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普段使いのクレジット/デビットカード(Payment Card)でそのまま電車やバスに飛び乗って移動が可能な「オープンループ」と呼ばれる仕組みは、2012年のロンドン五輪を契機にロンドン周辺地域で展開が開始され、現在ではシンガポールや米ニューヨークを含む世界中へと広がっている。このあたりのストーリーは先日のVisaの最新レポート(該当記事)に詳しいが、同レポートでも紹介される京都丹後鉄道に乗る機会があったので紹介したい。

京都丹後鉄道(丹鉄)に導入された「Visaタッチ」による乗車サービス

「京都丹後鉄道(丹鉄)」はWILLERグループの「WILLER TRAINS」によって運行される路線で、もともと国鉄時代に運行されていた宮津駅を中心とした2路線が「北近畿タンゴ鉄道(KTR)」の名称で第三セクター方式で運営される組織に移行され、2015年に路線や施設を保有するKTRを第三種鉄道事業者、その上で鉄道の運行や施設の運営を行うWILLER TRAINSを第二種鉄道事業者としてスタートしたもの。

もともと赤字路線がゆえに第三セクター化された路線ではあるものの、沿線に著名な景勝地や観光地を抱えているという事情もあり、事業移管後も粛々と沿線開発が行われ、さらには丹鉄の3つある路線のうち京福線の電化が行われて福知山駅からJRの特急列車が直通で天橋立駅まで運行されているなど、単なる沿線の通勤通学需要にとどまらないポテンシャルを秘めている点で興味深いエリアでもある。

3路線ある丹鉄のうち、宮福線の起点となる福知山駅。JR西日本との共用になっている。正面に丹鉄の車両が見える

今回、この丹鉄に今年2020年11月、Visaタッチによる乗降サービスが導入され話題となった。高速バスではすでに、みちのりホールディングスの茨城交通が同様のサービスを導入(該当記事)しているが、中・長距離の鉄道では一般的な区間乗車運賃の仕組みに対応し、さらに鉄道事業者としてVisaタッチ対応は日本国内では丹鉄が初のケースとなる。

WILLER TRAINSによれば、年間で160万人の利用者のうち、半数以上が定期券ではない切符での利用というが、こうした利用者が切符購入の手間やストレスなく移動できる仕組みとしてVisaタッチ導入を決定したという。交通系ICではなくVisaタッチを選んだ理由は、Visaタッチの仕組み自体が国内外で利用されるグローバルスタンダードの仕組みであり、海外ではすでに普段使いのカードを交通決済に利用する方法としてすでに広がっているためという。また事業者側の視点として、導入コストやランニングコストが抑えられ、これまで交通系ICを導入していなかったローカル鉄道でも導入しやすい点がポイントだという。

乗車駅と降車駅でタッチ、駅間運賃が請求される仕組み

仕組み自体は非常にシンプルだ。駅の改札にVisaタッチ用のリーダーが設置され、そのうち「乗車用」と書いてある方にVisaタッチ対応のカードまたはスマートフォンをタッチするだけだ。あとは降車した駅で「降車用」のリーダーにタッチすれば、駅間の運賃がカードにそのまま請求されるので切符を別途購入する必要がない。

ただ、丹鉄は福知山駅や宮津駅など主要駅を除けば、そのほとんどが無人駅となっており、切符や定期での乗車時はワンマン運転される列車の運転手が停車時に降車客の改札を行っている。これら無人駅でVisaタッチを利用する場合、乗車は列車後方の入り口から入って「乗車用」のリーダーにタッチを行い、降車時は運転席後方にある「降車用」リーダーにタッチして運賃を支払う。どの駅にいるかは車内の装置のGPSを使って把握され、仮に同じ駅で同じカードを二度タッチした場合は赤ランプが点灯してエラーが表示されるようになっている(つまりVisaタッチ利用時には1人1枚のカードが必要)。

一部の人が気にしているスピードの問題だが、「0.5秒以内」(Visa)というように処理に時間はほとんどかからないため、ローカル線とはいえ改札で渋滞が起きることはない。

今回はまず福知山駅から丹鉄の路線に入り、途中乗車降車の実験をしつつ、宮福線の終点となる宮津駅で宮豊線へと乗り換え、1駅隣の天橋立駅へと移動してみた。

一連の流れは以下の写真の通りだが、2021年春以降は福知山駅までがICOCA対応エリアとなるため、交通系ICで京都や尼崎方面から移動してきて、そのまま丹鉄のエリアに入るという人もいるだろう。その場合、JR西日本から丹鉄の乗り換え口でいったんICOCAをタッチして精算を行い、丹鉄でVisaタッチを利用するという流れになる。ただ、前述のように宮福線ではJRからの直通列車が丹鉄のエリアに乗り入れているケースもあるため、その場合は降車時にJRの運賃を取り消し、差額を現金精算またはVisaタッチで支払う形になるとWILLER TRAINSでは説明している。

JRと丹鉄の乗り換え改札。ここにVisaタッチとQRコードのリーダーが乗車用と降車用で2組セットで設置されている

▲非接触に対応したカードでVisaタッチ乗車をしてみたところ

Visaタッチであればモバイル端末でのタッチにも対応

逆にMastercardは非接触対応でも一切反応しない

同じ駅で複数回タッチすると赤ランプが点灯して警告表示が出る

現在、JR西日本の福知山線は篠山口駅までがICOCAなどの交通系IC乗車区間となっているが、2021年春に福知山駅までの各駅が対象区間となることを受け、自動改札の設置が進んでいる。それにともない、丹鉄との乗り換え口にもICカードタッチ端末が設置される

丹鉄福知山駅のホーム。左側が特急で、右側が普通列車。Visaタッチによる乗降に対応するのは普通列車のみとなる

福知山駅や宮津駅の有人駅では駅の改札でタッチ乗車を行うが、丹鉄はほとんどが無人駅となっており、それら駅での乗降は車内の端末でタッチ乗車を行う

ワンマン運転のため、降車時は必ず運転手の後ろの端末にタッチを行うことになる。通常の切符では運転手が改札を行っているが、タッチ決済の場合は引き落としができたかのチェックのみ

宮津駅で乗り換えて1駅で、日本三景で有名な天橋立駅に到着する。ここも有人駅となっている

天橋立駅では、降車時に駅の改札でタッチを行い、緑色のランプが点灯すれば成功

スタートしてまだ1ヶ月であり、知名度としてはまだまだだが、WILLER TRAINSによればローカル鉄道マニアが実際にタッチ決済を体験するために訪問したり、実際に利用した乗客から「簡単で使いやすい」「分かりやすい」というフィードバックがあったという。

今後の課題としては、JR線内から丹鉄線内に乗り入れる特急電車「丹後の海」や、直通のJR車両にはVisaタッチ用端末が設置されていないため、これら車両に乗車した状態で無人駅やJR線内の駅で乗降するケースにいかに対応するかという問題があるという。このほか、WILLER TRAINSではMaaSアプリや、その他鉄道やバスを含むさまざまな交通サービスへの展開も検討しているとのことで、今後もこうした地域輸送を中心にVisaタッチを利用する機会は増えるかもしれない。