、より剛性を高めています。
ボディがより軽量かつ剛性も高いものに仕上がったことで、次に問題となるのが中身です。ちょうどインテルが第11世代Coreプロセッサーを発表したことで、内蔵GPUが「Iris Xe Graphics」にパワーアップ。さらにクリエイティブ・ゲーミング向けにH35シリーズが追加されました。
これを受けてZでは、これまでVAIOのモバイルノートで採用してきたUP3(TDP12~28W)ではなく、TDP 35WのH35シリーズを搭載することに挑戦しました。
TDPが高くなればパフォーマンスは当然上がりますが、電源まわりや冷却性能も考えなければ宝の持ち腐れになります。その鍵となるのが冷却ファンです。
VAIO Zでは、これまでのモデルでもデュアルファンを採用していましたが、今回もデュアルファンを搭載。日本電産と共同開発し、低騒音化のため軸受には流体動圧軸受を採用。ファンの羽根は不等配ピッチにすることで、同等サイズのファンと比較して、低騒音化と風量約30%のアップを達成したとしています。
こうすることで、冷却性能をアップさせ、モバイルサイズの中にH35シリーズを搭載可能にしています。
もちろん、CPUに合せてメモリーも最大32GBにアップ。ストレージもPCIe 4.0対応のNVMe M.2 SSDを採用することで、最高のパフォーマンスを提供しています。また、無線LANはWi-Fi 6、WWANに5Gモジュールを搭載可能(プラス4万9800円)にしており、将来を見据えた設計となっています。
ディスプレイは14インチ液晶で、4K(HDR対応)とフルHDが選択できます。今回お借りしたモデルは4K HDRです。DCI-P3カバー率は99.8%で、クリエイティブな活用にも対応します。
インターフェースは、レガシー仕様も残しているVAIO SXシリーズと違い、従来のVAIO Z路線を踏襲。VGA端子や有線LAN端子の排除はもちろん、USB Type-A端子もありません。Thunderbolt 4対応USB 4 Type-C端子を両サイドに1つずつ配し、HDMI端子を1つ搭載というシンプルなものになっています。
改良はキーボードにも及びます。VAIOのキーは、これまでもかなりタイピングしやすいものでした。それをさらに磨き、キートップは深いディッシュ形状を設け、キーストロークは1.2mmから1.5mmへ。パンタグラフの材料も見直して、静音性もアップしています。
実際にタイピングしても、指のフィット感がアップしたことと合わせて、わずか0.3mmの違いですがストロークが深くなったことを感じました。タイピング時の音も確かに低減されています。また、バックライトも改良されており、光ムラが少なくなり、隠し刻印仕様でも文字が光るようになっています。このため隠し刻印は、光らない状態でもうっすら見える仕様になっています。
使い勝手の面でもVAIO SXシリーズとは変わっています。まず、ヒンジ部分の改良により、片手で天板をオープンできるようになっていました。一般的に本体が軽いノートPCでは、両手を使わないとなかなかオープンできませんが、VAIO Zではきちんと開くようになっています。
さらに、ディスプレイは180度開くようになりました。対面で相手側に画面を見せたいときに活用できます。画面も上下反転ができるため、相手が見やすいような工夫もなされています。
指紋センサーは、電源ボタン内蔵タイプになりました。これにより、パームレスト部分にあったセンサーがなくなり、よりスッキリしています。また、BIOS起動時認証にも対応しているので、電源ボタンを押すだけで、起動時認証とWindowsログオンの両方を実行できます。
加えて、人感センサーと顔認証に対応しているため、着席時や離席時に自動でログオン/ロックができる「VAIO User Sensing」が搭載されています。意識せずともセキュリティを確保しながら、使い勝手の向上が図られています。
はたしてその性能は?
さて、今回お借りした「VAIO Z SIGNATURE EDITION」は、
OS Windows 10 Pro 64ビット
CPU Intel Core i7-11375H(3.3GHz~5GHz)
グラフィックス CPU内蔵Iris Xe Graphics
メモリー 16GB
ストレージ 第四世代ハイスピードSSD 256GB
ディスプレイ 4K
WWAN なし
キーボード 日本語配列(隠し刻印、かな文字なし)
というスペックです。なお、開発バージョンでの評価のため、製品版と異なる部分があることをあらかじめご了承ください。
価格はというと、VAIOストアで確認してみると、39万3580円でした。いやぁ、なかなかのお値段です。お届け予定日は18日14時現在で、3月5日が最速日になっています。
早速、ベンチマークテストを行ってみました。電源設定はハイパフォーマンスにして計測しています。
まずは、CPU性能を計測する「CINEBENCH R23」では、マルチコアで6582pts、シングルコアで1617ptsを記録。CINEBENCH R23の指標を参考にすると、同じ4コア/8スレッドのデスクトップ向けCPUであるCore i7-7700K(4.2GHz~4.5GHz)の6302ptsを超えています。
続いて、アプリ性能を測る「PCMark 10」を計測しました。結果は以下の通りで、5064と5000を超えています。アプリやウェブ、チャットの性能を示すEssentialsでは10003と1万を超えました。ワードと表計算の性能Productivityは6752、写真やビデオ、レンダリング性能のDigital Content Creationが5217と、内蔵GPUとしては高レベルです。
総合的にアプリを動作するパフォーマンスは、これまでのVAIO SXシリーズと比較しても群を抜いていると言えます。
また詳細を確認してみると、CPUの動作周波数は最大5304MHzを記録しています。これはつまり、オーバークロック状態になっているということ。これは、VAIO SXシリーズなどにも導入されている、実動時のCPU速度を技術であるVAIO TruePerformanceによるものです。
実際に電源設定を通常にしてVAIO TruePerformanceをオフにした状態だと、最大周波数5022MHzとなり、スコアも4831に低下します。VAIO側の工夫により、CPU性能をさらに高めていることが分かります。
続いて、3Dグラフィックス性能を測る「3DMark」も実行してみました。テストしたのは、モバイル向けのDirectX 12を使用した「Night Raid」、ゲーミングPC向けのDirectX 11を使用した「Fire Strike」、同じくゲーミングPC向けDirectX 12を使用した「Time Spy」の3種類を計測しています。
結果はご覧の通り。「Night Raid」では18576を記録。「Fire Strike」が5176、「Time Spy」が1798となり、これまで内蔵GPUだと話にならなかったものが、Iris Xe Graphicsによって大幅に改善されています。とはいえ、3Dグラフィックスごりごりのゲームをプレイするまでの性能ではありませんが、ライトなゲームであれば問題なくプレイできるでしょう。
ゲーム系の定番ベンチマークテストも行ってみました。まずは、軽めの「ドラゴンクエストX ベンチマークソフト」から。結果は、フルHDの最高品質であれば、14222と「すごく快適」と評価されました。ちなみに4Kの最高品質でも計測しましたが、こちらは4671と「普通」評価でした。フルHDであればかなり快適に遊べそうです。
続いて、「ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク」でも計測してみましたが、フルHDの最高品質設定で4236と「快適」評価でした。ただし平均フレームレートは約28.7と30を切っているので、こちらはグラフィック設定を少し見直す必要があるでしょう。
こうした結果は、これまでの内蔵GPUの水準からすると、かなり高いパフォーマンスを示すものでしょう。
合わせて、デュアルファンの性能アップと静音化を図ったとのことで、ベンチマーク時に騒音を計測してみましたが、本体から30cm程度離れた位置での計測で53.9dBAでした。CPUに負荷がかかったときは正直それなりの音がしますが、デュアルファンモデルとしては少し静かなのかもしれません。
ストレージの性能もチェックしています。定番「CrystalDiskMark 8.0.0」で計測しましたが、シーケンシャルリードで6425MB/sを記録しています。ただ、シーケンシャルライトは2677MB/s程度でした。
これは、容量によって性能が違うためです。今回お借りしたモデルは256GBでしたが、いちばん性能が低くなります。ここからは推測ですが、同じメーカーのNVMe M.2 SSDを搭載するのであれば、2TBであったらシーケンシャルリードは7000MB/s、シーケンシャルライトが5200MB/s程度といちばん性能が高くなるはずです。
とは言え、2TBは10万4500円高になるため現実的ではありません。コスパを考えるとシーケンシャルリード6900MB/s、シーケンシャルライトが5000MB/s程度と考えられる512GBがオススメでしょう。256GBとの価格差は1万6500円です。
続いてバッテリー駆動時間を計測しました。内蔵されているバッテリーは53Whで、今回お借りした4Kモデルだと最大17時間駆動となります。おなじみのBBench 1.01を使い、画面の輝度を10%、キーボードバックライトはオフ、電源設定を省電力にして測定しています。
結果としては8時間41分と、そこまで長時間駆動というわけにはいきませんでした。とはいえ、BBench 1.01はWeb巡回(IE)とキーボード入力を繰り返すという一般的な使い方からは少し外れているので、通常の使い方をすれば、もう少しもつことでしょう。また、付属ACアダプターがかなり小さく軽くなったため、持ち運んでもそれほど負担にはならなくなりました。実は筆者としてはここの改善が一番嬉しかったりします。
こうして、ひと通り触って使ってみましたが、重量が1kg程度でありながらこのパフォーマンスのモバイルノートが手に入るというのは、かなり所有欲が湧くはずです。
VAIOの人たちも感銘を受けたと評した「MacBook Pro(2020)」は、Apple M1チップを搭載したことで性能が一気にアップし、かなりの注目を集めましたが、一方でモビリティ面では、画面は13インチながら重量は約1.4kgあるため今一歩なところがあります。
待ちに待った今回の「VAIO Z」は、パフォーマンスとモビリティを最高のパッケージで提供することを目指した製品です。お値段はそれ相応な価格帯にはなりますが、VAIO Zの復活を待ち望んでいた人はもちろん、リモートワークの多い人にオススメしたい製品です。
ちなみに筆者が欲しいスペックの価格を見てみましたが、お借りしたスペックからSSDを512GBにして5Gモジュールも搭載したいため、45万9580円でした。
Source:VAIO Z公式ページ