大阪の難波をターミナルにする南海電鉄の改札がVisaのタッチ決済、いわゆる「オープンループ」に対応。日本としては初

南海電気鉄道は4月3日、ビザ・ワールドワイド・ジャパン、三井住友カード、QUADRACの協力を得て「Visaのタッチ決済」を使った新しい改札システムの実証実験を開始した。

16駅にVisaのタッチ決済に対応した改札機が新たに設置され、Visaの非接触決済(タッチ決済)に対応したクレジットカード/デビットカードのほか、スマートフォンなどのモバイル端末を改札に“タッチ”することで入退場が可能になり、後ほど差分が請求されるようになる。

4月15日からは「南海デジタルチケット」というQRコードを使った発券システムも新たにスタートし、同様にVisaのタッチ決済に対応した各駅で通過が可能だ。この実証実験は年内12月12日まで実施され(終了時期は変動の可能性あり)、該当するカードやデバイスを持つユーザーであれば誰でも参加可能だ。

南海電鉄は大阪ミナミの難波駅をターミナルとする関西私鉄大手の1社であり、難波から和歌山市を結ぶ本線のほか、世界遺産の観光地である高野山を結ぶ高野線、国内外の関西圏への入り口である関西国際空港を結ぶ路線網を持っており、今回の実証実験では将来的な海外からのインバウンド対応を見込みつつ、観光路線や生活路線での波及効果を見極める。最終的には問題点などを洗い出しつつ、将来的な本格導入に向けた布石とするのが狙いだ。

実証実験でのサービスが一般開放された4月3日以降は南海難波の駅3階コンコースにVisaのタッチ決済をアピールするシールが貼られるようになった

2種類の改札システムとモバイル対応

今回の実証実験では2種類の改札のテストが行われる。1つは完全に既存の改札を置き換えたもので、Visaのタッチ決済とQRコードの読み取りのみに対応する。本番導入に向けたデザインというよりも、既存のオフィスビルに導入されている入退場ゲートをそのまま流用したもので、あくまで機能をテストするだけの試験的な意味合いが強い。

もう1つは既存の改札機の手前に専用のポールを立て、同様の機能を実装したもの。両者に機能的な違いはなく、筆者からみて設置する駅の状況に応じて使い分けられている印象だ(改札機の設置台数が少ない駅では後者が優先される)。

また、今回の改札システムはすべて4G/LTE回線が用いられており、すべての処理リクエストはQUADRACのクラウド処理センターを通じて捌かれる。今回の実験対象には高野山へ向かう路線の山中の駅がいくつか選ばれているが、こうした通信的に厳しい環境や、あるいは難波のような巨大なターミナル駅の乗客を捌ききれるかといった目的を持って選ばれていると南海電鉄では説明する。

▲Visaのタッチ決済に対応した改札機のうち、こちらは一体型タイプ。手前がQRコードで、奥がタッチ決済の読み取り部となる

既存の改札機の手間にポールを立ててタッチ決済とQRコードの読み取りの両方に対応したタイプ。まだすべての駅はチェックできていないが、印象としてこちらのタイプの方が設置駅が多いように思える

さっそくだが、皆が一番気にする処理速度を実際に動画で撮影してみたので確認してみてほしい。最初の2つの動画は一般開放日の4月3日に撮影したもので、iPhoneのApple PayにBank of AmericaのVisaカードを登録しての乗車テストを行っている。国外発行カードかつ、Apple Pay+Visaという特異な条件だが、モバイルでの反応状況の参考としてほしい。

2つの動画のうち、1つめはTouch IDを見認証の状態でタッチしたもの、2つめは改札に近付ける前にTouch ID認証を済ませたものとなっている。当然、今回の実証実験ではApple PayのExpressモードには対応しないため、そのぶんが差となって現れる。

▲Apple Payに登録したVisaカードで乗車してみた(Touch IDは未認証)

▲Apple Payに登録したVisaカードで乗車してみた(Touch IDは認証済み)

現状で、日本国内発行のVisaカードでモバイル利用できるケースは極めて限られており(対応デビットカードをGoogle Payに登録したときのみ)、一般的にはVisaのタッチ決済に対応したクレジットカードまたはデビットカードを利用することになる。

4月2日に南海難波駅で行われた説明会では、特別に隣接改札をループ設定にした展示が行われており(片側を関西国際空港駅のものにしてある)、連続で入退場を繰り返してもらって体感の反応速度が分かるようにしてもらった。

▲改札通過の体感速度を見てもらうため、ループ設定された改札を三井住友カードを手に何度も往復してもらった

また、本来は4月15日までテストできないQRコードのデジタルチケットについても、仮発行のダミーQRコードでの通過が可能になっていたため、同じくスマートフォンを片手にループ設定の改札を何度か入退場してもらった。

▲QRコードのデジタルチケットを用いての改札通過の速度チェックのため、ループ設定の改札を何往復かしてもらった

動画を見ていただければ分かるが、カードをタッチするポイント、そしてQRコードを“かざす”最適な位置さえ分かっていれば、比較的スムーズに通過できる。南海電鉄によれば、QRコードの読み取り距離やクラウド側での処理の関係でQRコードの方が若干反応が早いとのことで、このあたりのテストも4月15日以降に実際に行うことが可能だろう。

なお、デジタルチケットはWebサービスとして提供される模様で、初期の段階では専用アプリなどのインストールは不要とのこと。提供されるチケットの種類は「時差通勤応援きっぷ」ということで、実質的なオフピーク通勤を見込んだ割引チケットになるとみられる。現状でVisaのタッチ決済では通勤定期の利用には対応できないため、このような形の割引チケットで実証実験への参加者増加を促すのが狙いなのだろう。

▲QRコード乗車を可能にする南海デジタルチケット。見てわかるように、モバイルアプリではなくWebブラウザでアクセスするタイプのサービスになっている

▲デジタルチケットでQRコードを表示させたところ。サービス開始は4月15日以降なので、今回の表示はあくまでダミー

実際に現地を訪れる前に知っておきたいこと

鉄道事業者へのVisaのタッチ決済導入では京都丹後鉄道に続いて国内2例目だが、改札機への導入を含めた大手私鉄での“オープンループ”の実証実験は南海電鉄が国内初となる。難波は京都丹後鉄道に比べてもアクセスしやすい立地にあるため、「実際に現地を訪れてテストしてみたい」と考えている方は多いと思われる。Visaのタッチ決済に対応したカードを持っていることは最低条件だが、実際に現地に向かう前にいくつか予備知識があるともう少しだけ楽しめるはず。

1つは、QUADRACが提供する「Q-move」のサービスに事前登録しておくことだ。今回のシステムは前回の京都丹後鉄道同様に、Q-moveのクラウドシステムで処理されている。Q-moveのサイトでユーザー登録を行い、テストに用いるクレジットカードまたはデビットカードを事前に登録しておくことで(最大5枚まで登録可能)、過去1年分の乗車記録をいつでも確認できる。

オープンループのシステムでは仕様上、決済自体は都度処理が行われるものの、請求自体は1日単位で行われる。つまり、1日に複数回乗車すると合算での料金請求となるため、乗降記録がクレジットカードの明細からでは確認できない。Suicaなどの交通系ICカードとの違いはここだが、Q-moveのサイトに事前に利用するクレジットカードを登録しておくことでこの問題を回避可能だ。

ただし、モバイル端末での乗車記録だけはQ-moveで追跡できない。これは推測だが、Q-moveではカードの乗降記録をカード番号のみで行うため、本来のカード番号とは異なるPAN(Primary Account Number )がアクセスに利用されるトークン化および、その仕組みを実装したApple PayやGoogle PayでのQ-move利用では履歴を参照できなくなっているのだと考えている。

▲乗車履歴はQ-moveのサイトにクレジットカード番号を登録することで確認できる。ただしモバイル端末での乗車履歴は見られない

利用可能な駅にも注意だ。前述のように、南海電鉄では「乗降数の多い駅」「観光、インバウンド対応」「通信条件の厳しい場所」の3つのポイントから実証実験の対象となる駅を選んでいる。単純なテストであれば運行本数も多い「難波」「新今宮」「天下茶屋」の区間を往復するのがベストだが、高野山方面に遠征する場合には途中下車可能な駅が限られるため注意が必要だと思われる。

同社では、仮に対象外の駅で降りてしまったりした場合でも対応可能と説明しているが、出場に手間取ることが想定されるため、あらかじめ行動計画を立てておくといいだろう。

▲現在Visaのタッチ決済に対応する駅は下記の通り。それ以外の駅は改札は利用できず、個別精算が必要になる